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第ニ章【パーフェクト・アイドル】の香り
戦友Nからの伝言
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いきなり、尻ポケットのスマホが鳴った。
こと聴力に関する限り、遥かに人間を凌駕するハンゾウが素早く振り返って、凄まじい殺気を込めた視線を突き刺してくる。
「オイ、ちょっと待てよ!」
左手で小型絆獣を制しつつ画面を見ると、そこには
“那崎恭作”
の文字があった。
「はい、もしもし?」
と応えながら部屋を出た黎輔だが、何故か相手からの返事がない…。
沈黙は二十秒は続いただろうか、その間、彼の脳裡はある不吉な予感に占められていた。
そしてそれが正しかったことは恭作自身によって証明された。
「…とうとう来ちまったよ…!」
『やはりそうか…』
来るべきものが来た…というより明日は我が身、というのが黎輔の正直な感想だったが、ここで彼に離脱されるということは、中国支部にとって大打撃以外の何ものでもない…。
「そうですか…。
ここで恭くんに抜けられるのは本当に痛いけど…〈召喚〉が掛かった以上は仕方ないよね…。
──あ、そうなると妹さんも一緒に…?」
現在二十歳の彼には五歳下の妹・弓葉がおり、彼女もまた聖団員として現在県北某所の秘密施設に週末返上で通いつめ、実戦経験を有する二人の元操獣師に師事して厳しい模擬操獣訓練に励んでいる。
…ここでようやく相手の声に生気が戻った感があった。
「ああ…そうなる。
尤も、出発は同時じゃないけどな…。
どうやら弓葉、結構期待されてるみたいで絶対に特級操獣師が務まるっていう確証が得られるまでみっちり仕込んでから送り出すって方針らしいんたよね…。
まあ、予定では三ヶ月後ってことみたいだ…」
「そうか…いろいろ寂しくなるな…」
“中国支部の放送局”こと剛駕嶽仁からの情報によればこの弓葉嬢は“伝説のマドンナ”こと萩邑りさらの再来ともいうべき超絶的美少女であり、密かに彼女との邂逅を待ちわびている黎輔にとっては危機感を煽られる痛恨のバッドニュースであった。
「じゃあみんなで送別会やろうよ、オレたち若い者だけでさ!
──明日は応援に来てくれるんだろ?
無事に終わったら闘了後でもいいからさッ!!」
「ああ、そうだな…さっき星さんにも誘われたし…。
あっ、そういや光城家が[BB]を申し込んで来たんだって?」
「…情報が早いな…。
そうなんだよ…尤も申し入れてきた玄矢の言葉尻からは奴らの意向というより総大将の厳命っていうニュアンスだったけどな…」
「……」
「…まあそれはさておき、光城玄矢って野郎の声を聴いたのはオレも初めてだったけど、めっちゃ手強そうな印象受けたな…。
ぶっちゃけ、嶽さんじゃ厳しいと思う…。
やっぱここは“最強”の宗 星愁先輩の出番だと思ったわ、今さら遅えけど…」
「…まあ、ここまで来た以上、あとは天命に委ねるしかないだろう…。
そっちはそっちでNo.2の次男坊と妖仙獣をまとめて相手にするんだろ?
…めっちゃ大変じゃん、もし自分だったらと思うとゾッとするぜ…」
「…まあ、何とか20分保たせりゃいいんだからな…そんなに心配はしてないっていうか、悪い展開は考えないようにしてる」
「ああ、そこが覇闘のいいとこだよな。
何とか眼の前の敵だけ何とかすりゃあ、地上に戻っていつもの日常空間に復帰できる…。
その点、片道切符だけ握らされて異世界にダイレクトにブッ飛ばされる身の何と悲惨で心細いことよ…!」
尤もな慨嘆に掛ける言葉もない黎輔だが、やはりここでもいずれ自分も…との思いからか心底から同情する気にもなれない…。
「うちら日本人が所属する軍団は何ってったけな…たしか星拳…」
「【星拳鬼會】だ。
手強き敵勢力に拳星會館ってのがあるんだからややこしい話だよな…。
尤もそれも当然というべきか、“後見役”の玉朧拳師って方は拳星から追放された血縁者っていうんだからさ…」
恭作の言葉に黎輔も強く相槌を打つ。
「あっ、それはオレも聞いた!
