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第一章  真夏の行事は〈異世界遠征〉!?

秘密資料室の禁断の愛戯(後編)

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 高瀬花凛は瞑目し、《凝念》しつつ右人差し指で宙空に何かを描く仕草をしたが、これが【偵察閃獣】を最も素早く召喚する技法メソッドなのであった。

『もちろん戦闘用の【誅戮閃獣】はやたら重くて呼び出すには莫大な精神サイコエネルギーを要するけど、偵察の場合は薄くて軽いほどいい訳だから、使役師こっちの負担も軽くてホント助かるわー♪

 ──じゃ、行っといで』

 かくて花凛にだけはえているらしいは、ふわふわと漂いながら物置部屋に通じるドアをあっさりと透過し、情報を受信すべく少女は再び瞳を閉じる──が、それはすぐに見開かれた!

「な、何なのッ!?今の映像ヴィジョン…?」

 ──それは思わず声を発してしまうほど、彼女にとって我が目を疑う衝撃の光景であったのだ!

『よりによって零紀サンと茉穂美が…!?

 そ、それに彼氏、何てカッコしてんのよ…!』

 室内に籠もっていたのは三年の【格技部】旋堂零紀と花凛と同級の【念術部】森藤茉穂美であったが、背凭れの壊れた椅子に優雅に脚を組んで着席した茉穂美の前で、そのルックスの良さと紳士的物腰で校内屈指のアイドル的存在である最上級生はあろうことか全裸でのけ反っていたのである!

 しかも歓喜と苦痛が綯い交ぜとなった陶然たる表情と鍛え抜かれた見事な肉体がぶるぶると痙攣するさまは、彼が今まさに絶頂オルガズムの嵐の真っ只中で翻弄されていることを告げていた…。

 ──しかし何よりも観察者の視線(心眼)を釘付けにしたのは、零紀の股間でほとんど垂直に屹立する充血しきった男根である!

『──え、えぐうッ!

 ちょ、ちょっといくらエネルギー有り余るお年頃だからってさ、あまりにもハメ外し過ぎなんじゃないの?

 そもそもここがどこだか分かってんのかいな?…泣く子も黙るスパルタ進学校の聖なる学び舎なんだよ…!?

 あー、おぞましい…まさに上半期(いや、もう下半期か)最凶の衝撃映像、問答無用で全身に鳥肌サブイボが立ったわ…いや、それどころじゃない、胃の腑から酸っぱいモノまでこみ上げてきたじゃないのよ…!

 ──零紀先輩、キライじゃなかったんだけどなあ…でももう二度と、アナタのことを魅力ある異性としては見られそうにありません…!』

 されど彼を身悶えさせているのが冷ややかな眼差しを注ぐ同級生であることに気付いた閃獣使役師は、さらなる戦慄におののいた──その証拠に零紀の両掌は目まぐるしく胸や腹を這い回っているものの、反り返る性器には一瞬も触れることなく、あたかも何かの攻撃から身を守るかのごとき挙動を示しているではないか?

『何てこったい…茉穂美アンタ、目ヂカラだけで彼氏(だよね?)をイカせるつもりなの!?

 しかも雰囲気から察するに、という訳でもなさそうだわね…息も絶え絶えって感じでヨガってる先輩も、どことなしにモノ慣れた様子が窺えるし…。

 やれやれ…たしかに入学した時から並々ならぬ使い手だとは思ってたけど、こんなトンデモない実験台を使って日々研鑽を重ねてたとはねえ…人は見かけによらないモンだとあたしも認識を新たにさせてもらったわ──これぞまさしく、敵を欺くにはまず味方からってヤツよね…!』

 ──ここでちらりと腕時計を覗いた魔性の念術少女は醒めた口調で〈性奴隷〉に告げた。

「1時18分──そろそろ時間よ。

 お望みなら昇天フィニッシュまで導いてあげてもいいけれど、そうするとティッシュで拭いたくらいじゃどうしても隣の出席者に気付かれちゃうわよねえ…最上級生として、いいえ母校の看板を背負った特抜生としてそれでいいと思ってるワケ?」

「うぐっ…!」

 まだ辛うじてわずかな判断能力は残っているらしく、煩悶しつつも一旦は歯を食いしばって踏み留まったかに見えた旋堂零紀であったが、どこまでも性悪な念術師はその間もを微かに緩めただけで一瞬たりとも止めようとはしないのだった。

 ──そして遂に、〈理性〉は〈本能〉に屈した。

「ダ、ダメだッ、ガマンできないッ!

 そうとも、男としてここで引き下がれるかッ!! 

 ──殺生な女めッ、ここまで追い詰めておいて〈介錯〉を拒むというのなら、いっそ我が手で見事に散ってやるうッッ!!」

 耐えに耐えた誇り高き格闘士はとうとう克己精神を放棄して分身を握りしめ、自らの手による生殺しからの解放を図ったのであるが、攻撃者はそんな越権行為を到底許しはしなかった!

「──ばかたれ」

 短いため息と共に一言呟いた森藤茉穂美は人差し指と親指で輪を作った左手を零紀の股間に向けて掲げると、あたかも鼻糞でも飛ばすかのごとき塩梅でそれを弾いたのだが、それは慈悲からの行動などではなくただこのまま傍観した結果もたらされるリスクを免れるためであった。

「ぬがあああああッッ!!!」

 かくて必殺の意志を込めた【念撃弾】を膨らみきった二つの睾丸に撃ち込まれた全裸青年はあまりの激痛によって瞬時に素面シラフに戻され、そのまま膝から崩れ落ちるとあたかも切腹者のごとく埃が厚く堆積した傷だらけの床板に這いつくばったのであった。

「ふわーっ…時間潰しとしては少々悪趣味だったけど、まあ面白いっちゃ面白かったかな…アンタもこれで懲りたでしょ?

 もう二度と“旅の恥はかき捨て精神”で、こともあろうに神聖な遠征中にとか言ってこないでよね…ここでハッキリ宣告しておくけど、それでも挑んでくるようなら──今度こそ恐ろしい結果になるわよ…!

 ホレ、さっさと服着ないと露出狂の烙印を押されて遠征どころか卒業の方が怪しくなってよ…尤も放校上等で進路をソッチ方面に定めたっていうんならそれも自由だけれど」

 ──今度こそを上げる若者を尻目に大アクビをかましながら立ち上がり、小刻みに震える頭にワイシャツを放り投げた森藤茉穂美が悠然と資料室に出てきた時、高瀬花凛は机に臥せって狸寝入りを決め込んでいたのだった…。





 









 














 



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