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第三章 星渕特抜生VS魔強士族!
金色の魔将、地獄砂漠に降臨す!(後編)
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黄金の巨鳥が大きく開いた、それ自体が強力な兵器といえる鋭い嘴から登場したのは金色の光球のみであったが、ほとんど同時に左右に開いた胸部からは長方形の空輸用コンテナシップが出現した──されどこの薄い金色の飛行体はいかなる理由でか、巨鳥と地上の中央付近に静止してそれ以上の降下を留保する。
「…そ、そうか、あれに購入品を収納するという訳だな…。
しかし何故、空中に留まるのか…?」
ノーガが畏怖の念を込めつつ呟いている間に光球は静かに着陸し、次の刹那には瑰麗な金色の魔強具で全身を覆ったスダイ=シェザードの雄姿を衆目に晒していた!
「……!!」
おそらく賓客を出迎えた十一人の関係者の内、その威容に最も衝撃を受けたのは鎧屋であったろう。
『こ、これが魔強士族がその身にまとう真正の魔強具というものか…!
ち、違う…何もかもが…。
も、もちろんオレが扱っている旧式とて、実際にそれなりの貴民どもに愛用された真物であることに変わりはないが、目の前で輝くコレと比べるならば…誇張抜きに日輪を前にした孤月に等しい…』
「──よ、ようこそいらっしゃいました!
“ペトゥルナワスの偉大なる支配者”…大シェザードの若殿よッ!!」
おそらくは砂漠に埋もれた一粒の宝石すら難なく見つけ出すのではないかと思わせる、青光りする機眼で一同を睥睨する金色の魔将へと文字通り揉み手しながら歩み出た顔役と呪面屋は深く頭を下げつつ歓迎の辞を述べたが、皆の血を凍らせる数秒間の沈黙の後、スダイ=シェザードは深みのある声音に若干の凄みを込めて返答した。
「──偉大なる支配者だと?
とうやら地獄砂漠においては時の流れが他所よりも些か早く進むようだな…。
それとも、未来を正確に予知する魔強具を駆使して得た結論か?
もしそうならばわざわざ足を伸ばした甲斐もあったというものだが、提出された〈在庫リスト〉にそこまでの神能を有する逸品の記載は無かったようだがな…」
「うへえっ、身の程も弁えず、出過ぎた物言いを致しましたッ!
──何卒、ご容赦をッ!!」
両者は直ちに平伏し叩頭したが、それは衷心からの謝罪というよりは赫怒した金色の魔将の鉄拳から我が身を守るための防御反応にしか見えなかった。
「……」
果たしてスダイ=シェザードはノーガらを一瞥もせず、その蒼き妖星のごとき冷酷な眼差しは立ち竦む残りの九人に向けられていたが、意外にも?彼らは金縛りにあったかのごとく身動き一つ取れなかったのである…。
「ふふふ、それでいい…何も他人の不手際に意味も無く諸君が連座する必要はないからな…」
されどこの毅然たる反応が決して自発的なものではなく、眼前の魔強士によって強いられたものであることを“悲観派魔刃屋”のみは明瞭に理解していた──というのも、彼の恋仇が扱う商品こそまさしく、貴民であるならばもちろんのこと、あまつさえ獣民が着用してさえ何らかの負の超常現象を発現するという、危険物揃いの旧式魔強具においても一、二を争うヤバさを誇ることを身を以て知っていたのだ──即ち数年前の三角関係の縺れにおいても互いに刃を握っての決闘こそ免れたものの、呪面を被ったルツォムの悪念によって一ヶ月近く原因不明の高熱に魘された事実を生々しく記憶していたのである…。
『完全純血獣民の彼奴ですらあれだけの現象を惹き起したのだ…となれは魔強士族──中でも“最強”と畏怖されるシェザードの血族が十人ばかりの獣民をまとめて金縛りにしてのけたとて何の不思議があろうか…そもそも、あの金色の仮面自体が超強力な呪面に違いないのだから…!』
「──さて、予めこちらの意向は伝えておいたゆえ、注文の品はつつがなく準備されていると思うが、どうしたものかこの中庭には見当たらんようだな…そうしてくれておれば手間が省けたものを…」
されど奇怪なことに、この疑問に真っ先に答えるべきノーガとバロフは地面に額を擦り付けたままで硬直しており、彼らの全身は苦痛に耐えているかのように細かく痙攣していた。
『うう、間違いない…魔強士のおそるべき念力がノーガらの躰を完全に支配しており、それが解除されぬ限り二人は永遠にあの体勢を強いられるばかりか、今この瞬間もじわじわと顔面を地面に埋め込まれつつあるのだ…!
このままではあといくばくも保たず、窒息死するしかないのでは…!?
長年の不和こそあれど、このような理不尽極まる最期にはさすがに同情を禁じ得ぬ…!』
──果たして、これ以上の“恐怖の来訪者”の不興を阻止すべく、〈楽観派〉の【妖衣屋】ナグマ(バロフと男色関係にあるとされる)が意を決して震え声を放った。
「そッ、それには確たる理由がございまして…じ、実はこのマーケットの疫病神ともいうべきヤベン一家…こ、此奴らはクソ生意気にも銀魔星の末端組織…らしいのでありますが、あろうことかこのクズ連中がおそれ多くもあなた様を襲撃し、あわよくばお命を奪おうと画策しておるとの怪情報を察知致しましたゆえ、せっかくのご注文の品々が破壊されては大変と、全てこの料理屋の地下室に運び込み、屈強な見張りを付けて厳重に管理しておるのでございますッ!
