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第二章 約束
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「ああ…そうだな…」
俺を見ないまま、どんどん護はバッグに荷物を詰め込んでる。
「こんな最低なヤツ、別れたほうがいいだろ?」
そう投げやりに言うと、ボストンバッグのファスナーを閉めた。
今度はキャリーケースを押し入れから出して、床に広げた。
「待ってよっ…俺、別れるって言ってないっ…」
止まらない護の腕を掴んだ。
「ちゃんと話して」
「和之……」
「ちゃんと俺の目を見て」
暫く沈黙があった。
掴んだ護の腕は、やっぱり震えてて。
どうして…
なんで…
なんで俺は気づかなかったんだろう。
「…護…?」
名前を呼ぶと、ゆっくりと護は顔を上げた。
まっすぐに俺の目を見つめると、口を開いた。
「子供が欲しい」
「…え…?」
「だから、女と結婚する」
頭の中が、真っ白になった。
「かず…ぅ…」
その唇が、好きだった
きれいな形の唇が、俺の肌の上を滑っていく感触が好きだった
そこから漏れる吐息も
声も
全部…全部…
「ぐっ…」
その唇から漏れる苦悶の声
「許さない…」
俺のこと「愛してる」って言ったその唇から出る声
「許さない…護…」
苦しそうに歪む顔から、目が離せなかった
「かずゆ…き…」
絞り出される声は、もう俺には聞こえない
聞こえなくなる
だから
消してあげる
思わず
ノートにメモを取っていた手が止まった。
「あの…」
「え?」
「…大丈夫ですか…?」
「何が?」
笑っている彼の表情はそのままで…
涙を流していた。
「泣いて…らっしゃるから…」
「ああ…」
新居は、服の袖で顔を拭った。
少し俯いてから、また顔を上げた。
「これが、当日あったことです」
「そう、ですか…」
上手く、返事ができなかった。
別れ話から、逆上して絞め殺してしまった。
よくある痴情のもつれというやつだ。
「ね?よくある話でしょう?」
「ええ…まあ…」
また新居は微笑んだ。
なぜ…そんな顔で笑うんだ…
どうして、愛する人が自分を裏切って…衝動で殺してしまったというのに。
…それほど愛していたというのに…
そんな表情ができるんだ。
「愛して…いらしたんですよね…?」
あんまりにも…その表情とこの事件が繋がらなくて。
「愛していたから…殺してしまったんですよね…?」
アクリルの壁越しの新居は、微笑んだままだ。
「そう、ですね」
短く答えると、左の手で胸を押さえた。
「とても、愛しています」
そのまま彼は黙り込んでしまった。
「…今でも…愛していらっしゃるってことですね…?」
俺を見ないまま、どんどん護はバッグに荷物を詰め込んでる。
「こんな最低なヤツ、別れたほうがいいだろ?」
そう投げやりに言うと、ボストンバッグのファスナーを閉めた。
今度はキャリーケースを押し入れから出して、床に広げた。
「待ってよっ…俺、別れるって言ってないっ…」
止まらない護の腕を掴んだ。
「ちゃんと話して」
「和之……」
「ちゃんと俺の目を見て」
暫く沈黙があった。
掴んだ護の腕は、やっぱり震えてて。
どうして…
なんで…
なんで俺は気づかなかったんだろう。
「…護…?」
名前を呼ぶと、ゆっくりと護は顔を上げた。
まっすぐに俺の目を見つめると、口を開いた。
「子供が欲しい」
「…え…?」
「だから、女と結婚する」
頭の中が、真っ白になった。
「かず…ぅ…」
その唇が、好きだった
きれいな形の唇が、俺の肌の上を滑っていく感触が好きだった
そこから漏れる吐息も
声も
全部…全部…
「ぐっ…」
その唇から漏れる苦悶の声
「許さない…」
俺のこと「愛してる」って言ったその唇から出る声
「許さない…護…」
苦しそうに歪む顔から、目が離せなかった
「かずゆ…き…」
絞り出される声は、もう俺には聞こえない
聞こえなくなる
だから
消してあげる
思わず
ノートにメモを取っていた手が止まった。
「あの…」
「え?」
「…大丈夫ですか…?」
「何が?」
笑っている彼の表情はそのままで…
涙を流していた。
「泣いて…らっしゃるから…」
「ああ…」
新居は、服の袖で顔を拭った。
少し俯いてから、また顔を上げた。
「これが、当日あったことです」
「そう、ですか…」
上手く、返事ができなかった。
別れ話から、逆上して絞め殺してしまった。
よくある痴情のもつれというやつだ。
「ね?よくある話でしょう?」
「ええ…まあ…」
また新居は微笑んだ。
なぜ…そんな顔で笑うんだ…
どうして、愛する人が自分を裏切って…衝動で殺してしまったというのに。
…それほど愛していたというのに…
そんな表情ができるんだ。
「愛して…いらしたんですよね…?」
あんまりにも…その表情とこの事件が繋がらなくて。
「愛していたから…殺してしまったんですよね…?」
アクリルの壁越しの新居は、微笑んだままだ。
「そう、ですね」
短く答えると、左の手で胸を押さえた。
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そのまま彼は黙り込んでしまった。
「…今でも…愛していらっしゃるってことですね…?」
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