傾城屋わたつみ楼

野瀬 さと

文字の大きさ
上 下
21 / 55
第二章 常磐

2

しおりを挟む
「…やっぱり…湊は上手だね…」
「…まあな…」

元々、俺は美容師をしていた。
だから、ここに来た時からずっと俺はヘアメイク担当みたいになってた。

今でも、その役目は変わっていない。
もうあの頃のようには、手は動かないけどね。

それ以外で変わったのは、客と寝なくなったこと。

それから…

借金はなくなったこと。


「さ、できたよ」

切った髪を片付けていると、朽葉は鏡をじっと見ている。

「湊さ…」
「うん?」
「なんで外に戻らないの?」

外…

なんて、もう何年出てないんだろ。

もう借金はないから自由の身だ。
だから買い物くらいは行くけど。

「…今更…」

そう呟くと、朽葉はこちらを向いた。
くるりと目を俺に向けると、子犬みたいな顔で見上げた。

「どうして?出たくないの?なんで?」
「なんでもいいだろ…ほら、寝ろよ。今日、身体保たないぞ?」

布団に朽葉を横たえた。

「もうすぐ…精算できんだろ?借金…」

覆いかぶさって言うと、朽葉は目を逸らした。

「そんなの…しらないもん…」
「なんでだよ…聞いたぞ?祐也ゆうやさんから…」


楼主である祐也さんは、ある組の幹部だ。
でもここの経営に関しては、一切その縁は切ってやってる。

ここだけその組とは独立していて、全て祐也さんの裁量に任されている形だ。

まあ…多少、面倒事があった時はそっちの力も借りるけどね…

どうしてそういうことになってるのか分からないが、でも俺たちやここで働いてる子には一切、組のことには関わらせていなかった。

だから、借金も苛烈な利子がついてたり、取り立てがあるってことはなかった。


「湊…」

朽葉が切なげな目をして俺を見上げる。
ぐっと俺の腕を下から掴むと、一層その目は切なく潤んでくる。

「その時は…一緒に…」
「さあ、寝ろ」

強引に話してる最中の朽葉に布団を掛けた。

「聞いて、湊…っ…ん…」

まだ何か言いたそうな朽葉の唇をキスで塞いだ。

「…ぁ…みな…と…」
「もう寝ろって…」

言いながらも、一旦触れてしまった唇の感触が気持ちよくて止まらなくなってた。

朽葉の腕が伸びてきて、俺の首に絡む。
引き寄せられて、一層深く朽葉に埋まりこむ。

「も…っと…欲しい…」
「だめだ…」

言ってるのに、勝手に身体が布団に潜り込んで。
朽葉の細い体を抱きしめた。

昨日、一晩中客に抱かれていたはずの身体は、すぐに熱くなった。

「お願い…抱いて…?湊…」
「だめだ…」

だめだって言ってるのに…俺の手は勝手に朽葉の襦袢を留めている紐を解いている。

「んうっ…」

襦袢を割り開いて、すぐ下の素肌に触れた途端、身体が仰け反った。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

毒を喰らわば皿まで

BL / 完結 24h.ポイント:2,643pt お気に入り:12,956

愛を知らずに愛を乞う

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:74

氷の騎士団長様の悪妻とかイヤなので離婚しようと思います

BL / 連載中 24h.ポイント:29,397pt お気に入り:5,253

海賊王の処刑台

BL / 連載中 24h.ポイント:342pt お気に入り:4

自己中大柄攻め×引っ込み思案小柄受けの江戸時代BL(仮称)

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:8

木曜日生まれの子供達

BL / 連載中 24h.ポイント:1,959pt お気に入り:1,179

結蜾-ゆら-めく夏

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:13

鶴汀楼戯伝~BLゲームの中の人、男ばかりの妓楼に転生する~

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:59

処理中です...