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第三章 星渕特抜生VS魔強士族!
死神への弔鐘よ、地獄砂漠に響け④
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“真紅の死神”の計略による大爆発によって一面の瓦礫に覆い尽くされた料理店中庭──されどその一部がガラガラと崩れ落ち、シェザード家所有の空輸コンテナシップがゆっくりと姿を現したが、その形状は当然ながら原型を留めてはいなかった。
「ふふ、ずいぶん扁平になっちまったな。
これじゃ、購入品をちゃんと収容できるか怪しいもんだ…尤も、ソイツらが無事ならば、のハナシだが…。
──ところで、肝心の〈標的〉は何処に…!?」
磊落を装いながらも緊張を隠せぬ八重樫龍貴に対し、灰色の怪老人は落ち着いた口ぶりで応じる。
「どうやら空輸機は瓦礫を押しのけるためだけの目的て僅かに浮上したのみで、離陸するつもりはないようじゃな…。
さてもスダイ=シェザードめ、あれしきの衝撃では肉体的にさしたるダメージを負ってはおるまいが、それでもあのケバケバしい魔強具に何らかの不具合が生じたことだけは間違いあるまい…」
あながち期待感ばかりとはいえぬコメントに、厳しい表情の紅き戦鬼もはっきりと頷く。
「ぜひともそう願いたいものですな…。
掛け値なしに“現役最強魔強士”であろう彼奴と一騎討ちに持ち込むには、こちらが背負わされた巨大なハンデを極限まで削り取っておく必要かあるのでね…。
──それではサストン師、そろそろ“襲撃第二陣”の主役であるあなたの出番だ、よろしく頼みますよ…」
ドスの効いた声音での要請は、殺気の籠もった視線と相俟ってほとんど恫喝といってよかったが、歴戦のキャリアを誇るペトゥルナワスきっての閃獣使役師には単なる日常の一コマに過ぎなかった。
「分かっておるわ…だがどうやら、そちらもあまり安閑とはしておられぬようじゃぞ…」
先ほどまでの好々爺然とした語り口から一変した凄みあるしゃがれ声を受け、雇い主も訝しげに問い糾した。
「もとより、指摘されるまでもなく私自身は常に臨戦態勢だ。
しかしあえてそう告げるからには何かしらの根拠があるのだろうな?」
されど、老人の表情は石面のごとく凝固したまま、こう告げたのみであった。
「スダイめはとっくに瓦礫の山から脱け出しておる──そして天宝館へ直行しておる模様じゃ…!
どうやら、一家との堅固な繋がりを事前に調べており、狙撃隊を動かした首謀者がこの店に潜んでおると推断したものらしいが、この迷いのない行動には噂通りの切れ者と嘆ぜざるを得んな…!」
「──な、何ィッ!?
だ、だが金色の光球が翔び立った形跡はないぞッ!
そ、それなのにどうしてそう言い切れるのだッ!?」
早くも狂い始めたシナリオに動揺を隠せぬ若武者に対し、微かな憐憫を覚えつつ老人は淡々と所見を述べる。
「これは推測じゃが、爆発によって自慢の飛行機能に障害が起きたようじゃの…。
従って、移動手段は二本の脚による〈疾走〉のようじゃ…」
「それで──迅いのかッ!?」
「まあ、生身の状態よりはな…。
されど決して全力疾走ではない…果たしてこちらに与える恐怖を愉しんでおるのか、それとも走行機能にすらも何らかの故障が生じたのかどうかは不明じゃが、それでも向かってくるということは、少なくとも我々相手の戦闘への支障はないと判断したものじゃろうな…」
このどこか滑稽ともいえるやりとりが、自身への微妙な揶揄を含んでいると解釈した八重樫龍貴は突然凶暴な怒りに駆られ、握った右手を思い切りテーブルに叩きつけて叫んだ。
「それならば好都合だッ、サストン師よ、直ちに〈仕事〉に入ってもらおう!
そこまで言い切れるということは、あなたと一心同体の超閃獣とやらがピッタリとスダイをマークしている証拠だろうがッ!?
言っておくが、我々は単なる実況中継のためだけに高い報酬を払った訳ではないぞッッ!!」
由緒ある旧式魔強具による一撃を受けた分厚い石造りのテーブルには無残なまでに深い亀裂が走っていたが、それを一瞥して深いため息を吐いた老閃獣使いは静かに立ち上がると意外な動きを見せた──あろうことか、一つだけ存在する扉へと歩み去ってゆくのだ。
当然ながらその背中に実行隊長の気色ばんだ叫びが浴びせられた。
「おいッ!一体どこに行く気だッ!?
