海鳴り

野瀬 さと

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父、あけぼの荘に帰還す。

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「そっか…」
「お父さんとお母さん…本当に仲が良くってさ…」
「うん」
「見てるこっちが照れるくらいだったよ」
「ふふ…お義父さんがデレってしてたの、見てみたかった」
「デレって…ふふ…」

秋津あきつ、明日の朝ぶっ殺す。

「俺も…あんな夫婦になりたい…」
直也なおやくん…」
「本当に…理想の夫婦だったんだよ」
「うん…じゃあ、なろう。俺と直也くんで」
「え?」
「俺じゃだめかな…」
駿しゅんさん…そんなことないよ!」
「お義父さんほど、頼りにはならないかもしれないけど…」
「何言ってんだよ…十分だよ」
「…しあわせに、する」
「ありがとう…駿さん…」

暫く部屋が静かになった。

「…行こっか」
「うん」

二人はそのまま部屋を出ていった。

「むう…」

ぶっ殺すのはやめておいてやる。
だが、もし俺の前でイチャイチャしたら…
多分殺す。

「はああ…」

寝たふりとは案外疲れるものだ。
ばふっと布団抱きしめて、ベッドの上でゴロゴロしてみた。


直也は…一生を秋津と過ごすことになるって言ってたな…
秋津もちゃんとその覚悟があるってことか…

デキ婚した俺たちとは違って、随分先のことまで見通してる。

無理もない。
直也の病は一生モノだ。
油断したら命取りになりかねない。
食事療法や投薬で、随分と症状は抑えられるが、ただ抑えているだけであって…治るわけじゃない。
ちょっと無理すると、すぐに高熱を出して入院だ。

直也は、俺と違って頭は悪くない。
大学に行けといったのに、勝手に就職しやがって…
お金を貯めて、自分で大学に行くとほざきやがった。

宣言通り、一人暮らしをしながらも直也は着実に貯金を増やしていった。
でも…その貯金は結局、病気の治療に消えていくことになったが。

秋津も…
これは直也から聞いた話なのだが。

35歳まで勤めた会社を辞めた時の退職金もあるし、途中まで実家住まいだったから貯金もある。
最近取った資格なんかは、自分で全部負担して取ったそうだ。

他にもいくつか資格もあるし、営業として働いてきた愛想の良さもある。
だから、もしも秋津と直也の交際を反対されたら、二人でここを出て自活していくつもりだったということだ。

しかも、それでも直也はあけぼの荘にちびたちの世話はしにくるつもりだったようだ…

「こりゃあ…俺とは月とスッポンほど違うぜ…」

俺みたいに無計画に生きてきたのとは、人間が違うんだろう。
よっぽど俺よりしっかりしてやがる。
(優也は俺に似たはずだ)

四十路半ばで双子の父親になったのなんか、典型的な青天の霹靂へきれきだったしなあ…

おまけにそれが間接的にとは言え、妻の命を奪うことにもなった。

なんて俺の人生、いきあたりばったりの破れ風呂敷なんだ…

それに比べたら、あいつらはちゃんと先のことまで考えて、見通してる。

そして、男同士とは言え真剣に愛し合ってる。

「なんにも…反対する要素がねえ…」

ぐうの音も出ないとはこのことだ。

俺にできることは、若夫婦(?)に身代しんだいをそっくり渡してやって、やることに文句も言わず、ただただ、ちびどもの将来のための貯蓄を増やすこと。

優也ゆうやにも将来結婚して独立した時のために、幾ばくかの金を包めるほど遺してやること。
まあ、これは俺の両親の生命保険の金があるから大丈夫だろう。

直也と秋津にはここをくれてやるから、充分だろう。

「まだまだだなあ…オイ…」

なあ明希子よ…
俺たちの蒔いた種は、どこまでも飛んでって…

「いつ芽吹くのかねぇ…俺は、それを見届けることができるのかねぇ…」

なんにもなかったあけぼの荘に…
まさかこんな色とりどりの花の種を蒔くことになるとはな。

明希子あきこが死んで、寂しさがないわけじゃない。
頼れる親たちも遠に亡く、一人で4人の息子たちの将来を背負った形になって、途方にも暮れた。

そんな中、直也も優也も…
俺の知らないうちに大人になりやがってなあ…

「そら、年も取るわけだ…」
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