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第一章 真夏の行事は〈異世界遠征〉!?
学園長さん大丈夫!?
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──中国地方O県北部に位置するB町の人里離れた小高い山中に、全校生徒二百名の規模の割には不似合いなほどに見事な私立星渕学園高校の白亜の校舎が聳え立っていた。
七月半ばの午後五時半の学園長室は窓とカーテンを締め切って外部から遮断され、迷惑千万なことに時代錯誤もいいところの質実剛健を旨とする尚武の精神によってエアコンも切られているため、招集された五人の幹部たちは滝のように汗を滴らせながら(幸いにも?全員ワイシャツ姿ではあった)、八重樫龍作学園長の禿頭に負けぬほど磨き上げられて底光りするマホガニーの執務机の前にあたかも新兵のように両手を後ろで組み合わせて整列し、顎を深く引いた直立不動の体勢を強いられていた。
「──まことに由々しき問題だが、周知のとおり〈冬季遠征隊〉に参画した特抜三年の【格技部】剣持巳津也、同年の【念術部】関 佑希光、二年の【獣使部】栗原玲香の三名が未だ帰還しておらん…。
むろん捜索のため現地に残った〈遠征長〉の辰波剛哉教諭と本校がペトゥルナワスで同盟を結ぶ【帝界聖衛軍】も総力を挙げて捜索してくれておったのだが、昨日ようやく彼らの消息が明らかになったと辰波から報告があった。
──ところが」
ここで言葉を切ったいかにもコワモテの八重樫学園長は組み合わせた両手を思わせぶりに顎下にあてがうと、がっしりとした体躯を前のめりにしつつ凄みある眼光で居並ぶ六人の教職員を睨め上げながら野太い声で続けた。
「それによれば、残念ながら事態は最悪の結果となったようだ──即ち、異世界で迎えた逆境に屈した彼らはこともあろうに最凶の犯罪結社【銀魔星】の構成員として活動している事実が確認されたという!」
重苦しい沈黙に支配された会議室内に呻きにも近いどよめきが起こり、出席者の表情は絶望に歪んだ。
「何ということだ…銀魔星といえば今やペトゥルナワスにおいて【レゼック大王国】の根幹を揺るがす最大の反乱勢力──そこに取り込まれてしまったということは自動的に聖衛軍の討伐対象となるということでは…!?」
中央に立つ事務長の桑島輝之が紳士的な温顔を曇らせながら憂慮するが、精力漲る学園長は即座にそれを否定した。
「およそ三十年に及ぶ我々の献身的な協力活動に免じ、それだけは自重するとの御言葉を賜っている以上、当面は大丈夫だろうが…もちろん楽観する訳にはいかぬ。
何よりも懸念されるのは、銀魔星が三人を人質として法外な要求の交渉材料として用いる事態だ──事がここに及べば、本校としても厳しい決断を強いられる局面に追い込まれることになる…。
当然のことながら彼らの両親も元・特抜生であるゆえ日常の心得として覚悟自体は固めておろうが、場合によっては〈夏期遠征隊〉に加わって現地へ向かうことになろう…!」
「……」
「幸いというべきか、今回の夏期遠征には特抜学級史上最強というべき【剣法部】の四元蓮馬が〈総代〉を務め、帯同する【獣使部】の高瀬花凛や【念術部】の森藤茉穂美、【格技部】の旋堂零紀といった面々もそれぞれ歴代屈指の天分に恵まれし者たちであるから、必ずや本校の名誉を回復してくれるものと信じておる…!
