ボクらは魔界闘暴者!

幾橋テツミ

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第五章 戦士たちの交錯

錬装者地獄変⑧ 誓覇闘地に魔物が降りる…。

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 AM9:47──山小屋風合宿所を出た一同は、徒歩でぞろぞろとおよそ100メートルほどの杉林の中にある、直径約8メートル✕高さ3.5メートルの、コンクリート作りの円型の建屋を目指した。

 宗 星愁が壁に仕込まれた電子錠を解除し、妖仙獣を誘導する役割を担った光城白彌を除く敵味方7名が巨大エレベーターになっている内部に乗り込んだところで、

「おーい、待ってくれーッ!」

 と、これまでどこかに潜んでいた東堂吟士が駆け込んできた。

 辛うじて間に合い、上体を折って荒い息を吐く南郷派立会人に、早速、光城玄矢の罵言が降り注ぐ。

「おやおや…どえらく長えクソだなあ、おい。

 ケツの穴はしっかり洗ったか?

 ──ま、テメエごときの行動様式は想像がつく…スッキリついでに、エロ動画ても見ながらセンズリかいてたんだろうが?」

「まあ…玄矢さん、何て失礼なことを…!」

 顔をしかめながら咎めるような視線で見上げてくる氷美花を無視し、彼は鋭い視線で東堂を睨み据えていた。

「ふふふ…オレにとっちゃセンズリはなんでね、ンなわきゃねえ…。

 トイレに籠もってたのは、さっきのアンタの聞き捨てならねえ挑発的言動を遼司郎様に一言一句お伝えするためさ…反応?もちろん、大変なご立腹だったぜ…。

 ま、それはともかくさっきのセンズリ談義に戻るとよ、そちらの氷美花さんを一目見た時からがグラついちまったのは事実で、実に三年ぶりにこのミラクルフィンガーを自分に…」

「てめえッ!!」

 電光石火の迅さで玄矢の右脚がハネ上がり、AVの帝王の顔面を砕こうとした寸前、吟士の前に神速で立ち塞がった“播磨の鬼獅子”が必殺凶器の左肘でスネ裏をカチ上げていた!

「寺垣ッ!キサマ、オレにケンカを売るつもりかッ!?」

「そんなつもりはありませんよ…。

 だが光城さん、この際だから一言言わせて頂くが、紫羽派と南郷派は常に高圧的態度で領導してくる光城派あなたがたに対する防衛的な意図もあって、より強い相補的関係性で結ばれていることだけはご認識願いたい…!」

「…フン、要するにってことだな…今さらオマエごときに言われるまでもなく、はるか以前から分ってたこった──何ならここで共に手に手を取って、絆獣聖団とも同盟を結んだらどうだ?

 今後の覇闘は、光城派ウチVS三派連合というカタチでもオレは一向に構わんのだがな…!」

「玄矢さんッ!あなたは一体何てことをッッ!!

 ──ああッ!?」

 左腕を恋人の腰に回し、そのまま軽々と彼女を抱え上げた光城派総帥はその紅唇を自身の口で塞ぎつつ、右掌を氷美花の左胸に当てて軽く“気の衝撃波”を送り込んだ。

「──!」

 かくて一瞬で失神した魂師の愛娘をさも愛おし気にした最強妖帝は、息を呑んで見つめる面々を睥睨しつつ、低い声音で宣言した。

「──テメエら、勘違いするんじゃねえぜ…!

 尤も、オレの見るところ楯綱や遼司郎は“妖帝星軍は決して〈仲良しクラブ〉なんかじゃねえ”っていう基本的認識すらレクチャーできてねえようだから、あえて教えといてやるがな…、

 そもそも覇闘なんざ、近い将来確実視される“最凶最悪の破壊的侵略者”【神牙教軍】との地上世界の覇権…いや、存亡を賭けた激突に向けた、ユル~い予行演習に過ぎねえんだぜ…!

 そして教軍を率いる超魔人=鏡の教聖に対抗し得る唯一の超越的存在であられる我らが魂師ソウルマスター…その愛娘である氷美花様の夫となるのがこの光城玄矢であることは既に決定しているのだッ!!

 これがいかなる意味を持つのかは、オマエらの貧弱な思考力でも理解できるんじゃねえのかい?

 ま、ここら辺はテメエら三下がどうこうっていう領分じゃねえから、明日の《三帝夜議》で改めてに認識して頂くさ…!

