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第四章 【覇闘】直前狂騒曲
妖帝、朝の訓示
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AM5:00──およそ1時間に及ぶ饗宴を堪能し、黒い寝台から降り立った全裸の光城玄矢は、両腕に失神した沙佐良氷美花を軽々と抱き上げ、共に身を清めるため隣接する浴室に向った。
AM5:32──身支度を整えた二人が4階の食堂に降りると、そこには昨夜ホテルに待機させていた光城家の三男・白彌が待ち受けていた。
3時過ぎにチェックアウトし、宿泊先から1.5kmほどの光至教岡山支部ビルに早朝ジョギングを洒落込んで到着した彼は、前日運び込んでおいた食材を得意の腕で調理し、最も信頼できるシェフとして決戦の朝にふさわしい献立を用意していたのである。
既にエプロンを外して無地の白麻シャツとホワイトジーンズ、それに新品のスニーカー姿となり、窓外の風景を見下ろしていた三男坊はやはり美形揃いの教祖一家にふさわしい容貌であり、幾分か陣営の本日の獲物である冬河黎輔に似ていたが、その立ち居振る舞いは遥かに都会的に洗練されている…。
15坪ほどの床面積に同じ大きさの矩形テーブルが五つ並べられ、その内の一つに並べられた外国製木皿に兄のリクエスト通り、ビーフ・チーズ・卵・トマトと軽く炒めた玉葱を合わせた4種類のサンドイッチと特製ドレッシングを振りかけた10種に近い有機野菜のサラダが豊富に盛られ、そして母親の現教祖が海外視察の折に趣味の一環として持ち帰った陶製食器からは昨日一日かけて食材を調達した瀬戸内の魚介ベースのスペシャルスープが湯気を立てている…。
用意された飲み物は一家の団欒時には必ず登場する高級ダージリンティーであり、淹れ方やカップにも並々ならぬこだわりと趣向が凝らされているのはいうまでもない。
「ハロー白彌、ご苦労だったな!
おお、相変わらず美味そうだ!
これで今日一日、シャリバテすることなく大暴れできるぜッ!」
「おはようございます…まあお恥ずかしながらこの程度のモノしか出せませんが、ご馳走は今夜の〈祝勝会〉ってことで…」
互いに微笑みつつ氷美花と会釈を交わした光城白彌が韜晦するが、賓客用の籐椅子を引いて恋人を着席させながら長兄は笑い飛ばす。
「せっかくだが、それはないぜ。
覇闘が終わったら、その足ですぐ帰京せにゃならんのでな。
実はな、ついさっき魂師から連絡があって、明晩【館】にて紫羽や南郷も交えて《三帝夜議》が開かれるのさ。
──何か予定があるんなら今のうちにキャンセルしといてくれよな、必ずおまえも同席させよとの仰せなんだから…」
「へえ、そうなんだ…。
でも、よりによって覇闘翌日に魂師と面談なんてかなりの強行日程だよね…。
──あっ!?」
“妖術鬼の愛娘”の視線に気付き、慌てて口元を押さえる白彌だが、その天然ぶりに思わず氷美花が声を上げて笑う。
だがこの自然な流れが、“独占欲の権化”ともいうべき次期教祖の狷介な性格を少しばかり逆撫でしたようであった。
分厚いステーキ肉を挟んだサンドウィッチに勢いよく齧りつく“一族最強の男”はすぐにいつもの説教口調となっていた。
「…バカだなおまえ、
今日の覇闘はオレにとっちゃ完全なレクリエーションだって来る途中散々言ってただろうが…。
相手の名前…もう忘れちまったが、おまえがこれからぶっつけ本番で戦っても圧勝確実の片田舎の雑魚キャラさ。
──いいか白彌、そんなことよりもな…」
予め注文していた〈マスタード抜き〉のサンドウィッチ皿を氷美花に薦めながら玄矢は戦士の眼光で緊張した表情の三男坊を見据える。
「昨日ハッキリしたように、もう威紅也は限界だ…。
オレが前からハッパをかけているように、これからはおまえが光城の副将として第一線に立たねばならん…」
ここでチラリと“義弟心尽くしの一品”を美味しそうに頬張る氷美花に視線を落とした玄矢だが、すぐに続ける。
「幸いと言っては何だが、おまえの素質は威紅也を遥かに上回る…。
はじめて告げるが、実は魂師もそれをハッキリ認めておられるのだ。
だがな、それに浮かれてはならんぞ。
何故ならば、妖帝星軍がやがて対峙せねばならぬ真の敵は途轍もなく強大な存在だからだ!
