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第三章 星渕特抜生VS魔強士族!
死神への弔鐘よ、地獄砂漠に響け③
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三階建て料理店の各階に仕掛けた強力爆弾が自身が押した起爆スイッチによって予定通り全て炸裂した時、“実行隊長”八重樫龍貴は現場から北西に約二キロメートル離れた場所に位置する、魔強具闇市に存在する二つの遊戯場(カジノ)の中でヤペン一家と最も親密な関係にある【天宝館】の上客専用地下休憩室にいた。
当然ながらこの建物の安全機構は徹底しており、闇市全域をほぼカバーし得る超高性能望遠監視カメラ群が設置された五指に満たぬ施設の一つである。
普段はペトゥルナワス各地から参集した好事家の大口賭け人たちに利用されるこの十畳ほどの空間は壁床天井及び調度品を白・黒・赤・青・黄・緑・紫で彩られた七種類二組の計十四室が存在しており、“真紅の死神”が選択したのはもちろん〈赤の部屋〉であった。
部屋の真ん中には直径百五十センチほどの円型スクリーンが台座に支えられて鎮座しており、極上の座り心地を保証する真っ赤な羅紗地の三人用最高級ソファーに陣取った、トレードマークである真紅の戦装束に身を固めた八重樫龍貴と、後ろで束ねた艶の無いざんばら髪から身に着けた質素な僧服に至るまで灰色一色の異様な老人がそれを凝視していたが、この怪人こそが“襲撃第二陣”のキーパーソンなのであった。
二人の前には長椅子に合わせたサイズの長方形の化粧石製テーブルが置かれ、龍貴が戦闘時に被る、悽愴にして華麗な意匠の真紅の髑髏仮面が清涼水のグラスとピッチャー(共に紅水晶製)と並んで載せられている。
“異世界の住人”となってから染め上げた炎のごとき赤髪は肩口を超えて背中まで達していたが、四元蓮馬には及ばぬにせよ十分に美貌と讃え得る琥珀色の顔立ちにはその信条に則って一本の無精髭も見当たらぬ。
されど現在彼が纏っているのはかつてのような〈戦闘服〉ではなく、堅牢な〈鎧〉なのであった。
「その魔強具、よもや再見できるとは思わなんだ──わしの目に狂いがなければ、かつての有力魔強士族・グフール家の領袖、バラドの愛用品じゃな…!?」
焔と黒煙を映し続ける画面に目を細めつつグラスを手にした八重樫は、残りの液体を一息で干した後で小さく頷いた。
「ああ、そうだ──さすがは“ペトゥルナワス戦史の生き字引”と畏怖される“最強閃獣使い”のサストン師、武具方面にもお詳しいようですな。
尤も色彩は元は漆黒であったのを私好みの真紅に変えてあるが…。
打ち明ければ襲撃に向けて準備をはじめてすぐにミゲーラに売り込まれ、その瞬間に一目惚れしてしまいましてね…。
しかも聞けばかつてはシェザード勢と並び称される強豪魔強士が装着していたということで、これは縁起が良い、もしや何らかの天佑かもしれぬ…という期待も込めて入手した次第…」
「なるほどな…たしかにこの乾坤一擲の大勝負に符節を合わせたかのごとくそちらの所有物となった事実にはただならぬ因縁を感じざるを得ん…。
もちろん今さら嘆いたとて詮なきことではあるが、もしあの時、バラド公が突然の病に仆れることさえなければ…決してシェザードごとき“悪逆貴民”に恣な跳梁を赦すことなく、堂々これを誅伐した後に悠然と魔強士族を統一し、歴史の汚点とも呼ぶべき現在の呪わしい獣民王政に速やかな終止符を打ったであろうものを…それが叶わなかったことが、現在の“救いなき永続的乱世”を決定付けてしまったのじゃて…」
この血を吐くがごとき慨嘆によって、どこまで純粋なものであるかは定かでないにせよ、この老人が貴民の血族であるのだけは確かなようであった。
「──その誤謬の歴史を修正するために、ペトゥルナワスという世界自体が生み出した“義の革命結社”こそが我ら銀魔星なのですよ…!」
この八重樫龍貴の断言に、あえて反論することなくサストン老人はグラスに手を伸ばしながら宣った。
「されど勇猛なる若者よ、惜しむらくは君自身の出自は魔強士族に非ず…たとえ“バラドの鎧”を纏えども、果たしてその秘められし鬼神力の全てを発揮し得るものであるのか…!?」
この当然ともいえる問いかけに、八重樫龍貴は画面を見据えたまま自嘲的とも虚無的ともいえる口調で返答した。
「ふふふ、もとより誇り高き貴民のあなたには唾棄すべき術策であろうが、もちろん私なりの手は打ってある…。
この地獄砂漠に放り出されて以来、何かと世話になった霊薬屋のメサモ──彼に懇願し、苦心に次ぐ苦心の末にようやくある秘薬を入手するに至ったのだ…」
答は既に予想していたのであろうか、灰色の髭に覆われた皺深い醜貌を歪めつつ、謎の老閃獣使いは唸るように吐き捨てた。
「よもやとは思っておったが、やはり“究極にして禁断の戦闘麻薬”【霊変髄香珠】に手を出しおったか…!
服用すれば、ごく短期間ながらいかなる卑賤な獣民であろうと指折りの魔強士へと“凶進化”させる狂気の超魔薬…!!
