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 終章 大動乱の果てに待つもの

セクルワ魔空凶戦⑤

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 シェザード一族の居館からおよそ千メートルほど離れた、地上世界でいうところのスポーツ公園──【モルカメス】(ペトゥルナワス語で〈涵養〉の意)と名付けられた、闘盟軍の未来を担う少年少女の日々の鍛錬や試合競技及びレクリエーション、並びに成年層のそれと、果ては老人たちの憩いの場にも愛用されるいわば魔強士族のオアシスとして造成されたこの複合施設の一角にイルベリガの格納庫は存在した。

 施設内でも最大の面積を誇る六角形の競技場【アグヤ】中心部の、一辺二十メートルのこれも六角形の発進ゲートがゆっくりと左右に開くと、わずかに遅れてゴーッというあたかも暴風が吹き渡るかのような不気味な轟音がモルカメス全体に鳴り響き、上昇発進する最強獣戦機がその魁夷な巨体を出現させるのだ。

 しかしながら、“魔強士族の守護神”として闘盟軍の技術の粋を結集して建造されたこの決戦兵器の、獣戦機の呼称とはいかにかけ離れた異様な外観であることよ!

 それはまさしく、名称の意味する“黒き剣”そのものの形状であったが、おおきさもまた規格外であり、全長は八十五メートル、翼を模した意匠の鍔を含めた横幅は三十七メートルで、その総重量は四百トンに及んでいた。

 しかしこの超兵器を一瞥した者の心胆を瞬時に寒からしめ、生涯記憶から消去することの不可能な恐怖を刻印するのは巨剣全体に、しかも不規則に配備された砲門群であっただろう。

 ──何と総計五十門の、大きさも五種類に異なるそれらは、であったのだ!

 そこから発射されるのは【殲光波】と名付けられた、凄まじい速度で標的に向かって疾走する毒々しいまでにあかい一筋の火線であるが、その射程はおよそ一万メートルに届き、温度は何と摂氏にして二万五千度に達するという。

 加えて、さらなる遠距離に位置する目標に対しては最も巨大な直径七メートルの〈主砲〉から【超殲光弾】が放たれるが、これは不吉な流星のごとき大火球であり、直撃されて消滅の憂き目を免れる物質はペトゥルナワスに存在せぬとまで断言されていた…。
 
 さて、半島空爆を後衛に任せ、ひたひたとシェザード一族の本丸を目指して進軍する三体の重機動兵オルソンを迎撃すべく飛翔する機内では、メインパイロットのシュオナから後方に二メートルほど離れた砲手席(イルベリガの殲光砲は原則的に人工頭脳制御の自動発射だが、任意のピンポイント攻撃を放つ際には操縦士及び砲手による索敵&狙撃も可能)のバアルは眼前の上下に六枚ずつ並んだ操作盤コンソール上のA4サイズほどの画面のド真ん中を凝視していた。

 実は、侵略部隊が〈中央線〉を突破した直後に一機の星型爆撃機ジャルドーが戦線を離脱して凄まじい全速力で進路を北へと取ったのが確認されており、紫の魔少年はその目的が北限に聳立するパンジェワ山上の懲罰拳房に収容された星渕遠征隊の奪還にあると確信していたのだ。

『おそらくアレには銀魔星に加わった剣持巳津也以下三名の特抜生も乗り込んでいるのだろう──さすがにヌーロスは同行してはおるまいが、わざわざ主力爆撃機を遣わしたということはこの捕獲劇が一筋縄ではいかぬことを予期している表れだな…。

 ククク…さあどうするリド?

 当然ながら花凛らを収容した後にジャルドーは拳房を破壊するだろうから、ヘタすりゃそこで一巻の終わり、ってことも十分にあり得るハナシだ…!』

 その時、操縦席のシュオナがくぐもった悲鳴を上げた。

「なッ!?…さ、さっきまで影も形も無かったのに…!

 も、もしかしてコイツ、〈瞬間移動〉を使えるの…!?」

 まさしく、剣先部分に位置する操縦席の前面を覆うキャノピー(外部からは黒一色で塗り潰されて内部は不可視)にほぼ密着せんばかりの至近距離に、これも漆黒の星型戦闘機がピタリと機首を張り付けていたのである!

 ということは相手がその気になれば、果敢な〈特攻攻撃〉によって少なくともシュオナを即死させ、コックピットを完全に破壊してのけたということを意味していた──しかも機内部に強力爆弾を内蔵していれば、強力な人工頭脳によって自動的に機のコントロールが継承されるのをも阻止し、墜落に追い込めたかもしれぬのだ!

 されど十秒あまりの沈黙の後、によって敵の意図が明らかとなった。

“ふはははははッ、バアル=シェザードよ、待っていたぞッ!

 せっかちな性分なんでな、単刀直入に宣言させてもらうが、たった今、この黒瀧晶悟はキサマに一騎討ちを申し込むッ!!

 誇り高き魔強士族──しかものシェザード一族の者ならばもちろんこの挑戦を拒むことなどあるまいが、ならば直ちにその悪趣味極まるグロ獣戦機から出てきやがれッッ!!!”

「──フン、キサマの正体はとっくに割れてるってのに、未だあの半端者の名を騙るかッ!?

 どうやら、“伝説のはぐれ魔強士”としてペトゥルナワスに悪名を馳せた“最念術師ヌーロス”も、寄る年波には勝てずとうとうボケ果てたと見えるなッ!

 よかろう、際限なく老醜を晒し続ける自らを綺麗サッパリ葬ってほしいということならば、気は進まぬながらもによって引き受けるとしようではないかッッ!!」

 〈兄〉が勢いよく立ち上がるのを察した特戦操縦士が「バアル様…」と呟いて振り返った時には、既に砲手席はもぬけの殻であった──!




 

 

 

 


 




 

 

 
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