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第六章 凱歌の行方
【覇闘】《第一闘》開始─!
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ここだけは2.5メートルの高さを有する幅3メートルの円形鉄柵の一部が左右に1.5メートルずつ開いて出現した〈入場ゲート〉から誓覇闘地に十本の節足をシャカシャカと高速駆動させて突入した妖仙獣・呀門が、魔性の本能によって“本日の獲物”を察知したか、そのまま冬河黎輔に向かって突進してきたのである!
星愁の叫びによってハッと我に返った彼が妖仙獣に照準を合わせた時には、既にその醜悪なガマガエル面は眼の前まで迫っていた!
「わわッ!?」
呀門としては黎輔を攻撃したつもりであろうが両者は超硬質ガラスによって隔てられており、次の刹那、それは鈍い激突音と同時に細かく震動した。
「──何をグズグズしてる!?
もう9時58分だぞッ!さっさと誓覇闘地に入らんかッ!!」
先程までの親身な気遣いとは打って変わった鬼の一喝を恨みながら、ほうほうの体で青い鎧戦士が戦場に駆け込んだのをセンサーが確認した後、鉄柵は速やかに閉じられた。
正式な開始時間は午前10時であったが、相手が〈人外戦力〉の場合はジャストにタイミングを合わせるのが難しいため、2分前の繰り上げスタートは容認されていたのである…。
『ッキショーめッ!
やっぱ星愁のヤロー、覇闘を予定通り開催して支部の体面を保つことしか考えてなかったんだッ!!
い、いや、待てよ?そうかッ!
りさらさんが看破したとおり、ヤツの正体は敵のスパイに違いねえッ!
大体よ、誓覇闘地に来る途中恭くんに耳打ちされて唖然としたが、そもそも玄矢と二人っきりになろうとしたこと自体が怪しいじゃねえか…おそらくあの時、中国支部の極秘情報(そんなモン、オレは知らんが)をブチまけたに違いねえぜッ!!
──覚えてろよ、土曜になったら神田口さんにテメエの悪行、ぜーんぶ密告ってやるからなッッ!!』
かくて中国支部次期首督が不穏な決意を固めた時には妖仙獣・呀門は“今度こそ”
とばかりに2度目の突進を仕掛けており、その四つ足獣とは根本的に異なる、上下運動を排した節足による水平移動は、生物よりもむしろ機械の“無機的な不気味さ”で怖気を催させる。
迫りくる巨大な醜貌──そしてソイツは大きく口を開いた!
されどその時、少年錬装者は素早くその横に回り込んで凶牙の一撃を免れていた。
「ちきしょうッ!脇腹にパンチをブチ込もうにも肢が邪魔で腕が入らねえッ!!」
かくなる上は得意の跳躍力を活かしての空中殺法以外に活路はないと思われたが、唯一、怪物が完全無防備の個所が存在した…。
「おらあッ!案外ここが〈デリケートゾーン〉じゃねえのか、このガマガエル面のオカマ虫がッッ!!」
素早く背後に回り込み、巨大な尾部に渾身の右拳を撃ち込む黎輔!
──その効き目は予想以上であった!!
“キギャワギギャアッッ!!”
聴く者の全身の神経を思いきり逆撫でする、鉄の塊同士を高速で擦りつけたかのごとき悲鳴を上げた妖仙獣の動きが一瞬で止まった。
「やっぱここが泣き所かよッ!?
ただただキモくて、うすらデカいだけの変態クソ虫がッ!!
このオレ様の正義の鉄拳百連発でも喰らって地獄の底に舞い戻りやがれッ!!
ホ~レホレホレホレホレッッ!!!」
ここが勝機とばかり、狂ったような連撃を繰り出す黎輔…それはまさに音速で飛来する鉄球を立て続けに浴びせられるに等しいダメージを標的に与え、臙脂色の大怪虫の苦鳴も途絶えることなく持続する。
かくて尻に無数の凹み跡を生じさせた昆虫型妖仙獣は、これ以上の打撃は生命に関わるとばかりヨロヨロと前進するが、勢いに乗る錬装者は罵声とともに右脚を素早く蹴り出して非情な追撃を加えるのであった。
「──思わぬところに弱点がありましたね!
