THUNDER⚡️ANGELS

幾橋テツミ

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第二章 凶祭華同盟の虜囚

恋人は淫獣人第3号!?〈中編〉

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 初来店の美青年が“会心作”に熱視線を送るのをレジ奥から凝視していた鬼舞嵐太郎は瞬時に彼を【凶祭華同盟幹部候補リスト】に加えた。

『コイツはモノが違う──これほどの逸材が我が計画に加われば採り得る選択肢も一気に広がるわ…。

 やはり愚衆を籠絡するための〈小道具〉には常に心血を注がねばならんということだが、何よりもこやつを魅了したのはということ以外にありえぬであろう──いや全く、こちらにとっても幸運な偶然であったが…』

 意を決して優彦を手招きした淫魔教帝は、身を乗り出してその耳元でこう囁いた。

「──随分この画がお気に召したようですね?

 でも、あんな騒がしいと一緒じゃじっくり鑑賞もできんでしょう…もし明日にでもお一人でお越し下されば、他の作品を含めてご覧に入れたいんですがね…」

「それは、ぜひ…!

 ──明日の夕方…そうですね、6時頃にお伺いします。

 あのう…それで一つお尋ねしたいんですけど、…?」

 まさに予想通りの反応に破顔した鬼舞画伯は薄気味悪いウインクと共に「そこらの所は明日ゆっくりお話しましょう…」と答えたのだった。

         *

 翌日、からの黒いリュックを背負って時間より15分も早く現れた〈賓客〉は小さな応接間に連れ込まれ、そこに用意された品々に目を見張った。

 金枠の額縁に収められ、テーブル上に並べられた画はお目当てを含めて四枚──しかもその全てが優彦の官能中枢を芯から痺れさせ、一瞥した瞬間から根こそぎ刈り取る決意を固めたのであるが、いかにも申し訳なさそうな店主の言葉は想定外な内容であった。

 何と、であるためどうしてもお売りすることはできないが、あなたのようなこの国の未来を担う前途有為の若者のお目に止まったことは大変に光栄である、…というのである。

 つまり、彼は四ヶ月を1サイクルとしてこの傑作群を仮保有できるというのだ。

 この不可解な申し出に困惑した優彦が妥協案として有料での撮影許可を求めたところ、これまた表面上は慇懃に、されどすげなく却下されてしまったのであった…。

 ──実に煩悶すること三十余分…しかし結局はこの性戯秘画エロティック・アートが発散する“魔性の魅惑”に抗しかねた国立大生は奇妙な申し出を受け容れたのである…。

 もちろん、優彦の当初のもくろみとしては画を借り受ける毎に克明に撮影し、四ヶ月でこの忌まわしいポルノショップと手を切る算段であったのだが、敵もさるもの、当然それを予期していたらしく決してそれを行わない旨を記載した〈誓約書〉に署名を求められたのには呆れるのを通り越して内心それをせせら笑ったものだった。

『──このおっさん、アホか?

 そもそもオレが家で撮影したかどうか分かるはずねえだろうが…。

 別に差別じゃねえけど、こーゆう商売やってる…いやヤツってやっぱIQひきいわ…』

 しかし、それが誤りであったことはその夜のうちに明らかとなってしまったのだ──とりあえず秘蔵用としてデジカメ、携帯用にスマホで撮影はしてみたものの、〈真物ホンモノ〉とのインパクトの差は歴然であったのである──!

「ちきしょうめ…マジで面倒くせえけど、やっぱこりゃわ…。

 コイツを壁にブラ下げてオナったら、それこそサルみてえに無限にコキ続けられそうだ…。

 ま、しゃーねえ…ちょっと手間だがオナホ買いついでにあのハゲの店に通ったるか…」

 一方、鬼舞の思惑としてはこの美青年をすぐに“淫獣人化”することに一方ならぬためらいがあったのである。

『いかに余が注力したとて、負極界とは勝手の違う異星にてこれだけの素材はちょっとやそっとじゃ入手困難──従って、とりあえずで【妖魔女の愛液】の効力を試し撃ちしてからこやつに投与するとしよう…!』

 ──かくのごとき“非情なるコンセプト”の下、第1号(高原孝次)及び第2号(片尾茂一郎)が無事?完成するに至ってようやく絶対の自信を得た淫魔教帝は、いよいよ〈本命〉ともいうべき第3号の誕生に向けて動き出したのである!

         *

 火曜日の午後6時前──、他人の目がどうしても気になる神野優彦はいつものように目深に被ったキャップとサングラスに黒マスク、更に〈開かずの扉〉対策として百均で調達した白手袋まで装着した“不審者スタイル”で店内に侵入してきた。

「おお、いらっしゃい!

 実はねえ神野くん、今日は凄いニュースがあるんだよ!

 キミをあれほどまでに魅了したあの──美術史の闇に埋もれていた彼の〈新作〉が奇跡的に発見されたんだッ!!」

 自分と分かった瞬間、いつも嫉妬混じり(と優彦は確信していた)の尖った視線を突き刺してくる貝沼とかいう店員は珍しく不在らしく鬼舞店主自ら迎えてくれたのはよかったが、長い馬面を茹でダコのごとく紅潮させつつ叫んでくるという異様なテンションに思わず気圧された神野青年は空気を読める優等生の悲しい性か、「ええッ、ホントですか!?」と反射的に調子を合わせてしまうのであった…。

「そうだともッ、まさにこれはひょっとしたら世界のアートシーンが根底からひっくり返るほどの歴史的大発見だよッ!

 実はこの大傑作はヨーロッパの研究機関のたっての希望で明日には日本を発つことになっているんだが、天才画家と奇縁を持つ私に未亡人が特別に“一晩の所有”を認めてくれたんだ──まさに驚愕の、あの【神フォー】をも遥かに凌駕する逸品だぞッ!

 しかもだな、常日頃から私は天才画家の熱烈な信奉者であるキミの存在を彼女に伝えておったんたが、その甲斐あってか今回に限り撮影も許可されたんだッ!

 さあそうなると一分一秒が惜しいッ!

 早くそのをめくって中へ入りたまえッ、私としても画を置いてある自室を無人にしておくのがたまらなく不安なのだッ!!」

「は、はいッ」

 一瞬、店を無人にするのは平気なのかとの疑問が脳裏を疾るが、主は長年の経験でという確信があるのだろうと思い直す。

『完全に謎だ…?』

 靴を脱ぎ、1坪ほどの土間を上がって小さな台所を抜け、シロアリに食い荒らされて波打つ板の廊下を3メートルほど進むと和風の引き戸がある──どうやらその向こうが鬼舞の私室らしい。

「さあ、リュックを下ろして早く入りたまえ──むさ苦しい所で恐縮たが、店のカウンターじゃ怖くてあの芸術品を出せないんでね…」

「──はあ、失礼します…」

 も、図らずもこの化け物屋敷に足を踏み入れたこと自体を悔いて“店から出たら、勿体ねえけどすぐに靴下捨てんとな…”などと心中で呟きながら、とりあえずを収めたリュックを背後に立つ禿頭の部屋の主に預けた優彦が無灯の部屋に入ったまさにその瞬間、暗闇の底に潜んでいた軍獣ストリキンが放った長い尻尾が雷の聖使の恋人の鍛えられた頸部に巻き付いたのであった──!







 
 
   






 

 
 

 

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