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第二章 聖剣皇子、乱舞の果てに…!?
地獄に堕ちた遠征長(中編)
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主観と客観のギャップとは、かくも甚だしいものなのか──しかも〈真聖戦士〉にとって最大の標的といえるシェザード三兄弟の一員によって突きつけられた非情なまでの寸評は、それ故にこそ“否定しようのない真実”として黒瀧晶悟の肺腑を抉った。
「こ、このオレが四元はおろか旋堂よりも下だと…!?
バ、バカな、そんなことがあるワケがねえ…!
よお…リドとか言ったな…てめえ、ホントいい度胸してるぜ…、
だがよッ、そんな大口叩けるのはこの黒瀧晶悟が本気で怒った時の恐ろしさを知らねえからだってことを骨の髄まで思い知らせてやるぜえッ!!
──果たして殺念矢を食らってもデケえ面してられるのかよッ、エエッ!?」
絶対の自信と共に敵に向けて掲げた両手の指先から発射された見えざる矢──しかし、ここで黒瀧晶悟はある錯誤を犯していた。
そしてそれを理解しているが故か、白い魔強士はよけるどころか防御する動きすら見せず、仁王立ちのまま微動だにしない。
「アホがッ!そんなにカッコつけたきゃそのまま一ミリたりとも動くんじゃねえぜッ!!
テメエの鎧に風穴開けて、内部の腐れ肉をズタズタに切り刻むまで何百発でも連射してやるからよッッ!!!」
──この宣言が終わるまでには当然ながら初弾の殺念矢はリド=シェザードの右胸(ペトゥルナワス人の心臓の位置)に命中していたが、魔強具に保護されたその躰は小揺るぎすらしないではないか!?
「──ヘッ、こっちも一発や二発でどうこうなるとは思っちゃいねえ…だがよ、おんなじ個所にひたすら撃ち込んだら…したたる滴が巌に穴を穿つことだってあるのさッッ!!」
かくて〈連射モード〉に入った漆黒の拳士は、最も安定する片膝を立てた中腰体勢のまま自己の念撃力が涸れ果てるまでと覚悟を固める。
「このホラ吹き野郎がッ!
テメエがこれから行くのは故郷じゃなくて閻魔様がウソつきどもの舌を引っこ抜きたくてウズウズしてる地獄だぜッ!!
さあ殺念矢を腹が裂けるまで食らってさっさとくたばれええええええッッ!!!」
むろんここまでの殺念矢乱射は晶悟にとっても初体験であったが、その反動かおよそ一分が経過したあたりで両腕の肘から先に耐え難い熱感を覚え、不本意ながら一旦連射を中断せざるを得ぬ破目に陥った。
『──クッ、ま、まさかこのにわか念術の連続行使がここまでの肉体的負担を強いるとはな…!
や、やはり畑違いの領域を完全に自分の血肉と化すところまで行くにはまだ経験が足りなかったかということか…!?』
「──いいや、違うな…!」
殺念矢が命中する毎にバシッバシッという炸裂音こそ発せられたものの、その白い鎧の表面にはただ一筋の疵すらも刻みつけられていない──この厳然たる事実を確認して愕然とする攻撃者に、魔強士族の新たな嘲罵が浴びせられる。
「眼前の事象をどこまでも都合よく解釈する悪癖こそまさに弱卒の証明…よいか、今ここで明らかとなったのはキサマの戦技の可否などではなく、それ以前の戦士としての根源的な資質なのだッ!
──事実、キサマが愚かにも自信満々で放った殺念矢なる念術技…それを私が撃てばこのようになるッ!!」
リド=シェザードの白い仮面に鋭く光る金色の両眼…その輝きが一際増したと見えた次の刹那、左胸に抉り込むような疼痛を覚えた黒瀧晶悟は断末魔のごとき呻きを上げ、両手で心臓を押さえながらその場に崩れ落ちた!
「──どうだ?
