ボクらは魔界闘暴者!

幾橋テツミ

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第三章 血染めの【覇闘札】

覇闘札泥棒、逃亡成功!?

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「このアンゴウ(愚か者)がッ!

 そんなヒマがあると思うとるんかボケェッッ!!」

 豹柄短パンの尻ポケットに焦りまくって手を突っ込んだ恒典だが、朝の熱気に早くもじっとりと汗ばんだ布地に貼り付いたスマホは容易に取り出せない…。

「どアホがッ!ザマァねえなッ!!

 一足先に地獄に墜っこった絆獣ペットどもが待ちかねとるけえさっさと逝ったれやッ!!

 さあ覚悟はできたかいやッ、人をさんざんコケにしくさったこのクソ外道がッッ!!」

 されど錬装磁甲の意匠とは裏腹に、ボクシングの元日本ランカー時代に磨き抜いた必殺の右ストレートによって一撃のもとに死なせてやるなどさらさら持ち合わせぬ恨み骨髄の復讐者は、まずは顔面のパーツを一つずつ毟り取ってやるべく毒々しい赤いアロハの襟元に手を伸ばしたが、次の瞬間その背後に緑の魔猿が飛来した!

「ムギャギャガギャギャアアッ!!」

 鋼の広目天の頭部に両脚を巻き付け、自慢の血霧爪をそのオレンジ色の機眼に突き立ててかき回すハンゾウ…しかし残念ながらそこに傷一つ刻み込むことは出来なかった。

「この恩知らずのクソ猿がッ!

 三年前、生まれたてのテメエがワイにどんだけ世話になったかもう忘れやがったんかッ!?

 まあペットは飼い主に似るっちゅうからのう、このオヤジにんなるのも無理ねえわなあ!

 じゃが、これで手加減抜きに血祭りに上げられるっちゅうもんじゃッ!!」

 しかしその間、怨敵に息子たちへのSOSを送らせぬため、牧浦信樹はまず中国支部首督をおくことを忘れなかった。

 かくて木偶人形のごとく吹っ飛んだ168センチ77キロのメタボ中年は子供用座布団ほどの面積である5枚の監視スクリーンの一つに激突してこれ見よがしに前頭部にズリ上げていたトレードマークのスクエアサングラスをすっ飛ばされ、その弾みで侵入者がOFFにしてあった画面が唐突に点灯したのだが、痛みに呻く彼がそれを振り返る前に衝撃的な光景がその網膜を直撃した!

 ──あとどれだけの時間生きられるか定かではないが、冬河恒典は最愛の存在が発した断末魔の悲鳴を終生忘れることはないであろう…。

 素早く手を伸ばして小さな刺客を捕獲した闇堕ち錬装者は、もがくハンゾウの胴体を左手で、折れ欠けるのも構わず鋼の腕に必死に牙を立てる頭部を右手で掴むや、しゃがみ込んで腰をさすりつつ呆然と見上げる飼い主オーナーの目に焼き付けるかのようにゆっくりと頸部を捩じりはじめ…骨を砕き、靭帯を千切ってから思い切り両腕を左右に開いたのである!

「ハッ、ハッ、ハッ…ハンオオオオオッッ!!!」

 かくて身の毛もよだつ怪音と共に頭部と胴体を離断された小型絆獣の傷口からは墨汁に青汁をブレンドしたかのごとき黝い血潮が噴き出してリノリウムの床をべっとりと汚したが、その恐るべき生命力は直ちには消え果てず、屠殺者の手に握られたハンゾウの頭と胴は十数秒間にわたって凄まじい痙攣を続けた…特に両腕に至っては血霧爪を翳してぐるぐると何回も振り回されたほどである!

「──これでクソ猿軍団全滅じゃ…!」

 不敵に呟き、ようやくした獲物を放り捨てた牧浦は、号泣しつつの亡骸に這い寄ろうとする冬河恒典の後頭部をほくそ笑みながら右足裏で押さえ付ける。

「ま、最初にこのクライマックスに遭遇しちまやあ、後は見るまでもねえわなあ…」

 ちらりと一瞥した5枚の画面には、それぞれ4匹ずつ収容されたハンゾウの兄弟たちの惨殺体が無情に映し出されていた…。

「ンじゃあ、時間もねえしそろそろに取りかかるか…!」

 頭上に受けている途轍もない圧力によって、悲嘆よりも憎悪よりも、まず絶体絶命に追い詰められた我が身に対する危機感と反逆者への恐怖に脳を占拠され、生涯最大の錯乱状態にある中国支部首督は、前夜のビールの飲み過ぎもあってか失禁と同時に下痢便を勢いよく噴出させていた。

 だが、“完全屈服の証”ともいえるこの粗相に気付いた侵入者は、凄まじいばかりの怒声を轟かせた!

