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第二章 凶祭華同盟の虜囚
恐怖の淫獣人第2号〈後編〉
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「──ストリキン、逃がすなッ!」
鬼舞嵐太郎画伯による〈エロティック・アート〉は料金後払いが原則のため、予約完了したからには長居は無用とばかりに踵を返して“開かずの扉”へ早足で向かう片尾茂一郎を捕獲すべく放たれた淫魔教帝の指令を受け、薄暗い土間の片隅に蹲っていた凶祭華同盟の軍獣が一瞬にしてカウンターに飛び乗った。
──キシャシャシャシャシャアッ!
全身に黒い斑模様を散らした灰色の地肌剥き出しの奇形メガネザルという外貌の小魔獣は、最大の武器である長い尾をシュルルルッと伸ばして根暗青年の猪首にグルグルと巻き付ける!
「……?!」
自身の身に何が起こったのかを全く把握できぬ茂一郎はギリギリと締め上げてくる“まだらの紐”を両手で握りしめてがっくりと膝を折る。
「ふふふ、喜ぶがいい──ほんの三日前、その尾っぽはキサマがその柔肌に永遠に指一本たりとも触れることの叶わぬあの娘の細首を締め付けたのであるぞ…!
よし、ストリキン──落とせ」
*
──およそ2時間後、いたる堂前のカツカツ4台まで停められる駐車場に見覚えのある黒いバンが荒々しく乗り入れてきた。
降りてきたのはやはり、前回登場時と同じく黒いTシャツと迷彩柄の作業ズボンを身に着け、ドクロの覆面の代わりに黒いキャップを被った素顔の高原孝次であったが、以前よりは明らかに眼光が鋭くなり、全身から立ち昇る殺気にも凄みが増している…。
かくて一般人をたじろがせるアナクロドアのノブを力強く回して入店した淫獣人第1号にカウンター上から鋭い眼光を送ってきたのは無二の相棒である貝沼に代わって店番を命じられたストリキンであった。
「──ババイヴ様、高原孝次、只今参上致しましたッ」
直立不動となって名乗りを上げた解体屋に、レジ奥から心持ち疲れたような嗄れ声で淫魔教帝が応じる。
「うむ、ご苦労──ハードな労働後に呼びつけて済まなかったが、“新たな同志”の誕生をどうしても君と祝いたくてな…悪いが、内部に入ってもらえるか?」
「──はっ、光栄であります…!」
指示に従ってレジ横の幅50センチほどの隙間を覆う、かつての人気女優が等身大でプリントされたピンク地の垂れ幕をめくって踏み込んだ孝次は、そこに海岸に打ち上げられたトドのように横たわるぶざまな肉塊を発見してくぐもった唸り声を上げる。
「──コイツが、第2号なのですか…!?」
この明らかに不満げな感想に、いつもの作務衣姿で木製の丸椅子に着座したババイヴは、腕組みしたまま珍しく相好を崩す。
「──ほほう、不服かね…?
ま、たしかに見てくれは最低だが、それであるからこそ此奴の体内にヘドロのように鬱積したマイナスエネルギーは他の追随を許さぬものがある…。
そしてそれこそが我が崇高なる計画の遂行にあたって必要不可欠の一要素なのだ──現段階ではまだ分からんだろうがな…」
だが(実戦未経験ながら)早くも軍団最強を自負する誇り高き第1号としては、こんなキモい白豚野郎と共闘することなど断固として拒否したい心境なのであった。
『…いっくらババイヴ様にもっともらしいこと言われたって、ワイはこんなヤツ仲間とは認めんでえ…断言してもええが、コイツただの一ぺんも腕立てようやらんじゃろ…。
そうじゃッ、コイツが目ェ覚ましたら、上下関係を骨の髄まで叩き込むためにもスパーリングやらしてもらおうかい…そうすりゃババイヴ様も見切りつけるじゃろ…』
土間に敷き詰めた店主愛読のスポーツ紙の上にシャツと同じ青い縦縞のデカパン一丁の姿で死んだようにノビている片尾茂一郎の土手っ腹を思いっ切り踏んづけたい誘惑を必死で堪える高原孝次の心中を知ってか知らずか、淫魔教帝は冷笑気味に語りかけるのであった。
「まあ、そうイキるな──いかなる宿世の縁か、まさに宇宙的な確率によって我が軍勢に加わった仲間…否、弟分ではないか?
それにオマエは片尾の戦闘力を甚だ低く見積もっておるようだが、こと〈忍耐力〉に関する限り、とうやら第2号に軍配が上がるようだぞ──これを見ろ」
淫魔教帝の足元(孝次の位置からは死角にあたる)から彼が掲げた忌まわしき物体=空となった4リットル入りの焼酎用ペットボトルを一瞥した瞬間、第1号は小さく呻いて視線を逸らせた。
「ふふふ、やはり直視できんか…。
だが聞くがよい、オマエがあれだけ零しまくった【妖魔女の愛液】をこやつはただの一滴も無駄にすることなくみごとに飲み干したのだぞ…。
尤も、《火能》を授けたキサマとは異なり片尾に与えたのは《水能》であるゆえ、淫獣人への変態に伴う苦痛も〈痒み〉と〈呼吸困難〉という違いはあるが──されど特筆すべきは、第2号は呻き声一つ漏らすことなく、しかも身じろぎ一つすることなくそれに耐え抜いたのだッ!
そしてその異様なまでの克己心の源こそは、この激苦を代償としてこれまで無力な自分が渇望しつつも得られなかった、恨み重なる冷酷な社会を見返すための超人的能力が与えられるに違いないという悲壮なまでの予感に他なるまいッッ!!」
鬼舞嵐太郎画伯による〈エロティック・アート〉は料金後払いが原則のため、予約完了したからには長居は無用とばかりに踵を返して“開かずの扉”へ早足で向かう片尾茂一郎を捕獲すべく放たれた淫魔教帝の指令を受け、薄暗い土間の片隅に蹲っていた凶祭華同盟の軍獣が一瞬にしてカウンターに飛び乗った。
──キシャシャシャシャシャアッ!
全身に黒い斑模様を散らした灰色の地肌剥き出しの奇形メガネザルという外貌の小魔獣は、最大の武器である長い尾をシュルルルッと伸ばして根暗青年の猪首にグルグルと巻き付ける!
「……?!」
自身の身に何が起こったのかを全く把握できぬ茂一郎はギリギリと締め上げてくる“まだらの紐”を両手で握りしめてがっくりと膝を折る。
「ふふふ、喜ぶがいい──ほんの三日前、その尾っぽはキサマがその柔肌に永遠に指一本たりとも触れることの叶わぬあの娘の細首を締め付けたのであるぞ…!
よし、ストリキン──落とせ」
*
──およそ2時間後、いたる堂前のカツカツ4台まで停められる駐車場に見覚えのある黒いバンが荒々しく乗り入れてきた。
降りてきたのはやはり、前回登場時と同じく黒いTシャツと迷彩柄の作業ズボンを身に着け、ドクロの覆面の代わりに黒いキャップを被った素顔の高原孝次であったが、以前よりは明らかに眼光が鋭くなり、全身から立ち昇る殺気にも凄みが増している…。
かくて一般人をたじろがせるアナクロドアのノブを力強く回して入店した淫獣人第1号にカウンター上から鋭い眼光を送ってきたのは無二の相棒である貝沼に代わって店番を命じられたストリキンであった。
「──ババイヴ様、高原孝次、只今参上致しましたッ」
直立不動となって名乗りを上げた解体屋に、レジ奥から心持ち疲れたような嗄れ声で淫魔教帝が応じる。
「うむ、ご苦労──ハードな労働後に呼びつけて済まなかったが、“新たな同志”の誕生をどうしても君と祝いたくてな…悪いが、内部に入ってもらえるか?」
「──はっ、光栄であります…!」
指示に従ってレジ横の幅50センチほどの隙間を覆う、かつての人気女優が等身大でプリントされたピンク地の垂れ幕をめくって踏み込んだ孝次は、そこに海岸に打ち上げられたトドのように横たわるぶざまな肉塊を発見してくぐもった唸り声を上げる。
「──コイツが、第2号なのですか…!?」
この明らかに不満げな感想に、いつもの作務衣姿で木製の丸椅子に着座したババイヴは、腕組みしたまま珍しく相好を崩す。
「──ほほう、不服かね…?
ま、たしかに見てくれは最低だが、それであるからこそ此奴の体内にヘドロのように鬱積したマイナスエネルギーは他の追随を許さぬものがある…。
そしてそれこそが我が崇高なる計画の遂行にあたって必要不可欠の一要素なのだ──現段階ではまだ分からんだろうがな…」
だが(実戦未経験ながら)早くも軍団最強を自負する誇り高き第1号としては、こんなキモい白豚野郎と共闘することなど断固として拒否したい心境なのであった。
『…いっくらババイヴ様にもっともらしいこと言われたって、ワイはこんなヤツ仲間とは認めんでえ…断言してもええが、コイツただの一ぺんも腕立てようやらんじゃろ…。
そうじゃッ、コイツが目ェ覚ましたら、上下関係を骨の髄まで叩き込むためにもスパーリングやらしてもらおうかい…そうすりゃババイヴ様も見切りつけるじゃろ…』
土間に敷き詰めた店主愛読のスポーツ紙の上にシャツと同じ青い縦縞のデカパン一丁の姿で死んだようにノビている片尾茂一郎の土手っ腹を思いっ切り踏んづけたい誘惑を必死で堪える高原孝次の心中を知ってか知らずか、淫魔教帝は冷笑気味に語りかけるのであった。
「まあ、そうイキるな──いかなる宿世の縁か、まさに宇宙的な確率によって我が軍勢に加わった仲間…否、弟分ではないか?
それにオマエは片尾の戦闘力を甚だ低く見積もっておるようだが、こと〈忍耐力〉に関する限り、とうやら第2号に軍配が上がるようだぞ──これを見ろ」
淫魔教帝の足元(孝次の位置からは死角にあたる)から彼が掲げた忌まわしき物体=空となった4リットル入りの焼酎用ペットボトルを一瞥した瞬間、第1号は小さく呻いて視線を逸らせた。
「ふふふ、やはり直視できんか…。
だが聞くがよい、オマエがあれだけ零しまくった【妖魔女の愛液】をこやつはただの一滴も無駄にすることなくみごとに飲み干したのだぞ…。
尤も、《火能》を授けたキサマとは異なり片尾に与えたのは《水能》であるゆえ、淫獣人への変態に伴う苦痛も〈痒み〉と〈呼吸困難〉という違いはあるが──されど特筆すべきは、第2号は呻き声一つ漏らすことなく、しかも身じろぎ一つすることなくそれに耐え抜いたのだッ!
そしてその異様なまでの克己心の源こそは、この激苦を代償としてこれまで無力な自分が渇望しつつも得られなかった、恨み重なる冷酷な社会を見返すための超人的能力が与えられるに違いないという悲壮なまでの予感に他なるまいッッ!!」
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