20 / 61
第二章 凶祭華同盟の虜囚
恋人は淫獣人第3号!?〈前編〉
しおりを挟む
月曜日の夜も更けた10時半頃、神野優彦の胸中は未だ味わったことのない、形容し難き焦燥感に灼かれていた。
何と、“最愛の恋人”越水ルリアと丸二日に渡って連絡が取れないのである。
夫婦揃って個人投資家である彼女の両親は現在シンガポール在住で、本人は岡◯駅前の高級マンションに独り暮らしの身であるためこの失踪?が直ちに騒動に発展するわけでもなかったが、恋人用と友人用に二つのSNSアプリを使い分けているルリアが(少なくとも自分に向けては)何のメッセージも寄越しておらぬ以上、同様の状態のはずの女友達は既に騒ぎ出しているのかも知れなかった…。
「──ルリア、一体どうしちまったんだよ…!?」
思えば、彼女も楽しみにしていたはずの恋愛映画を軸にした土曜のデートをどうしても言えない個人的急用を理由にすっぽかされたことがそもそも普通ではなかったが、いつになく真剣な表情を前にしては渋々引き下がるしかなく、暗黒の週末はヤケクソで喉が涸れるまで一人カラオケで熱唱し、昨日はルリアとの邂逅の舞台でもあった叔父経営のテニスクラブで狂ったようにラケットを振るったのであったが、当然ながら二つのスポットはデートコースに組み込まれていたのである…。
身内が皆プレイヤーであったこともあって物心ついた時にはコートに立たされていた優彦は全日本ジュニアの14歳以下シングルスで県3位に入賞したほどの実力者であり、将来を嘱望された時期もあったが当の本人は身心を擦り減らすこのハードな競技をあくまでも趣味の一つとしか捉えていなかった。
尤も、長身イケメンで国立大に現役合格を果たした“日の当たる存在”である彼に更なる魅力を加えるために大いに役立つアイテムであることは否定すべくもなかったが…。
そして叔父に請われて高校時代から不定期のバイトとしてアシスタントコーチを務めていたのだが、自然な成り行きとしてアイドル的存在である彼を誘惑せんとする奥様方は引きも切らず、ライバル同士が深刻なトラブル沙汰を巻き起こすことも頻々であったのだが経営者から厳しく釘を差されている上にそもそもBBAに完全無関心の彼は一度も応じたことはなかった。
──しかし今年の春、ついにその“謹厳実直な偽りの仮面”をかなぐり捨てる時が来たのである。
新規会員(平均として女性客が7割)の初回レッスンには必ずお呼びがかかる優彦は海千山千の既婚者をあてがわれることが通例であったが、同日入会の艷やかな長い黒髪を黒リボンで束ねた、172センチ・57キロの完璧なプロポーションと彫りの深い美貌の主である女子短大生に生涯初の一目惚れを経験させられてしまったのだ!
1つ向こうのコートで容貌のみならずテニスの腕前も端倪すべからざるものを披露するルリアに気もそぞろの神野コーチはその日の内に“何があっても、絶対にこの娘だけは落とす”と固く心に誓い、それからは彼女のレッスン日には欠かさず出勤して半月後には早くも告白、偶然にも彼女もシングルであり、幸運にもタイプであるとのお言葉を賜って天にも昇る歓喜に震えたのであった。
されど敏感に若き美男美女のニューカップル誕生を感知した女性会員たちが彼らを祝福するはずもなく、優彦はコーチを引退してルリアもクラブにめっきり顔を出す機会が減ったのである…。
そして交際2ヶ月後にあたる6月のルリアの〈誕生日デート〉でめでたくファーストキスを達成し、先月末の自身のバースデーでは不遜にもルリア自らがプレゼントとなってくれるのではと密かに期待していたのだが、“これでもっともっと鍛えてず~っと私を守って♡”とのメッセージカードを添えて贈られたのはたしかに前から欲しかったクロームメッキのダンベルセットであった…。
「──まあ、どんなに遅くてもクリスマスにゃあ決着つけんとな…。
あー、それにしても心配じゃあるし、でもそれがミョ~な刺激になって逆にモヤモヤするし…こんな時にゃあアレしかねえな…ウン」
ゲーミングチェアから躰をズラせて勉強机の一番下の引き出しを開けた優彦はA4サイズほどの金枠の額縁を取り出す。
「──あんな素敵な彼女ができた以上、この画からもそろそろ卒業しないとな…だがそれが難しいんだよな…。
あっ、そういや、明日返却日だっけ…!?」
