傾城屋わたつみ楼

野瀬 さと

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第二章 常磐

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「先に湊の診察行こう?」
「ああ…もう、わかったから寝ろって…」

タオルを左頬に載せて氷嚢を乗っけた。
手で支えないと落っこちる…

身体を捩ってなんとか氷嚢を安定させようとしたけど、今度はケツと腰が痛い。
諦めて仰向けになった。

電灯の光を遮るように腕を額に乗せると、少し熱い。

あー…こりゃ、熱も出てきたな。
あの野郎…おもっくそ蹴りやがったな…
ケツも腰も痛えし、最悪だ。

「湊、俺が持ってるから…」
「いいって…寝てろ。おまえだって怪我してんだから…」
「でも…」
「いいから。そんな格好で起きてたら、風邪ひくだろ!」

いらついて、ちょっとキツイ口調になってしまった。
もう感情をコントロールするのも難しい。

「いててて…」

ついでに口も開きすぎて痛い。

「ごめん…」

そう言うと立ち上がった。

「でも、鎮痛剤が部屋にあるから…取ってくるね?」

そう言ってそっと部屋を出ていった。

「あー…薬なら俺の部屋にも…」

あるんだけどな…聞いてやしねえ…

戻ってきた紫蘭は手に湿布やら薬のシートやらたくさん持っていた。
それから綿入れまで着込んで…どうやら俺の看病をするらしい…

「この薬、胃に悪いから、なんか作る…」
「いいってそんな…」
「すぐできるから…台所借りるね?」

食材まで持ってきてたから何も言えなかった。

すぐに紫蘭はおかゆみたいなものを作ってくれた。
部屋子が長かったから、器用なもんだ…

おかゆを食べて薬を飲むと、紫蘭は部屋を暗くした。
もう外は薄っすらと明るくなってる。

「眠れそう?」
「うん…多分…」
「寝れなかったら、俺も起きてるから…」

いつか聞いたような会話だった。

「…おまえもだから怪我してんだから寝ろって…」
「だって、湊のほうが重傷だよ…?」
「見た目はな。おまえは心も傷ついてんだ。早く寝ろ」
「え…?」

またタオルを当てて氷嚢を乗っけると、紫蘭の手が伸びてきた。

「湊が寝るまで支えてる」
「いいって…」
「だって守ってくれたのに…このくらいさせて?」

また随分しおらしいことを言う。

これじゃあどうしても寝ないといけないじゃないか…
紫蘭に氷嚢を任せて目を閉じた。


いつの間にか寝てしまったみたいで、目が覚めたらもう外は明るくなっていた。

「ん…?」

なぜか俺の腕の中に紫蘭が眠ってる。

「なにやってんだおまえは…」

しっかりと俺の顔に氷嚢を載せながら、寝てしまったらしい。
出ている右腕がすっかり冷えていた。

「ばかだな…もう…」

手を取って布団の中に入れた。
しっかりと俺の身体で温めていると、紫蘭が目を覚ました。

「湊…」
「おう…目が覚めたか?身体、どうだ?」
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