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第82話 推し缶!?
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不安な時、人は道標を求める。
分かりやすく自分を力強く引っ張っていくリーダーに、人は良くも悪くも引っ張られたとしても、それは仕方のないことなのだろう。
「既に半分数が、帰らない選択をしたというのカァン!?」
葉桜の〝帰らずに異世界で生きていく宣言〟と、それと同時に〝自分と考えを共にするグループを作る〟との言葉にクラスの半数が同意していた。
特に男子の多くが声を上げ、葉桜のグループは誰もが興奮している様だった。
「かっちゃん、カンちゃん、なんか……怖いね」
「蜜柑……確かに不気味であるな。しかし、何か雰囲気が……」
カンが、召喚者達の様子にどこか違和感を覚えている中、大声で意を唱える者がいた。
「半数もいきなり、帰らないなんて考えに賛同するなんてことあるわけねぇ……おい! 葉桜! お前、何しやがった!」
かっちゃんが、葉桜を睨みつけながら、大声で現状に対して意を唱えた。
「阿木君、僕は特に何もしていないさ。僕と同じ様に、元の世界に愛想を尽かしていた人間が、思いの外に多かったってだけだろ?」
「お前の力は、何だ」
「言うと思うかい?」
「てめぇ……」
葉桜は、かっちゃんの問いかけに答える事はなかった。
そして、取り敢えず半数の人間がグループに入った事に満足したのか、それ以上は全体に向かって言葉をかける事はしなかった。
「かっちゃんよ、お主はどうするつもりなのカァン」
「どうって、何がだよ」
「葉桜の奴めに、賛同しなかった者達。すなわち、残りの半数の者達の事に、決まっておるであろうカァン」
「かっちゃん……私は、帰りたいよ……」
「蜜柑……」
蜜柑は、かっちゃんの制服の袖を強く掴んでいた。
「おぬしは、我と出会った時の様な、弱い子供のままなのカァン?」
「何だと?」
「周りを見てみるのだ。葉桜の言葉に賛同しなかった者達を」
カンの言葉で、かっちゃんは自分達と葉桜以外に初めて目を向けた。
「絶望に俯向く者、抱き合い泣く者、放心する者、無関心な者と様々だが、皆心の中を不安と恐怖に支配されておる者ばかりカァン。そこで、おぬしに我は問う。おぬしは、何者なのだ?」
「は? 俺は、俺でしかないだろ。何言ってやがる」
「情けない奴め、まだ踏ん切りが付かぬか。ならば……あの時を思い出させてやるカァアァン! 我を、踏むカァアァン!」
「「えぇ……」」
カンの要望に、かっちゃんはすぐさま床にカンを置き、二人は本気で後ずさったのであった。
「同時に、二人で引くないカァアァン! さぁさぁ! カモォオオオン!」
『喋る空き缶に自分を踏めと言われたとしたら、どう思うか。正直、空き缶とかどうとか以前に、意思の疎通がとれる生き物に、嬉々として自分を踏んで下さいと懇願された方の気持ちは……可哀想でならないね』
「「気持ち悪い……」」
「何故にぃいいいい!? 一思いに一気に来いカァアァン!?」
『何故もクソもなく、気持ち悪いの一言しかないでしょ』
「二人が、ジリジリ離れていくカァアァン!?」
カンに踏めと言われた二人は、カンから徐々に離れていった。
そして、カンから後ずさった結果、かっちゃんと蜜柑の二人は、気づくと部屋の真ん中に出てきた様な状態になっていた。
「こふ……狙い通り……」
「何が狙い通りなんだよ」
「おやおや、阿木君。どうしたんだい? まさか、君らしくまたキャプテンでもするつもりかい?」
「葉桜……」