「こっ、この糞野郎がああッ!!

 !!

 穿!?

 も、もうカンベンならんッ!

 時間の範囲内でとことん苦しめて嬲り殺しちゃるつもりじゃったが、このまま踏み潰したるわッ!

 尤もオメエみてえな虫ケラにゃあこれもふさわしい処刑法っちゅうもんじゃッッ!!!」

 かくて70センチほど右足を上げた錬装者は一旦深く息を吸い込むと、この一撃によってこの4年間…いや.いかなる運命の手違いか、不運にもこの男と遭遇してしまった日から密かに胸に誓っていた復讐がついに成就することを聖団の〈主宰神〉たる天響神エグメドへ満腔の感謝を捧げつつ、あたかも救い難き仏敵を調伏するかのごとく微塵の逡巡もなしに踏み下ろしたのであった!

 ──それからおよそ20分後。

 広場の中央に停めた愛車に、知らぬ間に歩み寄っていた姿を、開け放たれた窓越しに食後の那崎恭作が目撃した。

「あれ?…冬河のオヤジさん何を担いでんだろ?」

 これを受けて他の面々が一斉に窓外に目を向けた時は、およそ50メートルほど離れたは既に運転席のドアを閉めていた。

「ただ車を端に寄せるだけだろうが?

 それなのに何を担ぐ必要があるってんだ?」

 神田口女史への強烈な未練と、“起死回生の復縁の手段”を思い巡らせていた〈備前の覇王〉が神聖な黙想を破られた腹いせか、苛立たし気に決めつける。

「でも、チラッと見えたんですよ…。

 結構重たそうに頭陀袋のようなものを担いでたのが…」

「頭陀袋だって?…一体何だろうな?

 考えられるのは…〈研究所〉で絆獣が死にでもしたのかな?」

 怪訝そうな星愁に、にわかに生気を帯びた黎輔が喜々として?合いの手を入れる。

「もしそれがハンゾウなら万々歳なんですけどね…!」

 思わず苦笑する兄貴分だが、その時テーブル上の彼のスマホがを奏でた。

「はい…ええ…はぁ?

 ──聖団差し回しの【救護班】が車両故障で立ち往生ッ!? 

 そうですか…元来遅刻魔の彼らのことですから気にも留めてなかったんですがそれは困りましたね…!

 うーん、すぐに修理できるようならいいんですが…私もバイクってるせいかメカには一通りの知識はあるつもりですけど…ご一緒しましょうか?

 …はあ、そうですか…一応の修理道具は車に積んであるからOKと…それではよろしくお願いします…。

 あっ、それから研究所で何かありましたかね?…いや、さっきちらっとお荷物を担いでたのが見えたもので…。

 …ああ、やはり絆獣が?…えっ、しかもいっぺんに3体も!?

 なるほど、それで救護班かれらの要請でそれを届けると…本部に持ち帰って原因を究明するために…。

 ──いや、全くですよ!支部こっちに注文を出す前にまず自分たちがしっかりしてもらいたいですねえ…。

 よりによって車の故障で目的地に辿り着けないなんて、前代未聞の不祥事じゃないですか!?

 ああ、はい。それでは…くれぐれも安全運転で…。

 ──あっ、もし運悪く長引くようなら〈開始時刻〉に間に合わん可能性もあるじゃないですか?ですから一応、【覇闘札】はこちらで貰っておいたほうが…あっ、出発しちまった…!

 (電話を切りつつ)

 ──全くフザケた話だぜ…尤もとしてウチに回してるのが3台ある中でワーストのボロ車であることは承知してたが、よもや立ち往生とはな…これがでねえとしたら、現体制のお粗末さも極まれりといったところだぜ…。

 ──それにツネさんも、首督のプライドか何かは知らんが最重要アイテムの覇闘札を持って行かんでもなあ…もし開始に間に合わなかったらどうするんだよ…!?

 それとこっちの気のせいかあるいは彼の興奮のためか、…?」



 

 

 

 



 

 

 

 

 







 


 


 





 





 

 

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