イセカン!?〜異世界の空き缶に転生した我だけれど、諦めずに魔王に成ってみせるカァアン!〜

イチ力ハチ力

文字の大きさ
上 下
83 / 99

第83話 アルミ缶よりは、元に戻った感はあるかな?

しおりを挟む
 口を湿らせる程度にお酒を頂いた僕はロッツガルド学園に到着。
 全く酔ってはいない。
 えっと、なんだこれ?
 目をこすってみても景色は変わることなく。
 講義の場には識とジン達がいて、妻子持ちのダエナが識の正面で正座していた。
 実技中心の講義が僕らのスタイルのメインなんだけど、特に誰かが何かをしている様子もない。
 なんだこれ、である。

「遅れては、いない筈だが……これは一体何事だ?」

 さっきまで商人だったから講師の口調にするのに一瞬戸惑ってしまった。
 普通に話してると同期みたいで勘違いするって学生には不評だから筆談の時のままの言葉遣いでやってるからなんだけど、結果僕のが負担に感じてるってどうかと思う。

「ああ若様。講義まではまだ少し時間がございます。これは、今回は若様にもいらしていただく予定でおりましたので彼らにちょっとした宿題を出したのですが……」

「ダエナが忘れた、のか?」

 珍しいもんだ。
 基本ロッツガルド学園の学生はあの騒動後は特にだけど、やる気がある。
 僕の講義の場合は倍率が高い人気講義扱いされるようになったから特に向上心や野心に溢れる子たちが集まる傾向がある。
 だから講義自体への熱もさることながら、課題や宿題という講義外の指導についても非常に貪欲だ。
 食後のデザート的な感覚で彼らの方から講師に次回までの、或いは中長期的な課題を求められる。
 メインを食べてなお食欲旺盛な人物がデザートを食べ忘れる事なんてあり得ない。
 残す事も稀だろう。
 余程相性が悪かったとか好みから外れていたとか。
 つまるところ、ロッツガルド学園の学生が課題を忘れるなんて珍事な訳だ。

「いえ、課題自体は全員やり終えて準備は整っているのです。しかしダエナが学生としても、教育に強く興味を持つ者としても少々良くない考えを持っておりましたので軽いお説教を」

「良くない考え?」

「はい。ダエナは最近になって教育者を目指すという目的を手にして目覚ましい成長を遂げつつあります」

「うん。あ、いや、そうだな」

 分身とかジョブに頼らず能力として身につけてるもんな。
 ロッツガルド学園生というのが本格的に天才と秀才の巣窟だって思い知らされたよ。
 肩書き狙いの一部の貴族や商人の子以外は冗談じゃなく世界の未来を担うような才気溢れる若者が揃ってる。

「今回、私は生徒たちへの課題としてある論文が明らかにした事実から自分ならどんな発展形を見出すかという課題を出しました」

「……」

 うんうんと頷いておく。
 論文の読解と自分なりの将来における利用法の模索ってところだろう。
 戦闘実技中心の講義でやる事かは論文の内容次第……だけど。
 どうも外れている気がしなくもない。

「全員の回答に落第点はありませんでしたが、概ね予想通りに収まりましてしばしの雑談になりました。そこで論文に絡んで図書館や司書の話題に触れたところ」

「ふむ……」

 図書館に司書。
 まあその論文もそこから持ってきたものだろうからおかしくないか。
 まさか識の研究を論文にしたものだったりしたらかなりショッキングなものもあるだろうし。

「ダエナが図書館を本の倉庫だと、司書は倉庫番だと、ええ、口にしまして」

「あー……」

「図書館の意義、知の探究、司書の役割について少々考えをただしておりました」

 識は元々研究者だったし今も亜空で数々のテーマをきわめている学者肌の魔術師だ。
 そう、魔術師で戦闘もこなす識だけど本来の彼は部屋に篭って研究に没頭するタイプなのです。
 僕の従者の中では唯一のインドア……じゃないな、勉強好きとでもいおうか。
 魔術や知識そのものに価値を見出すタイプ。
 巴と近いけど、あいつはあくまで目的の為に色々やる方だからちょっと違う。
 いかに魔術を戦闘で活用するかに特化した魔術師が世界では主流で、冒険者でも頭角を現すのもこちらだ。
 研究や探究が大好きな識の場合、冒険者型の魔術師より遥かに図書館への理解やリスペクトが深い。
 ダエナがうっかり図書館を軽んじてる事を見抜かれるような発言をして怒られている、って事なんだな。

