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終章 大動乱の果てに待つもの
セクルワ魔空凶戦①
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「──じゅ、獣戦機軍の反乱ですってッ!?
ベグニ博士ッ、一体どういうことなんですかッッ!?」
今にも掴みかからんばかりの形相で一族の恩人ともいえる万能匠を睨みつける末子を右手で制しつつ、総帥ザナルクは努めて抑制された口調で盟友に質した。
「博士よ、素人考えながら私には我が戦機軍の巨大機構に対し、いかに強力なものであろうと…そしてそれが未知なる潜在力を秘めておるやもしれぬ異世界人(地上人)のものであろうと、しょせんは限りある生命の有機生物に過ぎぬ念術師が干渉し得るとはとても思えぬのだが…」
「──もちろんです!
それは創造者たるこのベグニの命に替えても断言できる厳然たる事実ですッ!!
とにかく実際の状況をこの目で見ぬ限りはそのような前代未聞の奇怪事を到底認める訳にはゆきませぬッ!!」
その間、バアルが安癒室に備え付けの直径一メートルほどの円型スクリーンを調整して刻々と移り変わるセクルワ半島各地の模様を四等分して映し出したが、それはまさしく黒瀧の言を証明する衝撃の光景であった!
「何ということだ…まさに聖衛軍の巨人兵器と我が獣戦機があたかも競い合うかのように魔強士族の聖地の蹂躙に勤しんでいるではないか…!!
ベグニ博士よ、一体この事象の説明をどう付けるというのかね…!?」
当主の詰問に呼応するかのように音もなく背後に回った紫の魔少年の殺気に満ちた眼光に晒されつつも、あくまでも泰然自若の姿勢を貫く万能匠は、落ち着いた口ぶりで返答した。
「当主よ、この忌まわしき映像を目の当たりにして、逆に私は確信しました。
敵は決して獣戦機それ自体を操作しているのではない──即ち、それを駆る操縦士の頭脳を支配しているのですッ!!」
「──!?」
思わず顔を見合わせる父子であったが、さらに柳眉を逆立てる息子とは裏腹にザナルクの表情には一抹の安堵すら刻まれていた…。
「なるほどな──それならば合点がゆく…!
そしてこれはあくまでも推断だが、あの呪われし念術師は領空侵犯した二十五機の敵機のいずれかに搭乗しているに違いない──そしてこの近距離なればこそ、その凶魔力を多方面に及ぼすことができたのであろう…!!」
この発言に、万能匠も意を得たりとばかりに頷く。
「私も全く同意見です──さらに言い添えさせて頂くならば、他の敵機にも彼奴が手塩にかけて養成した手練れの念術師が分乗しており、それぞれの念力を統合して、まさにヤツが自賛するところの《超凶念波》へと昇華させて我が軍を隷属下に置いたものでしょう!
つまり、半島防衛網の機能不全にしても自動システムが反応しなかったのではなく、端からそれは担当官…いや、上層部によって断ち切られていたのですッ!!
もちろん獣戦機にも独自の安全機構が実装されており、仮に錯乱した操縦士が自陣であるセクルワを攻撃しようと試みても内部システムによって完全阻止される訳ですが、何しろ軍上層部が寝返っているのですからひとたまりもありません──制御システムを全面解除する暗号指令を直接人工頭脳に送信されてあっさりと連合軍の走狗と成り果ててしまったものでしょう…」
「うぬぬぬぬ…ヌーロスめッ!
さ、されど集団とはいえたかが念術師ふぜいに苛烈な鍛錬を積み重ねた我が子飼いの精鋭たちがかくも易々と玩弄されるとは…!!」
「──これだけの大事をやってのける方法がたった一つだけありますッ!」
突如として甲高い声を張り上げたバアル=シェザードに二人の指導者の耳目が集中し、少年魔強士は一切の自重をかなぐり捨てたかつてないほどの狂気じみた双眸で両者を睨み返しつつ吠えた。
「あの裏切り者めは、夢見ノ力を使って睡眠中の軍人たちの脳内に侵入してのけたに違いありませんッ!!
そして何日も、いや何十日もかけて、鉄の意志を有するがゆえに強烈な暗示にはことのほか脆弱な彼らの精神を徐々に、そして確実に侵食していったのですッッ!!!」
自身が稀少な同能力を保持する実子の断言ゆえにその説得力は絶対的であり、改めて事態の深刻さに直面させられた闘盟軍総帥は端正な風貌をさらなる苦渋に歪ませつつ両拳をギリギリと握りしめた。
「事ここに至っては、もはや一瞬の逡巡も許されん──この悪鬼羅刹による精神汚染がこれ以上、“聖なるセクルワ”に拡散するのを防ぐため、我がシェザード一族の総力を挙げて対処せねばならぬッ!!
ベグニ博士、そしてバアルよッ!
今こそ“最強獣戦機”イルベリガの初陣の時だッ!!──早急に出撃準備に入ってもらおうッッ!!!」
「はっ、かしこまりましたッ!」
この《総帥指令》にたちまち逸り立った紫の魔少年は、直立不動で力強く頷くと、「それでは、シュオナ操縦士と直ちに出動致しますッ!!」との一声を残して脱兎のごとく安癒室を後にした──!
