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「おぉ! 魔王様! 遂にお目覚めになられたのですな!」

「先程な。それはそうと、村長とイダイは分かるが、何故ギョクサがハスレ村にいるのだ?」

 戸を叩き入ってきた三人を見ると、二人はこの村の者だがギョクサはキタレ村の村長であり、ここにいること自体が疑問だったのだ。

「実はここに居るのは、ただの偶然なのです。キタレ村から外へと出て行った若衆達を迎えに来つつ、NPCの戦闘方法を各村に知らせておる所に、ここに『魔王様』がいると聞きましてな。まさかと思ったら、本当に貴方だったのです」

「そうだったのか。あれから七日は経っているが、そっちはどうなっている?」

 村長とイダイも話があるそうだが、申し訳ないが待ってもらい、俺の直近の事柄として沼地がどうなったという事と、バーサーカークイーンホーネットに嬲られていた村民達がどうなったという事を先に確認させてもらった。

「幸い、村民の中に死者は出ませんでしたな。あの時に足をやられた者も、村民の中に治癒の力を思い出した・・・・・者もおりましたので、備蓄の回復薬と併用することで快方に向かっております。そして沼地は、魔王様とあの巨大なモンスターが消えた後に再び出現しました。そしてモンスターの出現は、魔王様が調整してくださった状態からは変わっておらんようですな」

「命に別状が無く、何よりだったな。それに俺の魔法陣がそのままと言う事は、空間自体を削り取って全く新しく構築したという訳ではないという事か……俺の話は、ここの村長とイダイからの話を聞いてから話そう」

 そして、村長とイダイからは、最近の俺の街での噂を聞くことになった。

「一時は、大分冒険者の間で騒ぎになったみたいだ。だが、昨日俺が街に行った時は貴方の名前は聞かなかったが……そうじゃない連中もいるみたいだった」

 イダイが最初街の様子を見に行った際には、とにかく冒険者達が『チート』『不正』『晒し』等の言葉が多く聞こえたそうだが、直近の昨日はある集団以外は前の通りだったらしい。

「俺たちは冒険者の情報は分からないが、同じ紋章を着けた冒険者達だけが、今でもブツブツと『不正』だの『チート』だのと言いながら『魔王』という者を探している様だった。この『魔王』ってのは魔王様の事なんだろう?」

「そうだろうな。恐らくは、俺を吹き飛ばしたブレイブの仕業なのだろう。街の騒ぎと言うのは分からんが、この世界は『不正』『チート』という言葉に異常に敵意を向けてくる為、その事が関係しているのだろう」

 俺が、その様に説明すると最後は村長がブレイブについて確認してきた。

「そのブレイブという冒険者は、魔王様の敵という事なのかの?」

「敵か……何やら一方的に絡まれた感覚なんだが、確かに気に食わん奴だったな」

 奴は、明らかに俺の事を知っていた。そして、俺が絶対に避けない・・・・方法を選び、自身の剣戟を俺に向けて放ったのだ。そして、奴はソラに対しても興味を持っている様だったのだ。俺はその事だけでも、奴を敵認定しても良いと考えていた。

 俺が奴への怒りと警戒心を高めていると、村長は額に汗を掻きながら話しかけてきた。

「……魔王……様……少し……気を静めて……下され……」

 村長に言われ周りを見渡すと、全員が額に汗を掻きながら苦しそうにしていた。そのことに気付いた俺は、昂ぶる気を落ち着かせ周囲に撒き散らかしていた威圧を収めた。

「済まなかったな、俺とした事が情けない」

 俺が詫びると、全員が落ち着いた様に安堵の表情を見せた。するとアリンが額に汗を掻きながらも、笑顔を俺に対して見せた。

「私たちは、魔王様の味方だからね!」

「それは心強いな。よろしく頼む」

 俺が微笑むと、周りもそれにつられて笑い出したのだった。



「はぁ……」

「あれ? どうしたのかなカナ? 恋の悩みかなカナ?」

「カナちゃん……今日何キャラ?」

 大講義室の席に座り、朝一の講義を受ける準備をしている私に、同じ学科に入学したカナちゃんが声をかけてきた。基本的に私は一人で講義を受けているのだが、何故かカナちゃんは私の『ぼっちバリア近寄らないで』を突破して声をかけてくるのだ。しかも、今日の彼女は黒髪ツインテールのゴスロリファッションで非常に目立っていた。その上、傍目に見ても美少女なのだが、基本的に酷く面倒くさいのだ。

「ウザキャラかなカナ?」

「確かにウザいけど……何故そのキャラを選択して近づいて来たか、理解に苦しむよ」

「だよねぇ? ダヨネェ? あははは! マジウケるぅぐべ!?」

「……殴ったよ?」

「あぁ……うん……知ってる」

 取り敢えず、カナちゃんの頭をど突いて黙らせた。最初は我慢して付き合っていたが、調子に乗るだけだと把握してからは、ど突くことにしている。何故かど突くとリセットされた様に、普通のカナちゃんに戻るのだ。私は真剣にこの子が、どこかの研究所で作られたポンコツアンドロイドだと思っている。頭をど突くと時々カランカランと変な音が出るのだ。

「で、カナちゃんは何のようだったの?」

「普通に、美宇宙ちゃんがため息吐いてたからどうしたのかなって」

「ありがとう。でも、ため息吐いた時は、カナちゃんまだ近くにいなかったのによく分かったね」

 私の記憶が確かなら、さっき私が溜息を吐いた時は、近くにカナちゃんはいなかった筈だ。

「大丈夫。吐き出される空気の量や勢いを計測した結果、何か悩みがあると判断しただけだから。全く気にしないで」

「寧ろ、全く大丈夫じゃなくなったんだけど?」

 私は完全に引いていたが、カナちゃんは完璧にスルー無視した。私が引いている事に全く動揺せずにカナちゃんはジッと私の目を見つめていた。その揺らぎないまっすぐな目が、機械くさいのだが流石に口には出さない。

「はぁ、まぁいいか。今さ『the Creation Online』やってるんだけどね。始めた時にフレンドになった人が、ネットでチートだって晒されてさ。動画と写真がアップされてたんだけどね……」

「やっぱりチートっぽかったの?」

「めっちゃ……かっこよかったの! なんかどぅわぁああ! って感じのオーラ? 気? 見たいのが出ててさ! なんか誰かの攻撃を受けてた感じ何だけどさ! 何ていうかなぁ、熱いっていうの? まるで映画のワンシーン見ているようで、絶対に『俺が護ってみせる! うぉおおおお!』とか言ってるでしょ! 寧ろ言ってなかったら怒る! みたいなシチュエーションだよこれは!」

 私は拳握りしめ、カナちゃんに同意も求める視線送る。

「……ソーデスネ」

「何で、いきなり胡散臭いロボ調言葉で後ずさりするの? ねぇ? 何で、引き笑いしながら離れるの?」

 カナちゃんは何故か私から離れていったが、きっと私から情報を得ることが彼女のミッションだったのだろう。目的を果たした為、離れていったに違いなかった。私は、彼女がミッション達成系のアンドロイドだと悟ったのだった。

「はぁ、今日の夜はメールの返信あるといいな……」

 私の周りから人が何故か避けて行くのを感じながら、大講義室の教壇をボンヤリと眺めるのであった。



「ふぅ、行ったか。目力が半端なかったな」

 上井が魔王様からメールの返信が来たからログインしたいと許可を取りに来たが、アレは許可申請を取りに来たとは言わないだろうと苦笑した。

「ふふふ、凄かったわね、今の上井さんの圧力」

 久留間さんが、俺のデスクにマグカップ片手に笑いながらやって来た。

「あいつも事業部との会議で、大分ストレス溜まってましたからね」

「そうらしいわね。新入社員がいきなり事業部とやり合うなんて中々ないから、話は聞いたわよ」

「まぁ、事業部は事業部で今回の一件は大変だったでしょうからね。どこのどいつかわかりませんが、証拠もないのに『不正プレイヤー』だと言ってネットに晒してくれるもんだから」

 どっかのバカが、運営に通報すると同時にネットにも写真と動画を晒したお陰で、『不正は不可能』を謳い文句にしていた『the Creation Online』に遂に初のチートプレイヤーの誕生かと騒ぎが大きくなったのだ。

「結局、技術保全部の見解では不正の痕跡は見つからなかったのよね?」

「えぇ、そうなんですが、限りなく黒に近いグレーって奴ですが」

 通報のあった時刻の場所では、確かにフィールド上では異常なステータスの上昇が確認されていた。しかし技術保全部のプレイヤー情報では、ステータスの異常情報は検出されなかった。そのことについて、上井は状況証拠から不正認定して黙って垢BANしてしまおうとする事業部に食ってかかったのだ。上井は、明確な不正の痕跡が発見出来なければ不正プレイヤーと認定するべきではないと主張して真っ向からぶつかった。

「事業部の苛立ちも分かるけどね。上井さんも頑固そうだし、事業部とは反りが合わなさそうね、ふふふ」

「笑い事じゃないですからね、全く……でも、気持ちは分からんでもないがな」

「ん? 何?」

「いや、何でもないです。まぁ、あいつも色々と経験して此処の運営らしくなっていくでしょ」

 俺がそう言うと、久留間さんは微笑みながら同意し自分の席に戻っていった。そして、俺は再び視線をパソコンの画面へと戻した。そこには、運営への『魔王様』の不正の通報をしてきた名前が載っていた。

「ブレイブ……『勇者』か。偶然だとしても出来過ぎだな」

 そして、俺は上井からのログインしたとの報告を待つのだった。



「さぁ、『魔王様』。何があったのか教えて貰うわよ」

 私は、先程のメールに今の自分が『サンゴ運営アバター』である事も忘れる程に、兎に角魔王様に会いたいと思いすぐ様返信をしていた。

『連絡なかったから、心配したわよ。今何処にいるのよ?』

 そして、帰ってきた返信を見るなり私は駆け出した。


 デートの待ち合わせに向かうかのように、私は逸る気持ちを抑えることが出来ず、全速力で向かったのだった。
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