9 / 19
第八章(終章) 真帝降臨
《三帝議》の夜①
しおりを挟む
十畳ほどのその空間は、蒼い闇で満たされていた。
窓はなく、調度品も中央に安置された黒い矩形の寝台(祭壇?)を除いては、四角に立てられた蔦葛の絡んだ彫刻を施された、現在蠟燭が差し込まれておらぬ長さ一メートルほどの黒い燭台と、室の隅に鎮座するこれも黒塗りの豪奢なマントルピースのみであったが、その天板に置かれた黒天鵞絨の台座に置かれた直径十五センチほどの蒼い珠から発せられる光が室内を妖しく照らし出しているのであった。
そして寝台には、全裸の美少女──沙佐良氷美花が組み合わせた両手の指を腹部に乗せて横たわっていたが、眠っているのではないことはその白い発光体のごとき神々しい肉体が微動だにせぬことからも窺える…。
果たして何時間、彼女はこの状態を維持しているのか?
瞑目する氷美花の表情は透明そのものであり、いかなる感情をもそこに読み取ることは叶わぬ。
そしてこの“淫靡なる厳粛”ともいうべき空間の永遠に続くかと思われた沈黙が、突如として響いた中性的にして無機的な声によって破られた。
「──氷美花様、彼らが到着致しました」
同時に、妖天使の双の瞳に光が宿る。
驚くべきことに、この謎の声の発生源は飾り棚上の妖玉なのであった!
*
普段よりも幾分赤みがかった月光に照らし出される、都心から離れた郊外のとある高台──そこに聳立する、立方体をモチーフとし、硝子を多用した独特の未来的且つ前衛的な館──一目で主の有する独特な審美的センスを感得させる沙佐良邸の中庭に停車した三台の高級SUV車がら、二名ずつの屈強な男たちが姿を現した。
シャツとスラックス及びジーンズというカジュアルな服装の彼らを玄関口で待ち構えていたのは、どこぞの高級酒場のバーテンダーのような身繕いの沙佐良家の執事・尾里である。
ハーフであることを確信させる彫りの深い風貌の初老の好男子は、立ち並んだ三妖帝とその腹心たちに「お待ちしておりました」と会釈してから「どうぞ…魂師がお待ちかねです」と特殊強化硝子製の扉を恭しく開いたのであった…。
*
〈会議室〉に充てられているのは二階十五畳の総硝子張りの一室であり、中央の黒曜石の円卓にはこの二ヶ月間の覇闘データと、魂師自ら〈画像生成AI〉を駆使して作成した十数枚に及ぶ“異世界極秘資料”が人数分プリントされて配布されている。
さて、二ヶ月に一度偶数月の末日に開かれる妖帝星軍の“方針決定の場”ともいえる《三帝議》には光城玄矢、紫羽楯綱、南郷遼司郎の三妖帝の他に副官が同行するのが常であったが、今回は光城派のみ威紅也から白彌への交代による変更があった。
かくて規定の時間である午後八時五十分に降車した瞬間から互いを強烈に意識し合っている一同が着席し、各自の好みを熟知している尾里によって用意された飲料を口にしたり精緻なまでに描写された異世界の風物を興味深げに眺め入ったりしている間に開会時間である午後九時一分前となって扉が見えざる手によって静かに開かれた次の瞬間には既に、ただ一つ空いていた六名が着座したものよりも一回り大きな〈玉座〉上に“ラージャーラの妖術鬼”と畏怖される妖帝星軍魂師・シャザラの姿があった──!
窓はなく、調度品も中央に安置された黒い矩形の寝台(祭壇?)を除いては、四角に立てられた蔦葛の絡んだ彫刻を施された、現在蠟燭が差し込まれておらぬ長さ一メートルほどの黒い燭台と、室の隅に鎮座するこれも黒塗りの豪奢なマントルピースのみであったが、その天板に置かれた黒天鵞絨の台座に置かれた直径十五センチほどの蒼い珠から発せられる光が室内を妖しく照らし出しているのであった。
そして寝台には、全裸の美少女──沙佐良氷美花が組み合わせた両手の指を腹部に乗せて横たわっていたが、眠っているのではないことはその白い発光体のごとき神々しい肉体が微動だにせぬことからも窺える…。
果たして何時間、彼女はこの状態を維持しているのか?
瞑目する氷美花の表情は透明そのものであり、いかなる感情をもそこに読み取ることは叶わぬ。
そしてこの“淫靡なる厳粛”ともいうべき空間の永遠に続くかと思われた沈黙が、突如として響いた中性的にして無機的な声によって破られた。
「──氷美花様、彼らが到着致しました」
同時に、妖天使の双の瞳に光が宿る。
驚くべきことに、この謎の声の発生源は飾り棚上の妖玉なのであった!
*
普段よりも幾分赤みがかった月光に照らし出される、都心から離れた郊外のとある高台──そこに聳立する、立方体をモチーフとし、硝子を多用した独特の未来的且つ前衛的な館──一目で主の有する独特な審美的センスを感得させる沙佐良邸の中庭に停車した三台の高級SUV車がら、二名ずつの屈強な男たちが姿を現した。
シャツとスラックス及びジーンズというカジュアルな服装の彼らを玄関口で待ち構えていたのは、どこぞの高級酒場のバーテンダーのような身繕いの沙佐良家の執事・尾里である。
ハーフであることを確信させる彫りの深い風貌の初老の好男子は、立ち並んだ三妖帝とその腹心たちに「お待ちしておりました」と会釈してから「どうぞ…魂師がお待ちかねです」と特殊強化硝子製の扉を恭しく開いたのであった…。
*
〈会議室〉に充てられているのは二階十五畳の総硝子張りの一室であり、中央の黒曜石の円卓にはこの二ヶ月間の覇闘データと、魂師自ら〈画像生成AI〉を駆使して作成した十数枚に及ぶ“異世界極秘資料”が人数分プリントされて配布されている。
さて、二ヶ月に一度偶数月の末日に開かれる妖帝星軍の“方針決定の場”ともいえる《三帝議》には光城玄矢、紫羽楯綱、南郷遼司郎の三妖帝の他に副官が同行するのが常であったが、今回は光城派のみ威紅也から白彌への交代による変更があった。
かくて規定の時間である午後八時五十分に降車した瞬間から互いを強烈に意識し合っている一同が着席し、各自の好みを熟知している尾里によって用意された飲料を口にしたり精緻なまでに描写された異世界の風物を興味深げに眺め入ったりしている間に開会時間である午後九時一分前となって扉が見えざる手によって静かに開かれた次の瞬間には既に、ただ一つ空いていた六名が着座したものよりも一回り大きな〈玉座〉上に“ラージャーラの妖術鬼”と畏怖される妖帝星軍魂師・シャザラの姿があった──!
2
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる