ボクらは魔界闘暴者！

第ニ章【パーフェクト・アイドル】の香り

夢で逢えても目覚めりゃ涙⑤

　まさにこれから夢の時間がはじまる、というところで冬河黎輔は夢から醒めた。

　兄貴分の宗　星愁は翌日に覇闘を控えた彼を気遣ってベッドを貸してくれ、自身は持ち込んでいたソファーで夜を明かしたようであった。

　スマホで時刻を確認すると午前五時過ぎであったが、八月末の現在では当然ながら明るい陽光が差し込んでおり、窓の外では鳥たちがうるさいくらいに鳴き交わしている…。

　だが、まさに最高の瞬間を前にして目覚めを余儀なくされた若き錬装者の胸中は灰色どころかドス黒い鉛色に曇っている。

「──ちきしょうめ…！

　何であそこで終わっちまうんだよ…、

　マジでこれからって時にぃ…！

　あ～あ、心のどこかで“どーせ、こりゃ夢だ”って分かってたんだから、ヘタな小細工なんざ弄さずにあのまま聖蘭様目がけて突進すりゃよかったぜ…!!」

　湖に漂う白い棺を踏み破りつつ、危険な魔法の元凶たる精霊剣を手刀で弾き飛ばすことで三代目聖団長を無力化したまでは良かったが、思惑通り水中に投げ出された彼女を救出せんとしたまさにその時、二度と再見は不可能であろうと確信される〈願望実現夢〉は儚くも雲散霧消してしまったのであった…。

　──されど怪我の功名というべきか、その刹那に目の当たりにしたパーフェクト・アイドルの艷姿はしっかりと記憶に焼き付いている…。

『──間違いなくあの時、聖蘭様は失神していた…！

　役作りのため被っていた銀髪のウィッグは外れて美しい黒髪がぱあっと広がり、白い喉元は大きくのけぞって…。

　力を失った両腕はゆらゆらと水中を漂い、

　清純にして官能的な白タイツとヒールブーツに包まれたすらりとした両足は虚しく湖水を蹴って…。

　──ただひたすら、オレの救いの手を待っておられたのだッ!!

　ああ、世界広しといえども、この冬河黎輔しか目撃できなかったあの光景だけは死んでも忘れんぞッ！

　…イテテテ…しかし、単なる朝勃ちなんてレベルじゃねえな、こりゃ…。

　全く、夢精しなかったのが不思議だぜ…ってか、何でできなかったんだよォ…、

　あれ、めっちゃ気持ちイイのに…！

　とにかく、このまま手付かずじゃ、大事な覇闘に悪影響を及ぼすことは必至…。

　よっしゃ！幸い星愁の兄貴は日課のランニングに出掛けたようだし、イメージが鮮明なうちにシャワー浴びがてら一発抜くかッッ!!

　──でも、聖蘭様ってホントに三代目聖団長なの…？』