ボクらは魔界闘暴者!

幾橋テツミ

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第五章 戦士たちの交錯

錬装者地獄変② 最強妖帝、嗤う

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 およそ5メートルの距離をおいて向き合った両陣営──数秒間の睨み合いの後、まず口を開いたのは宗 星愁であった。

「ようこそ…というのもおかしいが、まずは礼儀として歓迎の意を述べさせて頂く。

 遠路はるばる…」

 だが光城玄矢はうるさそうに右手を振って挨拶そのものを断ち切る。

「能書きはいい、こちとら田舎モンの間延びしたダベリに付き合ってられるほどヒマじゃねえんだ…手続きだけをチャッチャッと済ませて早いとこ覇闘バトルに取り掛かろうぜ…。

 しかも、星軍こっちは高貴なるレディをお連れしてるんだ…このド田舎の山ン中の野蛮な日差しが彼女の雪のような肌を痛めつけるのは到底容認しかねるんでな…。

 ──白彌、覇闘札カードを出せ」

「はい」

 この指示を待ちかねていたかのように光城家三男坊がアタッシュケースを開こうとするのを、星愁が右手を挙げて制する。

「お待ち下さい──実はそのことについてなのですが、実はこちらに緊急事態が勃発しまして…」

 支部最強錬装者の硬い声音に、敵対組織のメンバーは一斉に怪訝な表情を浮かべる。

「あーん?

 そりゃ一体どういうことだ?

 まさか近々の成績が悪すぎて枚数ゼロにでもなっちまったってことか?

 ま、たしかに中国支部オタクらが“九氏族最弱”って悪評は妖帝星軍こっちの耳にも入ってきてるがよ、それならそれで本部から必要枚数だけは融通してもらうのが筋ってもんだろうが…。

 いくら無知な田舎モンだからって、そもそも実戦の機会そのものが乏しい弱小支部だからってよ、それくらいの基本ルールは頭に入ってるんじゃねえのか、ええ?」

 お粗末な連中、とは最初から見切っていたものの、よもやここまでマヌケとは…と怒りよりも呆れ果てたといわんばかりの辛辣なコメントを繰り出す妖帝の傍らで他の4人も唖然としている。
 
「もしそうなら…秋の全日本大会に向けて、我が兵庫支部期待の若武者たちに対する貴重な指導時間を割いてまでわざわざやって来た私の立場はどうなる?」

 と、いかにも武道家といった野太い声に静かな怒気を含ませる“播磨の鬼獅子”に続いて“AVの若き帝王”も洒脱な調子ながらもはっきりと不満を口にした。

「こちとら、1ヶ月ブッ通しでハードな撮影が続いたあげく、やっとゲットした5日間のオフなんだぜ?

 中国地方こっちに来るのははじめてだけど、移動だけでたっぷり時間食っちまったから不本意ながらも腰を据えて、のんぴり田舎の温泉にでも浸かって日頃の激務の骨休めでもするかっていうマイプランの邪魔してもらっちゃ困るんだよね…。

 アンタらもどーせ、オレの出演作が“寂しい夜の必需品”なんだろ?

 それなのに、花の都からこの来たくもねえ草深い山奥まで万難を排してやって来てやったに対する仕打ちがコレだとは、あんまり殺生だと思わないかい?」

「──おいポルノ野郎、レディの前でのワードチョイスは気をつけな。

 言っとくがな、少なくとも光城派オレらはテメエが生息してる“品性ゼロメートル地帯のスケベ村”の住民じゃねえんだよ。

 もし調子に乗って〈放送禁止用語〉でも口走りやがったら、その場で首根っ子ヘシ折ってやるからな…!」

 低い声音の制裁宣言に一瞬場は凍りついたが、返答する東堂吟士の声色も明らかに変化し、隠しようのない敵意を揺曳させていた。

「了解、せいぜい気をつけまっス…。

 そしては、遼司郎様にしっかりとご報告させて頂きますネ…!」

 遼司郎──いうまでもなく玄矢、楯綱と同格の、妖術鬼シャザラが分身ともいうべき妖帝として見込んだアグニグループ総帥・南郷賢一郎の次男である。

「アホが…ハナからそのつもりで言ってんだよ。

 ──で、一体何だよ、その緊急事態ってのは…?

 …話が長くなるかもしれんから、エアコンの効いた車に戻ったほうがいい…白彌、エスコートして差し上げろ」

「いいえ、私はここにいます。

 だって、とっても面白そうなお話が聞けそうなんですもの…!」

 サングラスの下の大きな瞳を溢れる好奇心で輝かせているであろう恋人に微かに眉を顰めた玄矢だが、それに棹さす気はないらしく、緊張に強張る(と見做した)相手の表情を薄笑いしつつ見下ろし、無言で先を促す。

「…実は、今回の事態をほんとうにそちらにご納得して頂くためには、…」

 宗 星愁が放ったこの言葉に何より驚愕したのは、傍らの那崎恭作であった。

「宗先輩、まさか、を…!?」

 だがそれに応えることなく、決意を秘めた口調で彼は続けた。

「…そのへは私がご案内します。

 そしてそちらからは、可能ならばにご同行願いたいのですが…」

 反応は早かった。

「──おもしれえ、行ってやろうじゃねえか。

 だがよ、もし何か罠めいたことを企んでるんなら、中国支部テメエら全員、生きて今日を終えられると思うなよ…!」

 最強妖帝のドスを効かせた啖呵にも何ら動じることなく宗 星愁と…コンマ数秒遅れて那崎恭作は深く頭を下げた。

「じゃあ、やっぱり一旦車に戻って…」

 と玄矢が言いかけた時、それを遮るように沙佐良氷美花が合宿所を指差しつつ涼やかな声を上げた。

「せっかくあそこに風情のある建物が建ってるじゃありませんか?

 あなたがお帰りになるまで、あそこで待たせてもらいますわ──よろしいですわね?」

 この申し出は聖団側にとっても予想外だったが、星愁は努めてにこやかに応じた。

「こちらとしても全く問題はございません…。

 尤も、何か気の利いたおもてなしはできかねますが…」

「ふん…メシなら済ませて来たし、何が入ってるか分かったもんじゃねえ茶菓の類に手ェ出す訳ねえだろうが…。

 オレとしては賛成できねえが、氷美花さんが望むんなら仕方ねえ──白彌、しっかり護衛ガードするんだぜ、もちろん覇闘札も同様にな。

 それから寺垣・東堂のご両人よ、分かってるだろうが氷美花様は我らが魂師ソウルマスターの最愛のご令嬢──何か事あるならばその責任はそちら側にも隈なく及ぶことをくれぐれもお忘れなく、な…!」

 道中での無礼な仕打ちをあっさり水に流したかのように穏やかな表情で頷く寺垣からは、いかにも真の武道家らしい鷹揚で実直な性格が窺えたが、一方、そっぽを向きつつ「あいよ」と小さく呟いた東堂の意識と下卑た視線は完全にに向けられていた…。

「──それじゃ恭作、頼んだぞ」

「はい」

 頷き返した那崎青年は、「それではこちらへ…」と4人を促す。

「それでは、参りましょうか」

 かくて宗 星愁は、敵軍の将を地底の惨劇…その現場に案内すべく、ゆっくりと踵を返したのであった。









 




 





 

 



 

 

 

 

 

 

 
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