5 / 60
第一章 妖術鬼の愛娘
【覇闘】の掟④
しおりを挟む
十畳ほどの広さのある漆黒の部屋の空気を、若い男の荒い息遣いが震わせていた。
灯りは空間の中央に設えられた無数の薔薇が刻まれた豪奢な黒塗りの木製のダブルベッドの傍らに置かれた、これも黒いサイドテーブル上の円筒形のランプのみである。
光沢のあるシーツまでが黒という徹底ぶりであり、そこに横たわっているのは全裸の美しい若者であった。
その整いすぎるほど整った容貌は彼がまさに少年と青年の狭間に立っていることを示しているが、瞳を閉じつつ白い喉仏をのけ反らせ、紅い唇を半開きにして喘ぐ悩まし気な表情は美女と見紛うものであった…。
…豈図らんや、部屋そのものの異様さに符節を合わせたかのように、寝台上にもそれに劣らぬ痴態が展開されていたのである!
まず、モデル並みのプロポーションを誇る白い肉体はあろうことか十字状に固定されていた…水平に伸べ広げられた両腕の手首部分に金色の環を嵌められ、そして両足首はこれも金色の長い細帯に縛められて。
そして金環から延びた細帯は寝台の裏側で足首を固く巻いた後に左右に延びたそれと結び合わされ、完全に彼の自由を奪っていたが、その若い男根は硬度の限界まで勃起し、献身的な奉仕を求めて細かく震えている…。
そしてその蒼い激情に、妖しく注がれる濡れた眼差しがあった。
「…威紅也さま、素敵です…!」
可憐さと気品が絶妙に交配された、少女とも成熟した女とも聴き取れる艶やかな美声…そして彼女も当然の如く全裸であった。
年の頃は二十歳前後であろうが、その肢体は同年代と比較しては小柄に属するようであった…身長はおよそ155cm前後であろうか。
華奢ともいえるスレンダーな体型により、年齢よりも幼く見られることは確実であろうが、その美貌は目を見張るものがあった。
前髪を切り揃えられた肩口まで達する癖のない艷やかな黒髪と相俟って、薄闇に浮き上がるその姿は、あたかも最高の匠の手になる日本人形が神の…否、魔神の息吹によって動き始めたかのようである。
そしてその白い両手は若者の両腿を愛おしげに撫で擦り、じわじわと股間へと這い上がると誇らしく屹立する性器周辺で焦らすようにゆっくりと円を描き、結局触れることはなく真上の臍を目指し、到達した右手の人差し指が嫐るようにそこをくすぐるのだった…。
「ああ、氷美花…!
もういいだろう…早くその愛らしい口で…、
いつものように…私を食べておくれ…!」
光城威紅也の懇願に、会心の笑みを浮かべた妖美の少女?はきっぱりと首を振った。
「…いいえ、まだだめですわ。
宴はたった今始まったばかりだというのに、一体何をおっしゃるのです?
それに、私がどれほど今日この時を心待ちにしていたか、あなたは御理解されていないようですわね…。
もちろん、私が最終的に求めているのはあなた様の御生命…それを最後の一滴に至るまで味わい、啜り尽くすこと…それは否定しませんわ。
…何より、〈父〉がそれを私に許し給うたのですから…!
でも、それには過程があります。
まずは私の愛念と技倆の限りを尽くして威紅也さまを前人未到の究極の法悦境に導き、悶え狂わせ…その絶頂の痙攣を美しい音楽のように堪能しながらその尊い心臓に刃を、香しい喉元に牙を突き立ててあなたの愛の全てを永遠に我が物にすること…!
それがこの沙佐良氷美花の悲願なんですもの…!!」
「…だが、私には光城一族としての使命がある…、
いかに弱ろうとも、〈覇闘〉を放棄するわけにはいかないのだ…。
例え待ち受けているのが惨めな敗北であったとしても…!」
「何て無意味な…!
大体、あんな血生臭い野蛮な俗習は、お強いお兄様と勇猛な妖仙獣に任せておけばよいのですわ…!
美しく聡明なあなたには、もっと大切な天命を我が父から託されているはず…即ち、
“愛娘=氷美花を必ず幸せにする”
という…!!
ねえ威紅也さま、そうではありませんか…!?」
内容こそ高圧的であるものの、その口調は哀願以外の何物でもない氷美花の言葉に、威紅也は瞑目したまま返答する。
「…たしかに【魂師】からはそう命じられており、既に運命として受け容れ、私の全てを君に与える覚悟も固めているつもりだ…。
しかし氷美花よ、私は決して覇闘を免除されてはいないのだ…。
…尤も半ば冥界の住人である私は既に単独で敵の前に立つことは不可能であり、明日も恥を忍んで呀門の力を借りねばならんのだが…。
もとより敵味方を見渡しても間違いなく最強の存在である兄・玄矢の勝利は揺るがぬところだが、屈辱的な〈BB〉を申し入れたことでみすみす二枚もの〔覇闘札〕を敵に献上することとなってしまった…!
だから最初から勝利を奪われた私としては万難を排し、たとえ最悪でも相討ちに持ち込む必要があるのだ…」
「…威紅也さま、お願いですから覇闘などというつまらない事象にお心を患わせなさらないで…!
どうか、私だけ…この氷美花のことだけを見つめて下さいまし…。
でも…でも、どうしても今夜だけで終わらせたくない!
