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第一章 妖術鬼の愛娘
妖帝婚前祭③
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突如として出現した火魅華なる妖戦士は、光城玄矢に射るような視線を向けたまま、身を横たえていた黒い褥から起き上がる仕草すら示すことなく一瞬にして漆黒の絨毯に立っていた!
しかも、彼の背後3メートルの!
傍目には〈瞬間移動〉したとしか思えぬが、さすがというべきか、玄矢の目にはその軌道が明確に捉えられていた。
だが、それでも驚かされたことに変わりはない。
『むう…あたかも電光のごとき身のこなし…。
この動きを見ただけで、彼女が妖帝星軍全体を見回してもトップクラスの戦闘力を有しているであろうことが予想出来る…!
少なくとも、その気になれば最強者として君臨する我ら“三妖帝”とも五分に渡り合えるほどの潜在能力を秘めていることは間違いあるまい…!!』
ある意味では当面の天敵たる絆獣聖団よりも互いを意識し合う宿敵ともいうべき存在である“拳星會館の若き総帥”紫羽楯綱、そして“アグニグループの未来の帝王”南郷遼司郎を想起しつつ、それでも我こそがNo.1なり、との自負に些かの揺らぎもない光城玄矢であったが、果たしてこの軍団内序列の何処に火魅華が位置付けられることになるのかは、総司令官に擬せられる魂師シャザラからごく僅かの言葉しか得られてはいなかったのである…。
『…師によれば、我が軍の状況にかかわらず、こと覇闘に関する限り愛娘を出陣させる心算は全くないとのこと…。
尤もそれは当然といえようが、これほどの能力を授けた以上は、いずれこの光城玄矢の妻として、全軍の統率者の一翼としての活躍を期待されているのであろう…!
…即ち、絆獣聖団などとは比較にならぬ我らの真の敵…、
魂師自身の唯一無二の好敵手という、【鏡の教聖】なる超魔人が率いる“ラージャーラ最強勢力”の【神牙教軍】とやらを、地上か異世界で迎え撃つまでは、その出番はないということなのであろうな…!』
──無言で対峙する両者…それを破ったのはやはり火魅華であった。
「…何故、極術身装に変じないのです?
それを成さずして、私に勝てると自惚れているのですか…?」
耳朶を打ったのは紛れもない沙佐良氷美花の声音であったが、その響きは非人間的なまでに金属的な硬質さと重々しさを帯び、可憐なる美少女は心身共に超自然的存在に成り果せてしまった事実を容赦なく突き付けてくる。
…たっぷり二呼吸ほどの沈黙の後、若き妖帝は応えた。
「その必要はない…、
あなたが敵ではないことは、私にとって自明の理なのだから」
この返事は彼女にとっては想定外であったらしく、口元の微笑は消失し真紅の眼光は今しも発火するかのごとく険しさを増したが、玄矢は平然と続ける。
「さて、火魅華さん…。
あなたがもし、氷美花さんと意識を共有しているのであればこの質問に答えられるはずですが、お伺いしてよろしいですかね…?」
「……!?」
「…氷美花は私が威紅也との営みを盗み見しているのを知っていながらそれを続けられた…その理由をそろそろ話して頂きたいのですが…?」
一瞬、火魅華の眼光が戸惑いに翳ったが、直ちに答えを得たのであろう…再び爛々たる視線を突き刺しつつ硬い口調で宣った。
「…私には全く意味不明だが、この娘はこう申しておる…、
“…威紅也さまと常軌を逸するほどに頽廃的で破廉恥な交わりの儀式を高頻度で続ければ、その全てを目の当たりにした玄矢が怒り呆れ、やがてあの方を危険極まるがゆえに妖帝星軍戦士としての名誉の根幹を成す覇闘から排斥することを期待していたのだ…。
たとえそれが同時に威紅也さまにとって母なる教団から追放される悲劇を意味していたとしても、自分は何よりも彼の生命の尊厳を守りたかったのだ、と…”
…まさに光城玄矢の予想通りの返答であったが、これで氷美花と火魅華の意識界がほぼ地続きであることが確信できた意味は大きく、彼は汲めども尽きぬ魂師の愛娘の魅力に改めて精神の高揚を覚えていた。
──果たしてこの後、火魅華はどう出るか?
だが一抹の不安はあったものの、そもそも氷美花の心が生涯初の変身を行わざるを得ないまでに追い詰められた要因は彼女が自分と威紅也の狭間で激しく揺れ動き、結果的に弟への想いを捨てきれずそれを貫こうとした自己防衛の念にあると見る玄矢は、その結果として出現した極術身装=火魅華とのファーストコンタクトだけはたとえいかなる事態が突発しようとあくまでも生身のままで完遂する覺悟なのであった。
──先程も宣言したとおり、自分が敵ではなく、あくまでも生涯を添い遂げる伴侶であることを証明するために…!
しかも、彼の背後3メートルの!
傍目には〈瞬間移動〉したとしか思えぬが、さすがというべきか、玄矢の目にはその軌道が明確に捉えられていた。
だが、それでも驚かされたことに変わりはない。
『むう…あたかも電光のごとき身のこなし…。
この動きを見ただけで、彼女が妖帝星軍全体を見回してもトップクラスの戦闘力を有しているであろうことが予想出来る…!
少なくとも、その気になれば最強者として君臨する我ら“三妖帝”とも五分に渡り合えるほどの潜在能力を秘めていることは間違いあるまい…!!』
ある意味では当面の天敵たる絆獣聖団よりも互いを意識し合う宿敵ともいうべき存在である“拳星會館の若き総帥”紫羽楯綱、そして“アグニグループの未来の帝王”南郷遼司郎を想起しつつ、それでも我こそがNo.1なり、との自負に些かの揺らぎもない光城玄矢であったが、果たしてこの軍団内序列の何処に火魅華が位置付けられることになるのかは、総司令官に擬せられる魂師シャザラからごく僅かの言葉しか得られてはいなかったのである…。
『…師によれば、我が軍の状況にかかわらず、こと覇闘に関する限り愛娘を出陣させる心算は全くないとのこと…。
尤もそれは当然といえようが、これほどの能力を授けた以上は、いずれこの光城玄矢の妻として、全軍の統率者の一翼としての活躍を期待されているのであろう…!
…即ち、絆獣聖団などとは比較にならぬ我らの真の敵…、
魂師自身の唯一無二の好敵手という、【鏡の教聖】なる超魔人が率いる“ラージャーラ最強勢力”の【神牙教軍】とやらを、地上か異世界で迎え撃つまでは、その出番はないということなのであろうな…!』
──無言で対峙する両者…それを破ったのはやはり火魅華であった。
「…何故、極術身装に変じないのです?
それを成さずして、私に勝てると自惚れているのですか…?」
耳朶を打ったのは紛れもない沙佐良氷美花の声音であったが、その響きは非人間的なまでに金属的な硬質さと重々しさを帯び、可憐なる美少女は心身共に超自然的存在に成り果せてしまった事実を容赦なく突き付けてくる。
…たっぷり二呼吸ほどの沈黙の後、若き妖帝は応えた。
「その必要はない…、
あなたが敵ではないことは、私にとって自明の理なのだから」
この返事は彼女にとっては想定外であったらしく、口元の微笑は消失し真紅の眼光は今しも発火するかのごとく険しさを増したが、玄矢は平然と続ける。
「さて、火魅華さん…。
あなたがもし、氷美花さんと意識を共有しているのであればこの質問に答えられるはずですが、お伺いしてよろしいですかね…?」
「……!?」
「…氷美花は私が威紅也との営みを盗み見しているのを知っていながらそれを続けられた…その理由をそろそろ話して頂きたいのですが…?」
一瞬、火魅華の眼光が戸惑いに翳ったが、直ちに答えを得たのであろう…再び爛々たる視線を突き刺しつつ硬い口調で宣った。
「…私には全く意味不明だが、この娘はこう申しておる…、
“…威紅也さまと常軌を逸するほどに頽廃的で破廉恥な交わりの儀式を高頻度で続ければ、その全てを目の当たりにした玄矢が怒り呆れ、やがてあの方を危険極まるがゆえに妖帝星軍戦士としての名誉の根幹を成す覇闘から排斥することを期待していたのだ…。
たとえそれが同時に威紅也さまにとって母なる教団から追放される悲劇を意味していたとしても、自分は何よりも彼の生命の尊厳を守りたかったのだ、と…”
…まさに光城玄矢の予想通りの返答であったが、これで氷美花と火魅華の意識界がほぼ地続きであることが確信できた意味は大きく、彼は汲めども尽きぬ魂師の愛娘の魅力に改めて精神の高揚を覚えていた。
──果たしてこの後、火魅華はどう出るか?
だが一抹の不安はあったものの、そもそも氷美花の心が生涯初の変身を行わざるを得ないまでに追い詰められた要因は彼女が自分と威紅也の狭間で激しく揺れ動き、結果的に弟への想いを捨てきれずそれを貫こうとした自己防衛の念にあると見る玄矢は、その結果として出現した極術身装=火魅華とのファーストコンタクトだけはたとえいかなる事態が突発しようとあくまでも生身のままで完遂する覺悟なのであった。
──先程も宣言したとおり、自分が敵ではなく、あくまでも生涯を添い遂げる伴侶であることを証明するために…!
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