この“運命の逸品”を得たのは昨年の暮れであったが、今にして思えばあの一夜こそは22年の人生で最も無益な時間であったと断言できる──されど呆れたことに未だあの廃墟めいたポルノショップとの繋がりを断てていない事実は完全に自らの落ち度として弁解の余地は無かったのである…。
「──あんな所に入り浸ってることがルリアにバレたら1000%フラれちまう…マジでエラいことになる前にさっさと縁を切らにゃあな…」
大学のテニスサークルの忘年会幹事SがN瀬の人間とあって“この店、ホンマに美味えんじゃ、ワイが選ぶとしたらここしかねえ”と地元の焼肉屋が選ばれたのだが、散会となった後、彼は三名の特に親しい男子部員だけを余興として行きつけのいたる堂へ誘ったのだ(物好きな女子部員数人が酒の勢いもあって同行したがったが、“女子供の来るトコじゃねえ”と堅物部員たちに命じて駅に直行させた)。
──冷やかし目的でいきなり乱入してきた若い酔客どもに閉店モードの店主は露骨に嫌な表情を向けてきたが、常連のSが引率者であることで渋々20分の延長を認めてくれたのであった──そして他の三人が父親世代がお世話になった昭和のVHSエロビデオなどを手に大はしゃぎしている場面から冷ややかに距離を措いたばっかりに、神野優彦はあの画を発見してしまったのだ──。
尤も何か珍品を見つけようと視線を巡らせていたわけではなく偶然レジ横のカウンターに無造作に投げ出されてあっただけなのだが、それを一瞥した瞬間、そこから目を離すことができなくなってしまったのである!
そしてそれこそは、あれほど心待ちにしながら結局それを手にすることなく世を去った某大学教授ご執心の主題──“緑深い森の奥での仁王立ちフェラ・右斜め正面アングル”なのであった!
何と、“最愛の恋人”越水ルリアと丸二日に渡って連絡が取れないのである。
夫婦揃って個人投資家である彼女の両親は現在シンガポール在住で、本人は岡◯駅前の高級マンションに独り暮らしの身であるためこの失踪?が直ちに騒動に発展するわけでもなかったが、恋人用と友人用に二つのSNSアプリを使い分けているルリアが(少なくとも自分に向けては)何のメッセージも寄越しておらぬ以上、同様の状態のはずの女友達は既に騒ぎ出しているのかも知れなかった…。
「──ルリア、一体どうしちまったんだよ…!?」
思えば、彼女も楽しみにしていたはずの恋愛映画を軸にした土曜のデートをどうしても言えない個人的急用を理由にすっぽかされたことがそもそも普通ではなかったが、いつになく真剣な表情を前にしては渋々引き下がるしかなく、暗黒の週末はヤケクソで喉が涸れるまで一人カラオケで熱唱し、昨日はルリアとの邂逅の舞台でもあった叔父経営のテニスクラブで狂ったようにラケットを振るったのであったが、当然ながら二つのスポットはデートコースに組み込まれていたのである…。
身内が皆プレイヤーであったこともあって物心ついた時にはコートに立たされていた優彦は全日本ジュニアの14歳以下シングルスで県3位に入賞したほどの実力者であり、将来を嘱望された時期もあったが当の本人は身心を擦り減らすこのハードな競技をあくまでも趣味の一つとしか捉えていなかった。
尤も、長身イケメンで国立大に現役合格を果たした“日の当たる存在”である彼に更なる魅力を加えるために大いに役立つアイテムであることは否定すべくもなかったが…。
そして叔父に請われて高校時代から不定期のバイトとしてアシスタントコーチを務めていたのだが、自然な成り行きとしてアイドル的存在である彼を誘惑せんとする奥様方は引きも切らず、ライバル同士が深刻なトラブル沙汰を巻き起こすことも頻々であったのだが経営者から厳しく釘を差されている上にそもそもBBAに完全無関心の彼は一度も応じたことはなかった。
──しかし今年の春、ついにその“謹厳実直な偽りの仮面”をかなぐり捨てる時が来たのである。
新規会員(平均として女性客が7割)の初回レッスンには必ずお呼びがかかる優彦は海千山千の既婚者をあてがわれることが通例であったが、同日入会の艷やかな長い黒髪を黒リボンで束ねた、172センチ・57キロの完璧なプロポーションと彫りの深い美貌の主である女子短大生に生涯初の一目惚れを経験させられてしまったのだ!