カンが自身の尊厳を代償に、かっちゃんと蜜柑を引かせたのは、部屋の中央へと誘い出させる為であった。
そしてカンの狙い通りに、部屋の中央に歩み出た形となった時、かっちゃんに対して葉桜が煽ったのだった。
「へいへいへい! 漢を見せろ! かっちゃんは、主人公になれる男カァアァン!」
『どこの酔っぱらいのオッサンだよ、って感じの煽りやめたら?』
カンが葉桜の煽りに被せる形で、更に焚き付ける。
「ったく……空き缶に言われたからって訳じゃねぇぞ。ただ、俺は帰りたい。元の世界に、必ず帰る。だから……帰りたいと思う奴は、一緒に帰るぞ! 蜜柑!」
「うん、分かってるよ!」
蜜柑は、かっちゃんが言わんとしている事が理解できた様子で、すぐさまに動き出した。
そして、蹲っている者や泣いている者達に声をかけていた。
その様子を見ている葉桜は、分かりやすく渋面を作りながら嘆息をついていた。
「あんな世界に、帰りたいのかい?」
「あぁ、帰りたいね。俺たちが生きる世界は、ここじゃない」
かっちゃんと葉桜は、再び部屋の中央で対峙し、そして互いに目を背ける事なく睨み合う。
「うむ、バチバチとライバルっぽいカァン。まさしく青春とは、このことカァン」
そんな二人の様子を見ていたカンの背後に、忍び寄る影があった。
「ん? 急に暗くなったカァン?」
カンが、直ぐ後に立っている人物の影に隠れた。
そして、事態は動き出す。
「カァン!? 何なのカァァアアン!?」
いきなりカンは拾い上げられると、目の前に目元まで前髪で隠しながら、更に瓶底メガネをかけている女子生徒にじっと熱い眼差しを向けられていた。
「突然なんなのカァアァン!」
「良い……」
「は? 何を言って……」
「私は……このリーダー缶の、グループに入りまぁああす!」
「カァアァン!? なんか急に変なテンションの女子に絡まれたカァアァン!?」
小声で薄ら笑いながら空き缶ボディに頬擦りしてくる女子に、カンは軽く恐怖を覚えながら、悲鳴を上げたのだった。
分かりやすく自分を力強く引っ張っていくリーダーに、人は良くも悪くも引っ張られたとしても、それは仕方のないことなのだろう。
「既に半分数が、帰らない選択をしたというのカァン!?」
葉桜の〝帰らずに異世界で生きていく宣言〟と、それと同時に〝自分と考えを共にするグループを作る〟との言葉にクラスの半数が同意していた。
特に男子の多くが声を上げ、葉桜のグループは誰もが興奮している様だった。
「かっちゃん、カンちゃん、なんか……怖いね」
「蜜柑……確かに不気味であるな。しかし、何か雰囲気が……」
カンが、召喚者達の様子にどこか違和感を覚えている中、大声で意を唱える者がいた。
「半数もいきなり、帰らないなんて考えに賛同するなんてことあるわけねぇ……おい! 葉桜! お前、何しやがった!」
かっちゃんが、葉桜を睨みつけながら、大声で現状に対して意を唱えた。
「阿木君、僕は特に何もしていないさ。僕と同じ様に、元の世界に愛想を尽かしていた人間が、思いの外に多かったってだけだろ?」
「お前の力は、何だ」
「言うと思うかい?」
「てめぇ……」
葉桜は、かっちゃんの問いかけに答える事はなかった。
そして、取り敢えず半数の人間がグループに入った事に満足したのか、それ以上は全体に向かって言葉をかける事はしなかった。
「かっちゃんよ、お主はどうするつもりなのカァン」
「どうって、何がだよ」
「葉桜の奴めに、賛同しなかった者達。すなわち、残りの半数の者達の事に、決まっておるであろうカァン」
「かっちゃん……私は、帰りたいよ……」
「蜜柑……」
蜜柑は、かっちゃんの制服の袖を強く掴んでいた。