どうやら呀門、最初の突進が全てで、それをかわされるともはやなす術がないのかも…!!」
友を気遣うあまりか、那崎恭作の呀門評はあまりにも矮小化されていたが、彼がそれを信じていないことはその張りつめた眼差しからも自明であった。
「──これで決まるようなら、“星軍最強陣営”を以て任じる光城派が送り込んだ呀門が“歴代最弱妖仙獣”ってことになるぜ…ンなわきゃねえだろうよ…。
たとえば恭作、おまえがヤツと戦ったとしたら、このままバカの一つ覚えのケツ攻撃を続けるか?」
「それは…」
──自分ならどうするか?おそらく、尾部はあくまでも弱点の一つとして記憶に留め、新たな〈攻撃ルート〉の発見に取り掛かるのではないか?
『オレなら…もちろんリスクは承知の上で背中に飛び乗るな…そしてそのままそこを起点に跳躍し、〔覇勝爪〕(白虎の錬装磁甲の拳に内蔵された左右4本ずつ・最長露出時24センチの超高速回転の円錐型ドリル)で脳天を狙ってみるだろう…!』
──名称こそ違えど、この全磁甲共通の標準装備は【スペンサーモデル】にももちろん内蔵されており、心の余裕を回復した黎輔は試しに左手のみ運用してみたものの高速回転するドリルの先端が打撃の瞬間滑るため、直ちに停止・収納して拳撃オンリーで仕留めることを決意したのであった。
結果として六十発超のパンチを受け、弱々しい前進のみで攻撃回避せんとする敵に、勝利を確信した青い鎧戦士はほくそ笑みつつゆっくりと歩を進める。
「アホがッ!!それが罠だとなぜ気づかんのだッッ!?」
「──エッ!?」
恭作が思わず支部最強者を見やったまさにその時、遠方の落雷かと錯覚させる程度の轟音が響き、瞬時に後肢を伸ばして迫り上がった呀門の肛門部から発射された黄緑色の巨大な粘塊が冬河黎輔を直撃した!
そして突然視界を覆われてよろめくように2.3歩後退した彼は、尾部を掲げたまま凄まじい勢いでバックしてきた妖仙獣の、半ば潰れた尻の一撃を喰らって空中を舞っていたのである!
星愁の叫びによってハッと我に返った彼が妖仙獣に照準を合わせた時には、既にその醜悪なガマガエル面は眼の前まで迫っていた!
「わわッ!?」
呀門としては黎輔を攻撃したつもりであろうが両者は超硬質ガラスによって隔てられており、次の刹那、それは鈍い激突音と同時に細かく震動した。
「──何をグズグズしてる!?
もう9時58分だぞッ!さっさと誓覇闘地に入らんかッ!!」
先程までの親身な気遣いとは打って変わった鬼の一喝を恨みながら、ほうほうの体で青い鎧戦士が戦場に駆け込んだのをセンサーが確認した後、鉄柵は速やかに閉じられた。
正式な開始時間は午前10時であったが、相手が〈人外戦力〉の場合はジャストにタイミングを合わせるのが難しいため、2分前の繰り上げスタートは容認されていたのである…。
『ッキショーめッ!
やっぱ星愁のヤロー、覇闘を予定通り開催して支部の体面を保つことしか考えてなかったんだッ!!
い、いや、待てよ?そうかッ!
りさらさんが看破したとおり、ヤツの正体は敵のスパイに違いねえッ!
大体よ、誓覇闘地に来る途中恭くんに耳打ちされて唖然としたが、そもそも玄矢と二人っきりになろうとしたこと自体が怪しいじゃねえか…おそらくあの時、中国支部の極秘情報(そんなモン、オレは知らんが)をブチまけたに違いねえぜッ!!
──覚えてろよ、土曜になったら神田口さんにテメエの悪行、ぜーんぶ密告ってやるからなッッ!!』
かくて中国支部次期首督が不穏な決意を固めた時には妖仙獣・呀門は“今度こそ”
とばかりに2度目の突進を仕掛けており、その四つ足獣とは根本的に異なる、上下運動を排した節足による水平移動は、生物よりもむしろ機械の“無機的な不気味さ”で怖気を催させる。
迫りくる巨大な醜貌──そしてソイツは大きく口を開いた!