──なお、ここにおります鎧屋のミゲーラと魔刃屋のジーギー(二人の顔をしっかりと指差しつつ)…この者どもは不遜にも一家と気脈を通ずる反逆主義者でございまして、連中を厳しく尋問致されればこの悪魔の計画の詳細を掴めるかと存じますッッ!!」
「…そ、そうか、あれに購入品を収納するという訳だな…。
しかし何故、空中に留まるのか…?」
ノーガが畏怖の念を込めつつ呟いている間に光球は静かに着陸し、次の刹那には瑰麗な金色の魔強具で全身を覆ったスダイ=シェザードの雄姿を衆目に晒していた!
「……!!」
おそらく賓客を出迎えた十一人の関係者の内、その威容に最も衝撃を受けたのは鎧屋であったろう。
『こ、これが魔強士族がその身にまとう真正の魔強具というものか…!
ち、違う…何もかもが…。
も、もちろんオレが扱っている旧式とて、実際にそれなりの貴民どもに愛用された真物であることに変わりはないが、目の前で輝くコレと比べるならば…誇張抜きに日輪を前にした孤月に等しい…』
「──よ、ようこそいらっしゃいました!
“ペトゥルナワスの偉大なる支配者”…大シェザードの若殿よッ!!」
おそらくは砂漠に埋もれた一粒の宝石すら難なく見つけ出すのではないかと思わせる、青光りする機眼で一同を睥睨する金色の魔将へと文字通り揉み手しながら歩み出た顔役と呪面屋は深く頭を下げつつ歓迎の辞を述べたが、皆の血を凍らせる数秒間の沈黙の後、スダイ=シェザードは深みのある声音に若干の凄みを込めて返答した。
「──偉大なる支配者だと?
とうやら地獄砂漠においては時の流れが他所よりも些か早く進むようだな…。
それとも、未来を正確に予知する魔強具を駆使して得た結論か?
もしそうならばわざわざ足を伸ばした甲斐もあったというものだが、提出された〈在庫リスト〉にそこまでの神能を有する逸品の記載は無かったようだがな…」
「うへえっ、身の程も弁えず、出過ぎた物言いを致しましたッ!
──何卒、ご容赦をッ!!」
両者は直ちに平伏し叩頭したが、それは衷心からの謝罪というよりは赫怒した金色の魔将の鉄拳から我が身を守るための防御反応にしか見えなかった。
「……」
果たしてスダイ=シェザードはノーガらを一瞥もせず、その蒼き妖星のごとき冷酷な眼差しは立ち竦む残りの九人に向けられていたが、意外にも?彼らは金縛りにあったかのごとく身動き一つ取れなかったのである…。
「ふふふ、それでいい…何も他人の不手際に意味も無く諸君が連座する必要はないからな…」
されどこの毅然たる反応が決して自発的なものではなく、眼前の魔強士によって強いられたものであることを“悲観派魔刃屋”のみは明瞭に理解していた──というのも、彼の恋仇が扱う商品こそまさしく、貴民であるならばもちろんのこと、あまつさえ獣民が着用してさえ何らかの負の超常現象を発現するという、危険物揃いの旧式魔強具においても一、二を争うヤバさを誇ることを身を以て知っていたのだ──即ち数年前の三角関係の縺れにおいても互いに刃を握っての決闘こそ免れたものの、呪面を被ったルツォムの悪念によって一ヶ月近く原因不明の高熱に魘された事実を生々しく記憶していたのである…。
『完全純血獣民の彼奴ですらあれだけの現象を惹き起したのだ…となれは魔強士族──中でも“最強”と畏怖されるシェザードの血族が十人ばかりの獣民をまとめて金縛りにしてのけたとて何の不思議があろうか…そもそも、あの金色の仮面自体が超強力な呪面に違いないのだから…!』
「──さて、予めこちらの意向は伝えておいたゆえ、注文の品はつつがなく準備されていると思うが、どうしたものかこの中庭には見当たらんようだな…そうしてくれておれば手間が省けたものを…」
されど奇怪なことに、この疑問に真っ先に答えるべきノーガとバロフは地面に額を擦り付けたままで硬直しており、彼らの全身は苦痛に耐えているかのように細かく痙攣していた。
『うう、間違いない…魔強士のおそるべき念力がノーガらの躰を完全に支配しており、それが解除されぬ限り二人は永遠にあの体勢を強いられるばかりか、今この瞬間もじわじわと顔面を地面に埋め込まれつつあるのだ…!
このままではあといくばくも保たず、窒息死するしかないのでは…!?
長年の不和こそあれど、このような理不尽極まる最期にはさすがに同情を禁じ得ぬ…!』
──果たして、これ以上の“恐怖の来訪者”の不興を阻止すべく、〈楽観派〉の【妖衣屋】ナグマ(バロフと男色関係にあるとされる)が意を決して震え声を放った。
「そッ、それには確たる理由がございまして…じ、実はこのマーケットの疫病神ともいうべきヤベン一家…こ、此奴らはクソ生意気にも銀魔星の末端組織…らしいのでありますが、あろうことかこのクズ連中がおそれ多くもあなた様を襲撃し、あわよくばお命を奪おうと画策しておるとの怪情報を察知致しましたゆえ、せっかくのご注文の品々が破壊されては大変と、全てこの料理屋の地下室に運び込み、屈強な見張りを付けて厳重に管理しておるのでございますッ!
──なお、ここにおります鎧屋のミゲーラと魔刃屋のジーギー(二人の顔をしっかりと指差しつつ)…この者どもは不遜にも一家と気脈を通ずる反逆主義者でございまして、連中を厳しく尋問致されればこの悪魔の計画の詳細を掴めるかと存じますッッ!!」
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