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第五章 あまのじゃくからの手紙
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僕の話を聞き終わったトサカ兄さんは、しばらく黙って僕の顔を見ていた。
「生きるために、ここに長期滞在したいってことか?」
やっと喋ったと思ったら、口調は少し不機嫌っぽくて。
ちょっとビビった。
どうしよう、だめって言われたら…
辛気臭い話だもんね。
嫌がる人もいるだろうし。
僕のこと死神って言った親戚も居た。
お前だけ生き残るだなんて、死神だなって。
僕にはその人のほうが死神に見えたけどね。
「…まあ、そういうことです」
「死ぬためにここに来たんじゃないんだな?」
とんでもなかった。
僕の命を延ばすためにここに来たんだ。
病気に負けたら、そのときはしょうがないと思う。
でも、僕は『家族の命のお金』をちゃんと使いたかった。
きちんと『僕の命』に変えたかったんだ。
「はい。絶対…そんなつもりはありません」
「ふうん…」
ノリコさんはただ黙って、トサカ兄さんの後ろで話を聞いてた。
「わかった。宿代は格安にしといてやる。気が済むまでここに居ろ」
そして、今に至る。
滞在して数ヶ月で、検査のため一度本土に帰った。
その時は色々とあったから、一週間と言っていたけど戻ってくるまで一ヶ月掛かった。
でも、ここの人は何事もなかったかのように僕を迎えてくれた。
二回目の検査の日が来ようとしてるから、また本土に渡らなければならない。
僕はまたここに帰ってこようと思ってる。
まだ、見たいから。
綺麗な綺麗な風景を、みたいから。
「本土帰ったら…ゆっくりしてこいよ」
松にいは、酒の入ったグラスを縁側に置いて両手を後ろについて夜空を見上げた。
「え?」
「ほら…誰か、友達に会うとかさ…」
友達…は…、もともと多いほうじゃなかった。
父さんが転勤族だったから、引っ越しも多かったし。
それに僕…天の邪鬼だし…
仲良くなると、天の邪鬼発動してしまって、いつの間にかポツンになってる。
なんとか修復しようとしてると父さんの転勤が決まって、そのまま…なんてことも多かった。
大人になってからできた友人や同僚は、家族が亡くなったときの騒動でもうほとんど居なかった。
挙句の果てに、がんになって入院したりなんだりしていたから…
付き合いの残ってた人たちともなんだか縁遠くなって行って、それきりになっている。
「…居ないから、いいや」
諦めてるっていうか、受け入れてるっていうか。
家族が居ないのは寂しいとはすごく思うけど。
友人知人との縁が切れてしまったことは、逆に重荷がなくなった感じもして。
だって僕には帰る場所はないけど、行く場所ならいくらでもあるんだ。
これから何にも縛られないでどこにでも行けるんだ。
だから今の境遇は、嫌いじゃない。
「…じゃあなんで手紙書いてんだよ?」
「え?」
ぐしゃっとまた、松にいは僕の頭を撫でた。
「時々ゴミ箱に、便箋入ってるだろ?誰かに手紙、書いてんじゃないのか?」
「な…な…ぷらいばしー!」
「ばあか。中身は見てねえよっ」
当然のことなのに、えばり腐ってふんぞり返っている。
「あ…当たり前だよっ…」
「ついでに臭いティッシュも見てない」
「なっ…」
「まあまあ、若いんだから一晩で二回はなあ、しょうがないよな?」
「松にいっ…」
「じょーだんだよっ…」
立ち上がると、またふんぞり返って笑いだした。
「なあ、直人。怖いのはわかるけど、ぶつかってみないことにはなんも変わらないぞ…あがっ…」
瞬間移動みたいに、瞬きして目を開けたら、松にいは縁側から庭に転げ落ちてた。
潰れたカエルみたいに、庭に転がっている。
「なあに偉そうにしてんのよ…私にプロポーズできなかったくせに」
松にいが立ってた場所に、ノリコさんが仁王立ちしてた。
「ノっ…ノリコっ…!」
「あんた忘れたのぉ?私が本土に帰る日、いつまでもなんも言わないから待っててあげたのにさ。ウジウジしちゃって、結局船着き場に着いちゃってさ…」
「ま、待て!」
「あんまり情けないから、宮良くんや大城くんが背中どついてやっと白状したんじゃない」
「や、やめろおお!」
奥でお父さんとお母さんがまた爆笑してる。
「にぃにぃ、相手が悪いわね~?」
「そおだぞ~達也いい加減諦めろ~?」
「おとぉーも、おかぁーも、かしまさいっ(うるさい)」
松にいは立ち上がると、裸足のまま庭を飛び出していった。
「おまえのかーちゃんでーべそっ!」
「どうでもいいけど、果物の種を庭に捨てるんじゃないわよ!生えてくるでしょうが!」
「うっせー!クソババア!」
「あんたよりも年下だわ!」
捨て台詞は小学生並だった。
「生きるために、ここに長期滞在したいってことか?」
やっと喋ったと思ったら、口調は少し不機嫌っぽくて。
ちょっとビビった。
どうしよう、だめって言われたら…
辛気臭い話だもんね。
嫌がる人もいるだろうし。
僕のこと死神って言った親戚も居た。
お前だけ生き残るだなんて、死神だなって。
僕にはその人のほうが死神に見えたけどね。
「…まあ、そういうことです」
「死ぬためにここに来たんじゃないんだな?」
とんでもなかった。
僕の命を延ばすためにここに来たんだ。
病気に負けたら、そのときはしょうがないと思う。
でも、僕は『家族の命のお金』をちゃんと使いたかった。
きちんと『僕の命』に変えたかったんだ。
「はい。絶対…そんなつもりはありません」
「ふうん…」
ノリコさんはただ黙って、トサカ兄さんの後ろで話を聞いてた。
「わかった。宿代は格安にしといてやる。気が済むまでここに居ろ」
そして、今に至る。
滞在して数ヶ月で、検査のため一度本土に帰った。
その時は色々とあったから、一週間と言っていたけど戻ってくるまで一ヶ月掛かった。
でも、ここの人は何事もなかったかのように僕を迎えてくれた。
二回目の検査の日が来ようとしてるから、また本土に渡らなければならない。
僕はまたここに帰ってこようと思ってる。
まだ、見たいから。
綺麗な綺麗な風景を、みたいから。
「本土帰ったら…ゆっくりしてこいよ」
松にいは、酒の入ったグラスを縁側に置いて両手を後ろについて夜空を見上げた。
「え?」
「ほら…誰か、友達に会うとかさ…」
友達…は…、もともと多いほうじゃなかった。
父さんが転勤族だったから、引っ越しも多かったし。
それに僕…天の邪鬼だし…
仲良くなると、天の邪鬼発動してしまって、いつの間にかポツンになってる。
なんとか修復しようとしてると父さんの転勤が決まって、そのまま…なんてことも多かった。
大人になってからできた友人や同僚は、家族が亡くなったときの騒動でもうほとんど居なかった。
挙句の果てに、がんになって入院したりなんだりしていたから…
付き合いの残ってた人たちともなんだか縁遠くなって行って、それきりになっている。
「…居ないから、いいや」
諦めてるっていうか、受け入れてるっていうか。
家族が居ないのは寂しいとはすごく思うけど。
友人知人との縁が切れてしまったことは、逆に重荷がなくなった感じもして。
だって僕には帰る場所はないけど、行く場所ならいくらでもあるんだ。
これから何にも縛られないでどこにでも行けるんだ。
だから今の境遇は、嫌いじゃない。
「…じゃあなんで手紙書いてんだよ?」
「え?」
ぐしゃっとまた、松にいは僕の頭を撫でた。
「時々ゴミ箱に、便箋入ってるだろ?誰かに手紙、書いてんじゃないのか?」
「な…な…ぷらいばしー!」
「ばあか。中身は見てねえよっ」
当然のことなのに、えばり腐ってふんぞり返っている。
「あ…当たり前だよっ…」
「ついでに臭いティッシュも見てない」
「なっ…」
「まあまあ、若いんだから一晩で二回はなあ、しょうがないよな?」
「松にいっ…」
「じょーだんだよっ…」
立ち上がると、またふんぞり返って笑いだした。
「なあ、直人。怖いのはわかるけど、ぶつかってみないことにはなんも変わらないぞ…あがっ…」
瞬間移動みたいに、瞬きして目を開けたら、松にいは縁側から庭に転げ落ちてた。
潰れたカエルみたいに、庭に転がっている。
「なあに偉そうにしてんのよ…私にプロポーズできなかったくせに」
松にいが立ってた場所に、ノリコさんが仁王立ちしてた。
「ノっ…ノリコっ…!」
「あんた忘れたのぉ?私が本土に帰る日、いつまでもなんも言わないから待っててあげたのにさ。ウジウジしちゃって、結局船着き場に着いちゃってさ…」
「ま、待て!」
「あんまり情けないから、宮良くんや大城くんが背中どついてやっと白状したんじゃない」
「や、やめろおお!」
奥でお父さんとお母さんがまた爆笑してる。
「にぃにぃ、相手が悪いわね~?」
「そおだぞ~達也いい加減諦めろ~?」
「おとぉーも、おかぁーも、かしまさいっ(うるさい)」
松にいは立ち上がると、裸足のまま庭を飛び出していった。
「おまえのかーちゃんでーべそっ!」
「どうでもいいけど、果物の種を庭に捨てるんじゃないわよ!生えてくるでしょうが!」
「うっせー!クソババア!」
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捨て台詞は小学生並だった。
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