逃げられると思ったら大間違いだぞッ、キサマごとき痩せ老人の素っ首など、今すぐ狂牙龍一発て食いちぎれるのだからなッ!!」
ここでゆっくりと振り返ったサストンは、じっと相手の目を凝視しながら穏やかに語りかけた。
「──言ってなかったか?
こんな真っ赤っ赤の部屋ではとても落ち着いてゼルガルを操れんとな…。
できれば灰色一色の部屋が理想だが、残念ながら存在せん…ならばせめてもの妥協案として、戦闘時には〈白の部屋〉に籠もらせてもらう、と…!」
「ぐッ…!」
たしかに事前の打ち合わせではそうなっており、突然失念してしまった原因は自分が平常心を失ったため──即ち、スダイ=シェザードへの恐怖に我を忘れたために他ならなかった。
されど、それを率直に認めることは銀魔星戦士としての矜持が許さなかった。
「ああ、そうだったな…だがそれならばそれでもう少し急いでもらえないかね?
いかに故障中とはいえ、魔強具を着けたヤツと足元のおぼつかないアンタとじゃ、どうしても向こうに軍配を上げざるを得ないんでね…。
──さあ爺さん、走らんかッ!」
「たわけッッ!!!」
まさに落雷を彷彿とさせる、この老いぼれのどこから迸ったかと疑わせるほどの大音声による一喝は、誇張抜きに部屋全体をビリビリと震撼させ、殺気立つ天才念術師の度肝を抜いてソファにへたり込ませてのけたほどであった!
「──ふほほほッ、まさに念術の達人であるそちらのお株を奪ってしまった格好じゃが、この一事によっても自明じゃろう…人を見てくれだけで判断しては痛い目に遭う、とな…。
じゃが安心めされ、わしのかわいいゼルガルが超閃獣と称されるのは決して伊達ではない…既にあやつはスダイ相手に戦闘中じゃよ。
──しかも神速で振り回される鋼の大蛇のごとき十本の剛腕にメッタ打ちされて空中に吹っ飛ばされた“金色の魔将”はキリキリ舞いしたあげく外壁に激しく頭をブツけて墜落し、目下のところ恥も外聞もなく路上にひっくり返っておるありさまじゃ…!」
「ふふ、ずいぶん扁平になっちまったな。
これじゃ、購入品をちゃんと収容できるか怪しいもんだ…尤も、ソイツらが無事ならば、のハナシだが…。
──ところで、肝心の〈標的〉は何処に…!?」
磊落を装いながらも緊張を隠せぬ八重樫龍貴に対し、灰色の怪老人は落ち着いた口ぶりで応じる。
「どうやら空輸機は瓦礫を押しのけるためだけの目的て僅かに浮上したのみで、離陸するつもりはないようじゃな…。
さてもスダイ=シェザードめ、あれしきの衝撃では肉体的にさしたるダメージを負ってはおるまいが、それでもあのケバケバしい魔強具に何らかの不具合が生じたことだけは間違いあるまい…」
あながち期待感ばかりとはいえぬコメントに、厳しい表情の紅き戦鬼もはっきりと頷く。
「ぜひともそう願いたいものですな…。
掛け値なしに“現役最強魔強士”であろう彼奴と一騎討ちに持ち込むには、こちらが背負わされた巨大なハンデを極限まで削り取っておく必要かあるのでね…。
──それではサストン師、そろそろ“襲撃第二陣”の主役であるあなたの出番だ、よろしく頼みますよ…」
ドスの効いた声音での要請は、殺気の籠もった視線と相俟ってほとんど恫喝といってよかったが、歴戦のキャリアを誇るペトゥルナワスきっての閃獣使役師には単なる日常の一コマに過ぎなかった。
「分かっておるわ…だがどうやら、そちらもあまり安閑とはしておられぬようじゃぞ…」
先ほどまでの好々爺然とした語り口から一変した凄みあるしゃがれ声を受け、雇い主も訝しげに問い糾した。
「もとより、指摘されるまでもなく私自身は常に臨戦態勢だ。
しかしあえてそう告げるからには何かしらの根拠があるのだろうな?」
されど、老人の表情は石面のごとく凝固したまま、こう告げたのみであった。
「スダイめはとっくに瓦礫の山から脱け出しておる──そして天宝館へ直行しておる模様じゃ…!