されどその時、少年錬装者は素早くその横に回り込んで凶牙の一撃を免れていた。
「ちきしょうッ!脇腹にパンチをブチ込もうにも肢が邪魔で腕が入らねえッ!!」
かくなる上は得意の跳躍力を活かしての空中殺法以外に活路はないと思われたが、唯一、怪物が完全無防備の個所が存在した…。
「おらあッ!案外ここが〈デリケートゾーン〉じゃねえのか、このガマガエル面のオカマ虫がッッ!!」
素早く背後に回り込み、巨大な尾部に渾身の右拳を撃ち込む黎輔!
──その効き目は予想以上であった!!
“キギャワギギャアッッ!!”
聴く者の全身の神経を思いきり逆撫でする、鉄の塊同士を高速で擦りつけたかのごとき悲鳴を上げた妖仙獣の動きが一瞬で止まった。
「やっぱここが泣き所かよッ!?
ただただキモくて、うすらデカいだけの変態クソ虫がッ!!
このオレ様の正義の鉄拳百連発でも喰らって地獄の底に舞い戻りやがれッ!!
ホ~レホレホレホレホレッッ!!!」
ここが勝機とばかり、狂ったような連撃を繰り出す黎輔…それはまさに音速で飛来する鉄球を立て続けに浴びせられるに等しいダメージを標的に与え、臙脂色の大怪虫の苦鳴も途絶えることなく持続する。
かくて尻に無数の凹み跡を生じさせた昆虫型妖仙獣は、これ以上の打撃は生命に関わるとばかりヨロヨロと前進するが、勢いに乗る錬装者は罵声とともに右脚を素早く蹴り出して非情な追撃を加えるのであった。
「──思わぬところに弱点がありましたね!
どうやら呀門、最初の突進が全てで、それをかわされるともはやなす術がないのかも…!!」
友を気遣うあまりか、那崎恭作の呀門評はあまりにも矮小化されていたが、彼がそれを信じていないことはその張りつめた眼差しからも自明であった。
「──これで決まるようなら、“星軍最強陣営”を以て任じる光城派が送り込んだ呀門が“歴代最弱妖仙獣”ってことになるぜ…ンなわきゃねえだろうよ…。
たとえば恭作、おまえがヤツと戦ったとしたら、このままバカの一つ覚えのケツ攻撃を続けるか?」
「それは…」
──自分ならどうするか?おそらく、尾部はあくまでも弱点の一つとして記憶に留め、新たな〈攻撃ルート〉の発見に取り掛かるのではないか?
『オレなら…もちろんリスクは承知の上で背中に飛び乗るな…そしてそのままそこを起点に跳躍し、〔覇勝爪〕(白虎の錬装磁甲の拳に内蔵された左右4本ずつ・最長露出時24センチの超高速回転の円錐型ドリル)で脳天を狙ってみるだろう…!』
──名称こそ違えど、この全磁甲共通の標準装備は【スペンサーモデル】にももちろん内蔵されており、心の余裕を回復した黎輔は試しに左手のみ運用してみたものの高速回転するドリルの先端が打撃の瞬間滑るため、直ちに停止・収納して拳撃オンリーで仕留めることを決意したのであった。
結果として六十発超のパンチを受け、弱々しい前進のみで攻撃回避せんとする敵に、勝利を確信した青い鎧戦士はほくそ笑みつつゆっくりと歩を進める。
「アホがッ!!それが罠だとなぜ気づかんのだッッ!?」
「──エッ!?」
恭作が思わず支部最強者を見やったまさにその時、遠方の落雷かと錯覚させる程度の轟音が響き、瞬時に後肢を伸ばして迫り上がった呀門の肛門部から発射された黄緑色の巨大な粘塊が冬河黎輔を直撃した!
そして突然視界を覆われてよろめくように2.3歩後退した彼は、尾部を掲げたまま凄まじい勢いでバックしてきた妖仙獣の、半ば潰れた尻の一撃を喰らって空中を舞っていたのである!
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