イセカン!?〜異世界の空き缶に転生した我だけれど、諦めずに魔王に成ってみせるカァアン!〜

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第96話 もう一人は……嫌ぁああぁああ!?

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『さて、自分を数百年の引きこもりから外に出してくれた恩人に対して、自称魔王はどんな恩を返すのでしょうね。あのまま、誰にも呼ばれなかったらと思うと、ゾッとするところですが、さてまさか恩知らずなことはしないでしょう、ね?』
 
「……恩を返すまで、逃がすカァアァン!」
 
 カンは、数百年という放置から救ってくれた恩を返すために、目の前の少年の逃げ場を抑え、立ちはだかった。
 
「いえ、結構です。帰らせてください」
 
 即答で、カンの申し出は断られる。

「いえいえ、遠慮なさらず」

 粘るカン。
 
「こちらこそお気遣いなく、そろそろ帰らせてください。お願いします」
 
「そんな泣きそうな顔で、懇願しなくても良いではないか
 
 カンとのやりとりをする中で、少年の瞳には涙が溜まり始めていた。

「だって……魔王なんでしょ?」
 
「……魔王……になりたい的な?」
 
「ってことは? いまは?」
 
「ふっ……そんな事より、お主は誰なのだ? そして、ここはどこなのカァン?」
 
「……おりゃ!」
 
「ふあ!? なんじゃ!? いきなり、蹴ろうとしよって!」

 カンは少年の蹴りを、身体を横にスライドさせることによりかわした。
 
「魔王じゃないんでしょ? なら、雑魚モンスターかなって。弱そうだから、倒そうと」
 
「我を倒しても経験値はきっと雑魚だし、ドロップもないカァアアァン!?」
 
「え? でも、人語を話せるモンスターってレアっぽいし!」

 少年は、カンが攻撃してこないとみると、連続で缶蹴りを放った。
 
「蹴りが鋭い! ふあ!? 可愛い顔して、なんというアグレッシブさなのカァン!?」
 
「案外すばしっこいね……やっぱり、倒すと経験値たくさん得られそう。メタルのモンスターって、そんな存在だよね」
 
「確かにメタルであることには、全く違いないカァアァアン!?」

 自身のボディがメタルで出来ているため、素早く逃げる魔物の亜種であると認識されたことに、恐怖を覚えた、。
 
「待つのカァアァン! そこのマジックバックの中に、我はいたのだぞ! レアモンスターより、むしろレアアイテムの可能性が高いと思わないカァアアン!?」
 
 カンは、我が身可愛さにモンスターよりもアイテムを選択したのだった。

 なんとも情けない選択であったが、見た目以上に割と鋭い蹴りをかわし続けるよりは、プライドを捨てる方を選んだのであった。
 
「レアアイテム……空き缶が?」
 
「知性を持ったアイテムなど、見たことないであろう!?」
 
「確かに……マジックバックの中入ってたってことは、少なからずモンスターではないのかな……」
 
「そうなのカァアァン! からのぉ、フハハハハ!」

 蹴られたくないカンは、何とかして少年に自分の存在を認めさせる必要があった。
 
「どうしたの? いきなり、大物感出そうとして」
 
「そのマジックバック価値をお主は、知っておるのカァン?」
 
「ん? このボロボロの? こんな廃屋に捨てられてたんだし、粗悪品とかでしょ?」
 
「ふふふ……フハハハハ! 愚か者め! 我は、なにを隠そう、その国宝級マジックバックの守護的な何かなのカァン!」
 
「……は?」
 
『設定の詰めが甘い上に、魔王を目指す者としてのプライドは、何処にいったのさ』

 カンの甘い設定をもとにした言葉に、イチカは呆れた。
 
「むざむざと蹴られるくらいなら、空き缶のプライドなぞ売ってくれるカァァン」

『我が身可愛さに、虚偽の嘘をつく空き缶……控えめに言って、最低だね』
 
「……カ、カァン。嘘も方便というしであるからして……」
 
 カンは、魔王とか何とか抜かしていた癖に、最終的には討伐されない為に自分をレアアイテムと偽った。

 確かに少年の持つマジックバックは、正真正銘の激レアアイテムだが、空き缶は何処までいっても空き缶である。
  
「まず、このボロいマジックバックが国宝級?」 
 
「うむ、このマジックバックは容量無制限、鮮度永久保持という破格の性能を持っており、かつての異世界から召喚された勇者が使用していた物カァン」
 
「……えぇええええ!? って、驚くわけないでしょ。そんなの本当なら、国宝級どころか伝説級の代物だし」
 
「だから、我のような知性を守護者的な何かが、マジックバックの中に入っておったのカァン」
 
 カンは、嘘に嘘を重ね自らがマジックバックの中に入っていた理由を述べた。

 最早、何故ゲス勇者が持っていたマジックバックが、この廃屋に捨てられるようにあったのか、この少年が知っているのかすら聞ける訳もない。
 
「空き缶が守護出来ているのかどうかはさておき、何でそんな凄いマジックバックが廃屋に捨てられてるのさ」
 
 そしてマジックバックが、どうしてここにあったのかを、逆に問い詰められる。

「……お主、細かいことを気にするのぉ。そこは、〝うっひょう! ラッキー! こんなボロ小屋で、いきなり伝説アイテムゲットで、ヒャッハーだぜ!〟とかならぬのカァン」
 
「なるわけないでしょ。あからさまに怪しい空き缶が、薦めるアイテムとか完全に警戒対象だよ」
 
「……手強いカァン」
 
「それに、仮に本物だとしても見なかったことにして、置いて捨てていくけどね」
 
「何故カァアアァン!?」
 
「そんな伝説級アイテム持ってる事がバレたら、間違いなく僕消されて奪われるしね。そもそも、凄すぎて逆に売れたりもしないし。決定的なのは、変な空き缶が付属品で付いてるっていうし」
 
「最後のは、オプションサービス的な感じに考えてもらえればよいだろうカァン」
 
「ということで、別の人が来るまでまたバック入ってなよ」
 
「やめてカァアァン!?」
 
 少年は、驚き叫ぶカンをさっと空き缶を拾い上げると、マジックバック中に再び入れ直そうとしていた。
 
「また数百年も一人は嫌カァアアアアン!?」
 
「え……一人……?」
  
 すぐさまカンをマジックバックの中に入れ直そうとした少年の手が、カンの叫びを聞くと、一言呟きながら身体を硬直させたのであった。
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