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第二章  聖剣皇子、乱舞の果てに…!?

夢見ノ者IN凶夢空間(中編)

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「──キサマ…よくも…よくも可愛い後輩をオモチャにしおって…!!」

 四元蓮馬が必死に絞り出した怒りの声をバアル=シェザードは平然と無視し、腕組みしたまま微動だにしない──それはあたかも会心の傑作を生み出した芸術家が仕上がった画布キャンバスを離れた場所から満足気に見つめているかのごとくであった。

『うぬ…はまさに夢見ノ力を極限まで悪用することで誕生した、いわば〈精神兵器サイコウェポン〉ともいうべきものだ…!

 おそらく私が右手の聖剣で攻撃すれば、この頑是なく可憐な表情が恐怖と苦痛に歪みつつ阿鼻叫喚の悲鳴を発し、そして血飛沫までがリアルに現象するにちがいない…!!

 ──くッ、それにしても何と卑劣極まる心理攻撃を仕掛けてくるものか…常に貴族的なまでに真正面から向かってきたリドの身内とはとても思えん…まさに水と油、先程からの彼奴の口吻からも窺えるが、兄弟とはいえ戦闘に対する姿勢が天地ほどに異なる両者が犬猿の関係にあることはむしろ当然といえよう…!

 されどこのままでは埒が明かん…ここは心を鬼にして降魔の利剣を振るい、一刻も早くを救い出さねばッ!

 ──うむッ!?』

 無防備そのものの敵?を前にして煩悶する聖剣皇子にひたすらにじり寄る高瀬花凛の幻像は残り二メートル付近から凄まじい跳躍を敢行し、ついにその胸の中に飛び込むことに成功した!

「あばばばばあッ!

 よちゅもとしぇんぱい、とうとうちゅきゃみゃえたッ!!

 でも、きょんなきゃたいきゃりゃだじゃいやッ!

 ひゃやくいちゅものちれいにゃしゅぎゃたにみょどって、きゃりんにあちゃちゃきゃいお✕ん✕んをおしゃびゅりしゃしぇてッ!!」

 かくて頸部に白い両腕を、腰に両脚を巻きつけられた朱き鳥人は、懸念したとおりの生身の肉体そのものの重量感と今にも泣き出しそうな懇願の表情によって特抜生となって以来…いや十八年の生涯を通じて最大級の怒りと困惑の極にあったが、この耳を塞ぎたくなるような猥言を聴き終わった瞬間やおら怒り心頭に発し、ニセ花凛の首っ玉を荒々しく摑むや否や激痛を訴えるけたたましい叫びをよそに渾身の力を込めて自身から引き剥がすと、まるで穢らわしいものを振り捨てるかのように無我夢中で空中に放り出していたのである!

 これにより必死で縮めたおよそ十メートルの距離を、あろうことか最愛の存在によってまたもそれ以上にまで遠ざけられてしまった花凛は暫しの間きょとんとしていたが、やがて絶望に見開かれた黒瞳からは大粒の涙が溢れ出し、白い喉からは雷のように激烈な号泣が迸った。

「えーん、えーん、ええーんッ!!

 よちゅもとちぇんぱいにょいぢわるッ!

 あんにゃおんにゃのどきょがいいにょッ!?

 どうちて、だみゃしゃれちぇりゅきょとぎゃわきゃりゃにゃいにょッ!?

 あいちゅは…にはほきゃにみょちゃきゅしゃんおちょきょぎゃいりゅにょにッッ!!!」

   この血を吐くような魂の慟哭はおよそ三分間も続いたが、最強特抜生はその場に固まったままなす術も無く、一方の紫の魔強士は腕をほどくと静かに口を開いた。

「──アンタはひどい野郎だね…!

 大方、このいたいけな赤ん坊をタチの悪い爆弾かなんぞのように勝手に誤解して突き放したんだろうけど、誇り高きシェザード一族のこのボクが何が悲しくてそんな卑怯極まる手段を使うんだよ…!?

 …!」

 バアルの口調は先程までのどこか一抹の媚すら含んだ愛嬌ある物言いから一変し、あたかも愚兄リドをなじっている時と同様の圭角のあるものとなっていた。

 ──どうやら、彼は心底怒っているらしい。

はそもそも使うつもりはなかったんだが…このままじゃボクの腹の虫が収まらない…!

 四元サン…これからアンタにはちょっとした地獄を味わってもらうことになるが、悪く思わんでくれ…。

 何より、そのきっかけを作ったのはそっちのとても血の通った人間とは思えない没義道もぎどうな態度なんだからネ…!!」




 

 
 



 
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