殺念矢などと名称だけは物々しいが、キサマのそれは念術のとば口にすら達しておらぬ単なる児戯…。
しかも只今の一発はそちらの注文通り些かも動かずして眼力のみで放った訳だが、仮に指先を使った場合にいかなる結果が招来されるか、後学のため体験してみる気はないかな…!?」
未だ味わったことのない、呼吸すらままならなくさせる壮絶な苦痛に苛まれて脂汗を流す黒瀧晶悟は特抜生となってはじめて死の恐怖を実感していた。
『こ、これが真正の魔強士族の実力…!
…む、むろん現地でその眷族と相見えたことはあるが、烈魂拳兵団の地獄訓練でリゾル麾下の烈拳士にイヤというほど揉まれたオレの実力を凌駕するヤツは一人もいなかった…だ、だがコイツは明らかに次元が違う…認めたくはねえが、たとえ本分の格闘戦に突入しようとも、とても勝てる気かしねえ…」
「──どうやら痛い目に遭って少しは正気付いたようだが、どこまでも浅はかなキサマはこの根本的な事実に思い至っておらぬようだな…つまり、本来ペトゥルナワスでの戦闘用に開発された烈拳甲の潜在力は、この地上世界においてはその半分すらも発揮できぬということをッ!!」
「──!?」
思えば、最初の拳撃ラッシュの距離感を誤った時点でそれに気付くべきであった──加えてパンチ一つ放つにしても彼の地ではただの一度も感じたことのないジワリとした重さに戸惑いを覚えてはいたのだが、他ならぬ故郷においてよもや神匠の手になる魔強具の威光がここまで減殺されようとは──!
『だ、だがそうなると、必然的に魔強士の技の威力も半減するはず…そ、それなのにこれだけのダメージを負わせられるのは何故だ…?』
──されどその疑問への解答は当の魔強士族によって直ちにもたらされた。
「くくく…己の矮小な力量を以て相手の実力を推し量ろうとするのはこれまた弱兵の常套というべきだが、あまりの哀れさに免じて一つ知恵を授けてやろうか…。
実はな、キサマら特抜生(地上人)とは裏腹に、我ら魔強士族の戦力は地上世界において倍加…否、軽く見積もってもおよそ四倍強に増大するのよッ!!」
「こ、このオレが四元はおろか旋堂よりも下だと…!?
バ、バカな、そんなことがあるワケがねえ…!
よお…リドとか言ったな…てめえ、ホントいい度胸してるぜ…、
だがよッ、そんな大口叩けるのはこの黒瀧晶悟が本気で怒った時の恐ろしさを知らねえからだってことを骨の髄まで思い知らせてやるぜえッ!!
──果たして殺念矢を食らってもデケえ面してられるのかよッ、エエッ!?」
絶対の自信と共に敵に向けて掲げた両手の指先から発射された見えざる矢──しかし、ここで黒瀧晶悟はある錯誤を犯していた。
そしてそれを理解しているが故か、白い魔強士はよけるどころか防御する動きすら見せず、仁王立ちのまま微動だにしない。
「アホがッ!そんなにカッコつけたきゃそのまま一ミリたりとも動くんじゃねえぜッ!!
テメエの鎧に風穴開けて、内部の腐れ肉をズタズタに切り刻むまで何百発でも連射してやるからよッッ!!!」
──この宣言が終わるまでには当然ながら初弾の殺念矢はリド=シェザードの右胸(ペトゥルナワス人の心臓の位置)に命中していたが、魔強具に保護されたその躰は小揺るぎすらしないではないか!?
「──ヘッ、こっちも一発や二発でどうこうなるとは思っちゃいねえ…だがよ、おんなじ個所にひたすら撃ち込んだら…したたる滴が巌に穴を穿つことだってあるのさッッ!!」
かくて〈連射モード〉に入った漆黒の拳士は、最も安定する片膝を立てた中腰体勢のまま自己の念撃力が涸れ果てるまでと覚悟を固める。
「このホラ吹き野郎がッ!