されど獣民ですらない異世界人である君がそれを摂取した時、一体いかなる地獄的な反作用がもたらされるか…果たしてどこまで考え抜いた上での決断だったというのかねッ…!?」
当然ながらこの建物の安全機構は徹底しており、闇市全域をほぼカバーし得る超高性能望遠監視カメラ群が設置された五指に満たぬ施設の一つである。
普段はペトゥルナワス各地から参集した好事家の大口賭け人たちに利用されるこの十畳ほどの空間は壁床天井及び調度品を白・黒・赤・青・黄・緑・紫で彩られた七種類二組の計十四室が存在しており、“真紅の死神”が選択したのはもちろん〈赤の部屋〉であった。
部屋の真ん中には直径百五十センチほどの円型スクリーンが台座に支えられて鎮座しており、極上の座り心地を保証する真っ赤な羅紗地の三人用最高級ソファーに陣取った、トレードマークである真紅の戦装束に身を固めた八重樫龍貴と、後ろで束ねた艶の無いざんばら髪から身に着けた質素な僧服に至るまで灰色一色の異様な老人がそれを凝視していたが、この怪人こそが“襲撃第二陣”のキーパーソンなのであった。
二人の前には長椅子に合わせたサイズの長方形の化粧石製テーブルが置かれ、龍貴が戦闘時に被る、悽愴にして華麗な意匠の真紅の髑髏仮面が清涼水のグラスとピッチャー(共に紅水晶製)と並んで載せられている。
“異世界の住人”となってから染め上げた炎のごとき赤髪は肩口を超えて背中まで達していたが、四元蓮馬には及ばぬにせよ十分に美貌と讃え得る琥珀色の顔立ちにはその信条に則って一本の無精髭も見当たらぬ。
されど現在彼が纏っているのはかつてのような〈戦闘服〉ではなく、堅牢な〈鎧〉なのであった。
「その魔強具、よもや再見できるとは思わなんだ──わしの目に狂いがなければ、かつての有力魔強士族・グフール家の領袖、バラドの愛用品じゃな…!?」
焔と黒煙を映し続ける画面に目を細めつつグラスを手にした八重樫は、残りの液体を一息で干した後で小さく頷いた。
「ああ、そうだ──さすがは“ペトゥルナワス戦史の生き字引”と畏怖される“最強閃獣使い”のサストン師、武具方面にもお詳しいようですな。
尤も色彩は元は漆黒であったのを私好みの真紅に変えてあるが…。
打ち明ければ襲撃に向けて準備をはじめてすぐにミゲーラに売り込まれ、その瞬間に一目惚れしてしまいましてね…。
しかも聞けばかつてはシェザード勢と並び称される強豪魔強士が装着していたということで、これは縁起が良い、もしや何らかの天佑かもしれぬ…という期待も込めて入手した次第…」
「なるほどな…たしかにこの乾坤一擲の大勝負に符節を合わせたかのごとくそちらの所有物となった事実にはただならぬ因縁を感じざるを得ん…。
もちろん今さら嘆いたとて詮なきことではあるが、もしあの時、バラド公が突然の病に仆れることさえなければ…決してシェザードごとき“悪逆貴民”に恣な跳梁を赦すことなく、堂々これを誅伐した後に悠然と魔強士族を統一し、歴史の汚点とも呼ぶべき現在の呪わしい獣民王政に速やかな終止符を打ったであろうものを…それが叶わなかったことが、現在の“救いなき永続的乱世”を決定付けてしまったのじゃて…」
この血を吐くがごとき慨嘆によって、どこまで純粋なものであるかは定かでないにせよ、この老人が貴民の血族であるのだけは確かなようであった。
「──その誤謬の歴史を修正するために、ペトゥルナワスという世界自体が生み出した“義の革命結社”こそが我ら銀魔星なのですよ…!」
この八重樫龍貴の断言に、あえて反論することなくサストン老人はグラスに手を伸ばしながら宣った。
「されど勇猛なる若者よ、惜しむらくは君自身の出自は魔強士族に非ず…たとえ“バラドの鎧”を纏えども、果たしてその秘められし鬼神力の全てを発揮し得るものであるのか…!?」
この当然ともいえる問いかけに、八重樫龍貴は画面を見据えたまま自嘲的とも虚無的ともいえる口調で返答した。
「ふふふ、もとより誇り高き貴民のあなたには唾棄すべき術策であろうが、もちろん私なりの手は打ってある…。
この地獄砂漠に放り出されて以来、何かと世話になった霊薬屋のメサモ──彼に懇願し、苦心に次ぐ苦心の末にようやくある秘薬を入手するに至ったのだ…」
答は既に予想していたのであろうか、灰色の髭に覆われた皺深い醜貌を歪めつつ、謎の老閃獣使いは唸るように吐き捨てた。
「よもやとは思っておったが、やはり“究極にして禁断の戦闘麻薬”【霊変髄香珠】に手を出しおったか…!
服用すれば、ごく短期間ながらいかなる卑賤な獣民であろうと指折りの魔強士へと“凶進化”させる狂気の超魔薬…!!
されど獣民ですらない異世界人である君がそれを摂取した時、一体いかなる地獄的な反作用がもたらされるか…果たしてどこまで考え抜いた上での決断だったというのかねッ…!?」
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