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第一章 真夏の行事は〈異世界遠征〉!?
新遠征長、母校に帰る⑤
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「コ、コイツめッ、一体何を考えているのだッ!?」
烈拳甲の全パワーを発動しての“ファイヤーベアハッグ”で肋骨をギリギリと締め上げられる八重樫龍貴は、苦悶しつつも自身が放った炎が自慢のマントに燃え移るのを呆然と見つめていた。
「う…うぐッ!──く、苦しい…、
だ、だが何ということだ…完璧に決まった焔華龍をまとい付かせたまま捨て身の相打ち狙いに出るとはな…よもやこの未熟者にこれほどの覚悟が宿っていたとは…!
し、しかしどうしても解せん…このオレの渾身の念術殺法を浴びながらどうして反撃できるのだ?
──はッ!そ…そうか、晶悟は最初から精神をハックされ、遠隔操作されていたのだッ!!
卑怯にも姿を隠したままの魔強士にッ!!!
ならばこちらも肚を決めねばなるまい…たとえ此奴を捕らえたところで完全に洗脳され、骨の髄まで聖衛軍に取り込まれているのであれば、わざわざ手間をかけて脱洗脳するほどの価値も見い出せんしなッ!!
さらばだ後輩よッ!せめて現時点における我が究極奥義にて苦痛なく大宇宙に渦巻く微粒子に還してやるわ──虚真龍ッッ!!!」
紅の手袋が焼け焦げるのも構わず右掌を黒瀧晶悟の顔面に押し当てた八重樫龍貴はありったけの精神力を動員して捕獲者の頭部を丸ごと消滅すべく凝念するが、次の刹那、自らの延髄部に凄まじい圧痛を覚えて思わず喉元をのけ反らせた!
『バ、バカなッ!?──こ、この技は、オレが黒瀧に最初に見舞った狂牙龍ではないかッ!?
お、おのれヌーロスめ、どこまでも愚弄しおって…!
くうッ…せ、せめてこの炎熱さえなければハネ返せるものを…ダ、ダメだ、意識が薄れてゆく…!
──お、おおリオーヌよ…こ、このペトゥルナワスの絶対者となっておまえをこの腕で抱きしめるまではオレの戦いは決して終わらぬ…だ、断じてこんな所で朽ち果てる訳にはいかん…のだ…』
──真紅の死神があえなく失神したのとほとんど同時に漆黒の拳士の滞空能力も限界を迎え、不倶戴天の特抜生二人はあたかも断崖から投身する恋人同士のように固く抱き合ったまま真っ逆さまに星霊森へと墜落してしまったのである…。
──精悍な浅黒い肌の、ハーフと見紛う彫りの深い貌立ちの黒瀧晶悟が覚醒した時、新幹線は今まさにO駅のホームに乗り入れんとするところであった。
どうやら出発点である中部地方のA県から目的地までのおよそ二時間、ぐっすり寝入ってしまったことを覚った新遠征長はスッキリ晴れ渡った頭を傾げて思わず苦笑した。
『やれやれ…久々の遠征に備えてバイトも控え、なるべく入念な調整に努めたつもりだが結果としてオーバーワークになってたらしいな──しかも貧乏学生の哀しさで下宿じゃ悲惨な扇風機生活だもんだから、天国みてえな冷房が気持ち良すぎてつい寝込んじまったぜ…。
──ところで学園長の話じゃ、光栄にも美人のお出迎えを寄越して下さってるとのことだが…』
黒い旅行用バックパックを背負い、Tシャツ、ショートジーンズ、そして素足に履いたスニーカーもブラックで統一した晶悟がホームに降り立った時、その研ぎ澄まされた感覚は直ちに“星渕の使者”が誰であるのかを察知したが、意表をついたその出で立ちはさすがの勇者をも唖然とさせるに十分であった。
『こりゃ驚いた…!
ごくノーマルに学園関係者がいらしてるのかと思えば──彩羅姫直々のお出ましとはね…!
しかも、相変わらず天真爛漫と称えるべきかはたまた天衣無縫と感嘆すべきか…いやはや、何ぼ何でもいくら暑いからってかくのごとき姿で公共の場に堂々ご登場なさるとは──さすがは松神理事長のご息女だけのことはある…のか?』
──彼女の性格を熟知する元特抜生にしてその場に硬直してしまったほどであるから構内を行き交う人々にとってはなおさら奇異な印象を与えるに相違なく、事実、松神彩羅の存在に気付いた人々は老若男女問わず眉を顰めるか口をあんぐりと開いて見惚れるかに二分された──されど後者はむろんのこと、批判的態度の前者の視線にすらも、二十代前半と見受けられる彼女の光り輝く美貌と完璧なプロポーションに対する讃嘆だけは否定し難く含まれているようであった…。
──しかしながら、その完璧な肉体を包む衣裳だけは、さしもの身内ですらも擁護しかねる代物であったのである…。
「ハーイ!お帰り黒ちゃん!!
しばらく見ないうちにまた一段と逞しくなったみたいねえ!!」
五本の指全てにリングを嵌めたパールピンクのマニキュアが煌めく右手を掲げ、あたかも黒ずくめの帰還者に対抗するかのように麦わら帽子、そして何よりも衝撃的なビキニスカートの水着とその上から羽織ったラッシュガードとヒールサンダル──身を固めるアイテムの全てを真紅で統一し、誇張抜きに女王のごとき威厳と優雅さを発散させつつ歩み寄る“星渕のクレオパトラ”は、呼びかけられた本人が思わず赤面してしまったほどの大声を僅か三メートルの至近距離から轟かせたのであった!