 ──おい、何もボケっと見物してる必要はねえんだぜ…とっとと【誓覇闘地】に降ろしてくれよ」

「あ、ええ…」

 固唾を呑んで成り行きを見守っていた星愁が、弾かれたように昇降機のボタンを押し、重い機械音が響いておよそ25メートルの降下を開始する──彼らが入りした後、光城白彌と特殊な訓練を受けた【強育師】によって引率された妖仙獣が続くことになっていた。

 扉が開き、3本の白いLED灯で照らされた幅5メートルほどのコンクリート道を10メートル進み、左右に開く厚さ5センチの鋼の扉を抜けると、直径25メートル✕高さ1メートルの円形の鉄柵で囲われた誓覇闘地が現れる。

 さらに鉄柵の上部には関係者を〈不測の事態〉から防衛するため、高さ9メートル✕厚さ5センチの特殊硬質ガラスがぐるりと接合されていた。

 誓覇闘地の照明は18メートル頭上に4✕4の計16個埋め込まれた直径60センチの巨大白色LED球で、床は意図的にざらついた仕上げの鋼板であり、どの地区も例外なく両軍戦士の踏み跡や絆獣及び妖仙獣の爪痕で傷だらけとなっていた。

 多人数の観戦者を想定してはいないため座席は鉄柵の後ろにゆったりとした間隔をおいて15席が用意されているだけであったが、ゲーミングチェアを模した機能性重視のシートの座り心地は快適であり、固定式ではないため椅子自体を任意の場所に移動させることが可能である。

 かくて固い絆で結ばれた?寺垣と東堂はビッタリと仲良く席を寄せ合い、それから実に7席分空けて氷美花を抱いた光城玄矢が仁王立ちしている。

「…ひょっとして敵サン、仲間割れですかね…?」

 傍らの那崎恭作による希望的観測に微苦笑を誘われた宗 星愁が小声で応じる。

 ──二人のすぐ横で高さ2メートルほどの青い卵型の光体が発生しているが、これは冬河黎輔が錬装状態に突入したことを意味していた。

「…仲間割れも何も、そもそも玄矢アイツには拳星やアグニと共闘しようなんて意識は端から無いんだろうよ…。

 さっき少し話したことでハッキリ分かったことだが、ヤツは妖帝星軍をそもそも集団とは見ておらず、妖術鬼シャザラとの一対一の関係がその全てだと見做してるらしい…だからこそあそこまでその愛娘にも執着するんだろうぜ…おっ、〈錬装完了〉したな…!」

 デザインベースこそ西洋甲冑であるが、その形態はよりスマートで可動性を極限まで追求したものとなっており、どちらかといえばはるかな未来に勃発するするかもしれぬ宇宙戦争に登場しそうな意匠である。

 腕時計をチラリと見やり、頼れる先輩は破顔して頷いた。

「22秒──ずいぶん迅くなったじゃねえか。やっぱ実戦直前のアドレナリン効果ってヤツなのかな…」

「──どうなんですかね?

 まあ、覇闘ホンバンだからこそってのはそうかもしれなくて、本部からの【光粒磁送パワー】がこの時に限って増幅されてるだけっていう気もするんですが…」
 
 鎧の戦士も意外であったのか、首をひねりながら宣う。

 されどこの間、黎輔の錬装磁甲の機眼は対面の光城玄矢──正確にはその腕の中でのけ反る沙佐良氷美花に釘付けになっていた。

『あれがシャザラの娘か…もちろんはじめて見たが、あんな凄え可愛い娘ちゃんだとはな…全く意外だったぜ…。

 でも余計なお世話だけど、大男の玄矢とじゃちょっとサイズ的に釣り合ってないよなあ…まあ、それを補って余りある魅力があるからヤツもあれだけ粘着してるんだろうが…。

 ──しかし、失神した美女がお姫様抱っこされてるって、どうしてこんなにも男心をそそるんだろう?

 オレもいつか、聖蘭様あたりをそうすることができたら…もう死んでもイイッ♡

 あッ!そういや今朝の夢があそこで醒めなけりゃ、確実に実現できてたはずだったんじゃねえかッ!コンチキショーめッッ!!』

 だが次の刹那、事ここに及んでも煩悩のくびきに囚われたままの少年錬装者の鼓膜を、兄貴分の緊迫した叫びが打った。

「おい黎輔、何をボーッとしてる!?

 呀門が入って来たぞ──あッ、危ないッッ!!!」

 

 

 

 

 


 



 

 



 



 
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