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二人

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「本当に何やってんだろ、魔王様……『決闘トレーニングモードとは、どんなものか教えてくれ』って来たけど、どっかで誰かと戦闘訓練でもしてるのかな」

 ログインして早速魔王様にメールを送ると、怪しげな電報調の返信で『ケットウ』していると返信が来た。驚いていると、今度は決闘トレーニングモードについて尋ねられたので、今しがた返信した所だったのだ。

 『the Creation Online』には、通常フィールドでのPKプレイヤーキル以外でもプレイヤー同士の戦闘行為が出来る。その中の一つである『決闘』を、魔王様は聞いてきたのだ。

「トレーニングモードだから、要は戦闘不能にしても無かった・・・・事になるって返信したけど良かったかな」

『決闘』がPKと違うのは、お互いに勝者に対して設定が出来る点だった。報酬を事前に決めていたり、戦闘回数などのルールをお互いに決められる点であり、トレーニングモードの場合は、対人戦闘などの訓練を行うモードだとメニューのヘルプを見て魔王様の質問に答えたのだ。

「はぁぁああ……今日は一人かぁ……ソロでのレベル上げだし、何処の狩場がいいのかな」

 私はクエスト案内所に掲示されている電光掲示板で、狩場と推奨ジョブやレベルを参考にしながら、レベル上げを何処でしようか考えていると、後ろから声をかけられた。

「初心者かな? 良ければ相談に乗るよ」

 振り向くと、全身を鮮やかな蒼色の全身鎧プレートアーマーに身を包んだ金髪蒼目のモデルの様な男の人が、微笑みながら立っていた。

「……こん……にちわ……」

「迷惑だったかな? 何やら迷っている様だったから、思わず声をかけてしまったんだ。僕はブレイブという者で、怪しい者ではないよ」

 そう言うと、アバターの白い歯がキラリと光った。

ブレイブ勇者って……これまたファンタジーロールな……」

「どうかしたのかい?」

「いえ!……えっと……私……ごめんなさい!」

 私は、すぐさまその場からの逃走を試みた。クエスト案内所を飛び出し、兎に角その場から退避しようとしたのだ。

「NPCと魔王様は、大丈夫なんだけど……他はムリ」

 NPCなら問題なかった。魔王様も兄に似ていたせいもあって、普通・・に話すことが出来た。でも、ゲームの中だろうと、プレイヤー人間は苦手だった。

「そんなに急いで、何処に行くんだい?」

「……ぎゃぁあああ!?」

 ブレイブさんは、私のすぐ後ろをしっかりついて来ていたのだ。あの装備からして私よりも上級者のプレイヤーなのだろう。

「だからと言って、逃げた相手追いかけます普通!?」

「待ってくれよ、ははは」

勇者ブレイブからは、逃げられない!?」

 私は、一先ず逃げながら振り向きスクショして、これ以上何かされたら迷惑行為として運営に通報しようと思い、準備だけはしたのだった。



「はぁあああ!」

 俺は、気合を入れながら目の前に迫る紅の剣尖を躱し、そのまま紅の腹に拳を叩きつけた。紅は地面を派手に跳ねながら吹き飛んでいき、身体が光の粒子となり消えていく。しかし、すぐさま光の粒子が再び収束し元の紅の擬似肉体アバターを再構築すると、すぐさま俺に向かって斬りかかってくるのだが、先ほどからこれの繰り返しだった。

「そろそろ認めたらどうだ。今の紅の実力では、俺を殺す事など出来んぞ」

「……こんな事を聞くのは屈辱だが、あんたのジョブとレベルはいくつなんだい」

「『無職』だからな、レベルは知っての通りだ」

「やっぱりチート野郎じゃないか……このゲームには、不正が出来ないって……生まれも育ちも……女も努力した分だけ強くなれる世界だって……結局、ズルには勝てないじゃん……」

 紅はその場にへたり込み、首を垂れていた。

「俺は不正ズルなどしておら……」

 俺が不正ズルなどしていないと告げようとした瞬間、その場に大音響の泣き声が響き渡った。

「うわぁああああ! 何なのさ! 変態! 痴漢! チート! もう嫌ぁあああ!」

「……何なんだ……どうしろと」

 突然大泣きし始めた紅を前に、俺は困惑するしかなかったのだった。



「落ち着いたか?」

「うん……てか、まだいたの? 不正の証拠も無いし、なんだか情けないし、面倒くさいから通報もしないし、どっか行って。そのネタ装備に釣られてきたプレイヤーに、俺Tueeeでもしてきたら?」

