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クレーム

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「魔王様、今日もまた冒険者達が此方に向かってきているようですが、如何なさいますか? 取り敢えず、PKしておきますか?」

「いやいやいや、サンゴ。さも当然の様に我の右腕みたいな顔しているが、そもそもお前は冒険者であって、我を討伐するクエストを受注しているんじゃないのか? まぁ、他の皆もそうなんだが……」

 俺は正に玉座と呼ぶに相応しい椅子に腰掛けながら、まるで元の世界にいるかの様な錯覚を覚えながら、嘆息を吐いた。

 何故こんな事になっているか?

 本当に、俺がそれを教えてほしいくらいである。

 ことの発端は、一ヶ月前に遡る。



「魔王様ぁああ!? 魔王様って【魔王】だったんですか!?」

 ハスレ村のシリル親娘の家で、まったりお茶をもらっていたところに、それはもう慌てた様子のソラが飛び込んできた。紅の一件は取り敢えず、シリル親娘を紹介した事や、その美味い料理で有耶無耶にはできていたので、ここ数日は前と同じように一緒に狩りを行っていたのだ。

「ソラ……」
「ソラさん……」
「ソラねえちゃん……」

「きぃいいい! その残念な子を見るような目で、私を見ないでくれます!?」

 俺だけでなく、シリルとアリンも同じ反応を示していたので、変なのはこちら側ではなく、ソラの方でだろうな。

 などと言おうものなら、更にソラの怒りの焔が燃えたぎりそうなので、決して口には出さないが。

「まぁまぁ、ソラさん。お茶でも飲んで、落ち着いて下さい」

「うぅううう……まぁ、折角ですし、そうですね、いただきま……美味ぁあ!? んん!? 飲んだ事ないけど、イメージだけれども、最高級のロイヤルミルクティーの様な味わい!? 飲んだ事ないけど!? それくらいしか表現できない私のボキャブラリーの無さが恨めしい!」

「美味いだけじゃないぞ。ソラ、自分のステータスを見てみるんだ」

「ステータス? はぁ、アレですか? 飲んだらステ上昇効果があるみたいな言い出すんですか? そんな超高級回復薬みたいな効果のあるお茶が、初心者エリアの村で普通にでて来る訳ががががあったぁああ!?」

「ソラねえちゃん……ちょっと怖い」
「アリン、あんまり見ちゃダメよ」

 ソラが、俺も若干引く程の大きさで、床を転げまくる反応リアクションをするものだから、アリンが完全に怯えていた。

「ソラ、落ち着け。完全に、アリンが怯えてるぞ」

「は!? アリンちゃん!? おねぇちゃんは、こわくないよぉ♪ こわぁくないよぉ♪ 普通のおねえさんだよぉお♪」

 アリンが怯えていることに気がついたソラが、機嫌を治させようと歌い踊りながらアリンとシリルの回りをぐるぐる回ってるが、どうにも逆効果にしか見えない。

「ソラ、その辺で勘弁してやってくれ。二人の精神が、そろそろ限界に来ていそうだ」

「どう言う意味ですか!? あぁ! もう! そう言うことじゃなくて! 魔王様! 【魔王討伐クエスト】のターゲットモンスターになってるじゃないですか!」

「俺は最初から〝魔王〟だと、誰に対しても名乗っている筈だが?」

 俺がアリルとシリルに目をやると、二人もしっかり頷いているから、間違いはないだろう。

「そうなんですけども! そうなんですけども……そうなんですよね? 確かに、初めから〝魔王〟と言ってますもんね……と言うことは、本物のレイドボス魔王と言うことだったんですね」

「当たり前だろう。俺が、偽物の魔王に見えるのか?」

「プレーヤーとして紛れ込んでいるって書いてあるし……顔写真は、一緒だし……そっか……ゲームの中の人だったんだ……」

 何やらソラが肩を落としている原因が俺にあるのは分かるのだが、何とも腑に落ちない。しかし、ソラの〝クエスト〟という言葉から、先程メニューのインフォメーションに新着の知らせが来た事を告げる音が鳴っていた事を思い出し確認してみると、その理由が判明したのだった。

「なるほど。俺が、この世界における賞金首となった訳か」

 そこには、【魔王出現!? プレーヤーに紛れ込む侵略者を、その手で討ち滅ぼせ! 世界の平和を護る勇者は、君達だ!】なる題名と共に、クエストの説明が記載されていた。

「十中八九、奴の仕業だろうな。はぁ、全く。何故、異なる世界にまで来て、元の世界の様な仕事をせねばならんのだ」

 ブレイブの奴の嫌がらせに他ならんとは思うが、この手の業務に関しては本業だからな。面倒だなと思うものの、焦ったりすることはないが。

「魔王様……は、私と同じ世界の人じゃなかったんですね……」

「会った時から、そう言っていたと思うが?」

「あ……確かに、最初から一貫して魔王様は〝魔王様〟でしたね……そう……ですよね! 最初から、そう仰ってましたね!」

「凄い無理矢理自分を納得させたような顔だが、大丈夫か?」

「大丈夫か? ですって? 大丈夫な訳ある訳ないでしょうがぁああ! ゲーム初めて最初に話しかけて仲良くなったプレーヤーが、プレーヤーじゃなくて、野生の魔王だったんですよ!」

「野生の魔王って、何なんだそれは」

 コロコロ忙しそうに感情を入れ替えるソラの言動に、流石に可笑しくなって、自然に口元が緩む。それはアリンやシリルも同じ様だった。

「魔王様がプレーヤーじゃなくて、魔王様だったと言うことは、今の私のプレーヤーのフレンドって、あのゴリ押しでフレンド登録させられた紅さんだけになっちゃうんですよ!? あぁああ! ずっと野生の魔王様と行動していたとか、絶対運営にニヤニヤしながら見られてるんだぁああ! 何かもう色々恥ずかしぃいいい! 運営のバカぁあああ!」

 そんなこんなで、ソラが事態を飲み込むまで、ここから十数分はかかったのだった。



「笹本先輩、遂にスタートしてしまいましたね、魔王討伐クエスト」
 私は、休憩室でコーヒーを飲みながら窓の外を眺めていた笹本先輩に話しかけた。

「上井……頼むから、現実世界でその気迫を俺にぶつけてくるな。それで、今から魔王様に会ってくるのか?」

「はい。流石に、まだ解像度の低い横顔の写真と、名前が〝魔王〟という情報のみですから、今なら普通に会えるでしょうし」

「あぁ、うん。そうだな。そうなんだが、クスエト案内直後に実は既に運営にクレームが入っていてな」

 凄い言いにくそうな笹本先輩に違和感を感じながらも、その内容を聞いてみる。

「魔王様関連という事ですよね?」

「あぁ、あるトッププレーヤーからのクレームでな。そんな事はあり得ないはず何だが……」

「何ですか?」

「……〝この魔王に、試着室で着替えを覗かれ、更には胸を揉まれた。運営は何を考えてるんだ!〟っていう……おぉい、上井さぁん……ひぃ!?」

 何を笹本先輩は、怯えているのだろう?

「問題調査担当官として、今からそのクレームに関しての調査を行うべく、ログインして来ます」

「お……おう、分かった。くれぐれも、お前が討伐するなよ?」

「ハハハハ。それでは、行ってきます」

 討伐? するわけ無いじゃない。

「私以外の胸を揉んだ腕を、叩き斬ってやる」

 さぁ、行こう。 

 私の魔王様の元へ。

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