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第一章  真夏の行事は〈異世界遠征〉!?

新遠征長、母校に帰る④

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「もらったぞッ!八重樫龍貴ッッ!!」

 ──MAXで二分間は滞空可能な烈拳甲の〈反重力跳躍機能〉によって一気に決着を付けんと目論む黒瀧晶悟はのけ反る真紅の死神の素顔に向けて渾身の右ストレートを放たんとする──されど前方に突き出された龍貴の右掌から金色光で構成された魔龍が飛び出すのを察知し、舌打ちしつつ思いきり右へ移動した!

『──虚真龍かッ!?

 触れたモノをことごとく消滅させる“最凶念龍”であるコイツだけは食らう訳にはいかんッ!!

 だが、いかに天才念術師とはいえ渾身の前蹴りが完璧にクリーンヒットした瞬間に奥義を放てるとは…どこまでも恐るべき敵ッ!!」

 ──無論横移動でかわせるほど念龍の追跡能力は甘いものではなく、虚真龍の胴はほぼ直角に左方向へと折れ、漆黒の拳士へしゅるしゅると伸びてくる!

「ふざけるなッ!キサマなどに髪の毛一本くれてやるつもりはねえッッ!!」

 毒づきながら指を揃えた貫手の状態で右手を突き出す晶悟だが、金龍に向けられた4本の指先から発射されたのは見えざる“真空の矢”であった!

 シュババババババババッッッ!!!

 生粋の念術師には及ばぬまでも、特抜生が目的意識を持ち、鍛錬の時間さえ費やせば細分化された各種戦闘術の精髄エッセンスを摑み取ることは可能であり、拳兵団入りした晶悟は極論すれば念術のみで八重樫龍貴と渡り合うことまで想定し、意気に感じたヌーロスに師事して独自の攻撃念術の開発に励んでいたのであった。

「よしッ!決して全力投球されたものではないとはいえ、あの虚真龍とオレが放ったヌーロス師直伝の【霊嵐波】をした【殺念矢】は相殺し合って龍貴ヤツの必殺技を見事に消し去った!!

 続いてはその躰で直接、未熟な後輩の拙い念術を味わっていただこうッ!!」

 されど黒瀧晶悟は気付いていなかった──殺念矢によって四散した際、虚真龍が撒き散らした凄まじい金光に視界が奪われた数秒の間に真紅の死神がそのトレードマークともいうべき妖麗な紅の仮面をその手に摑み、再装着していたことを!

「──くらえッッ!!!」

 かくて再び唸りを上げた右貫手──されどその動作モーションの途中でその事実を覚ったほんの一瞬の動揺、それを看過するほど八重樫龍貴は甘い相手ではなかった。

「ふはははははッ!バカめッ、やはりキサマは劣等生だなッ!!

 ──そんなロクデナシにはをくれてやるわッッ!!!」

 最大限の嘲弄を込めた絶叫と共に左掌から放たれたのは、宣言通りというべきか紅蓮に渦巻きつつ真っ赤なあぎとを全開にして突進する焔華龍であった!

「笑えねえ冗談で得意になってんじゃねえぞこの退がッ!

 テメエこそバカの一つ覚えの念術ばっかに頼ってねえでまともなパンチの一発でも打ってみろってんだッ!!」

 片手では約不足とばかりありったけの思念を込めた“両手殺念矢”で迎撃せんとする黒瀧晶悟だが、明らかに一撃目より心力を回復して発射された炎の猛龍の勢いは凄まじく、にわか仕込みのが太刀打ちできる相手ではなかった──その証拠にたしかに両者の技は正面から激突したにもかかわらず焔華龍は微かに小揺るぎしただけでダブル殺念矢を大気中に四散させ、何事もなかったかのように漆黒の拳士の頭部を丸呑みしてのけたのである!

「うぐわああああああッッ!?」

 先ほど見舞われた狂牙龍による激痛とは全く異なる、地獄の焔に脳そのものを炙られる灼熱地獄に空中でのたうち回る晶悟──彼我の実力差を省みることなく無謀にも敵の領域フィールドで勝負してしまった愚かさの報いは想像以上の、いっそ死を望むほどの苛烈さで自身に返されたのであった…。

「──今まさに地獄を味わっているキサマには何の慰めにもなるまいが、技のスジ自体は悪くはない…だがな、いかに純度を高めようが、この道に殉じる覚悟を固めた念術師オレの《凝念》と門外漢キサマの《思念》とでは天地ほどの隔たりがあるということだけは骨の髄から理解できたであろうッ!

 ──さて、たかがに思わぬ時間を食ってしまったが、そろそろ“セミファイナル”に取り掛かるとしようか?

 先ほどから不肖の弟子のふがいなさに切歯扼腕していたのであろうが、晶悟ヤツはブザマに散った…そろそろ姿を見せたらどうだ、自称“義の魔強士”ヌーロスよッ!!」

 ──されど真紅の死神が改めて視線を向けた宝心堂から返事をよこす者は無く、むしろ背後にただならぬ気配と温度を感知して龍貴が愕然と振り返った時、彼は文字通りの火ダルマとなった黒瀧晶悟にガッチリと抱きつかれていたのである!



 








 

 

 

 

 














 

 



 



 

 

 
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