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終章 大動乱の果てに待つもの
セクルワ魔空凶戦③
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大至急シャワーを浴び、威厳と機能美を追求した青い特戦用操縦服を身に着けたシュオナが研究棟地下の獣戦機【イルベリガ】搭乗用特殊車両【ラーチス】専用駐車場に到着した時、紫色の魔強具を装着したバアル=シェザードは既に運転席の真後ろに着座していた。
「……!」
いつものことながら、この“闘盟軍最年少将軍”の神速ともいうべき所作には感嘆するしかなかったが、彼が他者のわずかな遅れを咎める狷介な気性ではないことも承知している。
されど、常のごとく仮面付き兜は被らずシートに置いているため露わなその魔的な美貌はかつてないほどの険しさに凝固しており、遅刻を詫びつつ運転席に乗り込んだこれも“最年少特戦操縦士”は背中を氷柱に押し当てられたかのような戦慄を覚えていた。
ちなみにバアルが今回纏っているのは、四元戦で使用した【次元転移装置】搭載の〈地上遠征仕様〉よりはかなり軽量のペトゥルナワス特化型の魔強具であり、あたかも怒れる魔神を具象化したような前者とは対照的に、兜からは複数の厳めしい角や牙が取り除かれて吊り上がった機眼と端正な鼻梁と唇のみが残された、いわば仮面そのものといってよいシンプルなモノへと変化し、首から下も全身を埋め尽くす鋭棘などを排し、生身の躰によりフィットしたスマートな〈鎧〉へと切り替えられていた。
しかしながら、その意匠は瀟洒を信条とする、そして最強一族の一員である人物ならではの凝りに凝ったものであり、特に全体に施された瑰麗にして複雑を極めた黄色い呪術的模様が、この魔強具に所有者にふさわしい妖美ともいえる趣を付与している…。
尤も少女操縦士にとってはこれがバアル本来の正装であり、これ以外の魔強具姿を目にしたことはなかった。
「──それでは出発致します」
クリーム色の分厚い金属扉が微かな機械音と共に左右に開くのとほとんど同時に、いかなる動力源によって駆動されているものか、楕円型をベースにしつつ流線美をみごとに活かしきったデザインの青い特殊車両は、地上のEV車よりも遥かに静かに、そして凌駕する速度で淡く発光するこれもクリーム色の車幅ギリギリの一本道を滑り出した。
車はステアリングの代わりに計器盤から伸びた一本のレバーによって操作するシステムとなっており、加減速は基本的に運転席左横に備え付けられたコントロールボックスのボタンで行うが、生体認証済みのシュオナは微妙なレバー操作のみで全ての操作を行うことが可能であった。
「──記念すべき初陣がよりにもよって史上初のセクルワ半島防衛戦とは全く皮肉なハナシだが、見方を変えれば最強獣戦機の初戦としてこれ以上ふさわしい舞台もないだろう…。
メリザーク特戦操縦士よ、私はむしろ、誉れある闘盟軍戦士として生まれた君の星の強さを感じているところだよ…!」
背後から投げかけられたのが普段と変わらぬ穏やかな声色であるのに安堵しつつも、その内容に改めて事態の深刻さを痛感したシュオナは果てなく続く車道を口元を引き締めて凝視する。
「バアル様、そんな…でも光栄ですわ。
──一つお伺いするのをお許し下さいませ…。
イルベリガが必要ということは、敵は自動迎撃システムを突破するほど強力な重機動兵を完成させたということなのでしょうか…!?」
返答は、いつものように迅速であった。
「いや、私の見立てではそれは違う。
──問題は、空飛ぶ鉄クズどもではなく、その内部に潜む者たちにあるのだ。
おそらく君は遭遇したことはないだろうが、この世には信じられぬほどの現象を惹起し得る異能の者がごくわずかながら存在するのだよ…。
そして今回の白昼夢としか思えぬ電撃的な侵攻劇も、ソイツらが入念な準備を重ねた上で仕掛けたものなのだ…!
