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第4章 【覇闘】直前狂騒曲
錬装者煉獄篇③かくて両雄は錬装した!
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【冬河小型絆獣研究所】に向かうため合宿所の裏手に回った宗 星愁と那崎恭作は、入口である〈マンホール型門〉がぱっくりと口を開いているのを目の当たりにして思わず顔を見合わせた。
「いくら急いでいたとはいえ、戸締りもせずに出て行くとはな…。
しかも…」
星愁の重い呟きに、恭作もやや動揺気味に相槌を打つ。
「…妙ですね、あのいつもギャアギャア騒がしい絆獣たちの鳴き声が全く聴こえない…」
「だが、死んだのは三匹だろう?
考えたくはないが〔獣居房〕で何らかの伝染性の疫病が発生し、他の連中もバタバタ倒れちまってるのかもしれんな…。
もしそうなら、生身のままで降りるのは危険だ、
──恭作、〈錬装〉するぞ」
「…了解です」
ほぼ同時に先輩の全身は銀色の、そして後輩は白い卵型の閃光に包まれたが、経験(錬装回数)において勝る星愁のそれはおよそ10秒で消失し、再び現れた彼は〈コブラ〉をモチーフとした、そしてその5秒後に出現した恭作は〈白虎〉を象った磁甲を纏っていた!
──通常時における体格は星愁が178センチ・71キロ、恭作が175センチ・66キロであるのに対し、錬装後は前者が202センチ・162キロ、後者は197センチ・155キロに増大していた。
星愁のそれがやや大きいのは、もちろんコブラの左右に張り出した頭部の意匠によるものである。
モデルこそそれぞれ〈毒蛇の王〉及び〈西方位の神獣〉に依拠しているものの、いうまでもなく両者のシルエットは人型を保っており、地面に腹這いや四つん這いになっている訳ではない…。
「──かなり迅くなったな。
黎輔もそれなりに上達してるが、それでもやっと30秒を切ったかなというところだ…。
キャリアが半年違えば、実戦経験がほぼ同じでもやはりこうも違うもんか…いや、この言い方はおまえに失礼だな、やはり錬装者としての自覚とそれから派生する集中力の違いってヤツなんだろう…」
しかし鋼の虎戦士は謙遜するかのように右手を振る。
「いえいえ、先輩方の“マッハチェンジ”に比べたらまだまだですよ…。
それに、黎くんの磁甲は本来“東洋人不適応型”の〔スペンサーモデル〕でしょう?
聞くところじゃかなり無理くりゲットしたっぽいですから、聖団側の嫌がらせで何か細工でもされてんじゃないですかね?」
“中国支部最強錬装者”もため息を吐きつつ応じる。
「…たしかにそれはあるかもな。
全くアイツ、自分の好き嫌いに関しちゃホントに妥協しねえからなあ…。
大体、いくら親父と、それにハンゾウと仲が悪いからって、曲がりなりにも支部の首督があれだけ入れ込んでる小型絆獣に一切ノータッチってのも中々できるこっちゃねえぜ…なあ、そう思わんか?」
「でもまあ、もちろん感心することじゃありませんけど、それはしょうがない部分もあるんじゃないですかね…。
まず第一に彼、ホントに猿って動物が苦手らしいんですよ。
何でも3~4歳の頃、丁度“絆獣ブリーダー”をはじめたばかりのオヤジさんの悪ふざけで旧型の獣居房に2時間ばかり閉じ込められちゃったことがあったらしくて、生まれたばっかりのハンゾウの先祖にいいようにオモチャにされて文字通り地獄の思いを味わったとか…。
もちろん連中もまだ赤ん坊だから牙も爪も生えちゃいなかったものの力だけは異様に強くて、まるでビーチボールみたいにポンポン投げ飛ばされた挙げ句、かわいそうにコンクリートの壁に頭をブツけちゃって気絶したらしいんですよね…。
当然今でも憤ってますけど、これって悪質な児童虐待…いや、とてもそれところじゃない!完全な殺人未遂じゃないですか!?」
生来の正義漢なのであろう、まさに被害者と一体化したかのごとく立腹する後輩に星愁は苦笑しつつ同意する。
「全くひでえ父親もあったもんだよな…。
オレも黎輔からその恨み節を聞かされて、さすがに思うところあってツネさんにそれとなく確かめてみたことがあったんだが、本人曰く丁度その時期、離婚と事業の不振、それに二人の男児の子育てが重なってストレスで限界寸前だったと言ってたがな…ああ、分かってる、もちろんそんなの幼い次男坊にとっちゃ知ったことじゃねえし、〈鬼畜監禁〉の言い訳にすらならんよ…。
しかも、呆れたことに…いや、これこそが冬河恒典って人間の真骨頂ともいえるかな、全く悪びれることなく…それどころかひとしきり恩知らずのてにゃわん(手に負えない)息子を口汚く罵った後で、ホザいたセリフがふるってる…、
“──これは離婚の主要な原因の一つでもあるんじゃけどな、そもそもワシは女の子が欲しかったんじゃ!
