上 下
8 / 66
第一章  真夏の行事は〈異世界遠征〉!?

新遠征長、母校に帰る⑤

しおりを挟む
「コ、コイツめッ、一体何を考えているのだッ!?」

 烈拳甲の全パワーを発動しての“ファイヤーベアハッグ”で肋骨をギリギリと締め上げられる八重樫龍貴は、苦悶しつつも自身が放った炎が自慢のマントに燃え移るのを呆然と見つめていた。

「う…うぐッ!──く、苦しい…、

 だ、だが何ということだ…完璧に決まった焔華龍を捨て身の相打ち狙いに出るとはな…よもやこの未熟者にこれほどの覚悟が宿っていたとは…!

 し、しかしどうしても解せん…このオレの渾身の念術殺法を浴びながらどうして反撃できるのだ?

 ──はッ!そ…そうか、晶悟コイツ最初ハナから精神をハックされ、遠隔操作リモートコントロールされていたのだッ!!

 卑怯にも姿を隠したままの魔強士ヌーロスにッ!!!

 ならばこちらも肚を決めねばなるまい…たとえ此奴を捕らえたところで完全に洗脳され、骨の髄まで聖衛軍に取り込まれているのであれば、わざわざ手間をかけて脱洗脳するほどの価値も見い出せんしなッ!!

 さらばだ後輩よッ!せめて我が究極奥義にて苦痛なく大宇宙に渦巻く微粒子に還してやるわ──虚真龍ッッ!!!」

 紅の手袋が焼け焦げるのも構わず右掌を黒瀧晶悟の顔面に押し当てた八重樫龍貴はありったけの精神力を動員して捕獲者の頭部を丸ごと消滅すべく凝念するが、次の刹那、自らの延髄部に凄まじい圧痛を覚えて思わず喉元をのけ反らせた!

『バ、バカなッ!?──こ、この技は、オレが黒瀧に最初に見舞った狂牙龍ではないかッ!?

 お、おのれヌーロスめ、どこまでも愚弄しおって…!

 くうッ…せ、せめてこの炎熱さえなければハネ返せるものを…ダ、ダメだ、意識が薄れてゆく…!

 ──お、おおリオーヌよ…こ、このペトゥルナワスの絶対者となっておまえをこの腕で抱きしめるまではオレの戦いは決して終わらぬ…だ、断じてこんな所で朽ち果てる訳にはいかん…のだ…』

 ──真紅の死神があえなく失神したのとほとんど同時に漆黒の拳士の滞空能力も限界を迎え、不倶戴天の特抜生二人はあたかも断崖から投身する恋人同士のように固く抱き合ったまま真っ逆さまに星霊森へと墜落してしまったのである…。


 ──精悍な浅黒い肌の、ハーフと見紛う彫りの深い貌立ちの黒瀧晶悟が覚醒した時、新幹線は今まさにO駅のホームに乗り入れんとするところであった。

 どうやら出発点である中部地方のA県から目的地ここまでのおよそ二時間、ぐっすり寝入ってしまったことを覚った新遠征長はスッキリ晴れ渡った頭をかしげて思わず苦笑した。

『やれやれ…久々の遠征に備えてバイトも控え、なるべく入念な調整に努めたつもりだが結果としてオーバーワークになってたらしいな──しかも貧乏学生の哀しさで下宿じゃ悲惨な扇風機生活だもんだから、天国みてえな冷房が気持ち良すぎてつい寝込んじまったぜ…。

 ──ところで学園長の話じゃ、光栄にも美人のお出迎えを寄越して下さってるとのことだが…』

 黒い旅行用バックパックを背負い、Tシャツ、ショートジーンズ、そして素足に履いたスニーカーもブラックで統一した晶悟がホームに降り立った時、その研ぎ澄まされた感覚は直ちに“星渕の使者”が誰であるのかを察知したが、意表をついたその出で立ちはさすがの勇者をも唖然とさせるに十分であった。

『こりゃ驚いた…!