「おぬしは、我と出会った時の様な、弱い子供のままなのカァン?」
「何だと?」
「周りを見てみるのだ。葉桜の言葉に賛同しなかった者達を」
カンの言葉で、かっちゃんは自分達と葉桜以外に初めて目を向けた。
「絶望に俯向く者、抱き合い泣く者、放心する者、無関心な者と様々だが、皆心の中を不安と恐怖に支配されておる者ばかりカァン。そこで、おぬしに我は問う。おぬしは、何者なのだ?」
「は? 俺は、俺でしかないだろ。何言ってやがる」
「情けない奴め、まだ踏ん切りが付かぬか。ならば……あの時を思い出させてやるカァアァン! 我を、踏むカァアァン!」
「「えぇ……」」
カンの要望に、かっちゃんはすぐさま床にカンを置き、二人は本気で後ずさったのであった。
「同時に、二人で引くないカァアァン! さぁさぁ! カモォオオオン!」
『喋る空き缶に自分を踏めと言われたとしたら、どう思うか。正直、空き缶とかどうとか以前に、意思の疎通がとれる生き物に、嬉々として自分を踏んで下さいと懇願された方の気持ちは……可哀想でならないね』
「「気持ち悪い……」」
「何故にぃいいいい!? 一思いに一気に来いカァアァン!?」
『何故もクソもなく、気持ち悪いの一言しかないでしょ』
「二人が、ジリジリ離れていくカァアァン!?」
カンに踏めと言われた二人は、カンから徐々に離れていった。
そして、カンから後ずさった結果、かっちゃんと蜜柑の二人は、気づくと部屋の真ん中に出てきた様な状態になっていた。
「こふ……狙い通り……」
「何が狙い通りなんだよ」
「おやおや、阿木君。どうしたんだい? まさか、君らしくまたキャプテンでもするつもりかい?」
「葉桜……」
カンが自身の尊厳を代償に、かっちゃんと蜜柑を引かせたのは、部屋の中央へと誘い出させる為であった。
そしてカンの狙い通りに、部屋の中央に歩み出た形となった時、かっちゃんに対して葉桜が煽ったのだった。
「へいへいへい! 漢を見せろ! かっちゃんは、主人公になれる男カァアァン!」
『どこの酔っぱらいのオッサンだよ、って感じの煽りやめたら?』
カンが葉桜の煽りに被せる形で、更に焚き付ける。
「ったく……空き缶に言われたからって訳じゃねぇぞ。ただ、俺は帰りたい。元の世界に、必ず帰る。だから……帰りたいと思う奴は、一緒に帰るぞ! 蜜柑!」
「うん、分かってるよ!」
蜜柑は、かっちゃんが言わんとしている事が理解できた様子で、すぐさまに動き出した。
そして、蹲っている者や泣いている者達に声をかけていた。
その様子を見ている葉桜は、分かりやすく渋面を作りながら嘆息をついていた。
「あんな世界に、帰りたいのかい?」
「あぁ、帰りたいね。俺たちが生きる世界は、ここじゃない」
かっちゃんと葉桜は、再び部屋の中央で対峙し、そして互いに目を背ける事なく睨み合う。
「うむ、バチバチとライバルっぽいカァン。まさしく青春とは、このことカァン」
そんな二人の様子を見ていたカンの背後に、忍び寄る影があった。
「ん? 急に暗くなったカァン?」
カンが、直ぐ後に立っている人物の影に隠れた。
そして、事態は動き出す。
「カァン!? 何なのカァァアアン!?」
いきなりカンは拾い上げられると、目の前に目元まで前髪で隠しながら、更に瓶底メガネをかけている女子生徒にじっと熱い眼差しを向けられていた。
「突然なんなのカァアァン!」
「良い……」
「は? 何を言って……」
「私は……このリーダー缶の、グループに入りまぁああす!」
「カァアァン!? なんか急に変なテンションの女子に絡まれたカァアァン!?」
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