ボクらは魔界闘暴者!

幾橋テツミ

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第三章 血染めの【覇闘札】

最後の朝餐!?…メニューはスタミナ漢方うどん♡

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 午前六時過ぎ、決戦の朝を迎えた絆獣聖団中国支部の面々は胸中にそれぞれの思いを抱いて食堂のテーブルについた。

 幸いにも、同席すれば確実に場の空気を濁らせ、歪ませるであろう冬河恒典首督は、彼にとってライフワークともいうべき〈小型絆獣育成〉の進捗状況を視察するため、合宿所の地下に建造された約150坪の面積を有する研究所ラボを訪問していた。

 尤も所員スタッフは生来の動物好きで獣医学部出身の甥・貞昌のみであり、従弟いとこの黎輔とは別の意味でハンゾウの被害者となった彼は三週間前、ボス気取りで他絆獣をイビりまくる緑の狂猿を制止しようとした際に不運にも日毎に威力を増す凶爪の直撃を受け、聖団支給の強靭な防護服を無惨に切り裂かれて背中を38針も縫う全治二ヶ月の重傷を負わされ(無着用であれば間違いなくその場で死亡していたであろう)、目下、恒典の遊び仲間(友人に非ず)である高柳医師の病院に入院中である…。

 申年生れであるためか、狂的なまでの猿好きである恒典が飼育している20匹の絆獣は全て“ハンゾウ系”であり、その完成度を大いに自負する彼は渋る本部を押し切って成長途上の実子に差し替えて最近二回の覇闘に秘蔵っ子ハンゾウを出撃させ、二頭の妖仙獣を死闘の果てに撃破する殊勲を挙げていたのだが…。

 この“大勝利”が、彼にとてつもない野心を抱かせてしまったのである。

『──組織っちゅうもんは…そんでそれが戦闘集団であればなおさらのこと、常に過激なまでのアップデートを積み重ねていかにゃあおえんのじゃ…!

 実際、ワシのたゆまぬ努力の甲斐あって、中国支部ウチの絆獣たちは今回のハンゾウの快挙が証明したように、あのクソ生意気なポンコツ錬装者どもとは真逆の“全国最強”の評価を得ておると神田ぐっちゃんが教えてくれた…!

 どうやら、天響神エグメドはこのワシに“聖団革命の旗手“となるよう期待されておるとみえる…。

 ──即ち錬装者を完全排除した、小型絆獣のみで固められた〈最強軍団〉の結成をッ!!

 そうじゃ!口と気位だけが達者で実力も覚悟もまるでなっちょらん半端モンをのさばらせとるけえいつまで経っても敵を叩きのめせんのじゃて!!

 今に見てみィ、何年かかるか分からんが極限まで進化したワシのかわいいハンゾウのが必ずや妖術鬼シャザラの首を獲ってみせるけえなあ、
さんざん最弱、最弱ゆーてコケにしくさった九氏族の方々、どーかそのつもりでおってつかーさいやッ!!』


 一方、地上では出陣前の定番メニューであるイケメン整体師心尽くしの〈スタミナ漢方うどん〉がテーブル上で湯気を立てていた。

「時期が時期だけににしようか迷ったんだが、万一腹でも壊されちゃ目も当てられんからな…。

 しかも覇闘中は磁甲内はやや低めに温度調整されるから、プレッシャーや展開次第で急に危険性もあるし…。

 武運拙くそうなって恨まれるのもイヤなんでな…ま、許してたもれ♡」

「いいえ、とんでもないスよ…。

 苦痛でしかない〈覇闘デー〉において唯一のオアシスがこの一杯なんですから…!

 まあ宗先輩御手製の秘伝スープは到底ムリとしても、無臭ニンニクを練り込んだ麺だけは再現可能かな?と浅はかにもチャレンジしてみたんですけどねえ…全くお話にもならんクソまずさでした」

 舌なめずりしつつ箸を割る黎輔のぼやきに恭作も呼応する。

「ウチもそうだよ!

 まあ、出来栄えはソコソコだったけど、残念ながらやっぱり足元にも及ばなかった…。

 この前【アグニグループ】の南郷軍とやるために群馬に遠征した時、キャンピングカーのキッチンでご馳走になった時、お相伴にあずかった親父が大感激しちゃってさあ!

 帰り道でも運転中の先輩にしつこくレシピを聞きまくって…その節はご迷惑お掛けしましたッ」

 好評の嵐に星愁もまんざらではないらしく、珍しく相好を崩して後輩たちに向き合う。

「そういや親父さん美味そうに食ってくれたなあ…たしか三杯はお代わりしたんじゃねえかな…?

 まあ、出汁のベースになるすっぽんは長崎から、スタミナスープの要の赤マムシの粉末は伊豆大島から取り寄せるぐらいのこだわりはあるけどな…。

 隠し味?に使う八角とか生姜とかは適当に馴染みの生産者から仕入れただけだし。

 そんな訳でメインの材料はそれなりに吟味してるけど、大体オレは料理人じゃねえし、“旨さの秘伝”なんてもんを会得してるはずもない…。

 ただ、覇闘に臨む仲間のコンディションに少しでも資すればっていう思いがあるだけさ…。

 ま、コイツがお気に召さないようなら、昨日も言ったようにタンメンかたぬきうどんぐらいならこさえてやれるけどな…。

 ──タケ、おまえらしくもなくずいぶん大人しいが?」

 豪放磊落をモットーとする自称“備前の覇王”だが、昨夜の満腔の自信に溢れた佇まいとは裏腹に、戦う前から敗者のごとく消沈しているではないか。

 その姿をも覇王と強弁するなら、あたかも刀折れ、矢尽きて処刑場に引き出された敗軍の将としてでしかあるまい…。

 されど他の面子より1.5倍はデカい丼に大盛りのうどんに目を落としたまま、剛駕嶽仁はゆっくりと頭を振った。

「いいや、そういう訳じゃねえんだ…」

 皆の視線が集まる中、時が時であることを彼なりに配慮したものか思わせぶりな態度を排して嶽仁は告白した。

「…実はな、とうとうSNSでやり取りしてたのが本部にバレちまって、神田口女史と今後一切連絡を取れなくなっちまったんだよ…!」








 

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