でも事実だとしたら、あまりいい趣味とは思えんなあ…余りにも未練タラタラじゃないの…。
ホントはオマエ、空手の大組織にふんぞり返ってドヤ顔したかったんとちゃうか?ってな…」
「…でも、創始者の紫羽家が妖術鬼に見込まれたのは拳師が出家して、ラージャーラに召された後っていうことだ…。
ということは、紫羽氏というのは絆獣聖団からも妖帝星軍からも自陣に取り込みたいと思われるほどに戦士として傑出した血族ということだろう…。
それに、オレが調べたところでは玉朧拳師が家伝の空手道に背を向けたのは、どうやらご自身の中国拳法志向の強さが主因らしいぜ…」
「へえ、そうなのか…。
さすがに詳しいな、我が支部随一の格闘技マニアだけのことはある…。
まあ、知ったかミーハーの嶽さんと違って“真の事情通”の星さんも同意してくれたけど、ウチの親父も含めてとことんロクな年寄がいない絆獣聖団にあって玉朧拳師だけは例外らしいって常々言ってるから、マジメな恭くんとはきっとウマが合うと思うよ…!」
こと聴力に関する限り、遥かに人間を凌駕するハンゾウが素早く振り返って、凄まじい殺気を込めた視線を突き刺してくる。
「オイ、ちょっと待てよ!」
左手で小型絆獣を制しつつ画面を見ると、そこには
“那崎恭作”
の文字があった。
「はい、もしもし?」
と応えながら部屋を出た黎輔だが、何故か相手からの返事がない…。
沈黙は二十秒は続いただろうか、その間、彼の脳裡はある不吉な予感に占められていた。
そしてそれが正しかったことは恭作自身によって証明された。
「…とうとう来ちまったよ…!」
『やはりそうか…』
来るべきものが来た…というより明日は我が身、というのが黎輔の正直な感想だったが、ここで彼に離脱されるということは、中国支部にとって大打撃以外の何ものでもない…。
「そうですか…。
ここで恭くんに抜けられるのは本当に痛いけど…〈召喚〉が掛かった以上は仕方ないよね…。
──あ、そうなると妹さんも一緒に…?」
現在二十歳の彼には五歳下の妹・弓葉がおり、彼女もまた聖団員として現在県北某所の秘密施設に週末返上で通いつめ、実戦経験を有する二人の元操獣師に師事して厳しい模擬操獣訓練に励んでいる。
…ここでようやく相手の声に生気が戻った感があった。
「ああ…そうなる。
尤も、出発は同時じゃないけどな…。
どうやら弓葉、結構期待されてるみたいで絶対に特級操獣師が務まるっていう確証が得られるまでみっちり仕込んでから送り出すって方針らしいんたよね…。
まあ、予定では三ヶ月後ってことみたいだ…」
「そうか…いろいろ寂しくなるな…」
“中国支部の放送局”こと剛駕嶽仁からの情報によればこの弓葉嬢は“伝説のマドンナ”こと萩邑りさらの再来ともいうべき超絶的美少女であり、密かに彼女との邂逅を待ちわびている黎輔にとっては危機感を煽られる痛恨のバッドニュースであった。
「じゃあみんなで送別会やろうよ、オレたち若い者だけでさ!
──明日は応援に来てくれるんだろ?
無事に終わったら闘了後でもいいからさッ!!」
「ああ、そうだな…さっき星さんにも誘われたし…。
あっ、そういや光城家が[BB]を申し込んで来たんだって?」
「…情報が早いな…。
そうなんだよ…尤も申し入れてきた玄矢の言葉尻からは奴らの意向というより総大将の厳命っていうニュアンスだったけどな…」
「……」
「…まあそれはさておき、光城玄矢って野郎の声を聴いたのはオレも初めてだったけど、めっちゃ手強そうな印象受けたな…。
ぶっちゃけ、嶽さんじゃ厳しいと思う…。
やっぱここは“最強”の宗 星愁先輩の出番だと思ったわ、今さら遅えけど…」
「…まあ、ここまで来た以上、あとは天命に委ねるしかないだろう…。
そっちはそっちでNo.2の次男坊と妖仙獣をまとめて相手にするんだろ?
…めっちゃ大変じゃん、もし自分だったらと思うとゾッとするぜ…」
「…まあ、何とか20分保たせりゃいいんだからな…そんなに心配はしてないっていうか、悪い展開は考えないようにしてる」
「ああ、そこが覇闘のいいとこだよな。
何とか眼の前の敵だけ何とかすりゃあ、地上に戻っていつもの日常空間に復帰できる…。
その点、片道切符だけ握らされて異世界にダイレクトにブッ飛ばされる身の何と悲惨で心細いことよ…!」
尤もな慨嘆に掛ける言葉もない黎輔だが、やはりここでもいずれ自分も…との思いからか心底から同情する気にもなれない…。
「うちら日本人が所属する軍団は何ってったけな…たしか星拳…」
「【星拳鬼會】だ。
手強き敵勢力に拳星會館ってのがあるんだからややこしい話だよな…。
尤もそれも当然というべきか、“後見役”の玉朧拳師って方は拳星から追放された血縁者っていうんだからさ…」
恭作の言葉に黎輔も強く相槌を打つ。
「あっ、それはオレも聞いた!
でも事実だとしたら、あまりいい趣味とは思えんなあ…余りにも未練タラタラじゃないの…。
ホントはオマエ、空手の大組織にふんぞり返ってドヤ顔したかったんとちゃうか?ってな…」
「…でも、創始者の紫羽家が妖術鬼に見込まれたのは拳師が出家して、ラージャーラに召された後っていうことだ…。
ということは、紫羽氏というのは絆獣聖団からも妖帝星軍からも自陣に取り込みたいと思われるほどに戦士として傑出した血族ということだろう…。
それに、オレが調べたところでは玉朧拳師が家伝の空手道に背を向けたのは、どうやらご自身の中国拳法志向の強さが主因らしいぜ…」
「へえ、そうなのか…。
さすがに詳しいな、我が支部随一の格闘技マニアだけのことはある…。
まあ、知ったかミーハーの嶽さんと違って“真の事情通”の星さんも同意してくれたけど、ウチの親父も含めてとことんロクな年寄がいない絆獣聖団にあって玉朧拳師だけは例外らしいって常々言ってるから、マジメな恭くんとはきっとウマが合うと思うよ…!」
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