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終章 大動乱の果てに待つもの
黒き狂拳士の逆襲(後編)
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「お、おのれ、たかが地上獣民ふぜいが図に乗りおって…!」
顔面をマグマのごとく紅潮させて赫怒したザナルクは、魔性の者に乗っ取られた天井のスピーカーに向かって大音声を張り上げた。
「黒瀧とやら、笑わせるでないぞッ!
“地上人の恐ろしさを骨の髄まで叩き込む”だと?
その増上慢なセリフは冒頭部分をすげ替えてそっくりそのまま返してやるわッ!!
本来ならばキサマらこそ、このペトゥルナワスにおいて一瞬も存在を許されぬ異物であることを、闘盟軍…いや、シェザード一族の沽券にかけて思い知らせてやろうぞッッ!!!」
返答は光の速さでもたらされた。
“面白い──!
ならばここで、四元先輩とも意気投合した、この戦いにさらに興を添える究極の趣向を持ちかけてみたい。
それはだな、我々聖衛軍&銀魔星連合軍とキサマら闘盟軍から代表者を十名ずつ選抜し、中立の舞台として地獄砂漠に佇立する廃墟群──即ち、魔強士族の得手勝手な理屈によって無残にも亡ぼされちまった魔強具闇市跡地において一対一の決闘を行って真の決着をつけるのよッ!!
もちろん、オレと四元先輩も出陣する──さあ、そちらは三兄弟は当然として他には誰を出すッ!?”
だがこの突拍子もない提案は、総帥ザナルクの怒りを増幅しただけであった。
「何を言い出すのかと思えば──全くキサマは度し難い愚か者だな…!
あろうことか、目下血肉を相食む戦を繰り広げる敵に向かってそのような噴飯ものの呼びかけをしやるとはッ!!
よいかッ、そもそもキサマやゼモンは無論のこと、連合軍の目ぼしい幹部連が戦いの終盤まで生き残れると思っておるのかッ!?
重ねて言うが、笑わせるでないぞッ!
ここでハッキリと宣告しておくわッ、我が息子たちと戦いたくば一切の愚策を排し、直ちに自ら最前線へ乗り出してくるがいいッッ!!」
鬼神の咆哮を彷彿とさせる絶叫が終わるや否や、天井に向けて勢いよく突き出した右掌からザナルク渾身の《闘氣弾》が発射され、直径約三十センチの円型スピーカーは粉々に砕け散った!
「……!」
ペトゥルナワスのあらゆる戦技に精通し、自在に駆使する“戦鬼王”の業前を久々に目の当たりにした老若二名の忠臣は、この思いがけぬ眼福を息を呑む思いで味わったのであった…。
「──小賢しいことを吐かしおって…!
全く今に始まったことではないが、地上人どもの厚顔無恥ぶりには呆れ果てる他ないわ…。
されどバアルよ、おまえはあの黒瀧なる人物がヌーロスを屠り去ったことを真実として受容できたか?」
父からの問いかけを待ち構えていたかのように紫の魔少年はキッパリと首を振った。
「いいえ、到底信じるわけにはゆきません──たしかに口調それ自体は元貴民とは似ても似つかぬ卑賤の極みともいうべき獣民節を弄しておりましたが、あれは間違いなく完全に非力な地上人の心身を征服したヌーロス本人ですッ!
にも関わらずあえて黒瀧晶悟を騙る理由は、ゼモン──四元蓮士郎との同盟をあたかも元特抜生同士の連携による超自然力の発現と見せかけるための演出でしょうッ!
全く父上のおっしゃる通り、我々勇猛なるペトゥルナワスの魔強士族には永遠に理解のできぬ姑息な虚勢の発露というべきですッッ!!」
「うむ、まさしくな…!