「酷く面倒くさい感じになってるが、先程と性格変わってないか?」

 スターテイン初めて会った時や先程話した時は、こんなにねちっこい感じではなかった筈だが、目の前で三角すわりで地面を指で弄っている紅は、酷く面倒くさかった。

「うるさい。なに? ゲーム内でも、リアルと同じ性格じゃないといけないわけ? こんな自分になりたいなぁとか思って、キャラ作っちゃダメなわけ? 大体あんただって、『魔王様』したいんでしょ? もっと魔王様らしく高笑いしたり、相手を蔑んだり、『魔王様からは逃げられんのだ!』とか言いながら、蹂躙しなさいよ。 格好もなにそれ? 魔王様なら黒でしょ黒。何で漆黒の鎧でマントもつけてないの? そもそも剣は? 殴る蹴るってどういうこと? 魔王、舐めてんの? 実はいい奴でした的な魔王様設定とか、私嫌いだから。魔王なら魔王らしく、理不尽さを全面に出しなさいよ。分かり難いのよ、コンセプトが。しかもやってる事が覗きと痴漢とか、そんなリアルな嫌がらせ止めてくれる? しかも、すぐ逃げ出してさ、魔王様が自分から逃げてどうするの?」

「……」

「なに? 何処行くつもりよ。まだ言い足りないから、そこに座りなさいよ」

 余りにもあんまりな紅の状態に、早くここから立ち去るべきだと思い、紅が地面を見ていたままだったのでそのまま静かに立ち去ろうとした。そして、一歩下がろうとした瞬間、片足をガシッと掴まれたのだ。

「……先程、どっか行けと言われたのだが」

「なに? 揚げ足とるの? 自称魔王様の癖に、細かいのも減点。つべこべ言わずに、黙って聞きなさいよ。でも、相槌とか打ちなさいよ? 無視したらキレるわよ」

 俺の心が瀕死に向かっていると、紅は嗤いながらトドメを刺しにくる。

「『魔王様は逃げられない』」

 そして、何故か紅の俺に対する説教、仕事場の文句、ギルドへの不満等を聞かされ続けたのだった。この時俺は思ったのだ、初めてこの世界で出会った者がソラで良かったと。



「へ、へぇ……スゴイデスネ」

 何故か私は平原フィールドのど真ん中で、白い歯を煌めかせながら演説する勇者ブレイブを地面に座りしながら見上げていた。

「どうだい! 君も正義のギルド『救世主メシア』に入ろうじゃないか!」

「いえ、遠慮シマス」

「そうか……まだ、言葉が足りないんだね! それじゃあ、次の話は獄炎エリアのレイドボスを討伐した時の話をしよう!」

「……神運営様……魔王様……助けてください……げふぅ」

 付いてきたブレイブさんから逃げる事が出来ず、運営にもスクショ付きで迷惑行為を受けていると通報したが音沙汰がなく、結局街の外で話しを聞く・・ことになった。私に狩場を教えてくれるのでなかったのかと思いもしたが、面倒くさい事になりそうだったので言わなかった。

 結論としては、勇者ブレイブは酷く面倒くさい人だった。

 ブレイブさんは、自分が『救世主メシア』というギルドのマスターをしている事や、そのギルドの理念、実績等を声高らかに演説していた。そして何故かゲームを初めて数日の私が、そのギルドへの勧誘を受けていた。

『君の魂が、僕のギルドに入るのに相応しいと訴えてくるんだ!』

 正直、ログアウトして逃げようと思ったが、流石に失礼かなと思ったり、取り敢えずちゃんと断らないと粘着されそうだったので話しを聞き始めたら、この有様だった。

 メンタルがガリガリ削られていくため、私は魔王様にメールを送る為メニューを開いて文を作成していた。ブレイブさんは、そんな私に目もくれず時々やってくるゴブリンを叩き斬りながら、武勇伝を語っていた。

『魔王様、とっても面倒くさい男の人に絡まれ中です。助けて下さい』

 私がメールを送信したと同時に、着信音が鳴った。魔王様からのメールであり、返信表記はなかった為、偶然同じタイミングで、あちらもメールを送ってきたのだろう。

『ソラ、物凄く面倒くさい女冒険者に絡まれている。何とかしてくれ』

 私はこの瞬間、絶望の淵へと落ちていったのだった。



「ちょっとブレイブ、私に迷惑行為の通報連絡が入ったわよ。何してるのよ」

 ギルド『救世主メシア』のギルドホールにある秘書室から、ギルドマスターであるブレイブへとカルマは翠色のロングヘアーを揺らしながら運営専用通話を使って話しをしていた。

「『悪かったよ、カルマ。ちょっと面白い子を見つけちゃって追回したら、通報されたみたいだ』」

 口では謝っているものの、全く悪びれる様子がないブレイブにカルマは溜息を吐いた。

「もう……で、どんな面白い子なのよ」

「『ちょっと僕と因縁があってね。ふふふ、どうしようかな』」

「貴方と因縁て……可哀想な子ね」

「『可哀想? 僕に目を付けられるなんて、これほど迷える仔羊達にとって、幸せな事はないだろう』」

 ブレイブは、目の前のソラを見て嗤いながら念話でカルマと会話をしていた。口では、ソラに対して勇者の英雄譚を語りながら、並列思考と念話によりカルマとも会話を同時に行っていたのだ。

