ボクらは魔界闘暴者!

幾橋テツミ

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第五章 戦士たちの交錯

錬装者地獄変⑥ テーブル上の命札

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 光城玄矢を伴った宗 星愁がロッジの扉を開けた時、縦3メートル✕幅1メートルほどの樫材のテーブルに就いた待ち人たちは和やかな笑い声を上げていた。

 1列4脚、計8脚の樫の椅子には白彌、氷美花、東堂、寺垣の順で着席し、氷美花の対面には恭作が座していた。

 両陣営の大将格である両雄の御入来にさすがに場は静まったが、どちらかといえば寡黙なキャラの男性陣が占める中でここまでの盛り上がりは、“座談の達人”を自認する東堂吟士によるものであることは明白であった。

「お帰りなさい…殿で、一体どんなお話の花が咲いたのかしら?」

 だが鋭い視線を卓上に走らせた光城玄矢はそれには答えず、皆の前に並べられた、緑色のレトロなラムネ瓶を指差す。

「これは何だ?…敵地で供された物品を口に入れるなど、嗜みのある戦士がやることじゃねえぜ…白彌、何で止めなかった?」

 この叱責を当然予期していたであろう光城派副将が俯くと同時に、沙佐良氷美花がにこやかな眼差しで恋人を見上げる。

「私が那崎さんに所望したんですから、白彌さんを責めるのはやめて…。

 それより玄矢さん、地下室に下りてらしたんならさぞや喉が乾いているでしょう?

 ──私が口を付けたものでよければ、どうかお飲みになって下さいな…♡」

 ヒューッと東堂が背凭れに寄りかかりながら不粋な口笛を吹き、その脊髄反射的なアクションをギロリと睨み据えた最強妖帝は氷美花が差し出した瓶を慇懃に受け取ると、半分ほど残った炭酸飲料を一息で飲み干した。

「…っと、実はずっとガマンしてたんだが、思いのほか場が盛り上がったんで行きそびれちゃったんだよね…トイレに案内してもらえるかな?何なら、大らかにでやらかしてもいいんだが…」

 機を見るに敏の南郷派立会人は敵前逃亡を図り、支部最強者は苦笑交じりで返答した。

「さすがにこの山小屋にもトイレくらいはありますよ…尤も田舎の自然の中で、束の間の解放的な気分に浸りたいとおっしゃるならどうぞご随意に…」

「いーや、オレは“いつどんな時でもシティボーイ”をモットーにしてるんでネ、いくら秘境ン中にいるからって未開人の風習だけはゴメンこうむるよ」

「じゃ、ご案内します」

 立ち上がった那崎恭作がお騒がせ男を連れ去り、残り3つの空いた椅子を1つ掴んだ玄矢が東堂の席を穢らわしそうに摘みだして歯抜けとなったの空間に放り込み、自らは氷美花と白彌の間にどっかりと腰を据え、星愁も敵将の正面に腰を下ろす。

「白彌、もういいぜ、テーブルに覇闘札カードを出しな」

 玄矢がこれまで膝上でアタッシュケースを死守していた弟を促すと、スマホを取り出した星愁も呼応する。

「それではこちらも二人を呼びましょう…」

 と、部屋で待機中の剛駕嶽仁と冬河黎輔を呼び出す。

 その途中で那崎青年が戻り、先輩の傍らに着席するが、その表情はなぜか曇っていた。

「…どうやら東堂氏、お腹の調子が悪いみたいですね…時間に間に合わないかもしれないから、先に始めててほしいと…」

 すかさず光城玄矢が嘲笑した。

「ラムネで腹を壊しやがったか、軟弱者が…尤もホンネのところは早速オレに目を付けられて傍にいると生きた心地がしねえんだろうよ…!

 ま、あのチャラけたポルノ野郎はどー考えても格調高き妖帝星軍にゃそぐわねえから、このままお引き取り願いてえがな…帰りの車中から遼司郎に厳重抗議でもしとくか…」

「でも、東堂さんは南郷さんから全幅の信頼を置かれているとおっしゃってたわ…。

 ──それに、かなり興味深いお話も伺うことができてよ…」

「……」

 太い両腕と両脚をそれぞれ組み、口元をへの字に結んだ妖帝の横顔を母性的な微笑を湛えて見つめながら魂師シャザラの愛娘は続けた。

「もちろん、彼自身は私たちのような【極術士】ではありませんけど、南郷派の妖仙獣のお世話を率先して引き受けてるらしく、生態や能力についてはことのほか詳しいみたいだったわ…」

「ふん…まあアイツは遼司郎にとっては大事な商品だからな、万が一能力的に及第点だとしても魂師に推薦するようなことはありえんでしょう…。

 ま、そもそもが南郷派アグニの極術士は星軍中最小の五名程度であったはず…それだけ人材確保に苦労している訳で、妖仙獣で穴埋めするしかないのは昔からでしたが、まさかあんな女を泣かせることしか能のない軟派野郎に〈飼育係〉を任せているとはね…」

「…だが、魂師からの要請もあり、これからは極術士増強にも力を入れるらしいですよ…」

 これまで沈黙を守っていた“播磨の鬼獅子”から野太い声が発せられ、意を得たりとばかりに氷美花が頷く。

「はあ?一体どこにそんな人材が?…まさか拳星會館おたくとでもいうのかよ?」

「──いいえ、どうやら遼司郎さんは〈海外〉に活路を求める方針らしいのよ…!

 第一弾として格闘王国として名高いオランダとブラジルに絞って既にスカウト活動に入っており、近くお父様にご報告するとか…」

 ここでゆっくりと首を巡らせた光城派総帥は、居並ぶ自陣の面々を睥睨しつつドスを効かせた声音で告げた。

「それはそれは…ま、グローバル化は世の趨勢だからその方針もアリでしょうがね。

 だがそうなると、これまで純血主義によって辛うじて維持されていたとおぼしい星軍の〈機密維持〉に看過できぬ危険性が生じることになるな…もちろん、魂師がその点を見落とすはずもないが…。

 ──幸い明晩、【館】にて魂師主催の《三帝議》が開かれる…詳細はそこで本人から伺うことにするさ…」

 この間にケースのダイヤルロックが開かれ、現れた黒い天鵞絨ビロードの台座には5センチ✕13センチの札が縦4列・横6列の計24枚挿し込めるようになっていたが、現在は1列目に琥珀色の金属プレートが3枚収められているのみである。

「単なるリスク管理の問題さ…それでもわざわざデカいケースを持ち歩くのは解せねえってか?

 実はこのアタッシュケースには仕掛けがしてある。…」

 覇闘札自体には何らの装飾も施されてはおらず、ラージャーラに存在する114教界と同数(即ち総数は両勢力で計228枚)のこれも彼の地を象徴する色とされる、魅惑的な琥珀色に輝く金属のカードにすぎぬが、その中央部にはそれぞれの陣営の紋章が刻まれて差別化されていた──即ち、聖団側は全て絆獣聖団のシンボルである〈炎で縁取られたメビウスの輪〉が、一方妖帝星軍のそれは光至教、拳星會館、アグニグループのマークが。

 つまり、今、光城白彌によって開かれたケースに収められた3枚の覇闘札には雄渾な“燃えさかる日輪”が浮き彫りとなっていたのである。

「…いつも覇闘札コイツを見ると、純金の延べ棒インゴットを思い出すぜ…実際、この覇闘ゲームにおいちゃ、この益体もない金属片こそが戦士の血の代償なんだからよ…!

 ──だが、そちらさんは信じられねえことに、その命に等しい必須アイテムを用意できないとおっしゃる…!」

「…申し訳ありません…」

 最強妖帝の凄まじい眼光に耐えかねたように頭を下げる二人の錬装者…その背後から今日、決死の戦いに臨む両名がようやく姿を現した。

 



 

 

 



 


 

 


 

 



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