 ごくノーマルに学園関係者がいらしてるのかと思えば──彩羅あやら姫直々のお出ましとはね…!

 しかも、相変わらず天真爛漫と称えるべきかはたまた天衣無縫と感嘆すべきか…いやはや、何ぼ何でもいくら暑いからってかくのごとき姿で公共の場に堂々ご登場なさるとは──さすがは松神まつがみ理事長のご息女だけのことはある…のか?』

 ──彼女の性格を熟知する元特抜生にしてその場に硬直してしまったほどであるから構内を行き交う人々にとってはなおさら奇異な印象を与えるに相違なく、事実、松神彩羅の存在に気付いた人々は老若男女問わず眉を顰めるか口をあんぐりと開いて見惚れるかに二分された──されど後者はむろんのこと、批判的態度の前者の視線にすらも、二十代前半と見受けられる彼女の光り輝く美貌と完璧なプロポーションに対する讃嘆だけは否定し難く含まれているようであった…。

 ──しかしながら、その完璧な肉体を包む衣裳だけは、さしものですらも擁護しかねる代物であったのである…。

「ハーイ!お帰り黒ちゃん!!

 しばらく見ないうちにまた一段と逞しくなったみたいねえ!!」

 五本の指全てにリングを嵌めたパールピンクのマニキュアが煌めく右手を掲げ、あたかも黒ずくめの帰還者に対抗するかのように麦わら帽子、そして何よりも衝撃的なとその上から羽織ったラッシュガードとヒールサンダル──身を固めるアイテムの全てを真紅で統一し、誇張抜きに女王のごとき威厳と優雅さを発散させつつ歩み寄る“星渕のクレオパトラ”は、呼びかけられた本人が思わず赤面してしまったほどの大声を僅か三メートルの至近距離から轟かせたのであった!

 

 

 




 

 


 




 

 

 


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界大使館はじめます

あかべこ
ファンタジー
外務省の窓際官僚・真柴春彦は異世界に新たに作られる大使館の全権特任大使に任命されることになるが、同じように派遣されることになった自衛官の木栖は高校時代からの因縁の相手だった。同じように訳ありな仲間たちと異世界での外交活動を開始するが異世界では「外交騎士とは夫婦でなるもの」という暗黙の了解があったため真柴と木栖が同性の夫婦と勘違いされてしまい、とりあえずそれで通すことになり……?! チート・俺TUEEE成分なし。異性愛や男性同士や女性同士の恋愛、獣人と人間の恋愛アリ。 不定期更新。表紙はかんたん表紙メーカーで作りました。 作中の法律や料理についての知識は、素人が書いてるので生ぬるく読んでください。 カクヨム版ありますhttps://kakuyomu.jp/works/16817330651028845416 一緒に読むと楽しいスピンオフhttps://www.alphapolis.co.jp/novel/2146286/633604170 同一世界線のはなしhttps://www.alphapolis.co.jp/novel/2146286/905818730 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2146286/687883567

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ユウ
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

【3部完結】ダンジョンアポカリプス!~ルールが書き変った現代世界を僕のガチャスキルで最強パーティーギルド無双する~

すちて
ファンタジー
謎のダンジョン、真実クエスト、カウントダウン、これは、夢であるが、ただの夢ではない。――それは世界のルールが書き変わる、最初のダンジョン。  無自覚ド善人高校生、真瀬敬命が眠りにつくと、気がつけばそこはダンジョンだった。得たスキルは『ガチャ』! クラスメイトの穏やか美少女、有坂琴音と何故か共にいた見知らぬ男性2人とパーティーを組み、悪意の見え隠れする不穏な謎のダンジョンをガチャスキルを使って善人パーティーで無双攻略をしていくが…… 1部夢現《ムゲン》ダンジョン編、2部アポカリプスサウンド編、完結済。現代ダンジョンによるアポカリプスが本格的に始まるのは2部からになります。毎日12時頃更新中。楽しんで頂ければ幸いです。

処理中です...