何故なら優しくて可愛いし、成長すればお淑やかで美しくなるし、たとえ“天響神の思し召し”によって異世界に赴くことになろうとも、聖団における女子しかなれん操獣師の格は野郎が務める錬装者より遥かに上じゃろうが…それじゃけえ、最初のガキ(晃人)を嫁が身籠った時、それこそ一心に祈りつつ〈お百度〉を踏んだっちゅうのにエグメドはワシの悲願を叶えてはくれんかった…。
それ以来、絆獣聖団が掲げる理想に命を賭けていたワシは何も信じん虚無主義者になったんじゃ…。
ましてやあの黎輔がどう思ってようが、これっぽっちも堪えりゃせんわ…。
──実はのう、こりゃオフレコ…あ、いや、いつでもアイツに言うてくれりゃあええが、長男に〈召喚〉がかかった時、ワシゃあ小躍りするほど喜んで独り祝杯を挙げたんよ…ああ、これでようよう(やっと)一匹片付いたっちゅうてな…!
そいでな(ここで中国支部首督は悪魔のごとき笑みを浮かべた)、これに味をしめたっちゅう訳でもねーんじゃが、神田ぐっちゃんと画面通話する度に打診しとるんじゃわ…。
──異世界じゃかなり熾烈な戦いになっとるようじゃが、本隊の錬装者は足りとるんかいのう?
ウチの出来損ないで良かったら、いつでも供出しまっせ…どーせ、先発した晃人は人並みの役に立っておりゃーせんじゃろうけえなあ!
ついでに付録の次男も送り込みゃあ、二人一組でようよう一人前の錬装者に成るんとちゃうかいなあ…神田口もそう思わんかいな?
ま、そういうワケじゃけえ、入り用なら遠慮なくいつでも声掛けてーな、ワシゃこの件に関する限り24時間開店状態じゃけえな…!”
──これを額面通り受け取りゃ、黎輔の“真の敵”は妖帝星軍でも神牙教軍でも、そして利用されてるだけのハンゾウですらなく、自分じゃどうにもならねえ呪われた縁で結ばれちまった実の親父ってことになるよなあ…!」
呆れ果てたかのような宗 星愁のコメントに、ラージャーラへの出征を目前に控えた那崎恭作も白い鋼の拳を握りしめ、怒りに震えながら応じる。
「全くです…!
血を分けた実の息子に対する人間のセリフとはとても思えない…!
もし仮にこれが自分の父親だったら、ボクならこの鉄拳で殴り殺しちゃいかねませんよ…!!」
「いくら急いでいたとはいえ、戸締りもせずに出て行くとはな…。
しかも…」
星愁の重い呟きに、恭作もやや動揺気味に相槌を打つ。
「…妙ですね、あのいつもギャアギャア騒がしい絆獣たちの鳴き声が全く聴こえない…」
「だが、死んだのは三匹だろう?
考えたくはないが〔獣居房〕で何らかの伝染性の疫病が発生し、他の連中もバタバタ倒れちまってるのかもしれんな…。
もしそうなら、生身のままで降りるのは危険だ、
──恭作、〈錬装〉するぞ」
「…了解です」
ほぼ同時に先輩の全身は銀色の、そして後輩は白い卵型の閃光に包まれたが、経験(錬装回数)において勝る星愁のそれはおよそ10秒で消失し、再び現れた彼は〈コブラ〉をモチーフとした、そしてその5秒後に出現した恭作は〈白虎〉を象った磁甲を纏っていた!
──通常時における体格は星愁が178センチ・71キロ、恭作が175センチ・66キロであるのに対し、錬装後は前者が202センチ・162キロ、後者は197センチ・155キロに増大していた。
星愁のそれがやや大きいのは、もちろんコブラの左右に張り出した頭部の意匠によるものである。
モデルこそそれぞれ〈毒蛇の王〉及び〈西方位の神獣〉に依拠しているものの、いうまでもなく両者のシルエットは人型を保っており、地面に腹這いや四つん這いになっている訳ではない…。
「──かなり迅くなったな。
黎輔もそれなりに上達してるが、それでもやっと30秒を切ったかなというところだ…。
キャリアが半年違えば、実戦経験がほぼ同じでもやはりこうも違うもんか…いや、この言い方はおまえに失礼だな、やはり錬装者としての自覚とそれから派生する集中力の違いってヤツなんだろう…」
しかし鋼の虎戦士は謙遜するかのように右手を振る。
「いえいえ、先輩方の“マッハチェンジ”に比べたらまだまだですよ…。
それに、黎くんの磁甲は本来“東洋人不適応型”の〔スペンサーモデル〕でしょう?
聞くところじゃかなり無理くりゲットしたっぽいですから、聖団側の嫌がらせで何か細工でもされてんじゃないですかね?」
“中国支部最強錬装者”もため息を吐きつつ応じる。
「…たしかにそれはあるかもな。
全くアイツ、自分の好き嫌いに関しちゃホントに妥協しねえからなあ…。
大体、いくら親父と、それにハンゾウと仲が悪いからって、曲がりなりにも支部の首督があれだけ入れ込んでる小型絆獣に一切ノータッチってのも中々できるこっちゃねえぜ…なあ、そう思わんか?」
「でもまあ、もちろん感心することじゃありませんけど、それはしょうがない部分もあるんじゃないですかね…。
まず第一に彼、ホントに猿って動物が苦手らしいんですよ。
何でも3~4歳の頃、丁度“絆獣ブリーダー”をはじめたばかりのオヤジさんの悪ふざけで旧型の獣居房に2時間ばかり閉じ込められちゃったことがあったらしくて、生まれたばっかりのハンゾウの先祖にいいようにオモチャにされて文字通り地獄の思いを味わったとか…。
もちろん連中もまだ赤ん坊だから牙も爪も生えちゃいなかったものの力だけは異様に強くて、まるでビーチボールみたいにポンポン投げ飛ばされた挙げ句、かわいそうにコンクリートの壁に頭をブツけちゃって気絶したらしいんですよね…。
当然今でも憤ってますけど、これって悪質な児童虐待…いや、とてもそれところじゃない!完全な殺人未遂じゃないですか!?」
生来の正義漢なのであろう、まさに被害者と一体化したかのごとく立腹する後輩に星愁は苦笑しつつ同意する。
「全くひでえ父親もあったもんだよな…。
オレも黎輔からその恨み節を聞かされて、さすがに思うところあってツネさんにそれとなく確かめてみたことがあったんだが、本人曰く丁度その時期、離婚と事業の不振、それに二人の男児の子育てが重なってストレスで限界寸前だったと言ってたがな…ああ、分かってる、もちろんそんなの幼い次男坊にとっちゃ知ったことじゃねえし、〈鬼畜監禁〉の言い訳にすらならんよ…。
しかも、呆れたことに…いや、これこそが冬河恒典って人間の真骨頂ともいえるかな、全く悪びれることなく…それどころかひとしきり恩知らずのてにゃわん(手に負えない)息子を口汚く罵った後で、ホザいたセリフがふるってる…、
“──これは離婚の主要な原因の一つでもあるんじゃけどな、そもそもワシは女の子が欲しかったんじゃ!
何故なら優しくて可愛いし、成長すればお淑やかで美しくなるし、たとえ“天響神の思し召し”によって異世界に赴くことになろうとも、聖団における女子しかなれん操獣師の格は野郎が務める錬装者より遥かに上じゃろうが…それじゃけえ、最初のガキ(晃人)を嫁が身籠った時、それこそ一心に祈りつつ〈お百度〉を踏んだっちゅうのにエグメドはワシの悲願を叶えてはくれんかった…。
それ以来、絆獣聖団が掲げる理想に命を賭けていたワシは何も信じん虚無主義者になったんじゃ…。
ましてやあの黎輔がどう思ってようが、これっぽっちも堪えりゃせんわ…。
──実はのう、こりゃオフレコ…あ、いや、いつでもアイツに言うてくれりゃあええが、長男に〈召喚〉がかかった時、ワシゃあ小躍りするほど喜んで独り祝杯を挙げたんよ…ああ、これでようよう(やっと)一匹片付いたっちゅうてな…!
そいでな(ここで中国支部首督は悪魔のごとき笑みを浮かべた)、これに味をしめたっちゅう訳でもねーんじゃが、神田ぐっちゃんと画面通話する度に打診しとるんじゃわ…。
──異世界じゃかなり熾烈な戦いになっとるようじゃが、本隊の錬装者は足りとるんかいのう?
ウチの出来損ないで良かったら、いつでも供出しまっせ…どーせ、先発した晃人は人並みの役に立っておりゃーせんじゃろうけえなあ!
ついでに付録の次男も送り込みゃあ、二人一組でようよう一人前の錬装者に成るんとちゃうかいなあ…神田口もそう思わんかいな?
ま、そういうワケじゃけえ、入り用なら遠慮なくいつでも声掛けてーな、ワシゃこの件に関する限り24時間開店状態じゃけえな…!”
──これを額面通り受け取りゃ、黎輔の“真の敵”は妖帝星軍でも神牙教軍でも、そして利用されてるだけのハンゾウですらなく、自分じゃどうにもならねえ呪われた縁で結ばれちまった実の親父ってことになるよなあ…!」
呆れ果てたかのような宗 星愁のコメントに、ラージャーラへの出征を目前に控えた那崎恭作も白い鋼の拳を握りしめ、怒りに震えながら応じる。
「全くです…!
血を分けた実の息子に対する人間のセリフとはとても思えない…!
もし仮にこれが自分の父親だったら、ボクならこの鉄拳で殴り殺しちゃいかねませんよ…!!」
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