…だから、父から受け継いだ術を…、
もちろん現在の私が使いこなせるのはほんの僅かなものですけれど…、
その全てを傾けてあなたを仮死に導き、明日の戦いから解放して差し上げますッ!!」
灯りは空間の中央に設えられた無数の薔薇が刻まれた豪奢な黒塗りの木製のダブルベッドの傍らに置かれた、これも黒いサイドテーブル上の円筒形のランプのみである。
光沢のあるシーツまでが黒という徹底ぶりであり、そこに横たわっているのは全裸の美しい若者であった。
その整いすぎるほど整った容貌は彼がまさに少年と青年の狭間に立っていることを示しているが、瞳を閉じつつ白い喉仏をのけ反らせ、紅い唇を半開きにして喘ぐ悩まし気な表情は美女と見紛うものであった…。
…豈図らんや、部屋そのものの異様さに符節を合わせたかのように、寝台上にもそれに劣らぬ痴態が展開されていたのである!
まず、モデル並みのプロポーションを誇る白い肉体はあろうことか十字状に固定されていた…水平に伸べ広げられた両腕の手首部分に金色の環を嵌められ、そして両足首はこれも金色の長い細帯に縛められて。
そして金環から延びた細帯は寝台の裏側で足首を固く巻いた後に左右に延びたそれと結び合わされ、完全に彼の自由を奪っていたが、その若い男根は硬度の限界まで勃起し、献身的な奉仕を求めて細かく震えている…。
そしてその蒼い激情に、妖しく注がれる濡れた眼差しがあった。
「…威紅也さま、素敵です…!」
可憐さと気品が絶妙に交配された、少女とも成熟した女とも聴き取れる艶やかな美声…そして彼女も当然の如く全裸であった。
年の頃は二十歳前後であろうが、その肢体は同年代と比較しては小柄に属するようであった…身長はおよそ155cm前後であろうか。
華奢ともいえるスレンダーな体型により、年齢よりも幼く見られることは確実であろうが、その美貌は目を見張るものがあった。
前髪を切り揃えられた肩口まで達する癖のない艷やかな黒髪と相俟って、薄闇に浮き上がるその姿は、あたかも最高の匠の手になる日本人形が神の…否、魔神の息吹によって動き始めたかのようである。
そしてその白い両手は若者の両腿を愛おしげに撫で擦り、じわじわと股間へと這い上がると誇らしく屹立する性器周辺で焦らすようにゆっくりと円を描き、結局触れることはなく真上の臍を目指し、到達した右手の人差し指が嫐るようにそこをくすぐるのだった…。
「ああ、氷美花…!
もういいだろう…早くその愛らしい口で…、
いつものように…私を食べておくれ…!」
光城威紅也の懇願に、会心の笑みを浮かべた妖美の少女?はきっぱりと首を振った。
「…いいえ、まだだめですわ。
宴はたった今始まったばかりだというのに、一体何をおっしゃるのです?
それに、私がどれほど今日この時を心待ちにしていたか、あなたは御理解されていないようですわね…。
もちろん、私が最終的に求めているのはあなた様の御生命…それを最後の一滴に至るまで味わい、啜り尽くすこと…それは否定しませんわ。
…何より、〈父〉がそれを私に許し給うたのですから…!
でも、それには過程があります。
まずは私の愛念と技倆の限りを尽くして威紅也さまを前人未到の究極の法悦境に導き、悶え狂わせ…その絶頂の痙攣を美しい音楽のように堪能しながらその尊い心臓に刃を、香しい喉元に牙を突き立ててあなたの愛の全てを永遠に我が物にすること…!
それがこの沙佐良氷美花の悲願なんですもの…!!」
「…だが、私には光城一族としての使命がある…、
いかに弱ろうとも、〈覇闘〉を放棄するわけにはいかないのだ…。
例え待ち受けているのが惨めな敗北であったとしても…!」
「何て無意味な…!
大体、あんな血生臭い野蛮な俗習は、お強いお兄様と勇猛な妖仙獣に任せておけばよいのですわ…!
美しく聡明なあなたには、もっと大切な天命を我が父から託されているはず…即ち、
“愛娘=氷美花を必ず幸せにする”
という…!!
ねえ威紅也さま、そうではありませんか…!?」
内容こそ高圧的であるものの、その口調は哀願以外の何物でもない氷美花の言葉に、威紅也は瞑目したまま返答する。
「…たしかに【魂師】からはそう命じられており、既に運命として受け容れ、私の全てを君に与える覚悟も固めているつもりだ…。
しかし氷美花よ、私は決して覇闘を免除されてはいないのだ…。
…尤も半ば冥界の住人である私は既に単独で敵の前に立つことは不可能であり、明日も恥を忍んで呀門の力を借りねばならんのだが…。
もとより敵味方を見渡しても間違いなく最強の存在である兄・玄矢の勝利は揺るがぬところだが、屈辱的な〈BB〉を申し入れたことでみすみす二枚もの〔覇闘札〕を敵に献上することとなってしまった…!
だから最初から勝利を奪われた私としては万難を排し、たとえ最悪でも相討ちに持ち込む必要があるのだ…」
「…威紅也さま、お願いですから覇闘などというつまらない事象にお心を患わせなさらないで…!
どうか、私だけ…この氷美花のことだけを見つめて下さいまし…。
でも…でも、どうしても今夜だけで終わらせたくない!
…だから、父から受け継いだ術を…、
もちろん現在の私が使いこなせるのはほんの僅かなものですけれど…、
その全てを傾けてあなたを仮死に導き、明日の戦いから解放して差し上げますッ!!」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

クラス転移したところで
緑窓六角祭
ファンタジー
普通の男子高校生である篠崎陽平はどうやらクラスごと異世界に転移したらしいのだが、よくわからないので、友人の栗木と佐原と3人で手探りで地味にやってくことにした。
※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません
※カクヨム・アルファポリス重複投稿
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる