ボクらは魔界闘暴者!

幾橋テツミ

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第一章 妖術鬼の愛娘

【覇闘】の掟④

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 十畳ほどの広さのある漆黒の部屋の空気を、若い男の荒い息遣いが震わせていた。

 灯りは空間の中央に設えられた無数の薔薇が刻まれた豪奢な黒塗りの木製のダブルベッドの傍らに置かれた、これも黒いサイドテーブル上の円筒形のランプのみである。 

 光沢のあるシーツまでが黒という徹底ぶりであり、そこに横たわっているのは全裸の美しい若者であった。

 その整いすぎるほど整った容貌は彼がまさに少年と青年の狭間に立っていることを示しているが、瞳を閉じつつ白い喉仏をのけ反らせ、紅い唇を半開きにして喘ぐ悩まし気な表情は美女と見紛うものであった…。

 …あに図らんや、部屋そのものの異様さに符節を合わせたかのように、寝台上にもそれに劣らぬ痴態が展開されていたのである!

 まず、モデル並みのプロポーションを誇る白い肉体はあろうことか十字状に固定されていた…水平に伸べ広げられた両腕の手首部分に金色の環を嵌められ、そして両足首はこれも金色の長い細帯に縛められて。

 そして金環から延びた細帯は寝台の裏側で足首を固く巻いた後に左右に延びたそれと結び合わされ、完全に彼の自由を奪っていたが、その若い男根は硬度の限界まで勃起し、献身的な奉仕を求めて細かく震えている…。 

 そしてその蒼い激情に、妖しく注がれる濡れた眼差しがあった。  

「…威紅也いくやさま、素敵です…!」

 可憐さと気品が絶妙に交配された、少女とも成熟した女とも聴き取れるあでやかな美声…そして彼女も当然の如く全裸であった。

 年の頃は二十歳前後であろうが、その肢体は同年代と比較しては小柄に属するようであった…身長はおよそ155cm前後であろうか。

 華奢ともいえるスレンダーな体型により、年齢よりも幼く見られることは確実であろうが、その美貌は目を見張るものがあった。

 前髪を切り揃えられた肩口まで達する癖のないつややかな黒髪と相俟って、薄闇に浮き上がるその姿は、あたかも最高の匠の手になる日本人形が神の…否、魔神の息吹によって動き始めたかのようである。

 そしてその白い両手は若者の両腿を愛おしげに撫でさすり、じわじわと股間へと這い上がると誇らしく屹立する性器周辺で焦らすようにゆっくりと円を描き、結局触れることはなく真上の臍を目指し、到達した右手の人差し指が嫐るようにをくすぐるのだった…。

「ああ、氷美花ひみか…!

 もういいだろう…早くその愛らしい口で…、
 
 …!」

 光城威紅也の懇願に、会心の笑みを浮かべた妖美の少女?はきっぱりと首を振った。

「…いいえ、だめですわ。

 うたげはたった今始まったばかりだというのに、一体何をおっしゃるのです?

 それに、私がどれほど今日この時を心待ちにしていたか、あなたは御理解されていないようですわね…。

 もちろん、私が最終的に求めているのはあなた様の御生命…それを最後の一滴に至るまで味わい、啜り尽くすこと…それは否定しませんわ。

 …何より、〈父〉がそれを私に許し給うたのですから…!

 でも、それには過程プロセスがあります。

 まずは私の愛念と技倆の限りを尽くして威紅也さまを前人未到の究極の法悦境エクスタシーに導き、悶え狂わせ…その絶頂オルガズムの痙攣を美しい音楽のように堪能しながらその尊い心臓に刃を、かぐわしい喉元に牙を突き立ててあなたの愛の全てを永遠に我が物にすること…!

 それがこの沙佐良しゃざら氷美花の悲願なんですもの…!!」

「…だが、私には光城一族としての使命がある…、

 いかに弱ろうとも、〈覇闘〉を放棄するわけにはいかないのだ…。

 例え待ち受けているのが惨めな敗北であったとしても…!」

「何て無意味な…!

 大体、あんなは、お強いお兄様と勇猛な妖仙獣に任せておけばよいのですわ…!

 美しく聡明なあなたには、もっと大切な天命を我が父から託されているはず…即ち、

 “愛娘=氷美花を必ず幸せにする”

 という…!!

 ねえ威紅也さま、そうではありませんか…!?」

 内容こそ高圧的であるものの、その口調は哀願以外の何物でもない氷美花の言葉に、威紅也は瞑目したまま返答する。

「…たしかに【魂師ソウルマスター】からはそう命じられており、既に運命として受け容れ、私の全てを君に与える覚悟も固めているつもりだ…。

 しかし氷美花よ、私は決して覇闘を免除されてはいないのだ…。

 …尤も半ば冥界の住人である私は既に単独で敵の前に立つことは不可能であり、明日も恥を忍んで呀門の力を借りねばならんのだが…。

 もとより敵味方を見渡しても間違いなく最強の存在である兄・玄矢の勝利は揺るがぬところだが、屈辱的な〈BBバインドブラッド〉を申し入れたことでみすみす二枚もの〔覇闘札カード〕を敵に献上することとなってしまった…!

 だから最初から勝利を奪われた私としては万難を排し、たとえ最悪でも相討ちに持ち込む必要があるのだ…」

「…威紅也さま、お願いですから覇闘などというつまらない事象にお心を患わせなさらないで…!

 どうか、私だけ…この氷美花のことだけを見つめて下さいまし…。

 でも…でも、

 …だから、父から受け継いだ術を…、

 もちろん現在いまの私が使いこなせるのはほんの僅かなものですけれど…、

 その全てを傾けてあなたをに導き、明日の戦いから解放して差し上げますッ!!」





 


 





 

 

 

 

 
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