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第ニ章【パーフェクト・アイドル】の香り
夢で逢えても目覚めりゃ涙②
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稀代のアイドルと名もなき崇拝者は、しばしの間身じろぎもせず見つめ合っていたが、沈黙を破った桂城聖蘭の美しき紅唇から驚くべき台詞が放たれた。
「──あなたは…絆獣聖団の者ですね?」
『え…ええッ!?
ど、どうして聖蘭様が聖団を知ってるの!?』
驚愕のあまり返事もできない冬河黎輔を尻目に、美しき魔法剣士は真剣な表情で耳を疑うような言辞を連ねる。
「──何を戸惑っているのです?
“決戦の時”はもうそこまで迫っているのですよ!?
それなのに…、
あなたには聖団員としての自覚が足りませんッ!
ほんとうに理解しているのですか、この世界におそるべき破局が迫っていることをッ!?」
だがこの峻烈なる叱咤が若き錬装者に惹起したのは、残念ながら聖蘭が期待した?痛切な猛省などではなく強烈な歓喜と下半身のさらなる硬直のみであった…。
『あの聖蘭様が…このオレだけに魂を震わす“女神の美声”によるお言葉を…!
──何たる光栄、これが興奮せずにいられるかッ!?
うすうす感じてはいたが、やはりこの冬河黎輔はただの雑兵シルブレストではなかったのだッ!!
…ところで聖蘭様の口ぶりだと、彼女は聖団においてかなり重要なポジションを占めておられると推察されるが…?』
「──何故、黙っているのです?
こうして邂逅したということは、あなたは聖団にとって期待のホープたる逸材のはず…それなのに、私の目にはそれを裏付ける気概というものが全く窺えませんッ!
となると、考えられるのはただ一つ!
この三代目聖団長自身の手によって、不甲斐ない錬装者を鍛え直せという天響神の計らいなのだわッ!!」
一方的にまくし立てられた“スパルタ指導宣言”は本来ならご褒美以外の何物でもなかったが、そこに埋め込まれたワードはそれを雲散霧消させる破壊力を有していた!
『な、何イいいいいッ!?
聖蘭様が三代目の…聖団長だとおおおおォッ!?』
──確かに、数年前に地上世界へと一時的帰還中(一説では、聖団への“直接的意思伝達”を可能にするため既に【六天巫蝶】導入を決していたエグメドによる強制送還ではなかったかとまことしやかに囁かれていたが)の二代目聖団長カレン=クリストファーが不慮の事故によって死去してからは文字通りの〈空位〉となっていた最高指導者の座…そこに、あろうことか我らが“パーフェクト・アイドル”が就任するだと!?
『もしそれが現実ならまさに天にも昇る朗報だが(ほぼ確実に生聖蘭様にもお目にかかれるだろうし!)、
──でもさあ、この世知辛い世の中にそんな旨い話が果たしてあるのか?…どうせやっぱり、夢の中だけの出来事でしょ!?』
だが、万が一ということもある…それに真相を問い糾すことは何よりも“ニ年来の推し”と会話できる千載一遇の好機ではないか!?
そうだ、所詮は儚い夢であろうとも、この時を逃せば人生において彼女と言葉をかわすチャンスは二度と訪れぬであろう…。
かくて意を決した冬河黎輔は大緊張の震え声ながらもついに桂城聖蘭に向けて言葉を発した。
「あ、あのう…。
せ、聖蘭様は、い…いつから三代目に就任されていたんでしょうか…?
そ、それにこうしてお逢いできたということは…ボ、ボクには何か聖団長直属の特別任務(たとえば親衛隊長就任とか!)が用意されているということなのでしょうか…!?」
質問者にとっては切実きわまる内容であったが、麗しき新聖団長にとっては愚問中の愚問であったのであろう──失望もあらわに天を仰いだ桂城聖蘭はおもむろに右手を掲げつつ、こう叫んだ。
「──“白き聖剣”オルセスカよ、我が手に!」
『あれはたしか〈楽園戦争〉に登場する【精霊剣】の名…そういや、アルバムのOP曲のタイトルにもなってたな…』
聖蘭の呼びかけに応じて彼女の頭上に出現した白光は一瞬にして、劇中における魔法剣士の唯一無二の相棒として縦横無尽の活躍ぶりを見せる物言う剣と化してその白い手に握られていた!
七色の霊石があたかも天の川のごとく、刃も柄も含めて白一色の剣全体に鏤められた、まさしく完璧なる偶像が携えるにふさわしい宝剣の切っ先をピタリと錬装者に向けて聖蘭は告げた。
「──お願いだから、もっとしっかりしてちょうだい…!
もちろん、あなたが私の熱烈なファンだということはよく知っているし、日頃の応援にはとても感謝してるわ…。
でもね、冬河黎輔クン…!
今、キミの目の前に立っているのは断じて憧れの存在としてなどではなく、あくまでも運命を共にすべき戦友としての桂城聖蘭なのよッ!!
