上 下
9 / 66
第一章  真夏の行事は〈異世界遠征〉!?

美剣士の呻きは真夏の蜃気楼(前編)

しおりを挟む
 秘密資料室に集合した十一名の特抜生と職員がブリーフィングが終了間際となり、今回遠征長を務める黒瀧晶悟が松神彩羅の赤いオープンスポーツカーの助手席に乗り込んで母校に今しも到着せんとした夕刻前、〈総代〉を務める四元蓮馬の姿はいかなる理由でか、O駅前に聳える三十階建て高級マンション17階の一室──しかもバスルームにあった。

 部屋のオーナーは星渕学園理事長・松神駿一郎であり、現在は国立O大医学部二回生の三女・彩紗あやさが長女の彩羅と二人で暮らしている。

 東京の私大で十九世紀フランス文学を専攻する次女の彩芭あやはは現在、一年休学して眷恋の地であるパリに留学中であった。

 見事に発達した胸板──されどその表面は深窓の令嬢顔負けの白雪のごとき肌が輝いている──をのけ反らせて銀色にかがやく真鍮の高級シャワーヘッドから勢いよく迸る冷水を瞑目しつつ受け止める蓮馬はその凄まじい剣技とは対照的に清麗な美姫を彷彿とさせる容貌の主であり、濡れそぼつ長い睫毛一つとっても蠱惑的としか表現できぬ危険な美を内包していた。

 ──そして浴室の曇り硝子戸が音もなく開かれ、その肉体の魔力の虜である松神彩紗が全裸となってその背後に忍び寄ったのである…。

 もちろん、“史上最強特抜生”とも評される若き美剣士は侵入者の存在を感知しているが、あえて今の態勢を崩そうとはせず、これ幸いとばかりにその背に荒々しくしがみついたのはそうする資格を充分に備えた美女であった。

「──蓮馬さまッ!!

 ダメですッ!もう私、待ち切れませんッッ!!!」

 感に堪えたかのような震え声で叫びつつ、白く逞しい背中に烈しい接吻を浴びせるショートヘアの松神彩紗はいかにも医学生らしい理知的な美貌をこの時ばかりは憧れのスターを前にした熱狂的崇拝者のごとく引き攣らせて今にも泣き出さんばかりである。

「──困った女性ひとですね、未だ【魂滴の儀】も終わってないというのに…」

 決して咎めるというのではないが、どこか哀しげなその声音にハッと我に返った彩紗の表情は取り返しのつかないことをしてしまった悔恨に歪み、その飛沫に濡れた瞼の下の瞳にはみるみる涙の玉が溢れ出すのであった。

「ご、ごめんなさい…私、勝手に一人で興奮してしまって…何てはしたない真似を…!」

 しなやかな指先でバルブを閉じた“星渕の聖剣皇子”はゆっくりと振り返ると、俯く理事長の三女の両頬を両掌で包んで優しく上向かせる。

「──どうして泣くのですか?

 私もを心からのぞんでいるというのに…?」

 顔に触れられた瞬間、まさに電気に撃たれたように全身を震わせた彩紗であったが、さらにこの言葉によって背中を氷柱つららの尖端で撫で上げられたかのごとき戦慄を味わったのであった。

 ここで一旦瞑目した蓮馬は、先程までの冷水シャワーを浴びていた時と同じく顔を上向かせてただ一言、呟いた。

「…疼く」

 ──と。

 次の刹那、聡明な医学生の頭部は有無を言わさぬ力でかき抱かれ、彼女の顔は激しく高鳴る若者の胸に強く押し当てられていた──!

 そしてそのまま永遠ともいうべき十数秒間が刻まれた後、四元蓮馬は厳かに懇願した。

「──一滴残らず、飲み干してほしい…!

 …!!」

 心底待ち望んでいた赦しを得た松神彩紗は決意を込めて「はい」と頷き、紅唇を〈運命の人ソウルメイト〉の肌に強く押し当てたままままゆっくりと跪いてゆく…。

 ──そして誇り高く天に冲する肉の剣先が顎に触れた瞬間、あたかも女豹が獲物に躍りかかるかのようにそれにむしゃぶりつき、一方の美しき生贄は運命を受け容れたかのごとく切ない呻きを上げながら襲撃者の頭頂を上体をのけ反らせたのであった…。
 





 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

不登校が久しぶりに登校したらクラス転移に巻き込まれました。

ちょす氏
ファンタジー
あ~めんどくせぇ〜⋯⋯⋯⋯。 不登校生徒である神門創一17歳。高校生である彼だが、ずっと学校へ行くことは決してなかった。 しかし今日、彼は鞄を肩に引っ掛けて今──長い廊下の一つの扉である教室の扉の前に立っている。 「はぁ⋯⋯ん?」 溜息を吐きながら扉を開けたその先は、何やら黄金色に輝いていた。 「どういう事なんだ?」 すると気付けば真っ白な謎の空間へと移動していた。 「神門創一さん──私は神様のアルテミスと申します」 'え?神様?マジで?' 「本来呼ばれるはずでは無かったですが、貴方は教室の半分近く体を入れていて巻き込まれてしまいました」 ⋯⋯え? つまり──てことは俺、そんなくだらない事で死んだのか?流石にキツくないか? 「そんな貴方に──私の星であるレイアースに転移させますね!」 ⋯⋯まじかよ。 これは巻き込まれてしまった高校17歳の男がのんびり(嘘)と過ごす話です。 語彙力や文章力が足りていない人が書いている作品の為優しい目で読んでいただけると有り難いです。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

おじさんが異世界転移してしまった。

月見ひろっさん
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか? モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...