夜襲を避けたことは今のところは謎というしかないが、おそらく連中が一日では到底収まらぬ長期戦をもくろみ、そして真の狙いが半島の漠然たる破壊一般貴民の殺害などではなく、一切の小細工が通用せぬほど極めて高度に限定されているがゆえと私個人は推測している…」
「──極めて高度に限定された目的、ですか…!?」
緊張を孕んだ美少女兵士の呟きに、紫の魔少年は素早く、そして確信をもって返答した。
「そう──即ち、闘盟軍を統べる我々シェザード一族全員の抹殺だッ!!」
「……!」
いつものことながら、この“闘盟軍最年少将軍”の神速ともいうべき所作には感嘆するしかなかったが、彼が他者のわずかな遅れを咎める狷介な気性ではないことも承知している。
されど、常のごとく仮面付き兜は被らずシートに置いているため露わなその魔的な美貌はかつてないほどの険しさに凝固しており、遅刻を詫びつつ運転席に乗り込んだこれも“最年少特戦操縦士”は背中を氷柱に押し当てられたかのような戦慄を覚えていた。
ちなみにバアルが今回纏っているのは、四元戦で使用した【次元転移装置】搭載の〈地上遠征仕様〉よりはかなり軽量のペトゥルナワス特化型の魔強具であり、あたかも怒れる魔神を具象化したような前者とは対照的に、兜からは複数の厳めしい角や牙が取り除かれて吊り上がった機眼と端正な鼻梁と唇のみが残された、いわば仮面そのものといってよいシンプルなモノへと変化し、首から下も全身を埋め尽くす鋭棘などを排し、生身の躰によりフィットしたスマートな〈鎧〉へと切り替えられていた。
しかしながら、その意匠は瀟洒を信条とする、そして最強一族の一員である人物ならではの凝りに凝ったものであり、特に全体に施された瑰麗にして複雑を極めた黄色い呪術的模様が、この魔強具に所有者にふさわしい妖美ともいえる趣を付与している…。
尤も少女操縦士にとってはこれがバアル本来の正装であり、これ以外の魔強具姿を目にしたことはなかった。
「──それでは出発致します」
クリーム色の分厚い金属扉が微かな機械音と共に左右に開くのとほとんど同時に、いかなる動力源によって駆動されているものか、楕円型をベースにしつつ流線美をみごとに活かしきったデザインの青い特殊車両は、地上のEV車よりも遥かに静かに、そして凌駕する速度で淡く発光するこれもクリーム色の車幅ギリギリの一本道を滑り出した。
車はステアリングの代わりに計器盤から伸びた一本のレバーによって操作するシステムとなっており、加減速は基本的に運転席左横に備え付けられたコントロールボックスのボタンで行うが、生体認証済みのシュオナは微妙なレバー操作のみで全ての操作を行うことが可能であった。
「──記念すべき初陣がよりにもよって史上初のセクルワ半島防衛戦とは全く皮肉なハナシだが、見方を変えれば最強獣戦機の初戦としてこれ以上ふさわしい舞台もないだろう…。
メリザーク特戦操縦士よ、私はむしろ、誉れある闘盟軍戦士として生まれた君の星の強さを感じているところだよ…!」
背後から投げかけられたのが普段と変わらぬ穏やかな声色であるのに安堵しつつも、その内容に改めて事態の深刻さを痛感したシュオナは果てなく続く車道を口元を引き締めて凝視する。
「バアル様、そんな…でも光栄ですわ。
──一つお伺いするのをお許し下さいませ…。
イルベリガが必要ということは、敵は自動迎撃システムを突破するほど強力な重機動兵を完成させたということなのでしょうか…!?」
返答は、いつものように迅速であった。
「いや、私の見立てではそれは違う。
──問題は、空飛ぶ鉄クズどもではなく、その内部に潜む者たちにあるのだ。
おそらく君は遭遇したことはないだろうが、この世には信じられぬほどの現象を惹起し得る異能の者がごくわずかながら存在するのだよ…。
そして今回の白昼夢としか思えぬ電撃的な侵攻劇も、ソイツらが入念な準備を重ねた上で仕掛けたものなのだ…!
夜襲を避けたことは今のところは謎というしかないが、おそらく連中が一日では到底収まらぬ長期戦をもくろみ、そして真の狙いが半島の漠然たる破壊一般貴民の殺害などではなく、一切の小細工が通用せぬほど極めて高度に限定されているがゆえと私個人は推測している…」
「──極めて高度に限定された目的、ですか…!?」
緊張を孕んだ美少女兵士の呟きに、紫の魔少年は素早く、そして確信をもって返答した。
「そう──即ち、闘盟軍を統べる我々シェザード一族全員の抹殺だッ!!」
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