テメエがこれから行くのは故郷じゃなくて閻魔様がウソつきどもの舌を引っこ抜きたくてウズウズしてる地獄だぜッ!!
さあ殺念矢を腹が裂けるまで食らってさっさとくたばれええええええッッ!!!」
むろんここまでの殺念矢乱射は晶悟にとっても初体験であったが、その反動かおよそ一分が経過したあたりで両腕の肘から先に耐え難い熱感を覚え、不本意ながら一旦連射を中断せざるを得ぬ破目に陥った。
『──クッ、ま、まさかこのにわか念術の連続行使がここまでの肉体的負担を強いるとはな…!
や、やはり畑違いの領域を完全に自分の血肉と化すところまで行くにはまだ経験が足りなかったかということか…!?』
「──いいや、違うな…!」
殺念矢が命中する毎にバシッバシッという炸裂音こそ発せられたものの、その白い鎧の表面にはただ一筋の疵すらも刻みつけられていない──この厳然たる事実を確認して愕然とする攻撃者に、魔強士族の新たな嘲罵が浴びせられる。
「眼前の事象をどこまでも都合よく解釈する悪癖こそまさに弱卒の証明…よいか、今ここで明らかとなったのはキサマの戦技の可否などではなく、それ以前の戦士としての根源的な資質なのだッ!
──事実、キサマが愚かにも自信満々で放った殺念矢なる念術技…それを私が撃てばこのようになるッ!!」
リド=シェザードの白い仮面に鋭く光る金色の両眼…その輝きが一際増したと見えた次の刹那、左胸に抉り込むような疼痛を覚えた黒瀧晶悟は断末魔のごとき呻きを上げ、両手で心臓を押さえながらその場に崩れ落ちた!
「──どうだ?
殺念矢などと名称だけは物々しいが、キサマのそれは念術のとば口にすら達しておらぬ単なる児戯…。
しかも只今の一発はそちらの注文通り些かも動かずして眼力のみで放った訳だが、仮に指先を使った場合にいかなる結果が招来されるか、後学のため体験してみる気はないかな…!?」
未だ味わったことのない、呼吸すらままならなくさせる壮絶な苦痛に苛まれて脂汗を流す黒瀧晶悟は特抜生となってはじめて死の恐怖を実感していた。
『こ、これが真正の魔強士族の実力…!
…む、むろん現地でその眷族と相見えたことはあるが、烈魂拳兵団の地獄訓練でリゾル麾下の烈拳士にイヤというほど揉まれたオレの実力を凌駕するヤツは一人もいなかった…だ、だがコイツは明らかに次元が違う…認めたくはねえが、たとえ本分の格闘戦に突入しようとも、とても勝てる気かしねえ…」
「──どうやら痛い目に遭って少しは正気付いたようだが、どこまでも浅はかなキサマはこの根本的な事実に思い至っておらぬようだな…つまり、本来ペトゥルナワスでの戦闘用に開発された烈拳甲の潜在力は、この地上世界においてはその半分すらも発揮できぬということをッ!!」
「──!?」
思えば、最初の拳撃ラッシュの距離感を誤った時点でそれに気付くべきであった──加えてパンチ一つ放つにしても彼の地ではただの一度も感じたことのないジワリとした重さに戸惑いを覚えてはいたのだが、他ならぬ故郷においてよもや神匠の手になる魔強具の威光がここまで減殺されようとは──!
『だ、だがそうなると、必然的に魔強士の技の威力も半減するはず…そ、それなのにこれだけのダメージを負わせられるのは何故だ…?』
──されどその疑問への解答は当の魔強士族によって直ちにもたらされた。
「くくく…己の矮小な力量を以て相手の実力を推し量ろうとするのはこれまた弱兵の常套というべきだが、あまりの哀れさに免じて一つ知恵を授けてやろうか…。
実はな、キサマら特抜生(地上人)とは裏腹に、我ら魔強士族の戦力は地上世界において倍加…否、軽く見積もってもおよそ四倍強に増大するのよッ!!」
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