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第三章 血染めの【覇闘札】
戦友N、駆けつける!
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「ムキキキキッギギイイイッ!!」
舌鋒鋭く迫る星愁にタジタジとなった主人を守るかのごとく牙を剥き出したハンゾウは長い両腕を頭上に掲げ、必殺武器の血霧爪をギラつかせて威嚇した。
だが、聖団極東支部でもトップクラスの実力派錬装者に、たかが小型絆獣の示威行為が通用するはずもない。
これに焦り、反応したのは“無二の理解者”である冬河恒典の方であった。
「これハンゾウ、落ち着かんかッ…」
しかし次の刹那、星愁の殺気を込めた一瞥を受けた緑の鎧猿は完全に意気阻喪し、敵に背を向けて中国支部首督の首っ玉に、あたかも怯えきった幼児のようにしがみつく。
かくて新旧聖団員の不穏な睨み合いが続き、よもや内紛勃発か?と思われたその時、白い軽自動車が広場に滑り込んで来た。
「──んん?ありゃあ誰じゃ?」
救いの神の出現にほっとした表情のアロハ親父に追求者は冷たく告げる。
「ご存じないですかね?極東支部きっての天才児の呼び声高く、大事な跡取りの無二の親友でもある那崎恭作を…?」
「ああ、那崎…あのいけ好かんキザ親父の倅か…。
もちろん知っとるがいつの間に免許取ったんじゃ?
たしかニ、三戦は覇闘に出とるはずじゃがその時は親父が連れて来とったじゃろうが?
…大体、あの連中は岡山の者じゃのうて神奈川からの転入組じゃけんなあ…どこーか気取りくさったトコがあってワシャあどーも好きになれんのじゃて…。
ま、天才か白菜かは知らんがの、たしかに神田ぐっちゃんはそれらしーことをゆーとったのォ…。
せーで、そこーらへんを買われたんかアイツ、〈出征〉が決まったそうじゃの…全くめでてえ話じゃて…。
──まーあの将彦(恭作・弓葉の父)も、もー少しワシに敬意を示しときゃあ躰を張ってでも阻止に動いてやったものをなァ…しゃーけど全ては後の祭りじゃて…」
『──フザけんなよ…そもそも首督のアンタのレベルがその程度だから中国支部全体が安く見られちまってんだよ…!
ドラ息子だぁ?──全く逆だぜ、客観的に見りゃあ、鳶が鷹を生んだって表現がピッタリの黎輔と、間違いなく十年に一人クラスの逸材である恭作さえいてくれりゃあ、“最弱支部”の汚名を返上する日も遠くはなかったはずなのによ…!
まあ、今回の決定で当支部をテコ入れするために本部が那崎氏を一家ぐるみで派遣したのでは?…というオレの淡い期待は完全に打ち砕かれちまった…。
むしろ、これからの戦績次第では一気に取り潰してしまえ、という悪意すら感じるぜ…!』
──もう二時間もすれば到着する敵方も広場に駐車するため、那崎恭作は優に野球ができるスペースを有する広場の隅に車を寄せると、そこに停めてある星愁が嶽仁と黎輔を乗せてきた黒いミニバンの傍らに停車した。
身長は三歳下の黎輔よりやや高い175センチ、体重は67キロの均整の取れた体格で、緩くウェーブのかかった黒髪の下には思慮深そうな瞳が鋭い光を放っている。
エースである星愁と同様、彼なりに日々の鍛錬を重ねているのであろう、白とグレーのチェック柄の半袖シャツから覗く腕とジーンズに包まれた脚は逞しく、肌理の細かい皮膚はよく日焼けしていた。
「おはようございますッ!」
軽快な小走りで支部の重鎮たちに駆け寄った若者は、事情は知らぬままに爽やかな印象そのままのキビキビした挨拶によって重い空気を四散させる。
「おはよう、早いな…。
今日はお父上は?…ああ、そうか、日曜だから娘さんに付いてトレセンに…!?」
聖団員として、そして錬装者として師表と仰いできた敬愛する先輩の問いに、恭作は決して相好を崩すことなく淡々と応じた。
「ええ…。
予定だとボクの三ヶ月後に出発予定だったんですが、ラージャーラの様子が殊の外緊迫の度合いを増したようで、本隊の強い要請でひと月後に前倒しされることになったみたいなんです…。
だから弓葉も家にいる間も勉強そっちのけでこっちがハラハラするくらいずっと模擬訓練に打ち込んじゃって…。
先週なんか、とうとう貸与された仮想操獣機を操念波でオーバーヒートさせちまったくらいなんですよ…。
でもトレーナーに言わせると、それが四段階ある訓練過程の第二段階を無事突破できた証拠だそうで、いよいよ今日、晴れて操獣師のシンボルである本物の〔聖幻晶〕を正式に授けられるとか…!
──もちろん那崎家にとっては、決してめでたいと喜んでばかりはいられない話なんですがね…!」
舌鋒鋭く迫る星愁にタジタジとなった主人を守るかのごとく牙を剥き出したハンゾウは長い両腕を頭上に掲げ、必殺武器の血霧爪をギラつかせて威嚇した。
だが、聖団極東支部でもトップクラスの実力派錬装者に、たかが小型絆獣の示威行為が通用するはずもない。
これに焦り、反応したのは“無二の理解者”である冬河恒典の方であった。
「これハンゾウ、落ち着かんかッ…」
しかし次の刹那、星愁の殺気を込めた一瞥を受けた緑の鎧猿は完全に意気阻喪し、敵に背を向けて中国支部首督の首っ玉に、あたかも怯えきった幼児のようにしがみつく。
かくて新旧聖団員の不穏な睨み合いが続き、よもや内紛勃発か?と思われたその時、白い軽自動車が広場に滑り込んで来た。
「──んん?ありゃあ誰じゃ?」
救いの神の出現にほっとした表情のアロハ親父に追求者は冷たく告げる。
「ご存じないですかね?極東支部きっての天才児の呼び声高く、大事な跡取りの無二の親友でもある那崎恭作を…?」
「ああ、那崎…あのいけ好かんキザ親父の倅か…。
もちろん知っとるがいつの間に免許取ったんじゃ?
たしかニ、三戦は覇闘に出とるはずじゃがその時は親父が連れて来とったじゃろうが?
…大体、あの連中は岡山の者じゃのうて神奈川からの転入組じゃけんなあ…どこーか気取りくさったトコがあってワシャあどーも好きになれんのじゃて…。
ま、天才か白菜かは知らんがの、たしかに神田ぐっちゃんはそれらしーことをゆーとったのォ…。
せーで、そこーらへんを買われたんかアイツ、〈出征〉が決まったそうじゃの…全くめでてえ話じゃて…。
──まーあの将彦(恭作・弓葉の父)も、もー少しワシに敬意を示しときゃあ躰を張ってでも阻止に動いてやったものをなァ…しゃーけど全ては後の祭りじゃて…」
『──フザけんなよ…そもそも首督のアンタのレベルがその程度だから中国支部全体が安く見られちまってんだよ…!
ドラ息子だぁ?──全く逆だぜ、客観的に見りゃあ、鳶が鷹を生んだって表現がピッタリの黎輔と、間違いなく十年に一人クラスの逸材である恭作さえいてくれりゃあ、“最弱支部”の汚名を返上する日も遠くはなかったはずなのによ…!
まあ、今回の決定で当支部をテコ入れするために本部が那崎氏を一家ぐるみで派遣したのでは?…というオレの淡い期待は完全に打ち砕かれちまった…。
むしろ、これからの戦績次第では一気に取り潰してしまえ、という悪意すら感じるぜ…!』
──もう二時間もすれば到着する敵方も広場に駐車するため、那崎恭作は優に野球ができるスペースを有する広場の隅に車を寄せると、そこに停めてある星愁が嶽仁と黎輔を乗せてきた黒いミニバンの傍らに停車した。
身長は三歳下の黎輔よりやや高い175センチ、体重は67キロの均整の取れた体格で、緩くウェーブのかかった黒髪の下には思慮深そうな瞳が鋭い光を放っている。
エースである星愁と同様、彼なりに日々の鍛錬を重ねているのであろう、白とグレーのチェック柄の半袖シャツから覗く腕とジーンズに包まれた脚は逞しく、肌理の細かい皮膚はよく日焼けしていた。
「おはようございますッ!」
軽快な小走りで支部の重鎮たちに駆け寄った若者は、事情は知らぬままに爽やかな印象そのままのキビキビした挨拶によって重い空気を四散させる。
「おはよう、早いな…。
今日はお父上は?…ああ、そうか、日曜だから娘さんに付いてトレセンに…!?」
聖団員として、そして錬装者として師表と仰いできた敬愛する先輩の問いに、恭作は決して相好を崩すことなく淡々と応じた。
「ええ…。
予定だとボクの三ヶ月後に出発予定だったんですが、ラージャーラの様子が殊の外緊迫の度合いを増したようで、本隊の強い要請でひと月後に前倒しされることになったみたいなんです…。
だから弓葉も家にいる間も勉強そっちのけでこっちがハラハラするくらいずっと模擬訓練に打ち込んじゃって…。
先週なんか、とうとう貸与された仮想操獣機を操念波でオーバーヒートさせちまったくらいなんですよ…。
でもトレーナーに言わせると、それが四段階ある訓練過程の第二段階を無事突破できた証拠だそうで、いよいよ今日、晴れて操獣師のシンボルである本物の〔聖幻晶〕を正式に授けられるとか…!
──もちろん那崎家にとっては、決してめでたいと喜んでばかりはいられない話なんですがね…!」
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