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第二章 凶祭華同盟の虜囚
淫獣人第1号〈前編〉
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“紅の霊体戦士”が雷の聖使を夜空の彼方に拉し去ったおよそ30分後、ヤバい奴が所有していることが一目で分かる、スモーク仕様のリアウインドウにベタベタとキッチュなステッカーを貼り付けた黒いバンが大人の膝辺りまで雑草が成長した10坪ほどの空き地へ乱暴に乗り入れてきた。
これは鬼舞家の私有地で主に駐車場として使用されており、ババイヴとベルバスが日常の足にしている白い軽ワゴン(いたる堂の社用車)と磯村かつ子の赤い軽自動車が停められている。
黒バンは女の愛車にピタリと寄せて停車し、運転席のドアが開いて降りてきたのは黒いTシャツと迷彩柄のダボッとした作業ズボンを穿いた165センチ余りの短躯ながらも日頃の労働の苛烈さが偲ばれるガッチリしたガタイの男であったが、その他のアイテムで“犯罪目的”であることが一目瞭然であった。
即ち、顔はドクロをモチーフにした奇怪な意匠のプロレスマスクで隠し、両手には滑り止めのイボ付きの黒手袋を嵌め、右手には銀色の金属バットを握りしめていたのである!
「もうちっとの辛抱じゃ…かつ姫、すぐ救けにいくけえの…ヘッキシッ!」
心持ちくぐもったキンキン声でヒロイックな呟きを洩らした後、予想より冷える夜気にくしゃみを誘発された解体屋の高原孝次は、最愛のマドンナを監禁する極悪人に対する満腔の殺意を込めて一回フルスイングすると、森の木こりのように凶器を担いで防犯カメラなど仕掛けてあるはずもないボロい玄関扉に忍び寄った。
案の定、一応施錠はされている。
「思った通りじゃ…。
ほんならやっぱ、コイツにモノいわせるしかねえのう…!」
黒テープが巻かれたグリップを両手で握りしめてこれも草ぼうぼうの庭に回った解体屋は、元の色も判然としないボロボロのカーテンが引かれているだけで雨戸も閉められていない磨りガラスに向けて思いっきりバットを叩きつける!
──ガッシャアアアアンッッ!!
古びた厚さ1センチのガラス材に侵入可能な大穴を開けるにはこの一撃で十分であり、仕事で使う安全靴を履いた孝次は砕け散った破片を恐れる必要はなく、尻ポケットからホームセンターで購入した小型懐中電灯を取り出しながら直ちに内部に踏み込んだ。
「──おわあッ、脅かしやがってッ!
お、おどりゃあ何モンじゃッ!?」
「──おどりゃあ、とな?
ああ、世にも下品な当地の方言で余が何者かと問うておるわけだな?
むろん、胡乱な不法侵入者であるキサマごときに返答する必要はないわ。
おかしなお面でお粗末な面相を隠して事足れりとしているようだが、逆にこちらがそっちの正体を暴いてやろう──あのクソ女の悪臭芬々たる◯◯◯に躊躇なく☓☓☓を突き立てることのできる“世界一の勇者”こと解体屋のコウジ君だな?」
「てッてッてッ、テメエッ!
ハ、ハゲのくせによ、ようも姫をバカにしくさったなッ、ドタマカチ割っちゃるッ!!
明かりなんか無うても構わんわッ!
オメエのツルピカ頭がここを狙えっちゅーて眩しゅう光っとるけえのォッッ!!」
鬼舞邸唯一の六畳ほどの洋間に置かれたこれもたった一脚の三人掛け長椅子の真ん中に悠々と着座したババイヴ=ゴドゥエブンⅥ世は頭上に振り上げられた銀色の凶器を恐れげもなく一瞥すると、徐ろに俯いてその頭頂部を襲撃者に見せつけたのだが──。
「うげえッ!な、何じゃこりゃああああッッ!?」
果たして怒り狂う解体屋はそこに何を見たのか!?
