37 / 66
第三章 星渕特抜生VS魔強士族!
金色の魔将、地獄砂漠に降臨す!(前編)
しおりを挟む
魔強具闇市にとって運命の日ともいえる《第二十七回旧式魔強具総払祭》がついに開幕したが、前日までの狂騒的ともいえる賑わいがウソのように現場は閑散としていた。
もちろん、原因は魔強士族の雄・スダイ=シェザードの訪問がもたらす“荒事への予感”が危険察知能力に秀でた行商人たちに忌避されたためである。
尤も、厳格な〈市場の掟〉によって《総払祭》開催中、総数三百を超える専門店が商う各種旧式魔強具の価格は通常営業日より遥かに減額されるものの、何よりもペトゥルナワスの覇権を巡って【シェザード闘盟軍】と血みどろの抗争を展開中の銀魔星末端組織が次期当主へ無謀な襲撃を計画しているという風聞が決定打となって、ほとんどの商談は昨日までに成約完了してしまっていたのだ。
従って、期待に胸を膨らませてこの日を迎えられたのは、意外にも?“砂漠の魔強具”に興味を示した賓客の求めに応じて市場から提出された、膨大な品数をまとめた在庫リストにチェックを入れられたアイテムのオーナーのみであった。
およそ四十年の歴史を有する当マーケットにあって、開市とほぼ同時に創業した老舗は広大な敷地の中心部に密集し、ほぼ例外なく風格ある石造りの店舗を構えていたが、彼らとて決して王国に認可された正規の商人であるとは限らず、一説によるとその半数が盗賊上がりと見做されているありさま。
あまつさえ、闇市を形成する奇々怪々なショップの全てが盛業なはずはなく、色とりどりの天幕造りの店を出せるのはマシな方で、ほとんど屋台のように小さな〈移動式店舗〉こそが実に七割以上を占めていたのてあった。
しかしさすがの審美眼というべきか、スダイ=シェザードが購入候補に選んだのは全て老舗店の秘蔵品のみであったのである。
かくて選ばれし者の晴れがましい優越心と大規模開発に伴う市場閉鎖への危機感が相半ばする複雑な心境の彼ら一流店主人たちと、市場を仕切る砂漠商会の顔役らが寄合所でもある市場最大の料理店の中庭に集合してゲストの登場を今か今かと待ちわびていたのであった。
そして地獄砂漠一面が朱い残照に染め上げられて暫く後、夜の帳が下りようとしたまさにその刹那を見計らったかのように、闇市上空に突如として〈黄金の巨鳥〉が出現したのだ!
「うおっ、あ、あれを見ろッ!
ま、まさかあの化け物が彼の乗り物なのかッ!?」
逸早く異変を察知した、鉄色の一張羅に身を包んだ精悍な面構えの鎧屋が指差す先に一斉に視線を注いだ一同は、来訪者の意図を摑みかねて呆然とするばかりであった。
「訪問は空から行う──たしかにそう予告はされていたものの、よもやあのような巨大怪物を伴って登場するとは!?
し、しかしあれほどの巨鳥がペトゥルナワスに存在するとは寡聞にも関知せぬのだが…」
辛子色の豪奢な布地で誂えられたマントを誇らしげにまとった、砂漠商会の長老連の中で最も若く、現在の魔強具闇市の代表者ともいえるノーガが脂ぎった禿頭を紅潮させてしきりと頭を振る。
「いや、あれはおそらくシェザード一族子飼いの、“万能匠”の異名を取るベグニなる天才技術者が造り上げた機械生物に違いあるまい…もちろんあれほど豪奢な仕様ではないにしろ、近々の戦況によると闘盟軍はあのような形式の戦闘機械をさかんに前線に投入しておるらしいということだ…」
最古参の【呪面屋】であり、ノーガの盟友として〈楽観派〉の最右翼でもあるバロフ(同業のルツォムは彼に注文を独占された)が随一の事情通ぶりを誇示するが、事態は既に次なる段階に移行していた。
「むうっ、怪鳥が金色の球体を吐き出したぞッ!
だ、大丈夫なのかッ!?
も、もしあれが爆弾だとしたら我々は一巻の終わりだッ!!」
〈悲観派〉としてはミゲーラとただ二人だけこの場に喚ばれた魔刃屋のジーギーが及び腰で絶叫するが、ここぞとばかりにバロフが敵対者を一喝した。
「バカめ、慌てるなッ!
あれこそが魔強士族の飛行スタイルなのだッ!