されどいかに個々の戦士が有能であろうとも、それを活かすも殺すも統轄する〈遠征長〉の手腕にかかっていることはいうまでもない──もちろん辰波教諭が不在であるからには新たな“引率者”が必要になる訳だが、僥倖によりこれにも最適な人物を得ることができた。
選ばれし格技者のみが任命される格技部OBで現在大学生の黒瀧晶悟君──こちらのムリな要請を快諾してくれた彼には感謝するしかないが、本校在籍時に行った四度の遠征でレゼック王にも強烈な印象を残したという黒瀧君の参加は必ずやこの窮境を好転させてくれるものと信じておる。
それでは七月二十日の出立に向けて、期末試験終了後の七日に第二十八回夏期遠征合同ブリーフィングを行うこととする…!」
七月半ばの午後五時半の学園長室は窓とカーテンを締め切って外部から遮断され、迷惑千万なことに時代錯誤もいいところの質実剛健を旨とする尚武の精神によってエアコンも切られているため、招集された五人の幹部たちは滝のように汗を滴らせながら(幸いにも?全員ワイシャツ姿ではあった)、八重樫龍作学園長の禿頭に負けぬほど磨き上げられて底光りするマホガニーの執務机の前にあたかも新兵のように両手を後ろで組み合わせて整列し、顎を深く引いた直立不動の体勢を強いられていた。
「──まことに由々しき問題だが、周知のとおり〈冬季遠征隊〉に参画した特抜三年の【格技部】剣持巳津也、同年の【念術部】関 佑希光、二年の【獣使部】栗原玲香の三名が未だ帰還しておらん…。
むろん捜索のため現地に残った〈遠征長〉の辰波剛哉教諭と本校がペトゥルナワスで同盟を結ぶ【帝界聖衛軍】も総力を挙げて捜索してくれておったのだが、昨日ようやく彼らの消息が明らかになったと辰波から報告があった。
──ところが」
ここで言葉を切ったいかにもコワモテの八重樫学園長は組み合わせた両手を思わせぶりに顎下にあてがうと、がっしりとした体躯を前のめりにしつつ凄みある眼光で居並ぶ六人の教職員を睨め上げながら野太い声で続けた。
「それによれば、残念ながら事態は最悪の結果となったようだ──即ち、異世界で迎えた逆境に屈した彼らはこともあろうに最凶の犯罪結社【銀魔星】の構成員として活動している事実が確認されたという!」
重苦しい沈黙に支配された会議室内に呻きにも近いどよめきが起こり、出席者の表情は絶望に歪んだ。
「何ということだ…銀魔星といえば今やペトゥルナワスにおいて【レゼック大王国】の根幹を揺るがす最大の反乱勢力──そこに取り込まれてしまったということは自動的に聖衛軍の討伐対象となるということでは…!?」
中央に立つ事務長の桑島輝之が紳士的な温顔を曇らせながら憂慮するが、精力漲る学園長は即座にそれを否定した。
「およそ三十年に及ぶ我々の献身的な協力活動に免じ、それだけは自重するとの御言葉を賜っている以上、当面は大丈夫だろうが…もちろん楽観する訳にはいかぬ。
何よりも懸念されるのは、銀魔星が三人を人質として法外な要求の交渉材料として用いる事態だ──事がここに及べば、本校としても厳しい決断を強いられる局面に追い込まれることになる…。
当然のことながら彼らの両親も元・特抜生であるゆえ日常の心得として覚悟自体は固めておろうが、場合によっては〈夏期遠征隊〉に加わって現地へ向かうことになろう…!」
「……」
「幸いというべきか、今回の夏期遠征には特抜学級史上最強というべき【剣法部】の四元蓮馬が〈総代〉を務め、帯同する【獣使部】の高瀬花凛や【念術部】の森藤茉穂美、【格技部】の旋堂零紀といった面々もそれぞれ歴代屈指の天分に恵まれし者たちであるから、必ずや本校の名誉を回復してくれるものと信じておる…!
されどいかに個々の戦士が有能であろうとも、それを活かすも殺すも統轄する〈遠征長〉の手腕にかかっていることはいうまでもない──もちろん辰波教諭が不在であるからには新たな“引率者”が必要になる訳だが、僥倖によりこれにも最適な人物を得ることができた。
選ばれし格技者のみが任命される格技部OBで現在大学生の黒瀧晶悟君──こちらのムリな要請を快諾してくれた彼には感謝するしかないが、本校在籍時に行った四度の遠征でレゼック王にも強烈な印象を残したという黒瀧君の参加は必ずやこの窮境を好転させてくれるものと信じておる。
それでは七月二十日の出立に向けて、期末試験終了後の七日に第二十八回夏期遠征合同ブリーフィングを行うこととする…!」
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