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第八章(終章) 真帝降臨

《三帝議》の夜①

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 十畳ほどのその空間は、蒼い闇で満たされていた。

 窓はなく、調度品も中央に安置された黒い矩形の寝台(祭壇?)を除いては、四角に立てられた蔦葛の絡んだ彫刻を施された、現在蠟燭が差し込まれておらぬ長さ一メートルほどの黒い燭台と、室の隅に鎮座するこれも黒塗りの豪奢なマントルピースのみであったが、その天板に置かれた黒天鵞絨ビロードの台座に置かれた直径十五センチほどの蒼い珠から発せられる光が室内を妖しく照らし出しているのであった。

 そして寝台には、全裸の美少女──沙佐良氷美花が組み合わせた両手の指を腹部に乗せて横たわっていたが、眠っているのではないことはその白い発光体のごとき神々しい肉体が微動だにせぬことからも窺える…。

 果たして何時間、彼女はこの状態を維持しているのか?

 瞑目する氷美花の表情は透明そのものであり、いかなる感情をもそこに読み取ることは叶わぬ。

 そしてこの“淫靡なる厳粛”ともいうべき空間の永遠に続くかと思われた沈黙が、突如として響いた中性的にして無機的な声によって破られた。

「──氷美花様、が到着致しました」

 同時に、妖天使の双の瞳に光が宿る。

 驚くべきことに、この謎の声の発生源は飾り棚上の妖玉なのであった!

         *

 普段よりも幾分赤みがかった月光に照らし出される、都心から離れた郊外のとある高台──そこに聳立する、立方体キューブをモチーフとし、硝子を多用した独特の未来的且つ前衛的な館──一目で主の有する独特な審美的センスを感得させる沙佐良邸の中庭に停車した三台の高級SUV車がら、二名ずつの屈強な男たちが姿を現した。

 シャツとスラックス及びジーンズというカジュアルな服装の彼らを玄関口で待ち構えていたのは、どこぞの高級酒場のバーテンダーのような身繕いの沙佐良家の執事・尾里おざとである。

 ハーフであることを確信させる彫りの深い風貌の初老の好男子は、立ち並んだ三妖帝とその腹心たちに「お待ちしておりました」と会釈してから「どうぞ…魂師ソウルマスターがお待ちかねです」と特殊強化硝子製の扉を恭しく開いたのであった…。

         *

 〈会議室〉に充てられているのは二階十五畳の総硝子張りの一室であり、中央の黒曜石の円卓にはこの二ヶ月間の覇闘データと、魂師自ら〈画像生成AI〉を駆使して作成した十数枚に及ぶ“異世界ラージャーラ極秘資料”が人数分プリントされて配布されている。

 さて、二ヶ月に一度偶数月の末日に開かれる妖帝星軍の“方針決定の場”ともいえる《三帝議》には光城玄矢、紫羽楯綱、南郷遼司郎の三妖帝の他に副官が同行するのが常であったが、今回は光城派のみ威紅也から白彌への交代による変更があった。

 かくて規定の時間である午後八時五十分に降車した瞬間から互いを強烈に意識し合っている一同が着席し、各自の好みを熟知している尾里によって用意された飲料を口にしたり精緻なまでに描写された異世界の風物を興味深げに眺め入ったりしている間に開会時間である午後九時一分前となって、ただ一つ空いていた六名が着座したものよりも一回り大きな〈玉座〉上に“ラージャーラの妖術鬼”と畏怖される妖帝星軍魂師・シャザラの姿があった──!



 





 

 

 
 

 

 

 



 
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