されどさすがであるな…当然の備えとはいえ、悲観派と昵懇のヤペン一家による暗殺計画をしっかりと織り込み、魔強具装着で乗り込んでくるとはッ…!!」
もちろん、原因は魔強士族の雄・スダイ=シェザードの訪問がもたらす“荒事への予感”が危険察知能力に秀でた行商人たちに忌避されたためである。
尤も、厳格な〈市場の掟〉によって《総払祭》開催中、総数三百を超える専門店が商う各種旧式魔強具の価格は通常営業日より遥かに減額されるものの、何よりもペトゥルナワスの覇権を巡って【シェザード闘盟軍】と血みどろの抗争を展開中の銀魔星末端組織が次期当主へ無謀な襲撃を計画しているという風聞が決定打となって、ほとんどの商談は昨日までに成約完了してしまっていたのだ。
従って、期待に胸を膨らませてこの日を迎えられたのは、意外にも?“砂漠の魔強具”に興味を示した賓客の求めに応じて市場から提出された、膨大な品数をまとめた在庫リストにチェックを入れられたアイテムのオーナーのみであった。
およそ四十年の歴史を有する当マーケットにあって、開市とほぼ同時に創業した老舗は広大な敷地の中心部に密集し、ほぼ例外なく風格ある石造りの店舗を構えていたが、彼らとて決して王国に認可された正規の商人であるとは限らず、一説によるとその半数が盗賊上がりと見做されているありさま。
あまつさえ、闇市を形成する奇々怪々なショップの全てが盛業なはずはなく、色とりどりの天幕造りの店を出せるのはマシな方で、ほとんど屋台のように小さな〈移動式店舗〉こそが実に七割以上を占めていたのてあった。
しかしさすがの審美眼というべきか、スダイ=シェザードが購入候補に選んだのは全て老舗店の秘蔵品のみであったのである。
かくて選ばれし者の晴れがましい優越心と大規模開発に伴う市場閉鎖への危機感が相半ばする複雑な心境の彼ら一流店主人たちと、市場を仕切る砂漠商会の顔役らが寄合所でもある市場最大の料理店の中庭に集合してゲストの登場を今か今かと待ちわびていたのであった。
そして地獄砂漠一面が朱い残照に染め上げられて暫く後、夜の帳が下りようとしたまさにその刹那を見計らったかのように、闇市上空に突如として〈黄金の巨鳥〉が出現したのだ!
「うおっ、あ、あれを見ろッ!
ま、まさかあの化け物が彼の乗り物なのかッ!?」
逸早く異変を察知した、鉄色の一張羅に身を包んだ精悍な面構えの鎧屋が指差す先に一斉に視線を注いだ一同は、来訪者の意図を摑みかねて呆然とするばかりであった。
「訪問は空から行う──たしかにそう予告はされていたものの、よもやあのような巨大怪物を伴って登場するとは!?
し、しかしあれほどの巨鳥がペトゥルナワスに存在するとは寡聞にも関知せぬのだが…」
辛子色の豪奢な布地で誂えられたマントを誇らしげにまとった、砂漠商会の長老連の中で最も若く、現在の魔強具闇市の代表者ともいえるノーガが脂ぎった禿頭を紅潮させてしきりと頭を振る。
「いや、あれはおそらくシェザード一族子飼いの、“万能匠”の異名を取るベグニなる天才技術者が造り上げた機械生物に違いあるまい…もちろんあれほど豪奢な仕様ではないにしろ、近々の戦況によると闘盟軍はあのような形式の戦闘機械をさかんに前線に投入しておるらしいということだ…」
最古参の【呪面屋】であり、ノーガの盟友として〈楽観派〉の最右翼でもあるバロフ(同業のルツォムは彼に注文を独占された)が随一の事情通ぶりを誇示するが、事態は既に次なる段階に移行していた。
「むうっ、怪鳥が金色の球体を吐き出したぞッ!
だ、大丈夫なのかッ!?
も、もしあれが爆弾だとしたら我々は一巻の終わりだッ!!」
〈悲観派〉としてはミゲーラとただ二人だけこの場に喚ばれた魔刃屋のジーギーが及び腰で絶叫するが、ここぞとばかりにバロフが敵対者を一喝した。
「バカめ、慌てるなッ!
あれこそが魔強士族の飛行スタイルなのだッ!
されどさすがであるな…当然の備えとはいえ、悲観派と昵懇のヤペン一家による暗殺計画をしっかりと織り込み、魔強具装着で乗り込んでくるとはッ…!!」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
今日から始める最強伝説 - 出遅れ上等、バトル漫画オタクは諦めない -
ふつうのにーちゃん
ファンタジー
25歳の春、転生者クルシュは祖国を出奔する。
彼の前世はしがない書店経営者。バトル漫画を何よりも愛する、どこにでもいる最強厨おじさんだった。
幼い頃の夢はスーパーヒーロー。おじさんは転生した今でも最強になりたかった。
その夢を叶えるために、クルシュは大陸最大の都キョウを訪れる。
キョウではちょうど、大陸最強の戦士を決める竜将大会が開かれていた。
クルシュは剣を教わったこともないシロウトだったが、大会に出場することを決める。
常識的に考えれば、未経験者が勝ち上がれるはずがない。
だがクルシュは信じていた。今からでも最強の座を狙えると。
事実、彼の肉体は千を超える不活性スキルが眠る、最強の男となりうる器だった。
スタートに出遅れた、絶対に夢を諦めないおじさんの常勝伝説が始まる。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
女ハッカーのコードネームは @takashi
一宮 沙耶
大衆娯楽
男の子に、子宮と女性の生殖器を移植するとどうなるのか?
その後、かっこよく生きる女性ハッカーの物語です。
守護霊がよく喋るので、聞いてみてください。
公爵家次男の巻き込まれ人生
零
ファンタジー
ヴェルダン王国でも筆頭貴族家に生まれたシアリィルドは、次男で家を継がなくてよいということから、王国軍に所属して何事もない普通の毎日を過ごしていた。
そんな彼が、平穏な日々を奪われて、勇者たちの暴走や跡継ぎ争いに巻き込まれたりする(?)お話です。
※見切り発進です。
見習い動物看護師最強ビーストテイマーになる
盛平
ファンタジー
新米動物看護師の飯野あかりは、車にひかれそうになった猫を助けて死んでしまう。異世界に転生したあかりは、動物とお話ができる力を授かった。動物とお話ができる力で霊獣やドラゴンを助けてお友達になり、冒険の旅に出た。ハンサムだけど弱虫な勇者アスランと、カッコいいけどうさん臭い魔法使いグリフも仲間に加わり旅を続ける。小説家になろうさまにもあげています。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる