イセカン!?〜異世界の空き缶に転生した我だけれど、諦めずに魔王に成ってみせるカァアン!〜

イチ力ハチ力

文字の大きさ
上 下
97 / 99

第97話 異世界では受け入れられたみたいね

しおりを挟む
『マジックバックの外では、数百年も時が流れていたとしても、体感的な時間経過は数十分の空き缶が、まるで数百年も一人で閉じ込められていたような風を装うのは、如何なものかな』
 
「内密にカァアアァン!」
 
 少年は、カンの言葉に完全に一人で数百年も過ごしてきた哀れな空き缶だと誤解していた。

 その為、マジックバックに戻そうとしていた手が止まり、床の上にカンを再び置いたのだった。

『少年の気持ちにつけ入り、まるで詐欺師のように自然に相手の誤解を招かせる所業は、まさにゲス缶の名をほしいままにするカンに相応しい。このクズ缶が!』
 
「そこまで言うカァン」  
 
「数百年も、こんなマジックバック中で一人……孤独だったんだね……」

 そう呟くと、少年は酷く暗い瞳をカンに向けていた。
 
「え……あ、いや……その……」

『大袈裟に言った事に対して、罪悪感からキョドるくらいなら、初めから正直に言えば良いのに』
 
「僕は……五歳の時に、ある理由で塔に幽閉され、そこから十年一人で誰もいない部屋で過ごしたんだ。とても寂しくて苦しくて……それを君は数百年も……」
 
「カァン!? 時間の重さが違うカァアアァン!?」
  
 目の前の少年は、冷静に見ると初心者冒険者のような装備しか身につけておらず、その革鎧すらボロボロであった。

『そんな、少年のトラウマを抉りだす空き缶は、まさに魔王の様な所業……クズ缶っすね、パネェっす』
 
「そんなつもりはぁああ」
 
「僕は、アミルって言うんだ。君は?」

 アミルと名乗った少年は、カンの前にしゃがみ込むと、これまでと異なり優しい目をしていた。
 
「優しい眼差しが心に刺さるカァアアン!?」

 誇張表現をした事に、良心が痛むカン。 

「わ、我は、こう言うものです。詳しくは、側面の表記をお読みくださいカァン」

 結果、態度が丁寧になる。
 
「表記? あぁ、これね」
 
 アミルはカンを拾い上げると、側面の成分表示を読み始めた。
 
「これは!?……龍に認められし……M……空き缶……まさか?」
 
「ん? どうしたのカァン?」
 
「君は本当に……本当に、このマジックバックの守護者的な何かなの?」

 真剣な表情でアミルは、カンに向かって問いかける。
 
「やはり誤魔化せぬカァン。済まぬ……実はそうではないのカァン」
 
「やっぱり……」
 
 アミルは、そっと空き缶を再び床の上に戻すと、真剣な眼差しで見下ろしていた。
 
「どうしたのカァン? 瞳に涙なぞ浮かべて」
 
「僕が、塔にいた時に部屋には沢山の本が置いてあったんだ……その中でも、僕はある一冊の本の物語に心を躍らせ、いつかこんな勇者のように、外の世界で大冒険をしたいと思ったんだ」
 
「ふむ。全く、話が読めぬのだが?」
 
「本の題名は……〝異世界で潰れる、蹴られる、凹まされる! それでも我は空き缶をやめない!略して『いせカン』〟……まさか、本当に実在したなんて……伝説のM、マスターカンは本当にいたんだ!」
 
「……異世界で書籍化してるカァアァン!? ところで、我に印税は!?」

『真っ先に確認するところが、印税ってどうなの? まぁ、世に存在が広まるというのは、良くも悪くも凄いことだよね。カンが消滅せずに、色々頑張ったから一冊分ぐらいの話はたまったからさ』
 
「勝手に何してくれとるカァアァアアン!」
 
『嫌なの?』
 
「まんざらでもないカァアアァン!」
 
『自分の潰れたり、凹んだり、歪んだりする姿を異世界においても晒されていることを、そんなに凄まじく興奮するって……正に、真性のMだね』
 
「本の中身は、そればっかりカァン!?」

 必ずしも、自身の物語が希望通りに書籍するとは限らない。ましては、異世界に向けての出版である。
 
「マスターカン、僕と一緒に国を魔王から取り戻してください!」
 
「我がこれだけ一人で喚いても、まったく無視して話を進めるとは……しかし、済まぬが、もう一度言ってくれぬカァン?」
 
「マスターカン、僕と一緒に国を魔王から取り戻してください!」
 
「一字一句違わぬ、見事なもう一度カァン、からのぉえぇええええ!?」
 
『カンは、すっかりどこかの賢者のようにマスター呼びに良い気になり、快くアミルと魔王を倒す旅に出ることを了承したのだった。っと、書き出しはこんなところかな』
 
 カタカタとキーボードを叩く音ともに、カンにイチカの呟きが聞こえた。

「おい、何をブツブツと言って……」
 
「ありがとうございます! マスターカン!」

「ちょ!? 我は未だ何も言ってないカァン!? それに何故に、イチカの独り言通りに話が進もうとしているカァン!?」
 
『頑張れマスターカン! 潰れる事を期待してるぞマスターカン!』
 
「間違いなくおのれの仕業だろうカァアァン!」

 カンがイチカに文句を言おうが、話は進んでいくのであった。
 
「では早速マスターカン、この廃墟から脱出しましょう!」
 
「脱出カァン?」
 
「はい、僕はとある場所から仲間の手を借りて脱出してきたのですが、その際に敵の手でこの場所へと強制転移させらたみたいなんです」
 
「ほほう、中々に主人公してるカァン」
 
「それで、先程外から、この古屋に命からがら逃げてきました」
 
「一応確認するが……何からカァン?」
 
「勿論、廃墟を縄張りとする魔物と言ったら決まってます。アンデッドやゴースト系ですね」
 
「……えぇ!? 王道ファンタジーではなくパニックホラーモノになのカァアアン!? 空き缶も噛まれたらゾンビになったりするやつカァアァン!?」
 
『なるよ』
 
「なるんカァアァン!?」

 そして空き缶もゾンビ化するという、驚愕の事実にカンは心底震え上がるのであった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

婚約破棄を成立させた侯爵令嬢~自己陶酔の勘違い~

鷲原ほの
ファンタジー
侯爵令嬢マリアベル・フロージニス主催のお茶会に咲いた婚約破棄騒動。 浅慮な婚約者が婚約破棄を突き付けるところから喜劇の物語は動き出す。 『完結』

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

処理中です...