どうやら、一家との堅固な繋がりを事前に調べており、狙撃隊を動かした首謀者がこの店に潜んでおると推断したものらしいが、この迷いのない行動には噂通りの切れ者と嘆ぜざるを得んな…!」
「──な、何ィッ!?
だ、だが金色の光球が翔び立った形跡はないぞッ!
そ、それなのにどうしてそう言い切れるのだッ!?」
早くも狂い始めたシナリオに動揺を隠せぬ若武者に対し、微かな憐憫を覚えつつ老人は淡々と所見を述べる。
「これは推測じゃが、爆発によって自慢の飛行機能に障害が起きたようじゃの…。
従って、移動手段は二本の脚による〈疾走〉のようじゃ…」
「それで──迅いのかッ!?」
「まあ、生身の状態よりはな…。
されど決して全力疾走ではない…果たしてこちらに与える恐怖を愉しんでおるのか、それとも走行機能にすらも何らかの故障が生じたのかどうかは不明じゃが、それでも向かってくるということは、少なくとも我々相手の戦闘への支障はないと判断したものじゃろうな…」
このどこか滑稽ともいえるやりとりが、自身への微妙な揶揄を含んでいると解釈した八重樫龍貴は突然凶暴な怒りに駆られ、握った右手を思い切りテーブルに叩きつけて叫んだ。
「それならば好都合だッ、サストン師よ、直ちに〈仕事〉に入ってもらおう!
そこまで言い切れるということは、あなたと一心同体の超閃獣とやらがピッタリとスダイをマークしている証拠だろうがッ!?
言っておくが、我々は単なる実況中継のためだけに高い報酬を払った訳ではないぞッッ!!」
由緒ある旧式魔強具による一撃を受けた分厚い石造りのテーブルには無残なまでに深い亀裂が走っていたが、それを一瞥して深いため息を吐いた老閃獣使いは静かに立ち上がると意外な動きを見せた──あろうことか、一つだけ存在する扉へと歩み去ってゆくのだ。
当然ながらその背中に実行隊長の気色ばんだ叫びが浴びせられた。
「おいッ!一体どこに行く気だッ!?
逃げられると思ったら大間違いだぞッ、キサマごとき痩せ老人の素っ首など、今すぐ狂牙龍一発て食いちぎれるのだからなッ!!」
ここでゆっくりと振り返ったサストンは、じっと相手の目を凝視しながら穏やかに語りかけた。
「──言ってなかったか?
こんな真っ赤っ赤の部屋ではとても落ち着いてゼルガルを操れんとな…。
できれば灰色一色の部屋が理想だが、残念ながら存在せん…ならばせめてもの妥協案として、戦闘時には〈白の部屋〉に籠もらせてもらう、と…!」
「ぐッ…!」
たしかに事前の打ち合わせではそうなっており、突然失念してしまった原因は自分が平常心を失ったため──即ち、スダイ=シェザードへの恐怖に我を忘れたために他ならなかった。
されど、それを率直に認めることは銀魔星戦士としての矜持が許さなかった。
「ああ、そうだったな…だがそれならばそれでもう少し急いでもらえないかね?
いかに故障中とはいえ、魔強具を着けたヤツと足元のおぼつかないアンタとじゃ、どうしても向こうに軍配を上げざるを得ないんでね…。
──さあ爺さん、走らんかッ!」
「たわけッッ!!!」
まさに落雷を彷彿とさせる、この老いぼれのどこから迸ったかと疑わせるほどの大音声による一喝は、誇張抜きに部屋全体をビリビリと震撼させ、殺気立つ天才念術師の度肝を抜いてソファにへたり込ませてのけたほどであった!
「──ふほほほッ、まさに念術の達人であるそちらのお株を奪ってしまった格好じゃが、この一事によっても自明じゃろう…人を見てくれだけで判断しては痛い目に遭う、とな…。
じゃが安心めされ、わしのかわいいゼルガルが超閃獣と称されるのは決して伊達ではない…既にあやつはスダイ相手に戦闘中じゃよ。
──しかも神速で振り回される鋼の大蛇のごとき十本の剛腕にメッタ打ちされて空中に吹っ飛ばされた“金色の魔将”はキリキリ舞いしたあげく外壁に激しく頭をブツけて墜落し、目下のところ恥も外聞もなく路上にひっくり返っておるありさまじゃ…!」
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