そういう意味ではヌーロスめ、地上人との長い付き合いによって得た観察の成果を的確に表現してのけた演技は中々であったと皮肉な賛辞を送ってやりたいものだが…。
されどこれは事実であろうが、銀魔星と手を結んだということは、逆に頭数だけで見れば最大勢力であるはずの聖衛軍が単独で我が軍に抗し得ぬということを自認したようなものだ──それにあの狡猾極まるゼモンのこと、いかに海千山千のヌーロスといえども簡単に籠絡できる相手ではあるまい…。
しかしベグニ博士よ、驚かされたのがついに重機動兵団が完成に至ったらしいということなのだが…」
厳しい表情の万能匠も重々しく頷く。
「やはり、“神匠”アージェムは不屈の男でしたな──誰しもが不可能と諦めていた巨人型機兵をあらゆる困難を克服してとうとう完成してのけたとは…!
されど彼の手になる重機動兵団と私が手掛けた獣戦機軍がよもや我らが領内で激突する日が来ようとは──
まさに戦というものは、一寸先の未来も読み難い変転凄まじい事象であると改めて痛感させられておりますわ…」
ここで一旦はローブのポケットにしまった通信機から受信音が鳴り響き、発信者を確認したザナルクはわずかに頬を緩め、端末を耳に当てた。
「おお、スダイか──うむ、たしかに我が領内は前代未聞の事態に見舞われておる。
されどいかに自動防衛システムが一時的不調に見舞われようとも、カディルフ率いるところの獣戦機軍が侵略者迎撃に挺身するはずゆえ心配は要らぬ…おまえは常と変わらず自身の業務に邁進してくれればそれでよい…。
──何?
“史上空前の危機下にある故郷防衛のため、自軍を連れて黄金巨鳥で直ちに帰還する”とな!?
その心情はありがたいが、それには及ばん…うむ、どうした?いつもの沈着冷静なおまえに似合わぬ切迫した物言いだが──
ああ、実は今、とある事情があって安癒室におるのだ──ベグニ博士とバアルを伴ってな…それで映像等による具体的な状況確認は未だしてはおらんのだが…。
な、何だとッ、我が獣戦機軍が重機兵団と共闘して〈中央線〉を起点にセクルワ半島全域を無差別攻撃しているだとおッッ!?」
顔面をマグマのごとく紅潮させて赫怒したザナルクは、魔性の者に乗っ取られた天井のスピーカーに向かって大音声を張り上げた。
「黒瀧とやら、笑わせるでないぞッ!
“地上人の恐ろしさを骨の髄まで叩き込む”だと?
その増上慢なセリフは冒頭部分をすげ替えてそっくりそのまま返してやるわッ!!
本来ならばキサマらこそ、このペトゥルナワスにおいて一瞬も存在を許されぬ異物であることを、闘盟軍…いや、シェザード一族の沽券にかけて思い知らせてやろうぞッッ!!!」
返答は光の速さでもたらされた。
“面白い──!
ならばここで、四元先輩とも意気投合した、この戦いにさらに興を添える究極の趣向を持ちかけてみたい。
それはだな、我々聖衛軍&銀魔星連合軍とキサマら闘盟軍から代表者を十名ずつ選抜し、中立の舞台として地獄砂漠に佇立する廃墟群──即ち、魔強士族の得手勝手な理屈によって無残にも亡ぼされちまった魔強具闇市跡地において一対一の決闘を行って真の決着をつけるのよッ!!
もちろん、オレと四元先輩も出陣する──さあ、そちらは三兄弟は当然として他には誰を出すッ!?”
だがこの突拍子もない提案は、総帥ザナルクの怒りを増幅しただけであった。
「何を言い出すのかと思えば──全くキサマは度し難い愚か者だな…!
あろうことか、目下血肉を相食む戦を繰り広げる敵に向かってそのような噴飯ものの呼びかけをしやるとはッ!!
よいかッ、そもそもキサマやゼモンは無論のこと、連合軍の目ぼしい幹部連が戦いの終盤まで生き残れると思っておるのかッ!?
重ねて言うが、笑わせるでないぞッ!
