傾城屋わたつみ楼

野瀬 さと

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第一章 蒼乱

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「あぁ…圭…」

肩に掛かる手に指に、ぎゅっと力が入るのが嬉しい。

「気持ちいい…?」
「はい…」
「もっと、教えて…遼…」

堪えながら腰をゆっくりと引くと、押し戻す。
その間も俺の手は、初めて触る他人の陰茎を刺激し続けていた。

こんなこと、初めてするのに…
遼に気持ちよくなって欲しい一心で、夢中になった。

「どうやったら気持ちよくなるのか…もっと教えて…」
「圭…」

とうとう泣き出して、縋るように俺にしがみつく。

「遼…」

胸の中が何かでいっぱいで
俺まで泣き出しそうだった

「泣かないで…遼…」
「けぃ…もっと…」

ねだるように唇を押し付けてくると、また深くキスをする。
夢中でキスをしていたら、腰が揺れだして。
もう、我慢できなかった。

「りょ…う…もう…」
「きて…圭…きて」

胸板をくっつけながら、きつく抱きしめあった。

ああ…なんでこんなに満ち足りてるんだろう…

「遼も一緒に…」
「ああっ…ああ、もっと…お腹、突き刺して…」

乱れた遼は、俺に教えてくれる。
抉るように腰を突き出すと、遼の身体が跳ねた。

「ああっ…」
「これがいいんだね…遼…」
「いいっ…圭っ…ああああっ…もっとっ…」
「遼…遼っ…」

何度も何度も遼の喜ぶところを抉るように突き刺す。
髪を振り乱しながら俺のこと受け入れる遼は、泣いているのに嬉しそうで…

「あ…あっ…も…ぅ…」

その声が聞こえた瞬間、強く身体を抱きしめ合った。






「圭…さま…」
「遼……」

まだ体の中を、快感が渦巻いている。
熱が外に逃げていかない。



初めて
人を抱いた


初めて
人に欲情した


初めて
誰にも渡したくないと思った



乱れた襦袢を纏ったまま俺にしがみつく遼を、抱きしめたまま動けない。
まだ俺は、遼の中に残ったまま。

経験がないわけじゃない。
付き合っていた女性だって過去に居た。

なのに、なぜこんな気持ちになる。



なにもかも初めてみたいな──



遼の手が、俺の肩を包んだ。

「圭さま…?」
「ん……」

まだ余韻に浸っていたくて。
まだ中にいたくて。
動けなかった。

「ちょっとだけ、苦しい…」
「あ」

少し身じろぎしたら、俺は中から追い出されてしまった。


ああ…
なんだか、惜しい
もっと包まれていたかった


少し上半身を起こして、遼の顔を見たら真っ赤になっていた。
慌てて起き上がった。

「ごめん…」

そう謝って、額に汗で張り付いた長い髪を直すと、遼は気怠く微笑んだ。

「いいえ…すみません。お水を…」
「わかった」
「いえ、自分で取りに…」
「いいから。どこにあるのか教えて?」

部屋の隅の小さな物入れを開けると、中に小型の冷蔵庫があった。
入っていた水のボトルを遼に差し出すと、起き上がろうとする。

「…遼…?」
「あ…ごめんなさい…」

腕に力が入らないようだ。

手を貸して起き上がらせると、ボトルを口元に持っていって水を飲ませた。

こくこくと水を飲むと、遼は生き返ったような顔になった。
深い息をひとつ吐くと、俺を見上げた。

「疲れちゃった…?」
「…いいえ…」
「俺、乱暴にしてしまったかな…」
「いいえ、そうではないんです…」

言いづらそうに口を閉じた。

「遼?」
「…気持ちよかった…」
「え?」
「とても…気持ちよくて、その…」

言い淀んで、少し頬を赤くした。

「そ、そっか…嬉しい」
「はい…すいません…」
「いいよ…このくらい…」


腕の中のぬくもりが、嬉しかった。
遼の香りが、嬉しかった。


ただ、嬉しかった。






例えそれが、俺を悦ばせるための嘘だとしても──
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