それに思いを馳せるならば、劣弱な絆獣聖団などを相手に…しかも覇闘のごとき制限された…いわば〈仮想戦場〉においてたとえ不敗を誇ったところで何らの意味をも有せぬことが理解できるはずなのだからな…!」
AM5:32──身支度を整えた二人が4階の食堂に降りると、そこには昨夜ホテルに待機させていた光城家の三男・白彌が待ち受けていた。
3時過ぎにチェックアウトし、宿泊先から1.5kmほどの光至教岡山支部ビルに早朝ジョギングを洒落込んで到着した彼は、前日運び込んでおいた食材を得意の腕で調理し、最も信頼できるシェフとして決戦の朝にふさわしい献立を用意していたのである。
既にエプロンを外して無地の白麻シャツとホワイトジーンズ、それに新品のスニーカー姿となり、窓外の風景を見下ろしていた三男坊はやはり美形揃いの教祖一家にふさわしい容貌であり、幾分か陣営の本日の獲物である冬河黎輔に似ていたが、その立ち居振る舞いは遥かに都会的に洗練されている…。
15坪ほどの床面積に同じ大きさの矩形テーブルが五つ並べられ、その内の一つに並べられた外国製木皿に兄のリクエスト通り、ビーフ・チーズ・卵・トマトと軽く炒めた玉葱を合わせた4種類のサンドイッチと特製ドレッシングを振りかけた10種に近い有機野菜のサラダが豊富に盛られ、そして母親の現教祖が海外視察の折に趣味の一環として持ち帰った陶製食器からは昨日一日かけて食材を調達した瀬戸内の魚介ベースのスペシャルスープが湯気を立てている…。
用意された飲み物は一家の団欒時には必ず登場する高級ダージリンティーであり、淹れ方やカップにも並々ならぬこだわりと趣向が凝らされているのはいうまでもない。
「ハロー白彌、ご苦労だったな!
おお、相変わらず美味そうだ!
これで今日一日、シャリバテすることなく大暴れできるぜッ!」
「おはようございます…まあお恥ずかしながらこの程度のモノしか出せませんが、ご馳走は今夜の〈祝勝会〉ってことで…」
互いに微笑みつつ氷美花と会釈を交わした光城白彌が韜晦するが、賓客用の籐椅子を引いて恋人を着席させながら長兄は笑い飛ばす。
「せっかくだが、それはないぜ。
覇闘が終わったら、その足ですぐ帰京せにゃならんのでな。
実はな、ついさっき魂師から連絡があって、明晩【館】にて紫羽や南郷も交えて《三帝夜議》が開かれるのさ。
──何か予定があるんなら今のうちにキャンセルしといてくれよな、必ずおまえも同席させよとの仰せなんだから…」
「へえ、そうなんだ…。
でも、よりによって覇闘翌日に魂師と面談なんてかなりの強行日程だよね…。
──あっ!?」
“妖術鬼の愛娘”の視線に気付き、慌てて口元を押さえる白彌だが、その天然ぶりに思わず氷美花が声を上げて笑う。
だがこの自然な流れが、“独占欲の権化”ともいうべき次期教祖の狷介な性格を少しばかり逆撫でしたようであった。
分厚いステーキ肉を挟んだサンドウィッチに勢いよく齧りつく“一族最強の男”はすぐにいつもの説教口調となっていた。
「…バカだなおまえ、
今日の覇闘はオレにとっちゃ完全なレクリエーションだって来る途中散々言ってただろうが…。
相手の名前…もう忘れちまったが、おまえがこれからぶっつけ本番で戦っても圧勝確実の片田舎の雑魚キャラさ。
──いいか白彌、そんなことよりもな…」
予め注文していた〈マスタード抜き〉のサンドウィッチ皿を氷美花に薦めながら玄矢は戦士の眼光で緊張した表情の三男坊を見据える。
「昨日ハッキリしたように、もう威紅也は限界だ…。
オレが前からハッパをかけているように、これからはおまえが光城の副将として第一線に立たねばならん…」
ここでチラリと“義弟心尽くしの一品”を美味しそうに頬張る氷美花に視線を落とした玄矢だが、すぐに続ける。
「幸いと言っては何だが、おまえの素質は威紅也を遥かに上回る…。
はじめて告げるが、実は魂師もそれをハッキリ認めておられるのだ。
だがな、それに浮かれてはならんぞ。
何故ならば、妖帝星軍がやがて対峙せねばならぬ真の敵は途轍もなく強大な存在だからだ!
それに思いを馳せるならば、劣弱な絆獣聖団などを相手に…しかも覇闘のごとき制限された…いわば〈仮想戦場〉においてたとえ不敗を誇ったところで何らの意味をも有せぬことが理解できるはずなのだからな…!」
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