異世界突撃戦士団の友よ！

終章 大動乱の果てに待つもの

セクルワ魔空凶戦②

　艷やかな緋色に煌めく美少女の舌が、シーツに至るまで黒一色の寝台に横たえられた、もはや芸術品と称えても過言ではないほど精巧に造形された実物大の白肌の美青年の人形──その股間から生々しく屹立する桜色の肉柱を上下に妖しく這っていた。

　秀麗な眉目をはじめとする、天下に並ぶ者無き四元蓮馬の美貌と肉体を完璧に再現し尽くした豪奢極まる〈愛戯人形ラブドール〉に覆い被さっているのは、東洋人を彷彿とさせる黒いショートカットの、人形をも凌駕する雪のような肌の持ち主──闘盟軍期待の獣戦機若手操縦士・シュオナ=メリザークであった。

　総帥ザナルクの居館と隣接する研究棟の二階と三階は闘盟軍でも特に将来有望と見なされたいわば〈幹部候補生〉たちの居室であったが、その三階の一劃に陣取るシュオナの女性には珍しく？黒一色で統一された室内は、吟味された品と一目で分かる最小限の調度品を除いては装飾といえるものは皆無であり、その点が主が挺身する任務を如実に表しているとはいえたが、たとえ一日中ここに閉じ籠もっていたとしてもシュオナ自身が退屈を感じることはなかった。

　そう、この約束された未来の恋人の依代さえあれば──！

　もちろん、最高級の人形として質感・温度・匂いに至るまでが能う限り本物へと近付けられているとはいえ、さすがに超特製ラバースキンの塊をひたすら愛撫し続けるのはいかに卓越した克己心を有する若き軍人にとってもある種の苦行であったが、対応策として彼女が採用したのが【星河の雫】の名称で魔強士族(貴民階級)の女性にとっては必須の美容栄養食品である〈高級人工蜜〉なのであった。

　これを聖剣皇子の等身大人形の全身(特に“監修者”のバアルが指定した蓮馬の性感帯であるとされる喉元・左の乳首と腋下・右脇腹そしてもちろん睾丸を含む性器及び肛門)にあたかもラブローションのごとくたっぷりと塗りたくり、シミュレーション上ではほとんど完成の域に達したと確信する渾身の舌技＆指技のさらなる飛躍を期して鍛錬を重ねる傍ら賞味しつつ、間近に迫った来たるべき本番を夢見ていたのである…。

　さて、“魅惑的な異世界の美剣士の心身の征服”を目的とする模擬口淫は第一過程である執拗な〈裏筋舐め〉を経て、いよいよ睾丸への丹念なマッサージを兼ねた本格的な〈男根吸引〉の段階フェーズへと移行したが、ここでシュオナの耳朶に装着された、執事長ゲルーチのこれ見よがしなピアス型通信機よりははるかに慎ましい芥子粒大のそれが決して不快ではないがハッキリと聴き取れる受信音を発し、今や恐れではなく親しみを感じるに至った総帥の末子の中性的な声音による指令をもたらした。

“メリザーク特戦操縦士よ、熱のこもったトレーニング中水を差して悪いが、魔強士族われわれの聖地を揺るがす驚天動地の事態が勃発した！

　詳しい事情は最強獣戦機イルベリガ”に乗り込んでから話す──直ちに出撃準備に入ってくれたまえッ!!」

　年齢こそ同じ十七歳ではあったものの、何よりも彼我の身分差によって常に仰ぎ見る存在であったバアル=シェザード──されど彼自身は《獣戦機部門》の核と成り得るシュオナの瞠目すべき才能(美貌を含む)に逸早く着目しており、総帥から《銀魔星分裂計画》の総指揮を命じられ、その鍵となる“四元蓮馬籠絡作戦”に着手してからはさらに重要度が増した彼女とのコミュニケーションに相努め、今ではまるで兄のような頼もしい存在と信じ込ませることに成功していたのである…。

　一方のバアルにとってシュオナがこの上なく貴重な存在である所以ゆえんは、何よりもその容貌にあった。

　即ち、ペトゥルナワスの貴民社会屈指の美少女は、ほとんど整形の必要もないほどに聖剣皇子最愛の恋人──松神彩紗と瓜二つであったのである！