烈拳甲の全パワーを発動しての“ファイヤーベアハッグ”で肋骨をギリギリと締め上げられる八重樫龍貴は、苦悶しつつも自身が放った炎が自慢のマントに燃え移るのを呆然と見つめていた。
「う…うぐッ!──く、苦しい…、
だ、だが何ということだ…完璧に決まった焔華龍をまとい付かせたまま捨て身の相打ち狙いに出るとはな…よもやこの未熟者にこれほどの覚悟が宿っていたとは…!
し、しかしどうしても解せん…このオレの渾身の念術殺法を浴びながらどうして反撃できるのだ?
──はッ!そ…そうか、晶悟は最初から精神をハックされ、遠隔操作されていたのだッ!!
卑怯にも姿を隠したままの魔強士にッ!!!
ならばこちらも肚を決めねばなるまい…たとえ此奴を捕らえたところで完全に洗脳され、骨の髄まで聖衛軍に取り込まれているのであれば、わざわざ手間をかけて脱洗脳するほどの価値も見い出せんしなッ!!
さらばだ後輩よッ!せめて現時点における我が究極奥義にて苦痛なく大宇宙に渦巻く微粒子に還してやるわ──虚真龍ッッ!!!」
紅の手袋が焼け焦げるのも構わず右掌を黒瀧晶悟の顔面に押し当てた八重樫龍貴はありったけの精神力を動員して捕獲者の頭部を丸ごと消滅すべく凝念するが、次の刹那、自らの延髄部に凄まじい圧痛を覚えて思わず喉元をのけ反らせた!
『バ、バカなッ!?──こ、この技は、オレが黒瀧に最初に見舞った狂牙龍ではないかッ!?
お、おのれヌーロスめ、どこまでも愚弄しおって…!
くうッ…せ、せめてこの炎熱さえなければハネ返せるものを…ダ、ダメだ、意識が薄れてゆく…!
──お、おおリオーヌよ…こ、このペトゥルナワスの絶対者となっておまえをこの腕で抱きしめるまではオレの戦いは決して終わらぬ…だ、断じてこんな所で朽ち果てる訳にはいかん…のだ…』
──真紅の死神があえなく失神したのとほとんど同時に漆黒の拳士の滞空能力も限界を迎え、不倶戴天の特抜生二人はあたかも断崖から投身する恋人同士のように固く抱き合ったまま真っ逆さまに星霊森へと墜落してしまったのである…。
──精悍な浅黒い肌の、ハーフと見紛う彫りの深い貌立ちの黒瀧晶悟が覚醒した時、新幹線は今まさにO駅のホームに乗り入れんとするところであった。
どうやら出発点である中部地方のA県から目的地までのおよそ二時間、ぐっすり寝入ってしまったことを覚った新遠征長はスッキリ晴れ渡った頭を傾げて思わず苦笑した。
『やれやれ…久々の遠征に備えてバイトも控え、なるべく入念な調整に努めたつもりだが結果としてオーバーワークになってたらしいな──しかも貧乏学生の哀しさで下宿じゃ悲惨な扇風機生活だもんだから、天国みてえな冷房が気持ち良すぎてつい寝込んじまったぜ…。
──ところで学園長の話じゃ、光栄にも美人のお出迎えを寄越して下さってるとのことだが…』
黒い旅行用バックパックを背負い、Tシャツ、ショートジーンズ、そして素足に履いたスニーカーもブラックで統一した晶悟がホームに降り立った時、その研ぎ澄まされた感覚は直ちに“星渕の使者”が誰であるのかを察知したが、意表をついたその出で立ちはさすがの勇者をも唖然とさせるに十分であった。
『こりゃ驚いた…!
ごくノーマルに学園関係者がいらしてるのかと思えば──彩羅姫直々のお出ましとはね…!
しかも、相変わらず天真爛漫と称えるべきかはたまた天衣無縫と感嘆すべきか…いやはや、何ぼ何でもいくら暑いからってかくのごとき姿で公共の場に堂々ご登場なさるとは──さすがは松神理事長のご息女だけのことはある…のか?』
──彼女の性格を熟知する元特抜生にしてその場に硬直してしまったほどであるから構内を行き交う人々にとってはなおさら奇異な印象を与えるに相違なく、事実、松神彩羅の存在に気付いた人々は老若男女問わず眉を顰めるか口をあんぐりと開いて見惚れるかに二分された──されど後者はむろんのこと、批判的態度の前者の視線にすらも、二十代前半と見受けられる彼女の光り輝く美貌と完璧なプロポーションに対する讃嘆だけは否定し難く含まれているようであった…。
──しかしながら、その完璧な肉体を包む衣裳だけは、さしもの身内ですらも擁護しかねる代物であったのである…。
「ハーイ!お帰り黒ちゃん!!
しばらく見ないうちにまた一段と逞しくなったみたいねえ!!」
五本の指全てにリングを嵌めたパールピンクのマニキュアが煌めく右手を掲げ、あたかも黒ずくめの帰還者に対抗するかのように麦わら帽子、そして何よりも衝撃的なビキニスカートの水着とその上から羽織ったラッシュガードとヒールサンダル──身を固めるアイテムの全てを真紅で統一し、誇張抜きに女王のごとき威厳と優雅さを発散させつつ歩み寄る“星渕のクレオパトラ”は、呼びかけられた本人が思わず赤面してしまったほどの大声を僅か三メートルの至近距離から轟かせたのであった!
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