「……なるほど。確かにダエナが今後何らかの形で教育に関わっていこうと考えているのであれば、図書館を軽視する姿勢は問題外だな」

 満足気に頷いてくれる識やシフ、アベリア、イズモ。
 逆に意外そうに見てくるのがジンやダエナ本人、二期生の面々。
 なんでさ。

「……なんだ、ダエナ」

 正座したまま、おずおずと僕を見て手を挙げるダエナ。

「あの、ライドウ先生って本読むんすか」

「お前、私を何だと」

 講師ですけど、一応。

「その、だって。先生こそ直感の化身。天才の権化じゃありませんか。やる事成す事どころか言う事全部常識の外からですし……」

「狭い世界の小さな常識に縛られて人を化け物呼ばわりするな」

 失礼な。

「……先生」

「ん?」

「俺らが最初の頃言われた属性一個に拘るなっての」

「ああ」

 折角一番得意なのほどじゃなくても扱える属性があるなら手を増やす方が選択肢が増えて総合的な成長も期待できる。
 学生の常識はともかく冒険者たちは普通にそう考えていた。
 僕も同感だ。

「あれ学園のスタンダードでどの教科書にも書いてあるんですけど」

「……」

「それに戦闘をターン性のボードゲームみたいになぞらえながらレベルよりも更に実戦的な思考を鍛えていく方針にしたって、図書館の本にも講師の教本にも全く無かった考え方なんですけど……いや全部俺らにとって身になる事ばかりだったんで文句なんてありません。ただ……本の知識って所詮は古いものって意識はあって。常に最前線、最新の手法が求められるような命のやり取りの場で、そんなものが役に立つのかってのは……正直あります」

 教育に目覚めたといっても、ローレルでの死闘、死線を超えてハイになった結果だもんなあ。
 あっちからこっち、両極端な認識に振れてしまうのはあるあるなのかもしれない。

「はぁ、ダエナ――」

 識の溜息からの言葉を制して僕が続ける事にした。

「私の講義で触れるものが本やこれまでの知識と全く違って、かつお前にとって役立つものだったのは講師として素直に喜ばしい。だが図書館の本にこうした手法や技法が本当になかったのか、その点は疑問だな」

「? いえ、でもあんなやり方や知識なんて」

 ダエナが見つけられなかったのはわかる。
 でもそれと無かったは同義じゃない。

「広大な図書館、膨大な蔵書量。その全てを把握するのは至難の業だ。例えば……識」

「はい」

「課題の論文、見せてもらえるか」

 これも図書館のだろ。

「……あ、こちらになります」

 ?
 何故か少し動きが鈍る識。
 ひょっとしてこれからの課題について、少し問題が出たりする?
 何か問題があったら突っ込んで欲しいとアイコンタクトを送ってダエナに向き直る。
 で内容、内容っと。
 ぶっ!!
 こ、これは!?

「……この論文もロッツガルドの蔵書から司書の方に見つけてもらったものだ。ダエナはこの論文の存在については知っていたか?」

 変異体事件前の夏休みにね。
 エヴァって司書に見つけてもらった……僕が魔力体を習得するに至った論文でした。
 おかげでパラパラ流し読みしただけで内容は思い出せた。
 あの夏、超読み込んだもんね。

「いえ。かなり古いもので主流とも外れてる論文でタイトルも執筆者も知らないものでした」

「だが確かに存在した。この様に、目立たず古い論文や書物は例え蒐集されたものであっても容易く埋もれる」

「はい」

「そうさせないのも司書の仕事の一つだ。お前が想像するような単なる倉庫番じゃあない。図書館についても……」
 
 待てよ。
 そもそも本をただの紙の束みたいなものだと思っているから図書館を本の倉庫だと言ってしまう訳で。
 ああ、ならあの論文を読んでるって前提なんだから一つの実例を見せれば良いのか。
 
「先生?」

「ダエナ、お前この論文読んでどう思った? 今どんな事に活用できるって思ったんだ?」

 識が今回の課題を用意して僕を呼んだって事は多分、そういう事でもあるんだろう。
 彼の答えを聞いてから見せるとしましょうか。
 今の僕が頼りにする、魔力の使い方ってのを。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

偽物の侯爵子息は平民落ちのうえに国外追放を言い渡されたので自由に生きる。え?帰ってきてくれ?それは無理というもの

つくも茄子
ファンタジー
サビオ・パッツィーニは、魔術師の家系である名門侯爵家の次男に生まれながら魔力鑑定で『魔力無し』の判定を受けてしまう。魔力がない代わりにずば抜けて優れた頭脳を持つサビオに家族は温かく見守っていた。そんなある日、サビオが侯爵家の人間でない事が判明した。妖精の取り換えっ子だと神官は告げる。本物は家族によく似た天使のような美少年。こうしてサビオは「王家と侯爵家を謀った罪人」として国外追放されてしまった。 隣国でギルド登録したサビオは「黒曜」というギルド名で第二の人生を歩んでいく。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

処理中です...