1つ向こうのコートで容貌のみならずテニスの腕前も端倪すべからざるものを披露するルリアに気もそぞろの神野コーチはその日の内に“何があっても、絶対にこの娘だけは落とす”と固く心に誓い、それからは彼女のレッスン日には欠かさず出勤して半月後には早くも告白、偶然にも彼女もシングルであり、幸運にもタイプであるとのお言葉を賜って天にも昇る歓喜に震えたのであった。
されど敏感に若き美男美女のニューカップル誕生を感知した女性会員たちが彼らを祝福するはずもなく、優彦はコーチを引退してルリアもクラブにめっきり顔を出す機会が減ったのである…。
そして交際2ヶ月後にあたる6月のルリアの〈誕生日デート〉でめでたくファーストキスを達成し、先月末の自身のバースデーでは不遜にもルリア自らがプレゼントとなってくれるのではと密かに期待していたのだが、“これでもっともっと鍛えてず~っと私を守って♡”とのメッセージカードを添えて贈られたのはたしかに前から欲しかったクロームメッキのダンベルセットであった…。
「──まあ、どんなに遅くてもクリスマスにゃあ決着つけんとな…。
あー、それにしても心配じゃあるし、でもそれがミョ~な刺激になって逆にモヤモヤするし…こんな時にゃあアレしかねえな…ウン」
ゲーミングチェアから躰をズラせて勉強机の一番下の引き出しを開けた優彦はA4サイズほどの金枠の額縁を取り出す。
「──あんな素敵な彼女ができた以上、この画からもそろそろ卒業しないとな…だがそれが難しいんだよな…。
あっ、そういや、明日返却日だっけ…!?」
この“運命の逸品”を得たのは昨年の暮れであったが、今にして思えばあの一夜こそは22年の人生で最も無益な時間であったと断言できる──されど呆れたことに未だあの廃墟めいたポルノショップとの繋がりを断てていない事実は完全に自らの落ち度として弁解の余地は無かったのである…。
「──あんな所に入り浸ってることがルリアにバレたら1000%フラれちまう…マジでエラいことになる前にさっさと縁を切らにゃあな…」
大学のテニスサークルの忘年会幹事SがN瀬の人間とあって“この店、ホンマに美味えんじゃ、ワイが選ぶとしたらここしかねえ”と地元の焼肉屋が選ばれたのだが、散会となった後、彼は三名の特に親しい男子部員だけを余興として行きつけのいたる堂へ誘ったのだ(物好きな女子部員数人が酒の勢いもあって同行したがったが、“女子供の来るトコじゃねえ”と堅物部員たちに命じて駅に直行させた)。
──冷やかし目的でいきなり乱入してきた若い酔客どもに閉店モードの店主は露骨に嫌な表情を向けてきたが、常連のSが引率者であることで渋々20分の延長を認めてくれたのであった──そして他の三人が父親世代がお世話になった昭和のVHSエロビデオなどを手に大はしゃぎしている場面から冷ややかに距離を措いたばっかりに、神野優彦はあの画を発見してしまったのだ──。
尤も何か珍品を見つけようと視線を巡らせていたわけではなく偶然レジ横のカウンターに無造作に投げ出されてあっただけなのだが、それを一瞥した瞬間、そこから目を離すことができなくなってしまったのである!
そしてそれこそは、あれほど心待ちにしながら結局それを手にすることなく世を去った某大学教授ご執心の主題──“緑深い森の奥での仁王立ちフェラ・右斜め正面アングル”なのであった!
2
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

恥ずかしい 変身ヒロインになりました、なぜならゼンタイを着ただけのようにしか見えないから!
ジャン・幸田
ファンタジー
ヒーローは、 憧れ かもしれない しかし実際になったのは恥ずかしい格好であった!
もしかすると 悪役にしか見えない?
私、越智美佳はゼットダンのメンバーに適性があるという理由で選ばれてしまった。でも、恰好といえばゼンタイ(全身タイツ)を着ているだけにしかみえないわ! 友人の長谷部恵に言わせると「ボディラインが露わだしいやらしいわ! それにゼンタイってボディスーツだけど下着よね。法律違反ではないの?」
そんなこと言われるから誰にも言えないわ! でも、街にいれば出動要請があれば変身しなくてはならないわ! 恥ずかしい!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる