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第99話 世界の端っこで新たな物語は始まる
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『ゾンビ映画の定番としては、生者に群がるゾンビの大群だけれども、実際はどんな感じかな?』
「それは、どう言う意味……ん? 何やら家の外が騒がしいカァン」
ゾンビのビンゾの家の外から、大勢の何かが集まっているような声が、小屋の中にまで聞こえくるのであった。
"ビンゾの家に、旅人がきたらしいンビ"
"めんこいおなごらしんンビ!"
"ほったら集落全員で、歓迎せないかンビ!"
"興奮してきたンビぃいい!"
「マスターカン! 完全に外を囲まれた様子です! 唸り声が物凄いです! 完全に狙われています!」
アミルは、青い顔をしながら額に汗を流していた。
「あ、うん。狙われていると言うかなんと言うカァン……」
アミルは、廃屋の外から聞こえるゾンビ達の唸り声を聞いて、絶体絶命の危機だと感じ、マスターカンに助けを求めるような視線を投げかけた。
「縋るような目を向けられても困るカァン。だがしかし、このままでは我も危ない。ビンゾよ、今この小屋を出たら、我々はどうなるカァン?」
"アルミちゃんは、大歓迎の上に興奮したみんなに噛まれまくってゾンビ化ンビ。空き缶は……喋らなければ、間違いなく無視ンビ"
「我も構ってくれカァン!?」
"空き缶のかまってちゃんとか、誰得ンビよ"
『間違いないね』
空き缶が、ゾンビに見向きもされずアミルにばかり注目される状況に嫉妬していると、更に外のゾンビ達は興奮していた。
そして、遂に廃屋の扉が破られテンションMAXのゾンビ達が入ってきたのだった。
「不味いカァアァン!?」
「マスターカン! キャァ!」
「アミルぅううカァアァン!?」
ゾンビ達は、空き缶には目もくれずアミルに向かって殺到しようとした。アミルの悲鳴に、カンは最悪を覚悟した時だった。
突然、カンのアルミボディ全身に悪寒が走ったのだった。
「この感覚は……ゾンビ達! 離れろぉおお! 【風龍の戯れ(Lv.3)】発動カァアァン!」
「「「ンビぃいい!?」」」
カンが発動させた【風龍の戯れ(Lv.3)】の魔風により、ゾンビ達は足を掬われ、次々と転倒した。
そしてゾンビ達が転倒したと同時に、廃屋の天井が完全に消え去った。
「カ……カァン!? 天井は、どこいったカァン!?」
「「「……ンビ!?」」」
空き缶とゾンビが、突然の出来事に固まっていると、更なる混乱が彼らを襲う。
「ククク……あははははははは! やっと目が覚めたぞぉおお!」
高笑いと共に、まるで竜の咆哮の様な大声が小屋を振動させた。
そして、その声の主はカンでもなく、ゾンビ達ではなかった。
「目が覚めたカァン? おぬしは、誰だ。アミルではないカァン」
先程の小屋を吹き飛ばしそうな声を張り上げたのは、先程までゾンビの大群に青い顔を見せていたアミルであった。
「なんだ? 我に偉そうな口を聞くのは、誰だ」
「ふっ、我の事が分からぬとは。やはりお主、見た目はアミルだが中身は違うカァアアアアン!?」
台詞を言い終える前に、カンは前触れなく小屋から空へと吹き飛ばされた。
『あ……カン、それは不味いなぁ。かつてこの世界を絶望一色に染め上げた〝災厄の魔王〟の転生体に向かって、さも大物ぶって語りかけてしまうなんて、無礼にも程があるね』
唯の空き缶に偉そうにされたアミルは、イチカの予測通りにカンの態度に即キレて、話を遮るように上空へと吹き飛ばした。
「災厄の魔王とか聞いてないぃいカァアァン!?」
「ゴミクズが目障りだぁああああ! 〝無限滅殺覇道波〟!」
「いきなり酷ぃいいカァアァァン!?」
『まぁ、実際飲み終わった後の空き缶な訳で。即ちゴミであるわけで』
アミルよりカンに向けて、無限滅殺覇道波が放たれた。
カンは、アミルの突然のキレっぷりに全く対応出来ず、終わることがないと思えるほどの魔弾に襲われた。
常時発動M型の効力により、一度は魔弾を受けても復活したが、御構い無しに魔弾はカンを襲い続け、瞬きする間も無いほどの時間で、カンは体力を再び失ったのだった。
「……ここは……どこカァン……」
〝やぁ、意識が戻ったかい〟
「その声はイチカか、やはり我はアミルにやられて空き缶に転生してしまったのか」
〝空き缶転生? もう一度冷静に、周りを確認してご覧よ〟
カンは、イチカの妙に優しげな声だけを認識していた。
「周りを?」
言われるがままに、カンは周りに意識を向けた。
「……ここ、どこカァン!? いつものイチカの書斎ではないカァン!? むしろ何もないカァン!?」
カンの言葉が、全てを物語っていた。今、カンは本当に何も無い場所にいたのだった。
〝そこは、世界の狭間さ〟
「……嫌な予感しかしないのカァン」
〝カンさぁ、ちょっと想像以上にあの魔王を怒らせちゃったみたいなんだよ。身体が消滅したのにも関わらず、カンがいた空間を攻撃しまくるものだから、空間が見事に破壊されちゃってね。カンの魂が、その空間の歪みに吸い込まれて、こっちに帰ってこれなかったんだよ〟
「……あカァアァアアアァアアンやつそれぇええ!?」
〝別にそれくらいなら、カンの魂を回収出来ない事もなかったんだけど、ちょっと不味いことが起きてるみたいなんだよね〟
「魂の消滅だけはご勘弁カァアン」
〝それは大丈夫だろうけど……ある異世界の管理システムが、何者かにハッキングされて、強制的にその世界の【理】を改変されたみたいでさ〟
「世界の管理システムなぞ言われても、意味が分からんが、何故そんな事をするのだ。我が言うのはなんだが、そんな事をすれば、世界が混乱する原因を作るではないカァン」
〝まぁ、そうだね。犯人の目的は、よく分からないけど、カンにとっての問題は空き缶ボディに魂が定着している状態ではなく、魂だけの存在でその世界に誘導されようとしていることだね〟
「それが、何が問題なのカァン?」
〝カンの魂は、いつでもこちらの空き缶ストックに転生できるように、魂を【イチカが飲んだコーヒーの空き缶】に転生するように術を施してあるんだけど〟
「何気に、新事実カァン」
〝ちょうど、ストックの空き缶切らしちゃってさ。だから、糸の切れた凧状態だったから、簡単に空間の歪みに魂が吸い込まれていっちゃたんだよねぇ。ってことは置いといて。引き寄せられた世界でカンの魂が、何に魂が定着して転生するかわかんないんだよねぇ。消しゴムのカスや使用済みのティッシュとかに転生したら、ちょっと可哀想かなって。てへぺろ♪〟
「てへぺろ♪ちゃうカァアァン!? 色々ツッコミどころが多すぎる長台詞を、軽い感じで吐くんじゃないカァアァン!?」
〝しかもさ、今までとあまりに形が違うものに転生しちゃうと、完全に記憶とか吹き飛んじゃうよ、きっと。まぁ、魂に刻まれたスキルなんかは、なんかの拍子に覚醒するかも知れないけど……あれだよ、あれあれ、ニューゲーム的な?〟
「我的にはセーブデータ消えた気分カァン!?」
〝きっと、一回目に死んだりしたら常時発動M型が発動するだろうから、その強い魂の波動に合わせて、意思疎通が取れるようなモノにカンが転生してたら、こちらから何とかコンタクト取ってみるさ。常時発動M型が発動した瞬間なら意識ぐらいは、引っ張って来れるだろう……意識があるものならば……だけど〟
「怖い怖い怖い怖い怖い怖いカァァアン!? 意思疎通がとれたらって、どういうことカァアァン!?」
〝しょうがないでしょ。だって、記憶もなくして、転生するんだから、本気でボウフラとかノミとかだったら、そもそも無理だって〟
「諦めるなカァアアァン!?」
〝そろそろ、会話も出来なくなりそうだ。そうだ、最後に言っておきたい言葉があったんだよ〟
イチカは、カンの魂が完全に異世界へと引き込まれる間際、改めて真剣な雰囲気を作り直した。
「なんじゃ、別れの言葉カァン……」
〝カンの本当の戦いは、これからだ!〟
「……打ち切りエンドぉおおおおカァアァン!?」
こうして、喋る空き缶カンの魂は、世界規模で異変が起きている世界へと引き込まれていった。
そして本来カンが転生の為に戻ってくる筈だった書斎では、天を仰ぎならがら目を閉じていたイチカが、ゆっくりと目を開けた。
そして、アラームの鳴り響くノートパソコンの画面を、渋面をつくりながら眺めていた。
「よりにもよって、あの世界の〝理〟を弄る奴がいるなんて……全く狂ってるとしか、言いようがないね」
顔を掌で覆うと、首を左右にゆっくりと振ると、イチカは身体を震わせ始めた。
「く……くくく……あっはっはっはっはっは!」
そして、狂ったように嗤いだした。
「面白い! 面白いよ! どこの誰かは分からないけれども、これは面白い! 他の奴らは、恐らくシステムエラーの影響で干渉も鑑賞も出来ないだろう。 だけれども……カンが巻き込まれたボクは、きっと干渉は出来なくとも〝鑑賞と会話〟くらいはできる筈」
飲みかけていた缶コーヒーを飲み干すと、楽しそうにその空となった缶を撫でた。
「何だかんだとカンの得てきたステータスに、転生物は引っ張られるだろうし、潰れるのも時間の問題だろうから……取り敢えず、新しい缶コーヒーでも買ってこよっと」
まるで映画の続きを観る前に、飲み物の準備をするかのように、イチカは軽い足取りで書斎を出ていくのであった。
魔力など存在しない、現代社会。
異世界より帰還し者達は、この世界より拒絶され続け、非能力者達の前では力を扱うことを許されなかった。
しかしこの日、突然に『世界の理』が書き換えられ、同時に世界各地で大規模なテロが多発した。
その時に人々が目にしたのは、これまで空想の世界の力であった筈の『魔法』であった。そして、これまでの世界は終わりを告げ、新しい世界が始まることとなる。
これより始まるは、〝地球〟を舞台に混沌と化していく世界を生き抜こうとする者の物語。
“終わりと始まりの日”と呼ばれるこの日、この世界の端っこで、誰かが飲み干したコーヒーの空き缶が、誰かが触れたわけでもなく、僅かに動いたのだった。
「それは、どう言う意味……ん? 何やら家の外が騒がしいカァン」
ゾンビのビンゾの家の外から、大勢の何かが集まっているような声が、小屋の中にまで聞こえくるのであった。
"ビンゾの家に、旅人がきたらしいンビ"
"めんこいおなごらしんンビ!"
"ほったら集落全員で、歓迎せないかンビ!"
"興奮してきたンビぃいい!"
「マスターカン! 完全に外を囲まれた様子です! 唸り声が物凄いです! 完全に狙われています!」
アミルは、青い顔をしながら額に汗を流していた。
「あ、うん。狙われていると言うかなんと言うカァン……」
アミルは、廃屋の外から聞こえるゾンビ達の唸り声を聞いて、絶体絶命の危機だと感じ、マスターカンに助けを求めるような視線を投げかけた。
「縋るような目を向けられても困るカァン。だがしかし、このままでは我も危ない。ビンゾよ、今この小屋を出たら、我々はどうなるカァン?」
"アルミちゃんは、大歓迎の上に興奮したみんなに噛まれまくってゾンビ化ンビ。空き缶は……喋らなければ、間違いなく無視ンビ"
「我も構ってくれカァン!?」
"空き缶のかまってちゃんとか、誰得ンビよ"
『間違いないね』
空き缶が、ゾンビに見向きもされずアミルにばかり注目される状況に嫉妬していると、更に外のゾンビ達は興奮していた。
そして、遂に廃屋の扉が破られテンションMAXのゾンビ達が入ってきたのだった。
「不味いカァアァン!?」
「マスターカン! キャァ!」
「アミルぅううカァアァン!?」
ゾンビ達は、空き缶には目もくれずアミルに向かって殺到しようとした。アミルの悲鳴に、カンは最悪を覚悟した時だった。
突然、カンのアルミボディ全身に悪寒が走ったのだった。
「この感覚は……ゾンビ達! 離れろぉおお! 【風龍の戯れ(Lv.3)】発動カァアァン!」
「「「ンビぃいい!?」」」
カンが発動させた【風龍の戯れ(Lv.3)】の魔風により、ゾンビ達は足を掬われ、次々と転倒した。
そしてゾンビ達が転倒したと同時に、廃屋の天井が完全に消え去った。
「カ……カァン!? 天井は、どこいったカァン!?」
「「「……ンビ!?」」」
空き缶とゾンビが、突然の出来事に固まっていると、更なる混乱が彼らを襲う。
「ククク……あははははははは! やっと目が覚めたぞぉおお!」
高笑いと共に、まるで竜の咆哮の様な大声が小屋を振動させた。
そして、その声の主はカンでもなく、ゾンビ達ではなかった。
「目が覚めたカァン? おぬしは、誰だ。アミルではないカァン」
先程の小屋を吹き飛ばしそうな声を張り上げたのは、先程までゾンビの大群に青い顔を見せていたアミルであった。
「なんだ? 我に偉そうな口を聞くのは、誰だ」
「ふっ、我の事が分からぬとは。やはりお主、見た目はアミルだが中身は違うカァアアアアン!?」
台詞を言い終える前に、カンは前触れなく小屋から空へと吹き飛ばされた。
『あ……カン、それは不味いなぁ。かつてこの世界を絶望一色に染め上げた〝災厄の魔王〟の転生体に向かって、さも大物ぶって語りかけてしまうなんて、無礼にも程があるね』
唯の空き缶に偉そうにされたアミルは、イチカの予測通りにカンの態度に即キレて、話を遮るように上空へと吹き飛ばした。
「災厄の魔王とか聞いてないぃいカァアァン!?」
「ゴミクズが目障りだぁああああ! 〝無限滅殺覇道波〟!」
「いきなり酷ぃいいカァアァァン!?」
『まぁ、実際飲み終わった後の空き缶な訳で。即ちゴミであるわけで』
アミルよりカンに向けて、無限滅殺覇道波が放たれた。
カンは、アミルの突然のキレっぷりに全く対応出来ず、終わることがないと思えるほどの魔弾に襲われた。
常時発動M型の効力により、一度は魔弾を受けても復活したが、御構い無しに魔弾はカンを襲い続け、瞬きする間も無いほどの時間で、カンは体力を再び失ったのだった。
「……ここは……どこカァン……」
〝やぁ、意識が戻ったかい〟
「その声はイチカか、やはり我はアミルにやられて空き缶に転生してしまったのか」
〝空き缶転生? もう一度冷静に、周りを確認してご覧よ〟
カンは、イチカの妙に優しげな声だけを認識していた。
「周りを?」
言われるがままに、カンは周りに意識を向けた。
「……ここ、どこカァン!? いつものイチカの書斎ではないカァン!? むしろ何もないカァン!?」
カンの言葉が、全てを物語っていた。今、カンは本当に何も無い場所にいたのだった。
〝そこは、世界の狭間さ〟
「……嫌な予感しかしないのカァン」
〝カンさぁ、ちょっと想像以上にあの魔王を怒らせちゃったみたいなんだよ。身体が消滅したのにも関わらず、カンがいた空間を攻撃しまくるものだから、空間が見事に破壊されちゃってね。カンの魂が、その空間の歪みに吸い込まれて、こっちに帰ってこれなかったんだよ〟
「……あカァアァアアアァアアンやつそれぇええ!?」
〝別にそれくらいなら、カンの魂を回収出来ない事もなかったんだけど、ちょっと不味いことが起きてるみたいなんだよね〟
「魂の消滅だけはご勘弁カァアン」
〝それは大丈夫だろうけど……ある異世界の管理システムが、何者かにハッキングされて、強制的にその世界の【理】を改変されたみたいでさ〟
「世界の管理システムなぞ言われても、意味が分からんが、何故そんな事をするのだ。我が言うのはなんだが、そんな事をすれば、世界が混乱する原因を作るではないカァン」
〝まぁ、そうだね。犯人の目的は、よく分からないけど、カンにとっての問題は空き缶ボディに魂が定着している状態ではなく、魂だけの存在でその世界に誘導されようとしていることだね〟
「それが、何が問題なのカァン?」
〝カンの魂は、いつでもこちらの空き缶ストックに転生できるように、魂を【イチカが飲んだコーヒーの空き缶】に転生するように術を施してあるんだけど〟
「何気に、新事実カァン」
〝ちょうど、ストックの空き缶切らしちゃってさ。だから、糸の切れた凧状態だったから、簡単に空間の歪みに魂が吸い込まれていっちゃたんだよねぇ。ってことは置いといて。引き寄せられた世界でカンの魂が、何に魂が定着して転生するかわかんないんだよねぇ。消しゴムのカスや使用済みのティッシュとかに転生したら、ちょっと可哀想かなって。てへぺろ♪〟
「てへぺろ♪ちゃうカァアァン!? 色々ツッコミどころが多すぎる長台詞を、軽い感じで吐くんじゃないカァアァン!?」
〝しかもさ、今までとあまりに形が違うものに転生しちゃうと、完全に記憶とか吹き飛んじゃうよ、きっと。まぁ、魂に刻まれたスキルなんかは、なんかの拍子に覚醒するかも知れないけど……あれだよ、あれあれ、ニューゲーム的な?〟
「我的にはセーブデータ消えた気分カァン!?」
〝きっと、一回目に死んだりしたら常時発動M型が発動するだろうから、その強い魂の波動に合わせて、意思疎通が取れるようなモノにカンが転生してたら、こちらから何とかコンタクト取ってみるさ。常時発動M型が発動した瞬間なら意識ぐらいは、引っ張って来れるだろう……意識があるものならば……だけど〟
「怖い怖い怖い怖い怖い怖いカァァアン!? 意思疎通がとれたらって、どういうことカァアァン!?」
〝しょうがないでしょ。だって、記憶もなくして、転生するんだから、本気でボウフラとかノミとかだったら、そもそも無理だって〟
「諦めるなカァアアァン!?」
〝そろそろ、会話も出来なくなりそうだ。そうだ、最後に言っておきたい言葉があったんだよ〟
イチカは、カンの魂が完全に異世界へと引き込まれる間際、改めて真剣な雰囲気を作り直した。
「なんじゃ、別れの言葉カァン……」
〝カンの本当の戦いは、これからだ!〟
「……打ち切りエンドぉおおおおカァアァン!?」
こうして、喋る空き缶カンの魂は、世界規模で異変が起きている世界へと引き込まれていった。
そして本来カンが転生の為に戻ってくる筈だった書斎では、天を仰ぎならがら目を閉じていたイチカが、ゆっくりと目を開けた。
そして、アラームの鳴り響くノートパソコンの画面を、渋面をつくりながら眺めていた。
「よりにもよって、あの世界の〝理〟を弄る奴がいるなんて……全く狂ってるとしか、言いようがないね」
顔を掌で覆うと、首を左右にゆっくりと振ると、イチカは身体を震わせ始めた。
「く……くくく……あっはっはっはっはっは!」
そして、狂ったように嗤いだした。
「面白い! 面白いよ! どこの誰かは分からないけれども、これは面白い! 他の奴らは、恐らくシステムエラーの影響で干渉も鑑賞も出来ないだろう。 だけれども……カンが巻き込まれたボクは、きっと干渉は出来なくとも〝鑑賞と会話〟くらいはできる筈」
飲みかけていた缶コーヒーを飲み干すと、楽しそうにその空となった缶を撫でた。
「何だかんだとカンの得てきたステータスに、転生物は引っ張られるだろうし、潰れるのも時間の問題だろうから……取り敢えず、新しい缶コーヒーでも買ってこよっと」
まるで映画の続きを観る前に、飲み物の準備をするかのように、イチカは軽い足取りで書斎を出ていくのであった。
魔力など存在しない、現代社会。
異世界より帰還し者達は、この世界より拒絶され続け、非能力者達の前では力を扱うことを許されなかった。
しかしこの日、突然に『世界の理』が書き換えられ、同時に世界各地で大規模なテロが多発した。
その時に人々が目にしたのは、これまで空想の世界の力であった筈の『魔法』であった。そして、これまでの世界は終わりを告げ、新しい世界が始まることとなる。
これより始まるは、〝地球〟を舞台に混沌と化していく世界を生き抜こうとする者の物語。
“終わりと始まりの日”と呼ばれるこの日、この世界の端っこで、誰かが飲み干したコーヒーの空き缶が、誰かが触れたわけでもなく、僅かに動いたのだった。
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