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最終章 願わくば花の下にて恋死なむ
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しおりを挟む「すまなかった…」
俺の腹の上に、教授が果てた。
汗を俺の上にぽたぽたと落としながら、また兼高教授は泣いた。
暫く、俺達はそのまま手を握り合った。
「ごめん…」
「大丈夫…大丈夫だから…」
泣いている顔も、とても綺麗で…
こんな顔も、椎葉教授は
たくさん見ていたんだ
「何か、拭くもの探してくる…」
持ってたポケットティッシュじゃ足りなくて。
教授は防音室を出ていった。
その時、またスマホが鳴り出した。
痛む身体を引きずってスマホまでたどり着くと、手に取った。
画面に表示されていた名前は『椎葉 健市』だった。
…やっぱり…
椎葉教授…まだ、あなたは…
暫く眺めていると、呼び出し音は鳴り止んだ。
そのまま椅子にスマホを置くと、俺は床に寝転がった。
「遠藤…?」
兼高教授が戻ってきて、俺の胸板に手を置いた。
熱い手だった。
ああ、まだ…やっぱり…
「ごめん…しんどい?」
「ううん…大丈夫…」
また電話が鳴り出した。
「…出なくていいの…?」
「ああ…いいんだ…もう…」
嘘…
なんだろうなあ…
ちっとも忘れられてないじゃないか
俺にこんなことするくらい…まだ椎葉教授のこと…
「ねえ、教えて…」
「え?」
「椎葉教授と、ここでこんなことしたの?」
兼高教授は黙り込んだ。
電話の音は鳴り止まない。
「…してない…」
桜…舞い散る中、佇む二人が瞼の裏に蘇った
「なあ、遠ちゃん…?」
「ん?」
研究室は棚の位置なんかを変える作業に入ってた。
教授室の椎葉教授の荷物を纏めるのはだいたい終わって、後は送るだけになってた。
「その…なんか、あった?」
普段無口な中島さんは、話かけてきても遠慮がちで。
要点がよくわからなかった。
「なにが?」
「なんか…遠ちゃん、凄く…」
「ん?何いってんの?」
「いや…なんか悩みでもある?」
「なんで?」
「うーん…上手く言えないけどさ…」
そこに青木くんが割って入ってきた。
「なんか、色っぽいんだよな。遠ちゃん」
「へっ!?」
「夏休みに入ってから急にだよなあ…」
ぴっと小指を立てた。
「もしかして、デキた?」
「はあ?」
「隠すなよ。もしかして卒業しちゃったか!?」
「は?何を?」
「ど・う・て・い!」
「そんなもんとっくにしてるわ」
言い放った瞬間、二人は固まった。
「え…遠ちゃんって、そんな可愛い顔して大人なんだな…」
「なにいってんのよ…つかあんたらは童貞なわけ?」
ぐっと二人は詰まった。
そう…童貞なんだ…
つか、なんだこの会話。中学生かよ。
バイトを始めてから、この二人とは距離がぐっと縮まった。
だからこんな口も平気できけるようになってた。
「んなわけねえだろー!なあ!中ちゃん!」
「そ、そ、そうだよな!青ちゃん!」
工科系に比べたら、理系男子ってまだマシだって言われてるけど…やっぱ、暗いからな…
こいつら見た目は悪くないのに勉強ばっかしてたから、未だに童貞なんだろう…
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