それをこれから骨の髄まで叩き込んであげるから覚悟しなさい!!
──行くわよッッ!!!」
「──あなたは…絆獣聖団の者ですね?」
『え…ええッ!?
ど、どうして聖蘭様が聖団を知ってるの!?』
驚愕のあまり返事もできない冬河黎輔を尻目に、美しき魔法剣士は真剣な表情で耳を疑うような言辞を連ねる。
「──何を戸惑っているのです?
“決戦の時”はもうそこまで迫っているのですよ!?
それなのに…、
あなたには聖団員としての自覚が足りませんッ!
ほんとうに理解しているのですか、この世界におそるべき破局が迫っていることをッ!?」
だがこの峻烈なる叱咤が若き錬装者に惹起したのは、残念ながら聖蘭が期待した?痛切な猛省などではなく強烈な歓喜と下半身のさらなる硬直のみであった…。
『あの聖蘭様が…このオレだけに魂を震わす“女神の美声”によるお言葉を…!
──何たる光栄、これが興奮せずにいられるかッ!?
うすうす感じてはいたが、やはりこの冬河黎輔はただの雑兵シルブレストではなかったのだッ!!
…ところで聖蘭様の口ぶりだと、彼女は聖団においてかなり重要なポジションを占めておられると推察されるが…?』
「──何故、黙っているのです?
こうして邂逅したということは、あなたは聖団にとって期待のホープたる逸材のはず…それなのに、私の目にはそれを裏付ける気概というものが全く窺えませんッ!
となると、考えられるのはただ一つ!
この三代目聖団長自身の手によって、不甲斐ない錬装者を鍛え直せという天響神の計らいなのだわッ!!」
一方的にまくし立てられた“スパルタ指導宣言”は本来ならご褒美以外の何物でもなかったが、そこに埋め込まれたワードはそれを雲散霧消させる破壊力を有していた!
『な、何イいいいいッ!?
聖蘭様が三代目の…聖団長だとおおおおォッ!?』
──確かに、数年前に地上世界へと一時的帰還中(一説では、聖団への“直接的意思伝達”を可能にするため既に【六天巫蝶】導入を決していたエグメドによる強制送還ではなかったかとまことしやかに囁かれていたが)の二代目聖団長カレン=クリストファーが不慮の事故によって死去してからは文字通りの〈空位〉となっていた最高指導者の座…そこに、あろうことか我らが“パーフェクト・アイドル”が就任するだと!?
『もしそれが現実ならまさに天にも昇る朗報だが(ほぼ確実に生聖蘭様にもお目にかかれるだろうし!)、
──でもさあ、この世知辛い世の中にそんな旨い話が果たしてあるのか?…どうせやっぱり、夢の中だけの出来事でしょ!?』
だが、万が一ということもある…それに真相を問い糾すことは何よりも“ニ年来の推し”と会話できる千載一遇の好機ではないか!?
そうだ、所詮は儚い夢であろうとも、この時を逃せば人生において彼女と言葉をかわすチャンスは二度と訪れぬであろう…。
かくて意を決した冬河黎輔は大緊張の震え声ながらもついに桂城聖蘭に向けて言葉を発した。
「あ、あのう…。
せ、聖蘭様は、い…いつから三代目に就任されていたんでしょうか…?
そ、それにこうしてお逢いできたということは…ボ、ボクには何か聖団長直属の特別任務(たとえば親衛隊長就任とか!)が用意されているということなのでしょうか…!?」
質問者にとっては切実きわまる内容であったが、麗しき新聖団長にとっては愚問中の愚問であったのであろう──失望もあらわに天を仰いだ桂城聖蘭はおもむろに右手を掲げつつ、こう叫んだ。
「──“白き聖剣”オルセスカよ、我が手に!」
『あれはたしか〈楽園戦争〉に登場する【精霊剣】の名…そういや、アルバムのOP曲のタイトルにもなってたな…』
聖蘭の呼びかけに応じて彼女の頭上に出現した白光は一瞬にして、劇中における魔法剣士の唯一無二の相棒として縦横無尽の活躍ぶりを見せる物言う剣と化してその白い手に握られていた!
七色の霊石があたかも天の川のごとく、刃も柄も含めて白一色の剣全体に鏤められた、まさしく完璧なる偶像が携えるにふさわしい宝剣の切っ先をピタリと錬装者に向けて聖蘭は告げた。
「──お願いだから、もっとしっかりしてちょうだい…!
もちろん、あなたが私の熱烈なファンだということはよく知っているし、日頃の応援にはとても感謝してるわ…。
でもね、冬河黎輔クン…!
今、キミの目の前に立っているのは断じて憧れの存在としてなどではなく、あくまでも運命を共にすべき戦友としての桂城聖蘭なのよッ!!
それをこれから骨の髄まで叩き込んであげるから覚悟しなさい!!
──行くわよッッ!!!」
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