ベグニ博士ッ、一体どういうことなんですかッッ!?」
今にも掴みかからんばかりの形相で一族の恩人ともいえる万能匠を睨みつける末子を右手で制しつつ、総帥ザナルクは努めて抑制された口調で盟友に質した。
「博士よ、素人考えながら私には我が戦機軍の巨大機構に対し、いかに強力なものであろうと…そしてそれが未知なる潜在力を秘めておるやもしれぬ異世界人(地上人)のものであろうと、しょせんは限りある生命の有機生物に過ぎぬ念術師が干渉し得るとはとても思えぬのだが…」
「──もちろんです!
それは創造者たるこのベグニの命に替えても断言できる厳然たる事実ですッ!!
とにかく実際の状況をこの目で見ぬ限りはそのような前代未聞の奇怪事を到底認める訳にはゆきませぬッ!!」
その間、バアルが安癒室に備え付けの直径一メートルほどの円型スクリーンを調整して刻々と移り変わるセクルワ半島各地の模様を四等分して映し出したが、それはまさしく黒瀧の言を証明する衝撃の光景であった!
「何ということだ…まさに聖衛軍の巨人兵器と我が獣戦機があたかも競い合うかのように魔強士族の聖地の蹂躙に勤しんでいるではないか…!!
ベグニ博士よ、一体この事象の説明をどう付けるというのかね…!?」
当主の詰問に呼応するかのように音もなく背後に回った紫の魔少年の殺気に満ちた眼光に晒されつつも、あくまでも泰然自若の姿勢を貫く万能匠は、落ち着いた口ぶりで返答した。
「当主よ、この忌まわしき映像を目の当たりにして、逆に私は確信しました。
敵は決して獣戦機それ自体を操作しているのではない──即ち、それを駆る操縦士の頭脳を支配しているのですッ!!」
「──!?」
思わず顔を見合わせる父子であったが、さらに柳眉を逆立てる息子とは裏腹にザナルクの表情には一抹の安堵すら刻まれていた…。
「なるほどな──それならば合点がゆく…!
そしてこれはあくまでも推断だが、あの呪われし念術師は領空侵犯した二十五機の敵機のいずれかに搭乗しているに違いない──そしてこの近距離なればこそ、その凶魔力を多方面に及ぼすことができたのであろう…!!」
この発言に、万能匠も意を得たりとばかりに頷く。
「私も全く同意見です──さらに言い添えさせて頂くならば、他の敵機にも彼奴が手塩にかけて養成した手練れの念術師が分乗しており、それぞれの念力を統合して、まさにヤツが自賛するところの《超凶念波》へと昇華させて我が軍を隷属下に置いたものでしょう!
つまり、半島防衛網の機能不全にしても自動システムが反応しなかったのではなく、端からそれは担当官…いや、上層部によって断ち切られていたのですッ!!
もちろん獣戦機にも独自の安全機構が実装されており、仮に錯乱した操縦士が自陣であるセクルワを攻撃しようと試みても内部システムによって完全阻止される訳ですが、何しろ軍上層部が寝返っているのですからひとたまりもありません──制御システムを全面解除する暗号指令を直接人工頭脳に送信されてあっさりと連合軍の走狗と成り果ててしまったものでしょう…」
「うぬぬぬぬ…ヌーロスめッ!
さ、されど集団とはいえたかが念術師ふぜいに苛烈な鍛錬を積み重ねた我が子飼いの精鋭たちがかくも易々と玩弄されるとは…!!」
「──これだけの大事をやってのける方法がたった一つだけありますッ!」
突如として甲高い声を張り上げたバアル=シェザードに二人の指導者の耳目が集中し、少年魔強士は一切の自重をかなぐり捨てたかつてないほどの狂気じみた双眸で両者を睨み返しつつ吠えた。
「あの裏切り者めは、夢見ノ力を使って睡眠中の軍人たちの脳内に侵入してのけたに違いありませんッ!!
そして何日も、いや何十日もかけて、鉄の意志を有するがゆえに強烈な暗示にはことのほか脆弱な彼らの精神を徐々に、そして確実に侵食していったのですッッ!!!」
自身が稀少な同能力を保持する実子の断言ゆえにその説得力は絶対的であり、改めて事態の深刻さに直面させられた闘盟軍総帥は端正な風貌をさらなる苦渋に歪ませつつ両拳をギリギリと握りしめた。
「事ここに至っては、もはや一瞬の逡巡も許されん──この悪鬼羅刹による精神汚染がこれ以上、“聖なるセクルワ”に拡散するのを防ぐため、我がシェザード一族の総力を挙げて対処せねばならぬッ!!
ベグニ博士、そしてバアルよッ!
今こそ“最強獣戦機”イルベリガの初陣の時だッ!!──早急に出撃準備に入ってもらおうッッ!!!」
「はっ、かしこまりましたッ!」
この《総帥指令》にたちまち逸り立った紫の魔少年は、直立不動で力強く頷くと、「それでは、シュオナ操縦士と直ちに出動致しますッ!!」との一声を残して脱兎のごとく安癒室を後にした──!
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