一言で言えば、それは〈穴〉であった──そう、女とギャンブルが三度のメシより好きな高原孝次にとって何よりも愛するアナであったのである!
しかし眼前の異様な光景は更なるアンビリバボーな現象の序曲に過ぎなかった。
「──うわとととッ!?」
あろうことか、両手で振り上げたバットの先端が超強力な磁石に引き付けられたかのように鬼舞嵐太郎の頭部の穴に突き刺さったのである!
「──バ、バットが抜けんッ!
コ、コイツ、バケモンじゃッ!!」
まさしく、仕事で鍛えた自慢の腕力を全開して引っこ抜こうと試みるものの、リサイクルショップで入手した格安の中古品は微動だにせぬどころかズブズブと穴の奥へと潜り込んでゆく──まるで巨大な女陰に絡め取られたナニのように…!
そして恐怖に打ちのめされた襲撃者が両手を離した途端にくわっと面を上げた鬼舞は俄に立ち上がると、脳天からあたかも奇怪なアンテナのごとくたっぷり90センチは突き出した金属バットを月明かりにギラつかせながら傲然たる声音で告げた。
「この愚か者が──季節はややズレたようだが、飛んで火に入る夏の虫とはまさにキサマのことよ…!
こうして地上に確固たる足場を築いた今、我が悲願の《地球淫界化計画》は次なる段階に達した。
即ち、我ら凶祭華同盟の手足となって粉骨砕身する現地産の尖兵が必要となったのだ。
もちろん“改造の手法”は地球侵入以前に確立しておったのだが、こうして格好の実験体を得た今、いよいよ実行に移す時を迎えたといえよう…。
それにしても予想はしておったとはいえ、この地上生活の日常がこれほどまでに煩瑣な雑事に埋め尽くされておろうとはさすがの余にも見通しきれなんだわ…。
いかに無知無能とはいえ、ペルバスのみではいたる堂の業務すら停滞するありさまなのだから、人手…いや戦力は多いに越したことはないからな…!
まあそれはともかく、解体屋のコウジとやら…数々の僥倖に恵まれたキサマは文字通りこの惑星随一の果報者といえるぞ──何故ならば、凶祭華同盟の幹部戦闘員たる【淫獣人】の栄えある第1号に選ばれたのだからなッッ!!」
これは鬼舞家の私有地で主に駐車場として使用されており、ババイヴとベルバスが日常の足にしている白い軽ワゴン(いたる堂の社用車)と磯村かつ子の赤い軽自動車が停められている。
黒バンは女の愛車にピタリと寄せて停車し、運転席のドアが開いて降りてきたのは黒いTシャツと迷彩柄のダボッとした作業ズボンを穿いた165センチ余りの短躯ながらも日頃の労働の苛烈さが偲ばれるガッチリしたガタイの男であったが、その他のアイテムで“犯罪目的”であることが一目瞭然であった。
即ち、顔はドクロをモチーフにした奇怪な意匠のプロレスマスクで隠し、両手には滑り止めのイボ付きの黒手袋を嵌め、右手には銀色の金属バットを握りしめていたのである!
「もうちっとの辛抱じゃ…かつ姫、すぐ救けにいくけえの…ヘッキシッ!」
心持ちくぐもったキンキン声でヒロイックな呟きを洩らした後、予想より冷える夜気にくしゃみを誘発された解体屋の高原孝次は、最愛のマドンナを監禁する極悪人に対する満腔の殺意を込めて一回フルスイングすると、森の木こりのように凶器を担いで防犯カメラなど仕掛けてあるはずもないボロい玄関扉に忍び寄った。
案の定、一応施錠はされている。
「思った通りじゃ…。
ほんならやっぱ、コイツにモノいわせるしかねえのう…!」
黒テープが巻かれたグリップを両手で握りしめてこれも草ぼうぼうの庭に回った解体屋は、元の色も判然としないボロボロのカーテンが引かれているだけで雨戸も閉められていない磨りガラスに向けて思いっきりバットを叩きつける!
──ガッシャアアアアンッッ!!