ここでハッキリと宣告しておくわッ、我が息子たちと戦いたくば一切の愚策を排し、直ちに自ら最前線へ乗り出してくるがいいッッ!!」
鬼神の咆哮を彷彿とさせる絶叫が終わるや否や、天井に向けて勢いよく突き出した右掌からザナルク渾身の《闘氣弾》が発射され、直径約三十センチの円型スピーカーは粉々に砕け散った!
「……!」
ペトゥルナワスのあらゆる戦技に精通し、自在に駆使する“戦鬼王”の業前を久々に目の当たりにした老若二名の忠臣は、この思いがけぬ眼福を息を呑む思いで味わったのであった…。
「──小賢しいことを吐かしおって…!
全く今に始まったことではないが、地上人どもの厚顔無恥ぶりには呆れ果てる他ないわ…。
されどバアルよ、おまえはあの黒瀧なる人物がヌーロスを屠り去ったことを真実として受容できたか?」
父からの問いかけを待ち構えていたかのように紫の魔少年はキッパリと首を振った。
「いいえ、到底信じるわけにはゆきません──たしかに口調それ自体は元貴民とは似ても似つかぬ卑賤の極みともいうべき獣民節を弄しておりましたが、あれは間違いなく完全に非力な地上人の心身を征服したヌーロス本人ですッ!
にも関わらずあえて黒瀧晶悟を騙る理由は、ゼモン──四元蓮士郎との同盟をあたかも元特抜生同士の連携による超自然力の発現と見せかけるための演出でしょうッ!
全く父上のおっしゃる通り、我々勇猛なるペトゥルナワスの魔強士族には永遠に理解のできぬ姑息な虚勢の発露というべきですッッ!!」
「うむ、まさしくな…!
そういう意味ではヌーロスめ、地上人との長い付き合いによって得た観察の成果を的確に表現してのけた演技は中々であったと皮肉な賛辞を送ってやりたいものだが…。
されどこれは事実であろうが、銀魔星と手を結んだということは、逆に頭数だけで見れば最大勢力であるはずの聖衛軍が単独で我が軍に抗し得ぬということを自認したようなものだ──それにあの狡猾極まるゼモンのこと、いかに海千山千のヌーロスといえども簡単に籠絡できる相手ではあるまい…。
しかしベグニ博士よ、驚かされたのがついに重機動兵団が完成に至ったらしいということなのだが…」
厳しい表情の万能匠も重々しく頷く。
「やはり、“神匠”アージェムは不屈の男でしたな──誰しもが不可能と諦めていた巨人型機兵をあらゆる困難を克服してとうとう完成してのけたとは…!
されど彼の手になる重機動兵団と私が手掛けた獣戦機軍がよもや我らが領内で激突する日が来ようとは──
まさに戦というものは、一寸先の未来も読み難い変転凄まじい事象であると改めて痛感させられておりますわ…」
ここで一旦はローブのポケットにしまった通信機から受信音が鳴り響き、発信者を確認したザナルクはわずかに頬を緩め、端末を耳に当てた。
「おお、スダイか──うむ、たしかに我が領内は前代未聞の事態に見舞われておる。
されどいかに自動防衛システムが一時的不調に見舞われようとも、カディルフ率いるところの獣戦機軍が侵略者迎撃に挺身するはずゆえ心配は要らぬ…おまえは常と変わらず自身の業務に邁進してくれればそれでよい…。
──何?
“史上空前の危機下にある故郷防衛のため、自軍を連れて黄金巨鳥で直ちに帰還する”とな!?
その心情はありがたいが、それには及ばん…うむ、どうした?いつもの沈着冷静なおまえに似合わぬ切迫した物言いだが──
ああ、実は今、とある事情があって安癒室におるのだ──ベグニ博士とバアルを伴ってな…それで映像等による具体的な状況確認は未だしてはおらんのだが…。
な、何だとッ、我が獣戦機軍が重機兵団と共闘して〈中央線〉を起点にセクルワ半島全域を無差別攻撃しているだとおッッ!?」
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