THUNDER⚡️ANGELS

幾橋テツミ

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第二章 凶祭華同盟の虜囚

恋人は淫獣人第3号!?〈前編〉

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 月曜日の夜も更けた10時半頃、神野優彦の胸中は未だ味わったことのない、形容し難き焦燥感に灼かれていた。

 何と、“最愛の恋人”越水ルリアと丸二日に渡って連絡が取れないのである。

 夫婦揃って個人投資家である彼女の両親は現在シンガポール在住で、本人は岡◯駅前の高級マンションに独り暮らしの身であるためこの失踪?が直ちに騒動に発展するわけでもなかったが、恋人用と友人用に二つのSNSアプリを使い分けているルリアが(少なくとも自分に向けては)何のメッセージも寄越しておらぬ以上、同様の状態のはずの女友達は既に騒ぎ出しているのかも知れなかった…。

「──ルリア、一体どうしちまったんだよ…!?」

  思えば、彼女も楽しみにしていたはずの恋愛映画を軸にした土曜のデートをを理由にすっぽかされたことがそもそも普通ではなかったが、いつになく真剣な表情を前にしては渋々引き下がるしかなく、暗黒の週末はヤケクソで喉が涸れるまで一人カラオケで熱唱し、昨日はルリアとの邂逅の舞台でもあった叔父経営のテニスクラブで狂ったようにラケットを振るったのであったが、当然ながら二つのスポットはデートコースに組み込まれていたのである…。

 身内が皆プレイヤーであったこともあって物心ついた時にはコートに立たされていた優彦は全日本ジュニアの14歳以下シングルスで県3位に入賞したほどの実力者であり、将来を嘱望された時期もあったが当の本人は身心を擦り減らすこのハードな競技をあくまでも趣味の一つとしか捉えていなかった。

 尤も、長身イケメンで国立大に現役合格を果たした“日の当たる存在”である彼に更なる魅力を加えるために大いに役立つアイテムであることは否定すべくもなかったが…。

 そして叔父に請われて高校時代から不定期のバイトとしてアシスタントコーチを務めていたのだが、自然な成り行きとしてアイドル的存在である彼を誘惑せんとする奥様方は引きも切らず、ライバル同士が深刻なトラブル沙汰を巻き起こすことも頻々であったのだが経営者から厳しく釘を差されている上にそもそもBBAに完全無関心の彼は一度も応じたことはなかった。

 ──しかし今年の春、ついにその“謹厳実直な偽りの仮面”をかなぐり捨てる時が来たのである。

 新規会員(平均として女性客が7割)の初回レッスンには必ずお呼びがかかる優彦は海千山千の既婚者マダムをあてがわれることが通例であったが、同日入会の艷やかな長い黒髪を黒リボンで束ねた、172センチ・57キロの完璧なプロポーションと彫りの深い美貌の主である女子短大生に生涯初の一目惚れを経験させられてしまったのだ!

 1つ向こうのコートで容貌のみならずテニスの腕前も端倪すべからざるものを披露するルリアに気もそぞろの神野コーチはその日の内に“何があっても、絶対にこの娘だけは落とす”と固く心に誓い、それからは彼女のレッスン日には欠かさず出勤して半月後には早くも告白、偶然にも彼女もであり、幸運にもタイプであるとのお言葉を賜って天にも昇る歓喜に震えたのであった。

 されど敏感に若き美男美女のニューカップル誕生を感知した女性会員たちが彼らを祝福するはずもなく、優彦はコーチを引退してルリアもクラブにめっきり顔を出す機会が減ったのである…。

 そして交際2ヶ月後にあたる6月のルリアの〈誕生日デート〉でめでたくファーストキスを達成し、先月末の自身のバースデーでは不遜にもとなってくれるのではと密かに期待していたのだが、“これでもっともっと鍛えてず~っと私を守って♡”とのメッセージカードを添えて贈られたのはクロームメッキのダンベルセットであった…。

「──まあ、どんなに遅くてもクリスマスにゃあつけんとな…。

 あー、それにしても心配じゃあるし、でもそれがになって逆にモヤモヤするし…こんな時にゃあアレしかねえな…ウン」

 ゲーミングチェアから躰をズラせて勉強机の一番下の引き出しを開けた優彦はA4サイズほどの金枠の額縁を取り出す。

「──あんな素敵な彼女ができた以上、このからもそろそろ卒業しないとな…だがそれが難しいんだよな…。

 あっ、…!?」

 この“運命の逸品”をのは昨年の暮れであったが、今にして思えばあの一夜こそは22年の人生で最も無益な時間であったと断言できる──されど呆れたことに未だあの廃墟めいたポルノショップとの繋がりを断てていない事実は完全に自らの落ち度として弁解の余地は無かったのである…。

「──に入り浸ってることがルリアにバレたら1000%フラれちまう…マジでエラいことになる前にさっさと縁を切らにゃあな…」

 大学のテニスサークルの忘年会幹事SがN瀬の人間とあって“この店、ホンマに美味うめえんじゃ、ワイが選ぶとしたらここしかねえ”と地元の焼肉屋が選ばれたのだが、散会となった後、彼は三名の特に親しい男子部員だけを余興として行きつけのいたる堂へ誘ったのだ(物好きな女子部員数人が酒の勢いもあって同行したがったが、“女子供の来るトコじゃねえ”と堅物部員たちに命じて駅に直行させた)。

 ──冷やかし目的でいきなり乱入してきた若い酔客どもに閉店モードの店主は露骨に嫌な表情を向けてきたが、常連のSが引率者であることで渋々20分の延長を認めてくれたのであった──そして他の三人が父親世代がお世話になった昭和のVHSエロビデオなどを手に大はしゃぎしている場面から冷ややかに距離を措いたばっかりに、神野優彦はを発見してしまったのだ──。

 尤も何か珍品を見つけようと視線を巡らせていたわけではなく偶然レジ横のカウンターに無造作に投げ出されてあっただけなのだが、それを一瞥した瞬間、そこから目を離すことができなくなってしまったのである!

 そしてそれこそは、あれほど心待ちにしながら結局それを手にすることなく世を去った某大学教授ご執心の主題テーマ──“緑深い森の奥での仁王立ちフェラ・右斜め正面アングル”なのであった!

 











 





 


 
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