古びた厚さ1センチのガラス材に侵入可能な大穴を開けるにはこの一撃で十分であり、仕事で使う安全靴を履いた孝次は砕け散った破片を恐れる必要はなく、尻ポケットからホームセンターで購入した小型懐中電灯を取り出しながら直ちに内部に踏み込んだ。
「──おわあッ、脅かしやがってッ!
お、おどりゃあ何モンじゃッ!?」
「──おどりゃあ、とな?
ああ、世にも下品な当地の方言で余が何者かと問うておるわけだな?
むろん、胡乱な不法侵入者であるキサマごときに返答する必要はないわ。
おかしなお面でお粗末な面相を隠して事足れりとしているようだが、逆にこちらがそっちの正体を暴いてやろう──あのクソ女の悪臭芬々たる◯◯◯に躊躇なく☓☓☓を突き立てることのできる“世界一の勇者”こと解体屋のコウジ君だな?」
「てッてッてッ、テメエッ!
ハ、ハゲのくせによ、ようも姫をバカにしくさったなッ、ドタマカチ割っちゃるッ!!
明かりなんか無うても構わんわッ!
オメエのツルピカ頭がここを狙えっちゅーて眩しゅう光っとるけえのォッッ!!」
鬼舞邸唯一の六畳ほどの洋間に置かれたこれもたった一脚の三人掛け長椅子の真ん中に悠々と着座したババイヴ=ゴドゥエブンⅥ世は頭上に振り上げられた銀色の凶器を恐れげもなく一瞥すると、徐ろに俯いてその頭頂部を襲撃者に見せつけたのだが──。
「うげえッ!な、何じゃこりゃああああッッ!?」
果たして怒り狂う解体屋はそこに何を見たのか!?
一言で言えば、それは〈穴〉であった──そう、女とギャンブルが三度のメシより好きな高原孝次にとって何よりも愛するアナであったのである!
しかし眼前の異様な光景は更なるアンビリバボーな現象の序曲に過ぎなかった。
「──うわとととッ!?」
あろうことか、両手で振り上げたバットの先端が超強力な磁石に引き付けられたかのように鬼舞嵐太郎の頭部の穴に突き刺さったのである!
「──バ、バットが抜けんッ!
コ、コイツ、バケモンじゃッ!!」
まさしく、仕事で鍛えた自慢の腕力を全開して引っこ抜こうと試みるものの、リサイクルショップで入手した格安の中古品は微動だにせぬどころかズブズブと穴の奥へと潜り込んでゆく──まるで巨大な女陰に絡め取られたナニのように…!
そして恐怖に打ちのめされた襲撃者が両手を離した途端にくわっと面を上げた鬼舞は俄に立ち上がると、脳天からあたかも奇怪なアンテナのごとくたっぷり90センチは突き出した金属バットを月明かりにギラつかせながら傲然たる声音で告げた。
「この愚か者が──季節はややズレたようだが、飛んで火に入る夏の虫とはまさにキサマのことよ…!
こうして地上に確固たる足場を築いた今、我が悲願の《地球淫界化計画》は次なる段階に達した。
即ち、我ら凶祭華同盟の手足となって粉骨砕身する現地産の尖兵が必要となったのだ。
もちろん“改造の手法”は地球侵入以前に確立しておったのだが、こうして格好の実験体を得た今、いよいよ実行に移す時を迎えたといえよう…。
それにしても予想はしておったとはいえ、この地上生活の日常がこれほどまでに煩瑣な雑事に埋め尽くされておろうとはさすがの余にも見通しきれなんだわ…。
いかに無知無能とはいえ、ペルバスのみではいたる堂の業務すら停滞するありさまなのだから、人手…いや戦力は多いに越したことはないからな…!
まあそれはともかく、解体屋のコウジとやら…数々の僥倖に恵まれたキサマは文字通りこの惑星随一の果報者といえるぞ──何故ならば、凶祭華同盟の幹部戦闘員たる【淫獣人】の栄えある第1号に選ばれたのだからなッッ!!」
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