「それはどうかしらね。それで、まだ粘着するの?」

「『ギルドに入ってもらうまではね』」

 その答えに、標的になった仔羊に心の中で合掌しながらカルマは通話を切った。

「此れ迄で、一番悪そうな嗤い声だったわね」

 アバターであるにも関わらず、背筋が寒くなった気がしたカルマであった。



「……もう限界だ……なぁ、紅……まだ話し足りないのか?」

 俺は紅の終わらない話に心が折れかけていた為、話を止める狙いもあり話しかけた。

「何か問題でも?」

「問題しかないんだが……」

 俺がそう呟くと、紅は少し考えてから提案をしてきた。

「そうね、もう少し私の気がすむまで魔王様の代わりに話しを聞いてくれる子でもいたら良いわよ。ただし、可愛い女子ね。やっぱり女子会で魔王様との話のストレスを発散よねぇ」

 文句も言いたい所だったが、ぐっと堪えて考えを巡らす。俺が呼べそうなのはソラしかいない訳だが、幸いソラは傍目から見ても可愛らしい女子な筈だ。それに、彼方も変な男に絡まれており助けて欲しいとメールが来ていた。それならば、こっちは相手も女だから交代すれば良いだろうと、無理やり納得した。結局面倒くさいのは変わらないのだが、せめて同性の方が楽だろう。紅もそれを希望しているのだから、仕方がない。そう、仕方がなかったのだ。

 俺はそっと、この場所に自分の魔力で目印マーキングを行った。これで、この場所にも空間転移で戻れるし、もし戻ってきた時に二人がいなくてもソラには元々目印マーキング魔力を付着済みである為、追うのも容易い。

 そして俺は、この場をソラに任せることにしたのだった。

「『空間交換転移』『対象』『ソラ』『起動』」

 俺は淡い光に包まれ、足元からソラと入れ替わるようにお互いが転移を始めた。そして、数秒後に完全に俺とソラはいた場所を交換したのだった。



「君は……誰だい?」

 俺はソラと入れ替わり転移した。そして目の前に蒼天と見まごうが如き見事な蒼色の鎧を身につけた男が立っていた。その男は俺を見るなり、腰の剣を抜き構えた。

「俺は『魔王』だ」

「『魔王』?……おいおいおい、その魂の波長は見覚えがあるよ。まさか、君は『勇者』か? 魂が神核まで昇華しているじゃないか。あの後に、ご褒美に神に格上げして貰ったんだね」

「何を言っている。『勇者』? 俺は『魔王』だと言っているだろう」

 目の前の言動と雰囲気を不審に思い、警戒しながら『鑑定』をかけた。しかし、何も読み取る事が出来なかった。

「『鑑定』かい? 君も、神の端くれなら分かるだろう。同格に『鑑定』が効かない事ぐらいさ。それにしても、君は今回『魔王』なのかい? 勝手に『勇者』にさせられた事への嫌味かな?」

「だから何を言っているんだ。俺は『勇者』ではない。元から『魔王』だ」

 俺がそう応えると、目の前の男は顔を歪め始めた。

「ふふふ……ふははははは! そうかいそうかい! どれ程の時間を過ごしたかは知らないが、元が人では仕方ないよね。まぁ、いいや、それはそれで面白そうだね!」

 一人で何やら納得した様子の男は、再び俺に向かって嗤い顔を向けてくる。

「僕はブレイブという者だ。人からは『勇者』と呼ばれている。『魔王』よ、『勇者』の役割を覚えているかい・・・・・・?」

 ブレイブと名乗った男は、剣を構えたままで問いかけてくる。

「知らんな」

「『魔王』を討ち滅ぼし、世界に平和をもたらす事さ!」

 ブレイブの剣が迫り、咄嗟に俺は身を翻し剣尖を避けた。そして頬には、一筋の斬り傷が刻まれ、血が流れ落ちた。



 『魔王』と『勇者』が宿命の再会を果たしている時に、ソラもまた試練を迎えようとしていた。

「「……えぇええええ!?」」

 ソラと紅はいきなり目の前の相手が変わった事に、驚愕していた。そして、いち早くソラは魔王様から届いていたメール内容を思い出し、その場から離脱しようと試みた。しかし、一瞬にして回り込まれてしまった。

「何処行くのかなぁ? 子猫たぁああん。女子会しぃまぁしょぉお」

「ひぃ!? 魔王様の……ばかぁあああ!」

 虚しくソラの叫びが響き渡り、再び紅が始め・・から文句と愚痴を話し始めたのだった。
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